今はまだ彼も、双子たちすらそれを知らない。
「よう、片寄」
「ういっす。兄妹揃ってるのは久々だな。このまま書き続けてていいか?」
「……うん」
「助かる。通夜の時も悪かった。忙しい中来てくれてたってのに」
「……気にするなそんなこと」
「叔母さんがな、限界でよ。ウチの家族で走り回るしかなくってな」
「……」
「……自分のタブレット持ち込んでまで脚本?」
「チクるなよ? まだゴタついてて家だとな。未だに記者やらが訪ねてきて気が休まりゃしねぇ」
「……なんで? もう何日も経ってるし親戚ってだけじゃん」
「解ってるだろ。親類縁者にだってマスコミは行く。都内にいるとなれば余計にな」
「実際、近場に住んでたしなー。姉ちゃん、デビュー時から俺たちとのふざけた写真をSNSに載せてたし、おまけに俺は作家志望の高校生。『仕事振ってやるから取材させろ』とか空手形見せびらかすのも湧くさ」
「……最っ低」
「どうせもう少しの辛抱よ。他に派手な事件でも起これば残りの連中もそっちに散ってく。そうじゃなくても梅雨入りで流れてくだろ」
「……そうだろうな」
「まぁ、あれだな。因果応報? 俺も散々色んな人に取材してたから、その分。まさか俺が取材される側になっちまうとは」
「お前そんな悪辣な手口とは縁がないだろ」
「どうだったかな。だからまだ火の粉舞ってるから学校の外では近寄らない方が良いぜ。ルビーちゃんなんて一緒にいたら炎上沙汰だ」
「普段からアクア抜きで一緒に出かけたことないんだから大丈夫」
「それもそうだ。一応寿さんにも伝えておいてくれよ。不知火には既読スルー済みだから」
「フリルちゃんドラマで忙しいもん。っていうかみなみちゃんとは仲良くなれてないじゃん」
「実は校内でちょこちょこ世間話ぐらいはしてるんだ。連絡先は知らないけど」
「知り合いレベルじゃん」
「それもそうか……」
「……」
「みんな忙しくて何よりだよな。B小町はコラボ連打からもうすぐライブで、星野は『深掘れ☆』レギュラーだし」
「変な経歴の人間を追うと大体お前の知り合いなのどういうことだ。再生機器観賞オタクとか」
「面白い連中は悉く取材してきたから番組が求めるネタとほんのり被っただけだろ。みんな強烈な人間性してるから仕方ねぇさ」
「とりあえず今はお前に声がかからないことを祈っておけ」
「ギリありそうだ。その時はお前がレポーターになりそうだな」
「……そうならないことを祈る。心の底から」
「有馬先輩も『失斧』の後から役者の仕事増えだしたらしいな。ライブ大丈夫なのか?」
「むしろ好調だよ。微妙なフリしてるけど演技の仕事できて嬉しいの隠せてないもん」
「そりゃ良いや。MEMちょの配信も伸びてるし、黒川先生も主演映画の撮影真っ只中か」
「そっちは昨日オールアップしたそうだ。次のドラマ撮影が始まるから忙しさに変わりないが」
「そっか、忙しいか」
「……あかねに用か?」
「出来たらで良いんだけどちょっと知恵借りたいんだ。急ぎじゃないけど……難しいか?」
「話は通しておく。けど期待はするなよ」
「さんきゅー」
「……」
「ま、あーれだ。諸々に一区切りついて、俺も見ての通り平気なんだからよ。お前ら、腫れ物に触れるような面すん」
「嘘」
「……何が?」
「ずっと書いてて少しも私たちを見ないし」
「最初に謝っただろ」
「いつもみたいにバカな言葉使いしないし、最近変な格好してないし」
「人をそんな風に思ってんのかよ」
「なにより、ものすごくつまらなそう」
「……どうでもいいことなんだから気にすんな、そんなこと」
「……は? 全然平気じゃないじゃん。平気なフリにしても下手すぎだよ」
「おい、ルビー」
「私やみなみちゃんが推しとか言って、お姉さんが好きなの全然隠さなかったのがキミでしょ」
「もういい止めろ」
「なのに仕事だ忙しいって、そんなことって。そんな、そんなの……! それを理由にお姉さんのこと無理やり忘れようとしてるみたいだよ!?」
「そんなのダメだよ……
「……」
「大好きだったんでしょ!? それが、こんなことになって! なんで……なんで!?」
「なんで犯人を捜して復讐しないのかって?」
「……そんなこと」
「今日の嘘はやたらに不調だな。何が地雷だったかは興味ねぇけどよ」
「っ」
「山ん中、死体で見つかって雨に降られるより早く発見できたから痕跡が残ってて? 転落事故じゃなくて殺しだなんて言われても、俺にどうしろってんだ」
「それは……!」
「犯人捜すなんて言ってどう見つけるんだ。男か女か、そも日本人かすら解らねぇ。ブラジル在住っつーなら地球の裏まで捜しに行かなきゃいけないのか? 警察出し抜けるのか? ド素人が追い詰められるなら放っといたってプロが捕まえられるだろ。情報隠して捜査の邪魔でもしてみるのか?」
「殺されたんだよ大事な人を!? そんなことした奴が今もどこかでのうのうと道歩いてるんだよ!? 見つけようともしないで忘れるの!? 許せないって、何かしたいって思わないの!?」
「……」
「そんなのお姉さんが……殺された人が可哀そうだよ。そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ……!」
「愛してたことにならない?」
「っっ!」
「復讐すれば、愛してたことになるのか? 復讐しなきゃ、愛してなかったことになるのか?」
「……るさい」
「そんなことで一々証明しなきゃいけないほど、自信が」
「黙れ!」
「こっちの台詞だ。突然キレてズカズカ踏み込んできやがって何様だよ」
「お前みたいな……ずっと愛されて生きてきた人間に解るわけない!!」
「会ったこともない被害者持ち出しといて、文句言われる筋合いはねぇよ」
「…………もういい。キミ、思ったより薄情だったんだ。片寄ゆらさん、どう思うんだろうね?」
「死んじまったら何も言えねぇんだよ。精々、生きてる奴らに都合のいい妄想するしかない。『家族が幸せに暮らすのを天国で祈ってる』とかな」
「っ……だったら、好き勝手に妄想書き綴ってれば!?」
「……いいのかよ追わなくて」
「ルビーが悪い。擁護のしようがない」
「……そうか? 売り言葉に買い言葉だろ。それに……ルビーちゃんが正しい気がしてる」
「見解の相違だな。是非はともかく、今は放っておく」
「お優しいお兄ちゃんですこと。その優しさでとっとと黙らせてくれれば上等だったけどな」
「……」
「…………すまん。筋違いだった」
「俺たちよりずっと上等だよお前は。歳の割にな」
「ジジ臭ぇ」
「上等さに免じて、ルビーを泣かせた分は後で取り立ててやる」
「シスコン臭ぇ」
「実際、忘れようとしてるってのも、的外れじゃないんだよ」
「……聞くぞ」
「ゆら姉ちゃんが山登りにハマったの、俺が原因なんだ」
「……」
「ドロドロした現場で頑張ったからリフレッシュしたいとかダル絡みしてきてよ。仕方ねぇから山登りに誘ったら、思いの外大当たり。仕舞いにゃ俺よりずっと本格的な装備集めたりアプリ入れたりして、新しい山制覇するたびに自慢してきた」
「勧めた奴より勧められた方が深みに行くのはよくある話だな」
「その結果が死んじまうのはよくあることじゃないだろ」
「……」
「……あの時、他の遊びにでも誘っておけば、もしかしたら姉ちゃん死ななかったんじゃねぇかって。思わずにいられねぇんだよ」
「……それは関係ないだろ」
「どうかな……それに最初は復讐だって頭を過ってた」
「……」
「でも俺の中で喧々諤々やってんだ。犯人をどうにかしろ、やったら親父たちはどうなる、大体出来ると思ってんのか、邪魔なばっかで興味湧かねぇ、姉ちゃんの無念は、やり切った所で……」
「片寄……」
「やりたくねぇ、他にやることが山積みだ、新しい仕事追加してくる師匠……」
「最後のもいるのか……?」
「外付けだろうと内蔵だろうと限界なんだよ……いややっぱ外付け限定じゃないと無理」
「……まだ葬式終わっただけだぜ? 四十九日も過ぎちゃいないのにそれがもう嫌で嫌でよ……怒りとか恨みとかで頭を一杯にしておくのが辛くて疲れちまって仕方ないんだ」
「……」
「やりたくねぇと思うたび目の前がな、チカチカするんだ」
「チカチカ?」
「星が点滅する感覚。犯人見つけてこの手で後悔させてやりたい……出来もしないやりたくねえことを考えるなら筆を執っていたい。迷うたびに点滅する。点滅するたび……いいモノが書ける」
「嘘が、巧くなっていく」
「締切直前に掃除が捗っちまうのと一緒だ。無駄にいいアイデアが降って来やがって猶更筆が止まらなくなる。普段からこうなら俺はとっくに天才作家たちのお仲間なのによ」
「苦痛に対して無関係の何かに没頭するのは、行動として自然だ」
「逃避行動として、だろ」
「……」
「ルビーちゃんのいう通り、俺は思ったより薄情らしい。あの死に顔を見て、犯人がいるって知って、あれだけキレたのに……葬式の準備に引っ張りまわされただけでこのザマだ」
「……葬儀で近しい親族が喪主を務めるのは亡くした悲しみを忙しさで忘れさせるためでもある。没頭を促して心の整理を付けさせるんだよ」
「そりゃ人道的だ、絶賛忙殺されてるよ。師匠がここぞとばかりに仕事振って来やがるからな」
「それは……鉄を熱いうちに打ちたいだけかもな」
「はは、そりゃ面白れー……面白いって言えばよ」
「なんだ」
「俺が納骨で拾った骨さ、肩甲骨だったよ」
「……」
「最推しの肩甲骨を箸で摘まんだんだぜ、ははは。まったく笑っちまうよな」
「面白くは、ないな」
「そっか。そうだよな。なに言ってんだろうな俺」
「安直だなって思ってたんだけどよ、実際になってみるとやっぱり違うな」
「なんの話だ」
「『そんなことしても殺された人は喜ばない』……姉ちゃんがなんて言うかなんて想像できるつもりだけど、誰かにそれ言われたら効き過ぎて崩れ落ちそうだ」
「……」
「まぁ、姉ちゃんなら『あの人殺しなんとかしてよ許したりしないでよ』って言うだろうけど」
「それは、どうだろうな」
「で、俺が全力で復讐したら『いや、そこまでやってとは言ってない……』ってドン引きする」
「……それも、どうなんだろうな」
「がたがた理屈こねても、本当はただ我が身可愛さで不安なんだよ。復讐に傾倒して犯人がどんな奴か解った時、動機がどうにもやるせなかったら……俺は恨みを持ち続けられるのか。無理だったら俺は……どうなる?」
「……」
「星野は、どうだったんだ。お前は終わったんだろ?」
「……なんの話だ」
「犯人がいるって聞かされた後、鏡見たらよ……入学式の時のお前を思い出した」
「名誉棄損だな」
「顔面はともかく、あんなつまんなそうな
「勝手に決意するな。だからお前やたらに絡んで来たのか」
「感謝しろよぼっち常習犯」
「余計な真似をするボケ倒し確信犯じゃなければ、感謝してやったかもな」
「言ってろ」
「……俺の場合は、復讐相手に辿り着く前に全部終わってただけだ。それこそつまらないオチだ」
「……どういうことか聞いてもいいか?」
「親の仇を、父親を捜してたんだ」
「…………父親?」
「俺はそいつが芸能界にいると……――」
「――……だから俺は、もう解放されてる」
「……」
「片寄?」
「なんでもない。異母兄弟に無理心中……お前はお前でロクでもないもん抱えてたんだな」
「終わったことだ」
「その話、ルビーちゃんは?」
「ルビーはとっくにあの事件から立ち直ってる。無意味に蒸し返して苦しめる気はない」
「……何言ってんだ。父親探してるぞ」
「……は?」
「意思疎通しておけよ兄妹……いやルビーちゃんが隠すの上手かったのか?」
「何時からだ」
「えー半年前ぐらいだから冬休み、じゃなくてMV……てげなポテチ。お前らの宮崎旅行だな」
「なにで思い出してんだよ」
「自分が関係してない半年前のこと詳細に覚えてるもんかよ」
「……なら、アレか? でもそれは……」
「ともかく終わったことだって言うなら話し合っておけよ。放置して妙なことになる前に」
「あ、ああ……そう、だな…………お前がルビーとこそこそやってたのはそれ絡みか」
「ソレハカンケイナイヨー」
「嘘が巧くなるんじゃなかったのか? お前、ルビーからどれくらい聞いた」
「聞いた話がさっきの話でより意味不明になった。バレないようにフェイク混ぜまくったんだろ。どの情報が正しいんだかさっぱり解らん」
「……その話は」
「聞かねぇし、どこぞで話す気もねぇよ。そういう約束だからな」
「……何か奢ろうか?」
「んじゃあ駅前に出来たカツ丼屋。トッピング全盛り」
「トッピング一つで我慢しろ」
「口止め料を値切んな」
「俺から言えるのは、復讐なんて止めておけってことだけ……やる奴が不幸になるだけだからな」
「……そうだよな」
「特にお前なんて復讐に向いてない性質だ。他人を恨むのが致命的に下手くそだからな」
「……それでもやらなきゃ収まらない時はどうすりゃいい?」
「その時は……俺がアームロック極めて止めてやる」
「ははっ……そりゃあいいや」
「キミはお店で見る度に何かお悩みだね?」
「…………ああ、なるほど。テメェか」
「ん……? 『片寄』……へぇ」
「いらっしゃいませ。はい、名札の通り片寄と申します」
「いや失敬。店員さんの服装も名前も注視するものじゃないと避けていたから」
「でしたらこの機会に憶えてもらえれば。お客さん、今日はどのようなご用件で?」
「また人に花を贈ることになってね」
「電話やネットでのご注文も受け付けておりますよ」
「こういうのは自分の目で選びたいのさ」
「ご自分でですか。強い拘りがあるんですね」
「ところで顔つきが険しいようだけど何かあったのかな?」
「ええ。最近、身内に不幸がありまして。それも犯人が何処ぞでのさばってる系列の」
「それは……失礼なことを聞いたね」
「どうせすぐに捕まりますよ。現場にはそのクズの遺留品が山のようにあるそうですから」
「それは良かった。勝手ながら早期解決を僕も願うよ」
「……ありがたいことです」
「ただ……遺留品がどれだけ有っても、犯人の見当がつかないと厳しいかもしれないね」
「見当ですか……俺の勘なんですけどね、そいつはきっと薄くて何もない奴なんだろうなと」
「……へぇ?」
「風で吹っ飛ぶアイデンティティを代わりにもならないものを重しに保ってる……つもりな死人同然のつまらねぇ野郎」
「散々な予想だね。犯人は男なのかな?」
「そこが分かれば、容疑者が全人類から半分減るんですけどね。だたっ広い花畑から種類も解らない花を一輪積んで来いと言われてもどうしようもありませんよ」
「そうだね。僕たちには犯人が早く捕まることを祈るぐらいしかでき」
「ただ――」
「――そいつがここに花買いに来たなら、渋々摘んでやるけどな」
「……そんなことがあったとしてキミ一人で捕まえられるのかな?」
「なんとかなりますよ。何せそいつは隠れる気は有っても
「どうだろうね? 相手にもよるんじゃないかな」
「ならお客さんから見て、俺はお眼鏡に適いそうですか?」
「僕に聞かれても……そうだねぇ、まずは話を聞く価値があると相手に認めさせて、花でも持参すれば良いんじゃないかな?」
「価値、ですか。具体的には?」
「相手を知ることじゃないかな。誰だって自分を深く理解してくれる相手は重用するものさ」
「なるほど参考になります。そうそう……お求めの白バラですけど今は店に並べてないんですよ。少々問題が起きまして」
「ここにあるのは展示専用だったとは残念だ。入荷はいつ頃かな?」
「さぁ? 問題が解決を見るまで……最低でも俺の目が黒いうちは品切れのままでしょう」
「キミにそれは決められないだろう?」
「方々に相談して見ないことには。店に並べられるようになったら……真っ先に花持って報告しに行きますよ、社長さん」
「へぇ……じゃあ朗報を期待しているよ」
「ええ。お世話になった分、可能な限りお待たせしないよう務めます」
「雨宮吾郎。心中した役者夫婦。B小町アイ。失踪した芸能関係者……ゆら姉ちゃん」
「……ダメだ。やっぱり何かが足りてない、証拠もない……ついでにあいつらにも話せない」
「見逃したのは俺。最低限のケジメはつけないと、か。ハァ……」
「つまらねぇな」
「とりあえず山、登るか」
Q:どうして片寄ゆらの事件は早まったの?
A:重悟くんの影響で山にハマるのが早まったからです。放っておいても勝手にハマって結果は変わらなかった事を、重悟くんが知ることは永遠にありません。悲しいね。
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アクルビ派噴飯、地獄絵図ルビールート。
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トゥルー感だけはある、双子ルート。