「……笑えねぇ」
「……はい、すみませんでした。失礼します」
「片寄……?
「お久しぶりです有馬先輩。いやぁ、生徒指導の先生にこってり絞られまして」
「アンタ今度は何やったの……不良を体験するためにリーゼントで窓でも割った?」
「髪で窓割る極まった不良やりませんよ。ちょっと一週間授業サボっただけです」
「がっつり不良じゃない。授業料勿体ないわよ」
「流石、高校生にして節税気にするお方は視点が違う」
「先輩はどうしたんです」
「次の撮影で休むから職員室に書類出しに来たの。融通効くって言ってもこういうの面倒よねー」
「役者業が盛況みたいで俺も嬉しいです」
「アンタが話持ってきた『失斧』のおかげ様でね! あれやって以来、失恋か斧に紐付けされた役ばっかり来るんだけど!?」
「失恋はともかく、斧が関わる役ってそんな多いですか……?」
「斧職人の娘役とか来るのよ何故か! 動画のコメントでも『失恋担当女優』とか『重曹ちゃんのメイン装備は斧』とか書かれるし……木こりか私は!? 担当でも重曹でもないし!」
「えっと、なんかすみません」
「…………謝んないで。贅沢言ってるだけなんだから。仕事がないよりずっと良い状況だもの」
「それは、そうですけど」
「アンタは『俺のおかげで仕事来るのを感謝しろ』ぐらい鼻を天狗にしてればいいの。もしB小町の仕事だけだったら……色々上手く行かないのを発散できなくてどっかで爆発してたかも」
「確かに。先輩は独りで溜め込んで大暴走からの自爆きめるタイプですもんね」
「伸びた鼻この場でへし折ってやろうかしら?」
「……それで、アンタは大丈夫なの?」
「留年まで土俵際ですね。元から成績も良くないので」
「普段からしっかりやってないからツケが回ってくるのよ」
「他には普段から服装の違反とそれに伴う授業態度の悪印象、菓子やら遊び道具の持ち込みぐらいしかないはずなんですけどね」
「『ぐらいしか』じゃないわ。もう土俵の外に足出てない?」
「常識の範囲内なんで大丈夫だと見積ってたんですけどね」
「反則点が積もりに積もってんのよ」
「最近、噂になってるわよ? 『学校も辞めて片寄ゆらの復讐しようと駆け回ってる』とか」
「学校のトレンドニュースになってて何よりです」
「悪名は無名に勝るって? そういうのは悪名を拭い去れなきゃただのマイナスでしかない」
「仰る通りで。払拭しようにもほぼ事実だから難しいですね」
「まさか噂通りなんて言う気?」
「学校辞める気は有りませんでしたけど」
「アンタね……ルビーが気にする訳だわ」
「ルビーちゃんがどうかしたんですか?」
「心配してんのよ。喧嘩して言い過ぎたーとかなんとか」
「……そういえばあれから一度も会ってねぇや。ちゃんと謝らねぇと」
「アクアから薄っすら聞いてるけど、聞いた感じじゃルビーが悪いでしょ」
「地雷蹴り飛ばし合いましたから」
「律儀だこと。仲直りする気があるようで安心したわ」
「……本当に、復讐とかやるつもりなの?」
「そうだった気がします。でも、もう止めです」
「そ。まーそうよね! 素人が一週間費やした程度で真相なんて解りゃしないんだから」
「ドラマだったら二時間で解決なんですけどね」
「作家なんだからフィクションと現実にはちゃんと区別つけときなさい。突然探偵みたいなことやったってロクなことにならないんだから」
「……はい、本当に。俺じゃ犯人っぽい奴とそいつが殺しただろう八人の遺体しか見つけられませんでした」
「それもう解決してない?」
「え、は、え!? ただの笑えない冗談よね!? じゃなきゃサスペンスの脚本でしょ!?」
「こんな性質悪い冗談言いませんよ。報道で白骨死体が見つかったってやってるじゃないですか」
「あれ見つけたってぬかしてんのアンタ!? 一週間で!? しかも犯人!?」
「怪しい野郎がいたのでそいつが犯人なら他にも犯行を繰り返してるだろって仮定して、狙われそうな行方不明の女を調べて、ゆら姉ちゃんの状況と似た条件の場所を探し回ったんです。勘で」
「説明されてるのに何言ってるか解んないんだけど!? また擬音で会話してるアンタ!?」
「安心してください、俺もこんな方法で見つかるなんて思ってませんでしたから。ついでに今日は擬音を発声した記憶はありません」
「もし! もしもその話が本当だったとしてよ!? じゃあもう逮捕されそうだから止めるって話?」
「そうだと良いんですけどね……それ以上にとんでもない失敗しでかしまして」
「それ以上なにやらかしたの……!?」
「現場に残ってた証拠……踏み潰しちまったんですよ、俺」
「っ、ぅあぁ……」
「時間も金も使いまくって、いくつも山を巡って……数があるならどこかに一つは証拠があるはずだって……冷静さなんてなかった。結果がコレです」
「……」
「すみません、有馬先輩に関係ないのにこんな話して」
「それはぁ、その……そうね、うん……」
「すっかり顔見知りになった刑事さんに『二度と首を突っ込むな』って詰められましたよ。あれを怒髪天を衝くってんでしょうね……やっぱり素人が捜査なんてしちゃいけないもんですね」
「……当り前よ。そういうのが許されるのはフィクションだけ。殺人現場荒らして逮捕されなかっただけラッキーって思いなさい」
「ハハ……先輩も厳しいなぁ」
「言わなきゃ解らないでしょ、片寄は」
「……昨日、同じこと師匠にも言われて雷落されましたよ。それから『作家業も放っぽって高校もロクに行かねぇ野郎は破門にするぞ』って」
「それで不登校止めたわけ……心配されてんのよ。アンタが前以上に様子がおかしいから」
「前もおかしかったんですか俺?」
「自覚ないの今日一の驚きよ……それでも心配されるのは普段のおかしいアンタの人徳でしょ。どうでもいい相手を気に留めるほどみんな暇じゃないの。気にかけられてる内が華よ、華」
「……」
「心配してくれる相手が近くにいるだけ、羨ましいったらないわ」
「有馬先輩……」
「とりあえずアンタはいつも通りに戻ること! まずはルビーと仲直りから始めたら?」
「そうですね……ルビーちゃん、他に何か変わったこととか有りませんでした? 謝るためにも様子知りたいんです」
「変わったと言えば……前みたいに明るくなったんだけど」
「だけど?」
「……アクアに前よりべったりするようになった」
「べったり」
「微妙にインモラルさ醸し出しててヤバイわ。アクアもアクアでシスコン全開だし……!」
「本当に何があった……!?」
「何もないでしょ……ナニもないわよね!?」
「想定外過ぎて俺に聞かれても困ります……いやでもそうなる、のか? あいつらの行動、毎度本当に読み切れねぇな……」
「シスコンブラコンの悪化は一先ず置いておいて、他はどうです?」
「この前『このままだと番組が炎上する―!』とか縁起でもない慌て方してたわ」
「……あー……なるほどやりかねないな……もしかして星野と一緒に奔走してます?」
「あのシスコンが妹のSOS無視すると思う?」
「……なら、今はそっちに頭も体も手一杯ってことか」
「そうねー。あっちが一段落してからの方がいいかもねー」
「はい、そうします。時間かけて元に戻れるように頑張りま」
「やあ、片寄くん。下校中かな?」
「……よお、社長さん。何しに来た」
「白いバラの入荷はいつ頃か知りたくてね」
「たかが時間外のバイトのところへご足労頂き痛み入ります。殺人鬼が車乗り回して通学路で待ち伏せしてる内は、入荷予定はありません」
「それは残念だ。待ち遠しくて仕方ないのに」
「そのまま待ちぼうけて何もしないでいて欲しいですね」
「難しいことを言う」
「真っ当な人類なら簡単すぎるけどな」
「さて、今日はキミに頼みたいことがあるんだ」
「他をあたると良いでしょう。ただの学生作家に出来ることは多くないので」
「心配はいらないよ。僕が知るなかでキミ以上の適任はいないからね」
「内容がなんであれ、縁を結びたくない芸能プロの社長に付き合うほど暇じゃな」
「キミが見つけた七つ目の死体置き場に、関係ない二体目があったろう?」
「っ。あぁ……やっぱり
「いいね。やっぱりキミは話が早い。どこの誰かは知らないが余計な真似をしてくれる」
「一か所に付き一人だったのが最後だけ一か所に二人。男の遺体に女物の靴跡、一斗缶で紙や記憶媒体を焼いた跡……そこだけ雑過ぎて妙だった。なら、俺が潰しちまったのは便乗した奴の……」
「キミが大発見してくれたおかげで、とある女性が殺人容疑をかけられたようでね」
「あぁそりゃ犯人は大喜びで足踏みしてるな。何せ、罪も憎悪も全部独り占めにしてくれる相手がまた見つかったんだから。これで連続殺人犯は何者でもなくなり誰からも忘れられる」
「っ、フフ……ところが困ったことにその容疑者は、我が社にとっては有益な取引相手だ。今の時期に警察沙汰になると大損してしまう」
「それは大変だぁ。連続殺人犯が自首したら全て解決するんじゃないですか?」
「それでは解決しないね。二体目の犯人は野放しのままだ。何人も殺してきた犯人が、一つだけ容疑を否認しても馬耳東風だよ」
「だったらそっちの犯人と二人で自首すればいい。価値ある人間の説法なら聞いてもらえる」
「それはいい。殺人犯を見つけたら一度試してみよう」
「ええ。鏡見て練習するといいでしょう」
「じゃあ本番を迎えるために犯人を見つけないといけないね」
「あ?」
「容疑をかけられている女性は罠にかけられただけで無実さ。少なくとも僕はそう見てる」
「そうだったら得をするから、じゃなさそうだな」
「その理由は……キミが協力を約束してくれてからだね」
「頼みを聞く前提で話されても困るが?」
「聞いてくれるさ……どうやら見つけた時に何か失態があったようだし」
「チッ」
「キミが僕を調べたように、僕もキミを知ろうと思ったんだ。少しだけね」
「ほー。で?」
「この件、キミは無関係でいられない。交友関係が広いとこういう弊害があるものだ」
「どういう意味……いや、てめぇ割と切羽詰まって……」
「っ」
「電話、とったらどうだい? それくらい待つさ」
「……もしもし。今ちょっと立て込」
『片寄くんヘルプヘルプ! SOSー!』
「っ天童寺先輩……?」
「……っ、へぇ」
「先輩、何があったんですか?」
『キミなら色んな知り合いいるでしょ!? ゲーノーカイ通して、凄い弁護士とかいない!?』
「弁護士? だから何が」
『ウチのお母さんが連続殺人犯扱いされて逮捕されちゃうかもしれないの!』
「は?」
『アリバイだってあるのに家族の証言だからダメとか聞いてもらえないし! もう大変で!』
「……こういう話か!」
「どうする? キミの先輩の母親――天童寺まりなはかなり不利な状況だ。逮捕されてから誰かに弁護してもらうか、その前に犯人を見つけるか」
「……手段選んでたら、選択肢が消えるって?」
「もちろん無視してもいい。キミにとってはたかが中学時代の先輩、の母親だ。見捨てても誰も文句は言わない」
「……くそったれ」
『え、何? 小さくて聞こえない! ちょっとー!?』
「協力、してくれるかな?」
「……笑えねぇ」
回り道の呉越同舟エアプルート。「最悪のバディ編」開幕。