確認するため。反芻するため。弱さを喉から漏らさぬために。
「うい、もしもしーなんか用か星野。今日? 忌引と創立記念日だよ、じゃなきゃサボり」
「しねぇよ。妙な真似ってどういう意味だ……丁度いい、そこに越前いるか? 代わってくれ」
「ういっす越前。お前たしか身内に探偵いるって言ってたよな?」
「……財界探偵? 芸能界も山岳地帯も専門外? えぇ……縄張りじゃねぇんだぞ、探偵の専門って素行調査とか人探しとかで分類するもんじゃねぇの……? しかも高っけぇ!? 流石に手が出ねぇ」
「……今? 今な」
「ゆら姉ちゃんが殺された山」
「色々ありがとうございました管理人さん」
「こっちこそありがとうねぇこの歳になって若い子とこんなに楽しく話せるなんてしかもゆらちゃんの弟分ちゃんじゃないこんな山小屋じゃロクに話し相手も来やしないから感動しちゃう本格的に登る客もちょっと展望台まで―なんて客もみーんなここ素通りしちゃうんだもの私まで山のどっかに有る祠みたいになっちゃうわよちょっとここに寄り道してもバチ当たらないってのにねー!」
「それは寂しいですね。なのに性に合わないって様子もなくてイキイキしてらっしゃる」
「私なんてほら寡黙で口数少ないしそんなに話好きでもないものおまけに口も上手くないもんだから昔の職場であんたの話は全然頭に入ってこないってどーこ行っても真正面から陰口言われちゃってもう散々散々な職場って言ったら私の親がーあっ私も親も口数が少なくてもう全然話入ってこないのよ嫌でも蛙の子は蛙よねそれで軽井沢の別荘の管理任されたことがあったんだけどそこで」
「お話に興味は尽きないんですが、そろそろ行かないと花が萎れてしまうので……」
「あそうねごめんなさいね一人で大丈夫? 足元気を付けて」
「はい、それでは」
「犯人早く捕まるといいわね私にできることがあったら何か言ってねー!」
「……ありがとうございます! 解決したらまた、お話聞かせてください」
「……まさか監視カメラの映像まで見せてもらえるとは。良いおばちゃんだったな。ループするトークが一時間一切止まらなかったけど面白くていい人だった」
「何年も放置されてる山の祠に、軽井沢の事件の第一発見者。想定外の大収穫だ」
「見せてもらった麓の監視カメラは警察が当然確認済み……わざわざ姿を残したくせにギリ不自然じゃない動作で顔を隠してやがる。入山下山で髪型変えて上着も脱ぐ姑息さ」
「舐めた服で登りやがって……展望台の客もいたせいで、端から疑わないと見逃しかねないか? 俺から提示したんじゃ証拠も嫌疑もあの程度では不十分。精々が容疑がかかった後の裏付け用だな」
「姉ちゃんは大仕事の後は長く休みを取る……
「叔母さん共々問われた
「死因は頭部外傷、おそらく高所からの突き落とし。死後、隠された遺体を登山客数名が同日夕方に発見。おばちゃんの話じゃ、発見者がカラスに家の鍵を盗られて追った先がこの……」
「祠の裏の穴の中、か」
「ぐ、抜ぅけ、た! もっと取りやすく持ってくれば良かったぜ花」
「献花、結構有るな。こんな山の中なのに……姉ちゃんの為なんだか祠に供えてあるんだか」
「……ルビーちゃんが言ってた雨宮吾郎の現場もこういう環境かな、と。こんなもんか」
「……」
「…………ゆら姉ちゃん」
「……ハァ……さて、あの野郎はここでどうしたかだ」
「ぱっと見で解ることは……ないか。時間経ち過ぎだし、俺で解るなら警察が見つけてる」
「事故からの隠蔽、はあり得ない。あの拘りから見て吟味して狙いを定めてる」
「でも方法に拘りはない、か? あったら一々隠さずヒントを残して転落事故に見せかける、もしくは相手にとって意味のある日付や方法で実行する……アイのように」
「
「だがここに隠したのは? 死体が見つからないよう神頼み、じゃねぇな」
「えーマップ機能……っとマジだ。この山、ギリギリ県を跨いでやがる」
「刑事が入れ代わり立ち代わり同じ話聞くわけだ。意味があるように見せかけて、管轄違いで警察の初動が遅れればそれで重畳。そもそも一定期間バレないならそれはそれで、か」
「長期の休みを取っているのも把握していたはず。そういう相手ならしばらく連絡が付かなくても『休暇中だから』で発覚が遅れる」
「誰も近づかない祀ってるもんも解らない祠……ちょうど良かった以上の意味はない。けど雨宮吾郎の件を考慮すれば、神頼みも存外に的外れじゃないか?」
「…………本当に謎の邪神に生贄捧げる宇宙人じゃなければだな。それならまだ面白れーのに」
「こっちが、殺害現場。隠し場所へ運ぶにはそれなりの距離……」
「っ、スゥー……ここから、落ちたのか。突き落とすのに凝った手段は要らねぇな……ハァ……」
「必要なのは少しの油断……不意を衝けば容易いレベル」
「姉ちゃんがあの日ここに来るのを事前に知っていたはず。推定時刻からして自宅を張って山まで尾行、なんて暇な力技じゃ無理」
「情報源はゆら姉ちゃん本人。アレの
「休みの期間を明かし、趣味の話もして、さらに一緒に来てなくともバッタリ会えば誘い込めるくらい心を開いていた関係」
「恋人……は近すぎる。あの自信なら捜査線上に挙がりづらい位置を保ったはず」
「アレは芸能プロダクションの社長……公的に他所のタレントと交流したら目立つ。素性は隠して会ってたか? 変装ぐらいはしたか……あのヤシの木頭はそれか」
「なら登山仲間……ないな。殺害現場に繋がる共通の趣味なんて安直過ぎる。それで登る山と休日を知ったんなら『一緒に登りましょう』みたいな誘いのやりとりが端末に残る。他の趣味も……」
「……有るな。素性を明かさずとも接触出来て、口が軽くなり、頻繁な連絡はいらないほどほどの距離感。かといって容疑者に挙げるには関係が薄く、目立たない趣味」
「飲み友達」
「あの愚痴連打をホストの如く相手したなら姉ちゃんは心を開く……うん、めっちゃ開くな」
「だが片寄ゆらが男と飲んでたら芸能記者が……んな記事が売れる歳でもないか。一応は両方独身だしネタとして弱すぎる」
「それでも不用意な飲み方はするはずもない。隠れ家系か会員制か」
「姉ちゃんがよく飲んでたそれ系の店は……まるちゃんの店からだな」
「だが、まずは……」
「すみません鈴木さん、こんな所まで呼びつけて」
「いいよこの辺のラーメンも中々だから。もう一回聞くけどお代は大丈夫? 長距離はかかるよ?」
「今は貯金より時間が惜しいもんで。足りなくなったら降りて走ります」
「ギリギリなんだね」
「ギリギリです。この山の麓までお願いします」
「お任せくださいお客さん。ところで片寄くん、今日、学校は?」
「創立記念日です」
「いいねー。世の中は平日なのに休む優越感とちょっと背徳感! 学生だけの祝日はこの歳になると羨ましいばっかりだよ。登山のはしごまで出来ちゃう体力もね」
「満喫し尽くしますよ。じゃないと明日も明後日も創立記念日になっちゃうので」
「体力と肉体の限界まで満喫する気!? 学校はちゃんと行った方が良いよ!」
「冗談です」
「……ええ……三人分全部! さっすが! 媒体が古い? こっちで当てがあります。はい、今日はちょっと難しいので……遅くとも三日以内にそちらへ伺います!」
「彼女がよく飲んでた店とか、もしくはどこかの山に興味持ってたとか知りませんか? はい……そうですか、中腹にある隠れた名店。もう潰れてる? いえいえ助かります!」
「……さっきから騒がしくしてすみません」
「ん? 気にしなくていいよ、乗りながら電話するお客さんなんて珍しくもないんだから。また脚本のための取材かな?」
「……どちらかと言うと行方を追ってる感じですかね。所在不明のアイドルや役者の話を、アイドルショップの店長とか古株の芸能記者とかに聞きまくってます」
「引退してる人たちなの?」
「いえ文字通り行方不明の女性たちです」
「本格的な人探し! どうしてそんなことを!?」
「……ゆら姉ちゃんの件で必要なので」
「……彼女のことはニュースで見たよ……その、大丈夫?」
「大丈夫になるためにジタバタしてます」
「……頼れる相手はいないのかい?」
「情報を渡したら真相を一から十まで解き明かしてくれそうな人はいるんですけどね」
「名探偵がいる世界からやって来たのキミ!? じゃあその人に任せればいいんじゃないかな!?」
「相手も忙しいので。それにその名探偵に半端な情報渡すと、解き明かす前にナイフ持って犯人に特攻仕掛けかねないので」
「真相よりも犯罪者の抹殺を求める過激派!?」
「いやぁそうじゃないんです……ただ愛と恩義に報いるために破滅も厭わない御方で」
「愛……その人はキミにとって巻き込みたくない大事な人なの?」
「ええ、友達の彼女です。仮に連絡できても一番バレちゃいけないその友達に漏れかね」
「この話は止めよう! 今時の高校生って爛れてておじさん怖いよ!」
「うん。想像されてることと真相はかすりもしてないですね多分」
「その人じゃなくても頼れる人はたくさんいますんで」
「そんな探偵みたいなこと手伝ってもらえるもの……?」
「結構協力してくれますよ? 姉ちゃんのSNSに挙がってるツーショット見せて、片寄ゆらに何があったのか知りたいと真摯に頼めば、まぁ大抵は」
「そっか……」
「それに犯人の見当だけはついてるんですよ」
「なら通報すればいいんじゃない!?」
「理由が『どう見てもこの野郎が怪しいから』しかなくてもですか?」
「……辛いのは解る。けどねそんな誰も彼もを疑うようなことをしても悲しいだけだよ……」
「同じことを刑事さんにも昨日説かれました。根拠が勘じゃ仕方ないですけど」
「通報済みの行動力……!」
「気が付いたことが有ったらここにと連絡先もらってたのでそうしただけなんですけどねー」
「それはそうなるよ……」
「仰る通りで。警察からしてみたら俺だって容疑者ですしね」
「ええ! 片寄くんも!? また疑われるような変なことしたの!?」
「また? 知ってます? 警察って刑事ドラマみたいに犯人の動機を重要視してないらしいですよ」
「そうなの?」
「人の価値観は千差万別。極端な話『なんかアイツ気に入らない』で人を殺す輩もいるからそんなの当てに捜査してられない……そんなことを取材した元刑事さんから聞きました」
「はー……言われてみれば、それはそうだ」
「だからって一切考慮しないかと言えば違うそうですけど。なんにせよ自供か物証……せめて疑うに足る真っ当な根拠がないと素人の言葉になんて聞く耳を持ってもらえない」
「……それは、キミがやらなきゃいけないことなのかい?」
「……どうなんでしょう。いっそ全部大外れの探偵ごっこなら笑い話なんですけどね」
「それじゃここで。また美味いラーメン屋教えてくださいよ。食える余裕が出来たらですけど」
「……それはお財布の話?」
「……当たり前じゃないですか」
「今度は定食屋のラーメンじゃなく、一押しの店に連れて行くよ」
「やった。ラーメン四天王お墨付きとか絶対美味い」
「……県を跨いだ山。そこそこの標高。馴染みの飲み屋があった女に……ぼろっちい祠」
「近場でありそうなのはここだけど…………全部が見当違いなら、その方が……」
「っ、カラスか……多いな」
「…………ああ」
「見つけた」
「……」
「ああ警察ですか? はい、緊急ではありませんが事件で」
「■■山の中で白骨化した遺体を発見しました……正確な位置はちょっと。GPS? 助かります」
「見つけた」
「見つけた」
「……見つけた」
「くそったれ」