「星野、お前転生したらどうする?」   作:サルガシラン

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キャスト
・男子生徒(16)
・有馬かな(17)
・MEM(公称18)

・芸能科生徒(17)
・バイト店員(18)
以上。

舞台設定
1・路上
2・映画館
3・喫茶店
4・店内

時間設定
・休日


「先輩、奇遇ですね!」

 

 

「別れるって……たった三日とか早すぎだろ!? ちょっと待ってくれよ!?」

「三日どころか計三時間! 最初のデートで女装してくるダボハゼなんざ願い下げでしょ!」

「いやぁ、やりすぎだったなーと自己弁護もできない物証だけどな! さっきはゲラゲラ笑ってくれたじゃないかよー」

「笑うに決まってるでしょその無駄に手間かかった女装! もう話かけんなクソダーリン!」

「あえてダサい呼び方で統一して呼び間違え防止テクは解ったから、どうせなら他のを頼む!」

「ホンットありえない! ホンットありえない!!」

「待ってく、んだ足ハマっ、あぁ待って! せめて股かけてる男たちにも取材させてくれー!」

 

「……」

「あ。お久しぶりです有馬先輩! 奇遇ですね!」

「いやぁあ! 変質者による声掛け事案ー!? 生足にスカートぉ!?」

「あいや、お待ちあれい! 今のご時世、男が女の服着てるだけでその反応は角が立ちますれば!」

「……アンタそういうことで悩んでたの?」

「いいえまったく。JK主人公の話のため女心を理解しようと……形から入りました!」

服装(かたち)だけマネして理解できると思いあがるな! それで何がわかるわけ!?」

「冬場のスカートは……下半身が過剰に冷える! 女子の気合って凄いですね!」

「着なくても解れそれくらい! っていうか女子制服着てないのに女子高生!?」

「高校生の俺が女装したなら、それはもう女子高生といっても過言ではない!」

「全世界が過言認定するわ! きっちり化粧までして……男性ホルモン多めの女って言われたらギリ信じそうな谷底にいるのがより嫌! おまわりさん、おまわりさーん!」

「有馬先輩! 残念ながら近場の交番勤務とは粗方友誼を結んでいます!」

「公僕が悪と繋がってる! 日本の治安どうなってんの!?」

「治安はノープロブレム。取材中に通報されたり職質された時に仲良くなっただけなんで!」

「不審人物に懐柔されてるじゃない! 顔覚えられた要注意人物ってだけよね!? そうだと言って!」

「ところがぎっちょん! 犯罪に抵触することは一つたりとも行っていないので口頭注意だけで済んでます」

「前科スレスレじゃない。法の目を潜り抜ける悪の実例を見た気がするわ……」

 

「その格好とフラれるの見られて気軽に話しかけてくるとか心臓強すぎ……」

「我が心臓はチタン合金製!」

「我が強すぎてちょっとやそっとじゃ加工できなさそうね! どうとち狂ったらデートに女装を選択する脳みそに育つの。百年の恋も永久凍土になるレベルよ」

「勘違いしないでください。通常の相手なら、一張羅で挑む程度の正常な脳は片隅に存在します」

「中心に置きなさい。一生」

「だがしかし、相手は奇跡の二十八股を成立させている女!」

「それ芸能科で有名な女じゃない!? なんでそんな相手と付き合った!」

「キリ良く三十人目指してるらしいので、取材兼ねて告白したらその場でインスタント承諾。知ってて告ってくるバカは面白いとか」

「軽っ。そんなふざけた理由で告る方も受ける方も面白いわよ……」

「だってのにちょっと間合いを間違えて地雷踏みぬいたのがさっきです。はぁ、一時間前は大笑いしてくれたのに残念だ」

「笑われてたの間違……いや、それでもこの妖怪フザケタオシとよく一時間もいたわねその女」

「そりゃあ二十八人の男を籠絡できてるんですから懐も駿河湾海溝ぐらい深くて埋まらないんでしょう。だと思ったから普通のデートに飽きてるだろうと趣向を凝らしたんだけどなぁ」

「凝らした結果、常識を見失ってるじゃない二十九人目。正常な脳、頭から弾き出されてない?」

 

「ところで先輩の隣で全身が落書きみたいに崩れてる方は……? 角は無いですけどもしや」

「コンニチワー」

「連日の動画編集で疲労困憊のMEMよ」

 

「と、ともかく自己紹介ですね。どうも初めまして、今しがたフラれた片足側溝女装男です!」

「エヅラガヒドイー」

「事故を紹介してどうすんの。早く足抜いたら?」

「さっ、きからどうやっ、て! も……足が抜けんのです。有馬先輩ヘルプミー」

「たく……引っ張ってあげるから掴まんなさい」

「ここで助けてくれるところホント頼りがい有りますよねー」

「……隣に疲れてるMEMいなかったら全力で逃げてるわよ、こんなド変態の救助なんて」

「オーエスー」

「MEMちょもありがとうございます。中々落書きモードから戻りませんね……出かけるより寝かせてあげた方が良いのでは……?」

「深刻なのはネタ切れ。MVでバズったチャンスを逃さないよう、毎日動画上げてたから息切れしてんの。コラボ打診もいくつか返事待ちだし、気分転換も兼ねて外に連れ出せって社長命令」

「ネタモッテルコハイネガー」

「うぅ、産みの苦しみに共感動地の新展開……! MEMちょ、ネタならここに生きてますよ!」

「出オチ限定ゲテモノ商品を差し出してどうすんの」

 

「よっ、せっ! やーっと足抜けた。いやはやお恥ずかしい所をお見せしました」

「積極的に恥ずかしい恰好晒して言うセリフじゃないわね」

「チタンゴーキン」

「だぁぁ、足ドロド……んだ時間、映画、足! 先輩この辺に公園ありましたっけ!? 水道ある所」

「そこの角曲がって突き当りを右に行けばあったと思うけど?」

「ありがとうございます! じゃあ有馬先輩たちも足元には気を付けて、それじゃー!」

「側溝にハマるなんてそうそう起こらないわよ…………映画?」

 

 

「あ」

「あ」

「やっぱりね、チタン合金」

「すみません、やっぱりアルミ製だったかもしれません」

「加工しやすくなったねぇ」

「おぉー。落書きじゃないメ……ここじゃ止めときます。隣席、失礼しますね」

「ふんふん、映画館を騒がせない男の子に花丸をあげよーう!」

「いぇーい小学校以来の花丸ぅ。男らしさは地道に足元から積み上げていくのが大事ですよね!」

「足元見て自分が何履いてるかもう一度言ってみなさい」

「アハハー……改めて初めまして、お話は聞いてるよん。アクたんの親友なんだってね」

「親友かはともかく生ぬる~い友情は沸かしてますね。いつも動画楽しく拝見してます。苺乗せた餅が皿から取れない奴とか!」

「わ~、かなり前の動画まで見てくれてる嬉し~! ありがと~!」

「このタイミングで貴方にお会いできたのはジャスト天啓。後で是非とも熟練の女子高生からの知見を伺いたいです」

「熟練……!?」

「サバ読み即看破されてるじゃない」

「サバ勘定の再計算なんてそんな。サンタなんて実在しないなんて叫ぶ野暮しませんよ」

「そこまで公然の秘密じゃないよね? ねぇ?」

「コメントは控えさせてもらうわ」

 

「これ見に来たのは姫川大輝も主演だから『東ブレ』繋がりで興行収入貢献ってとこですか」

「こういうのは持ちつ持たれつよ。疎かにすると後で自分が困るんだから。そういうアンタも身内が理由でしょ?」

「『感想聞くからちゃんと初週で見るべし』とのお達しで。このメイクの仕方教えてもらったので通す仁義もございやす」

「なんて相手になんてこと教わってんの」

「……身内? 脚本家さん同士の繋がりなの?」

「あー……作家同士のコミュニティーもモチモチつもたれかかりつつですから、それもあります」

「『も』?」

名前のまんまよ(・・・・・・・)

「……え、じゃあ?」

「はい、親戚です。そんなかんじの血族やらせてもらってます」

「へー……! そーなんだー!」

 

「それより気になってたんですけど、あー……もう一人は一緒じゃないんですか? 不仲説?」

「どこに耳有るか解んないんだから冗談でもやめなさい。オフに総出で出歩いてたら余計なトラブル呼ぶでしょ」

「なるほど女子三人組ってだけでバレる確率が……ハッ、じゃあ俺が隣にいるのはマズい……!?」

「おもいあがんな奇天烈愉快犯。悪目立ちはしてもトラブルの方が関わり合いになるの避けるわ」

「あの子に声かける前に出かけちゃったんだよねぇ。最近ちょくちょく行方がわからなくなるし」

「どこ行ってるか聞いても、カラス追っかけて釣り堀に行ったとしか言わないのよね。誤魔化し方がメルヘンなんだか渋いんだか、キャラ変でも考えてんのかしら」

「それはー……いや、落ち着くための自分探し小旅行で水面に新しい自分見つけたのか?」

「新しい自分て釣り上げるものかな……?」

 

「ねえねえ、アクたんとは普段どんなお話してるの?」

「アイツとですか? ネタの相談に始まり……ドラマに漫画の感想とかラーメン、牛丼、仕事の愚痴にハンバーガーとか共演者に教えてもらったラーメン屋の話とかしてます」

「食い物の比率多いなこの食べ盛りども」

「ザ・男の子って感じのラインナップ。アクたんもちゃんと男子高校生やってるんだねぇ」

「業界に携わってますけど他は極一般的な男子ですからね俺たち……あ、見ての通り」

「ツッコまないから……他にはなんかない? その、私たちの話とか」

「先輩たちのですか? パフォーマンス痺れた、MV良かったってな話題はしょっちゅうしてますよ」

「そういう話じゃなくて」

「……なるほど。安心してください! 先輩への悪口も何も星野の口から出てませんよ!」

「ゴヴぅ」

「かなちゃん……!?」

「フフフ……所詮私のことなんて話題にも出したくないのねアイツは……」

「あれ!? 喧嘩して冷戦状態とかなのかと……先輩のこと常にかなり推してますよアイツ!」

「だったらなんで避けるのよアイツぅ……!!」

「あわわわ……あ! そ、そろそろ始まるよー! 今は映画楽しもうよ ね!」

「ポップコーン! でっかい塩バターの買ってありますから好きに摘まんでください!」

「ソウネー、今ハ映画ヨネー」

「い、いやー姉ちゃんが過剰に『前情報なしで見て』って押してたから中身楽しみですよー!」

 

 

 

「「悩みも体力も抉り取られるぐらいつまんなかった……!」」

 

「そ、そこまでだったかなぁ……?」

「アンタ途中から寝てたじゃない。羨ましい……!」

「MEMちょ、こればっかりは同意しかねます。冗談も湧いてこねぇ」

「つ、疲れてたからかなー? なんだかぐっすり眠れちゃって」

「あら誰よりも酷い評価するじゃない。その結果がすべてよね」

「睡眠導入に最適とか、作品としてどん底の評価過ぎる」

「そこまで言ってないよ!?」

 

「明らかにシーンすっ飛んだカット。なのにいらないセリフも昼ドラもノーカット。ついでにギャグは滑り抜けて面白さ全カット……どこ需要狙ってんだこれ?」

「際限なく外部からの要求を受け入れた構成ね。立場弱い監督とか防波堤やらないプロデューサーだと起こる暴走事故の類いよ確実に……!」

「拒否れず質も保てなかった脚本も問題だけど、こういうとき責任と批判を必要以上に押し付けられるんだよなぁ……」

「それに演技できる役者とそうでない役者の落差ァ!」

「演技力の温度差でグッピーと来場者を殺しにかかってましたね」

「どん底の評価がこんこんと湧いちゃってる!」

 

「敵役の動機もとっ散らかってるし、解決法も偶然知り合いだったに頼りすぎで腑に落ちない。刑事も流石にそうはならんってバカ推理してて頭抱えたくなる……」

「女二人相手にウジウジフラフラしてて途中までは一周回って呆れてたのに、後半でさらに半周しちゃって結局怒りへ戻ってきちゃったじゃない……! 誠実さ親の腹に置いてきた!?」

「先輩、つまんねぇに対して感情を向けても無意味ですよ。心を荒立てても面白いには変換されない以上、体力ゲージがスリップするだけ。無です。無を装備して状態異常を無効化しましょう」

「あぁ、なんか変な悟り開き始めてる! な、ならもうこの映画のことはもう考えずに……」

「役者として目の前の作品から目を逸らすわけにいかないの!」

「二千円は、二千円は安い金額じゃないんです! それに無情にも、極限つまんねぇの中身を解析すると半端な作品より反面教師な参考になるんですよ……!」

「プロ意識のせいで苦行から逃れられなくなってる!?」

 

「何が辛いって、なんでこうなったのか想像に難くないところよ……!」

「明日は我が身のノンフィクション。映像からチラ見えするスポンサーの意向、時間の押し、配慮の名を借りた却下ぁ……」

「お話作る立場だから裏の苦労まで透けて見えちゃうんだねぇ」

「トラブルと横やりに対処しきれなかった様子が目に浮かんで纏わりついてくる……やめてくれ、今更になって元モデルの出番増やせとか追加注文しないでくれぇ……!」

「これ業界人に見せたら下手なホラーより背筋が凍るか、あるある詰まった滑稽劇としてゲラゲラ笑うかの二択よ……」

「先輩、星野が何かやらかしたら椅子に縛り付けてこの映画で懲役二時間の刑に処しましょう」

「アクたんに流れ弾飛んだ!?」

「名案ね。椅子と拘束具の準備は任せなさい。罪状によってはそのままもう一周させましょう」

「流石は有馬先輩。げに恐ろしい処罰を考案なさる」

「罪が発生する前に罰だけ決定してる!?」

 

「主演様に見終わったこと伝えたら『おかげで今夜はいい酒が飲めそうだ』って返って来たわ。おのれ姫川ぁ……!」

「こっちも感想(恨み節)を送りつけてやったら『ようこそ暗黒面へ。あー現場の差し入れ美味ちー!』だそうです。覚えとけよあのいい歳したJKロールプレイヤーがぁ……!」

「ゲブェ」

「MEMに流れ弾飛んだわ」

 

 

「ハァ……そこそこ、吐き出しきりぃ、ましたかねへぇ……?」

「ゼェ……ゼェ……そうね、このぐらいでちょうどいい加減ね」

「摂取した分以上のもの吐き出して死屍累々だよ二人共……」

「まだまだゲロれそうよ。キリがないだけだもの」

「深掘りボーリングすればするほど全身が虚無る過程は禅寺の修行の如し。あぁ、青空ってオモシロイナァー。今なら雲の動きだけで二時間行けそー……」

「昇天しかけの魂戻しなさい。アンタも災難よねーフラれた直後にクソ映画見ることになって」

「忘れかけの傷に塩擦り付けるのやめよ?」

「いえいえ、むしろ幸運スリーセブンだったかもしれませんよ? 初デートの思い出がアレにならなかったうえに有馬先輩と感想ぶっ放して胃の洗浄できたんですから」

「前向きな割に、毒盛られて九死に一生を得た扱いだねぇ」

「それでも、よくそこまでポジティブになれるものね……羨ましいったらないわ」

「だって『二十八股の女に三日でフラれてさらにクソ映画の追い打ち』は……手持ちのエピソードメニューとして強すぎるじゃないですか!」

「エピソードの味が濃すぎてむせるレベルよ。もうお笑い芸人の思想じゃないソレ」

「この身に起こることは……面白いかそうでもないかだけで決めればおーるおっけー!」

「うわぁ、享楽主義の極みみたいな主張ー」

 

「ただ、あの映画で今日の店仕舞いはなぁ……お二方、まだ時間あるなら斧投げに行きません?」

「斧!?」

「アックススローイングって奴かな? この近くにできたって聞いたような」

「はい、中学の先輩がそこバイト中らしいので行こうかなと。潰れたカラオケ改装してるから、奇声吠えまくっても許されるんで小躍りするくらいストレス爆散できるとか」

「斧投げて奇声上げて踊るって、蛮族の儀式か何か?」

「ウォーラルァイ精霊よ大地よ、我が身を蝕む大いなるストレスを風に還します」

「風に乗せんなそんなもの。畏まったふりして塵を霧散させてるだけじゃないの」

「大地も困惑するねぇ」

「でもどうせなら普段から散り積もった塵も埃も豪快に投げ捨てたくなりません?」

「興味はあるけど雄々しすぎてちょっと抵抗があると言うか……ほらぁー私たちってぇ現役の女子高生でアイドルだからぁー」

 

 

「おおらぁあああ! しゃおらぁ! ど真ん中もらったぁ!」

「どっせぇぇえいぃ! 刺さった! 刺さった! 五ポイント!」

「えー『JKは多少蛮族っても問題なし』っと。メモメモ」

「いやーアイドルってストレス溜まるんだねー。ところでずっと女装のままなの? バイト中なのに気になって仕方ないんだけど」

「家に帰るまでが女子高生体験取材! よぅし俺もJKやり切るぞ。ぼぉおりゃぁああ!」

「絵面が目に猛毒だよねー。でもかなちゃんたちより雄々しさで負けてるよ?」

「『JKは俺が思うより二割増しで雄々しい』ぃ、っと! ぐ……さっきからキルポイントか的の外にしか当たらねぇ!」

 

「斧投げるとか何って敬遠してたけど、まぁまぁ楽しめるわね!」

「有馬先輩、有馬先輩。全力ではっちゃけた咆哮でしたよ」

「かなちゃんのスッキリした顔が久々に見れて嬉しいなー……アハハ―……」

「かく言うMEMちょもスッキリ爽快玉の汗してますけど」

「ソンナコトナイヨー。それより次の動画のネタ! これで点数競うのどうかな? ルビーに初心者役やってもらえば説明スムーズに進められるよ!」

「別にいいけど……アイドルと斧の図ってどうなの。方向性見失ってない?」

「店長だかオーナーだかがB小町のファンだったりしません? バイト中な先輩」

「うちの店長がMEMちょの隠れファンだよ女装中な後輩。全然隠せてないけど」

「承諾する前に話通る可能性だけ作るな部外者ども」

「早速、撮影交渉してくるねー!」

「MEMちょ、お手伝いさせてー! サイン貰った分、店長が首横に振りそうになったら固定して縦に振るから!」

「早っ!? インフルエンサーの行動力ってホント……アンタの知り合いもキャラ濃いわね。類は友を呼ぶってこういうことだわ」

「それ言ったら有馬先輩も類ってことなりますね」

「アンタのキルポイント教えなさい。斧の的にしてやるわ」

 

「有馬先輩たちの役に立ちそうで良かったです。デートの候補地は色々用意しとくもんですね」

「アンタ初デートの予定に斧差し込んでたの? バカじゃない?」

「フルパワーエンジョイした人に否定されてもなぁ」

「どう考えても友達と遊びに来るとこよここ。デートで来るにしても回数重ねてからでしょ」

「そうですかねぇ。早めに経験しとけばもしもの時危機を脱するかもしれないじゃないですか」

「どういう論理? もしもの時のために手斧携帯しておけっての?」

「近場にあった斧で形勢を逆転ホームランできるかもしれないじゃないですか」

「木こりが住む山を近場って想定してんのアンタ。相手もストーカーの熊かなんか?」

「ガチ恋勢ヒグマかはともかく戦闘技能の所持に損はないですよ。俺もアクション学ぶついでに凶器で襲われた時に制圧するイメージトレーニングしてます。動画で!」

「身に付きそうにないことしてるわね中二病。何、デートの後に襲われる予定もあったわけ?」

「仲良くなった警官からサスペンスに使えそうなの色々聞いたら、変な話出たもんですから」

「変な話?」

 

「ここ十五年で失踪した芸能関係者の一部に『若い女性が芽の出始めで消息を断つ』って妙な共通点があるそうなんですよ。確証はないけど事件性がないとも言えないらしくて」

「だから私とMEMに気をつけろって? 創作と現実がごっちゃになるとかヤバイわよ」

「そんなことは……無きにしも非ず!」

「自信満々に自信ないことを誇るな…………人気が出始めたタイミングで急に辞めるのも、その後は人目に付かないよう生きるのも業界なら珍しいことじゃないでしょ」

「これからって時期に辞めるってよくあることなんですか?」

「……結構ある。『人気』が理想とかけ離れてるほど現状とのギャップに居心地悪くなって、仕事ない時よりも自暴自棄になるなんて話はゴロゴロね」

「……もしかして有馬先輩も最近そういうの感じてます? 役者の仕事少なくてボヤいてるってルビーちゃんが言ってましたし」

「……さぁね」

「踏み込むな感……『芸能関係者の失踪』はそのギャップのまま辞めたから、理想と違う自分を表舞台と人の記憶から消し去ろうとした結果ってことですか」

「注目されてたから不特定の視線に過敏になるとかね……立つ鳥跡を濁さずなんていうけど、辛かった跡をなかったことにしたいだけかもね」

 

「教えてくれた警官も人伝の怪談気分でしたよ。それっぽい行方不明者リストも見せられました」

「え、そういうのって問題ないの……?」

「顔と名前しか教えられてないですし捜索中なのは事実ですから。『あんちゃん顔も行動範囲も広そうだからどっかで見かけたら教えてなー』って民間からの情報提供を要請されましたよ」

「行方不明者に変な印象つけて探させようとしてるだけでしょそれ。ま、生きてるんなら意外とどっかでピンピンしてるんじゃない?」

「そうだといいですよねー。他にも昔あった軽井沢の心中とかこの前の三重での誘拐事件とか……交番だと新聞に載ってるぐらいの事しか降りてこないからって口が井戸端のおばちゃんぐらい軽くて色々参考になりました」

「警察官ってそれでいいの……?」

 

「かなちゃーん許可取れたよ! お仕事じゃーい!」

「大当たりみたいね。ちょうど他のお客もいないし……MEMちょ、色々確認しときましょう」

「店長どうして私が来れる日にしてくれないかな! ルビーちゃんにも会いたかったのにー!」

「こっちは大外れみたいですね。うるさそうなファンなので相手しときます」

「あら助かるわ。ゆっくり旧交を深めときなさい」

 

「ねぇー女装後輩。仲良いって聞いたよ? 私がいる時に私の最推し連れてきてよー。さっき買ったジュースの残りあげるからー」

「無理と解っててもゴミで懐柔しようとするな末っ子系ハズレ女。知り合いを芸能人誘致券にしないで下さい。B小町にハマってるって知ってたら二人も連れて来ませんでしたよ」

「だってー去年はジュース奢ったらお姉ちゃん(・・・・・)のことで助けてくれたじゃん」

「あの時の殊勝さと事情で先輩後輩割りが効いただけです。結局仲良くしてた子(・・・・・・・)も看取った医者も名前すら解らずじまいでしたし。つーか値引き狙うな」

「もっと効かそうよ先輩後輩割り! お願いきいてくれたら私がぁワンドリンク割引してあげるぅ」

「そこまでいったらもう奢れよ。猫なで声で報酬に割引適応しようとすんな」

 

「ダメかー……じゃあ次はせめて男の子の服着て来てよ? また引きつるまで笑いたくないから」

「ぶっはっは、スカートの感覚は掴めたのでそもそももう着ませんよ。着てくるとしたら……着ぐるみで来てスプラッターの参考にします!」

「斧投げるファンシー姿! 人のバイト先をホラーの舞台にしないで!?」

 

「まぁ、次来るときは普通にクラスの野郎どもとか連れて来ますよ、天童寺先輩」

 

 

「有馬先輩、来月の予定とか空いてます? 若手の監督が演技できる役者探してるんですけど」

「……仕事の中身聞いてから答えていい? アンタの調子見てると不安要素しかないから」

「大丈夫です俺を信じて、先輩にピッタリの役ですよ! 『失恋のストレス発散に外道どもを手斧片手に成敗する女子高生一味』の話です!」

「どの要素をもって私にピッタリとかぬかした!?」

 

 




備考
・星野ルビー : 「相談」は現状手詰まりなので紹介だけ果たし保留。父親の情報を集めるため某世捨て人の元へ。今回は出番なし。

・有馬かな : 作中で別れた男への未練と愚痴を語るシーンおよびアクションのやけくそ感が一部女性層から注目を集め、役者の仕事が増えた。ので出番は減る。

・MEM : 爽快リフレッシュ。ついでに敬ってくれる女装高校生の質問に答えた。もう出番はないかもしれない。

・バイト店員 : 兄が成人するタイミングで亡き姉の存在を教えられ、姉を知るべく近所を歩いてた後輩を巻き込み色々あった。もう出番はない。
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