夏休み!
Sideリイン
「……あ、そっか。帰ってきてましたね……」
目が覚め、ベッドから起きると、そこはマリがロンドンに用意した家の寝室だった。2年しかここにはいなかったのに、何故かずっとここにいたかのように感じる。安心できる。
「……マリお兄さんもアイお姉ちゃんももう起きているようですね」
ベッドの隣を見ても誰もいなかった。ちょっと寂しい気持ちもあるが、きっと朝食の準備をしてくれているのだろう。
ベッドから起きて部屋を出る。結局自分の部屋はあまり使わないな、と思いながらリビングに行く。
リビングに着くと、想像していた通り朝食ができていた。
「おはようリイン」
「おはようございます。マリお兄さん。……アイお姉ちゃんは?」
キッチンからマリお兄さんが出てくる。アイお姉ちゃんはいないみたいだ。
「ああ、アイならランニングから帰ってきて風呂に入っているよ。僕は朝食の用意があったからシャワーだけ浴びて早めに出てきただけさ」
そうだった。マリお兄さんとアイお姉ちゃんは日本でアイドル?というものになったらしく、体系維持や体力づくりのために毎朝ランニングしている。私も、2,3回に1回一緒に走っている。
「ふーいい湯だったよー」
そういいながらアイお姉ちゃんがリビングに入ってくる。
「あ、リインおはよう」
「おはようございます……あの、その格好はダメだと思います」
タオルを巻いただけだった。さすがにそれじゃ誰か来た時に良くないと……
「マリしかいないし、大丈夫だよー」
「ご飯できたから運ぶの手伝ってー」
「分かったー」
そのままの格好でアイお姉ちゃんはキッチンに向かっていった。
「ちょっとアイ?それじゃ危ないから服着てからでいいよ」
えーとか言いながら服を取りに向かう。というか、髪の毛もちゃんと乾かしていないような気がするけど……
「あ、そうだアイ。ちゃんと髪乾かしたり、スキンケアとかもするんだよ?」
マリお兄さんに言われてる。部屋に戻っていくアイお姉ちゃんを見ながらキッチンで料理をリビングに持っていくために手伝いに行く。
「お、ありがとねリイン」
数分後、アイお姉ちゃんも戻ってきて食事を始める。
「「「いただきます」」」
今日の朝食はマリお兄さんが焼いたパンを使ったエッグベネディクトと今朝収穫した野菜を使ったサラダ、ドレッシングはお歳暮で届いた高級品らしいシーザードレッシングをかけている。飲み物は牛乳。これも新鮮な牛乳らしく今朝届いたらしい。
毎回思うがマリお兄さんはどこで調達しているのだろうか。
「あ、そういえばアイには伝えてたけど、アーリアと連絡が取れてね、休みの間にキャンプに行かないかって話になったんだけどどう?」
ご飯を食べているとマリお兄さんからそう切り出された。
「いいですね。場所はどこにするんですか?」
「うーん。コーンウォールのセント・アイヴスを考えているよ。芸術家の街で綺麗だし、ビーチもあるし2,3泊したいね」
セント・アイヴス、確かリゾートの街として紹介されていたと思う。サーファーや芸術家が集まる街だっただろうか。
「ぜひ行ってみたいです!……でも、保護者的な立ち位置の人がいないとダメじゃないでしょうか?」
アーリアさん、マリお兄さん、アイお姉ちゃん、私ではどう考えても子供にしか見えない。リゾート地とはいえキャンプするのに大人がいないのは危ないだろう。しかも6,7歳くらいにしか見えない私と、男だけども見た目は美人なお姉さんのマリお兄さん、普通に美人なアイお姉ちゃんとアーリアさん。危ないことを考える人も出てしまうかもしれない。
「ああ、そこは大丈夫。スネイプ教授に頼んでるから」
「じゃあ安心ですね」
スネイプ教授。なぜか私を応援してくれる人だ。こんな価値が無い私でも生きてて嬉しいと思ってくれる優しい人。ちょっと過保護なところがあるけど、保護者としてついてきてくれるのであればここまで安心できる人はいないだろう。
ホグワーツでの湖畔キャンプでもお世話になったし、ある程度キャンプができることは分かっている。
「いやーあれをちょっと過保護としか思わないのはどうかと思うよ」
「?」
マリお兄さんが何かを言ったような気がするが、声が小さすぎて聞き取れなかった。
今日は特に予定も無いからゆっくりできる日だ。この前マリお兄さんに教えてもらったことの復習しようかな。
Sideマリ
夜、アイとリインが寝静まった後、庭にマリは立っていた。
「本当にリインは自己評価が低いなぁ」
9歳までネグレクトされていたわけだから、根本的な部分がどうしようもない程に歪んでしまっているのだろう。人格が形成される時期の虐待。自分の価値は何も無いと思ってしまっている。だからこそ、他人からの好意を正常に受け取れない。3年間一緒に過ごした僕とアイからの好意だけはちゃんと受け取れるようになったが、スネイプ教授やアーリア、スリザリン生みんなからの好意を受け取れていない。だからスネイプ教授の暴走を見ても、応援してくれているなぁ、くらいしか感じていない。ホグワーツでのキャンプの惨劇が許容範囲なのも結構まずいと思う。
「はあ……、本当に酷い罪悪感だよ」
もう少し早く違和感に気が付いていればなぁ、とマリは思う。ちょっとマーリンがアヴァロンに引きこもった気持ちが分かったかもしれない。せめて後数年早ければもう少し改善できただろうに。
でもそうなると
「ままならないね。で、そんな僕が全力で保護しているリインに何の用なのかな?」
がちがちに拘束して庭に転がしている屋敷しもべ妖精を見て少しだけ威圧するように言う。
「ああ、喋れないようにしてたっけ。いけないいけない」
少し気が立っていたみたいだ。口だけ自由にして喋れるようにする。魔法は使えないように簡易的な結界を構築しているから逃げられることはない。陣地作成のスキルがあってよかった。
「……ドビーと申します」
ドビーは怯えていた。リイン・ポッターに警告しに来たらよくわからない結界にはじかれ家の敷地に入れなかった。しょうがないからと庭に入った瞬間に拘束された。
拘束した後に出てきた男を見た瞬間にここに入ったことを後悔した。幻想種の血を引いている。魔法生物である自分だからこそわかる。世界から残ることを許された自分たちと違って、世界から排斥されて世界の外側に行った側の、バケモノの血を引いている。自分のことなど瞬きする間もなく殺せるだろう。
「……リイン・ポッター様に警告をしに来ました」
不興を買ったら殺されるのではないか?そうドビーは思っていた。
「警告?何の警告かな」
「今年のホグワーツでは良くないことが起きます。闇の帝王を打ち破ったリイン・ポッター様にとって良くないことが。あなた様がついているのであれば問題は無いと思いますが……」
「そう。そういうことなら今回は許そう。ただ、次からは直接部屋に来ようとしないでアポ取って来てね」
びくびくしながらはい、と言うドビー。それとは裏腹に、マリは
えぇ……なんかメッチャ怯えられているんだけど……そんなに不機嫌に見えたかな?
と思っていた。
マリは何でこんなに恐れられているのか分からなかった。魔法生物の魔法をはじくような結界とか作ったのがいけなかったのだろうか?と的外れなことを考えていた。
当然だが、不興を買ったら殺される、というのはただのドビーの勘違いだった。せいぜいドビーがやったことは寝ているところを起こされてマリをちょっと不機嫌にしたくらいである。リインを救えていない自分にイライラしていたのと、それを夢魔の血のせいでドビーが10倍くらい大げさにとらえていただけで、全く殺す気などは無かった。完全な勘違いである。
怯えながら敷地外に出て姿くらましするドビーを見てからマリは家に戻り、眠りについた。
Sideアーリア
「「海だー!」」
「わぁ……大きいです」
アイとアーリアははしゃいでいた。アイは海を見たことはあるけど遊びに来たのは初めてらしい。リインに至っては初めて見る海だった。
ホグワーツから家に帰って2週間後、マリ、アイ、リイン、アーリアと引率のスネイプ教授でキャンプに向かっていた。
テントを張るようなキャンプは既にホグワーツで一度やったので、今回はマリ手配によるキャンピングカーを利用したキャンプである。運転手は雇っており、キャンプ場で所定の場所に車を置いたら帰りにまた迎えに来てもらうようにしている。ちょっとした場所の移動はマリができる。当然、幻術で人の眼は誤魔化すが。
「到着しました」
ドライバーをしている男が声をかけ、全員で車から降りる。
停車したところは芝生が綺麗なサイトで、少し歩けばビーチにも行ける絶好の場所だった。
「うん。ありがとう。ここまでで大丈夫だから、3日後にまたよろしくね」
そうマリが言うと、ドライバーは随伴していた車に乗って帰っていく。こいつのコネどうなっているのだろうか。
「あ、そうだ。スネイプ教授は僕とこっち。みんなは準備してもらえると嬉しいかな」
スネイプ教授がマリに連れられて車に乗る。キャンピングカーのトランクからターフやテント、イス、机を出して組み立て始める。テントはさすがに父さんがいないと無理だろう。
「マリ何してるのかなー?」
「分からん。父さんとマリって珍しい組み合わせだけど……キャンプ場での注意をしているとか?魔法を使わない、推さない、暴走しない、みたいな」
自分で言っておいてなんだが、割とありえそうなのが怖い。特に推すところ。
「お待たせ」
10分くらい経っただろうか。マリが少し男っぽい空気を纏って影のあるイケメンを連れて車から降りてきた。
「いや誰!?」
いや分かってる。父さんだ。父さんなのだが、雰囲気がこうイケメンになっている感じだ。髪の毛を綺麗に整えて、後ろで縛っている。洋服も陰のあるイケメン、って感じに見えるようにスーツテイストで結構かっこよく見える。
なるほど。顔は少し特徴的でも髪型と洋服でイケメンに見えるってことか。前世で知りたかった。凹む。
「おー。かっこよくなってる!」
「いつもと空気が違って新鮮ですね。似合ってます」
アイさんにもリインさんにも好評である。でもリインさんに似合っていると言われた瞬間に満ち足りた顔で膝から崩れ落ちるのはやめてほしい。その奇行で父さんと確信してしまった。なんて残念な父親なのだろうか。
「で、マリ。何でこんなことした?」
主犯のマリに聞く。何でこんなことをしたのだろうか?
「威嚇の意味合いが強いかな」
「威嚇?……どういうこと?」
そんな危険な場所ではないと思うのだが。
「アーリア、君忘れがちだけど、美少女なんだよ?」
あきれたようにマリが言う。いや、かなり複雑な気持ちだが分かっているけど。
「アイもリインもベクトルは違うが、顔がいい。だから僕とスネイプ教授で防波堤にならないといけないだろう?今のままだと入れ食い状態だよ?それはもうナンパの嵐になるだろう。だから僕たちが男として壁になるのんだ。美男美女の組み合わせには手が出しにくいだろう?」
言いたいことは分かった。でもなぁ……
「いや、お前は無理だろ。どう頑張っても男装の麗人にしか見えないけど」
男っぽいだけで1年の終わりごろにより顔が女性的になったマリではどう考えても防波堤の役割は無理そうだった。
それを聞いたマリは膝から崩れ落ちた。父さんと同じような反応するじゃん。実は仲良しだったりする?
「……そう。……そっかぁ……」
いや、これガチで凹んでるわ。まあ、あんな成りだけど男だもんなぁ。
「その……ドンマイ。なんというか1年の終わりから女の子寄りなイメージが強くなっちゃって……」
姉さんを殴るか、とかつぶやいてるマリを傍目に同じように崩れ落ちている父さんを起こして設営を進める。
マリは……まあ、アイさんとリインさんに任せれば大丈夫だろう。
ちなみにだが、意外と威嚇の効果はあったらしく、アイさんにも俺にも声をかけてくる人は少なかった。が、地味に父さんとマリがちゃんと女性からナンパされて凹んだ。アイさんに至ってはぷくーっとほっぺたを膨らませていて可愛かった。リインさんはおろおろしていて可愛かった。俺?父さんがモテる事実に意外と傷ついた。何で俺はモテないのか。野郎から声をかけられても何も嬉しくない。いつか慣れる日が来るのだろうか?最低限男の娘になって出直してこい。というのが今の心情だった。
「僕もモテるものだね!どうアーリア?羨ましい?」
「ナンパしに来た人の7割以上男だったけど?」
そして残りも残念ながら男としてのお前を求めているわけではなく、女性としての、お姉さまとしてのお前を求めている感じがしたぞ。
「うぐぅ……くっ、ぐうの音も出ないとはこういうことか」
「うぐぅって言ってるじゃん」
勝てない勝負を挑むものじゃないぜ、マリ。お前の顔じゃどう考えても女性にモテるのは厳しいぞ。
あ、それはそれとして、海もキャンプも楽しめた。マリが男性用の水着で海に行こうとしたときの監視員の反応が面白かった。
「お客様!ここはヌードビーチではありません!」
「いや僕男で……」
「そんな顔で何が男だ!タオル貸すから羽織って」
「いや、ちょっ、離せ!男だって言ってるだろ!」
引きずられていった。結局ラッシュガードを着ることで決着したらしい。あそこまで男の娘になると生きにくそうだなぁ……
サーフィンは初めてだったけど結構波に乗れて楽しかった。でも金色に少し青い線が入ったサーフボードを持った金髪の日焼けした少女は見なかった事にした。
次の投稿はちょっと時間空くかもです。
2巻はおおよそのプロットはできた。(プロット通りに進むかはわからん)