・男子生徒(16)
・星野アクアマリン(16)
・星野ルビー(16)
以上。
舞台設定
・高等学校、中庭
時間設定
1・昼休み
2・放課後
「いやこれやっぱお前じゃね?」
「知らん。もしそうだったとしても覚えてるわけないだろ。いくつの話だと思ってんだ」
「あー……それもそう、か? 俺も乳児の頃を思い出せって言われたら困るし」
「そうだろ。話は終わりだ」
「くそ、なんで俺は赤ん坊を体験したのにネタ帳に残しておかなかったんだ。取材に答えられる赤子なんていないのに!」
「……自分に無茶を言うな。もし取材出来たとしてなにを書くんだよ」
「吾輩は赤子である。名前はまだない」
「名前の届け出が出されてないなら大問題だろ雑めの漱石」
「どうも、なんつって漱石です」
「新しいペンネームに改名か。五反田監督とも共有しておくな」
「そ、そんな手段で負けを認めると思うな! 最下位になっても認めなければ負けにカウントしない人生だぞ俺は!」
「現実逃避してるだけじゃねぇかブービー賞」
「あ、ラッキー。アクアー世界史の教科書貸してー、午後あるのに忘れちゃったー!」
「うおおお、B小町の星野ルビーだー! 実在したのかー!」
「お前JIFでとっくに実在確認してるだろ」
「お兄ちゃんの友達だー! 先輩からも聞いてたけど実在したんだー!」
「友達の妹アイドルに未確認生物扱いされてんのこれどういう事態」
「正直ぼっちが脳にまで達してついにイマジナリーフレンドを錬成したのかと思ってた」
「お前のせいじゃねぇか。もっと友達増やせよソロめの錬金術師」
「賢者の石の研究で忙しい。転がしてる不動産の値が上がりそうなんだ」
「錬金術って地上げの隠語だったっけ?」
「こんな地上げ屋の兄だけど見捨てないで上げてね。うちの兄、常に隠のオーラで光合成してるせいでホンット男の友達少ないから」
「地上げも酸素を捻出した覚えもねぇよ。どこ目線で話してんだこの妹」
「ルビーちゃんに頼まれたら、こいつがオーラ解放して人生棒に振っても友達続けちゃうな!」
「……なんだオーラ解放って。地上げで破産するとかか?」
「粉かけてた女たちに包囲されそうになって全力失踪」
「うっわぁ最低だー」
「そんな無責任な真似するか。囲まれる前に女から不意討ちされるだろ」
「お前は、粉だけ振りまくって女が結束するのを見たら『よしこれで俺が消えれば万事解決だな』とかやりかねん。そのくせ偶に五反田監督とだけ連絡とって様子を聞いたりしそう」
「面倒くさくて厄介だなぁうちの兄」
「イメージだけで好き放題に業の詰まった未来を錬成するんじゃねぇよ」
「同性より女友達の方が圧倒的に多い男なんてこんな扱いされちゃうんだよ?」
「人間関係、ちょっと再構築してみるか。まずお前らから分解する」
「え、配信も見てくれてるんだ! ありがとー!」
「見てる見てる! ずっとオーディション落ちてたって動画で言ってたけど、こうして近くで本人見るといや嘘だろって驚いちまうよ」
「でしょでしょ!? ホント見る目無いよねどこもかしこも!」
「どこからか妨害でもあったのかと疑うレベルだ……まさか星野が過保護暴走して邪魔とかしてたんじゃねえの!」
「……そんなわけあるか」
「いくらシスコンでもそれはないよー! そんなことしてたら一生口利かないもん」
「そりゃそうか! 流石にそんなことしてたら俺もドン引きしてるわ。だっはっは!」
「……どこもかしこもしっかり審査した結果だ。今はともかくあの頃は歌だってダメだったし当然といえば当然だ」
「わ、私には私なりのプロデュースプランがあったんですぅ!」
「ダンスばっかりで歌の練習してなかっただけだろ」
「そうなのか? 確かにルビーちゃんは、動きまわれるの超楽しい! を全身からオーラ放ってダンスするから見ててこっちも楽しくなってくるんだよな」
「あ、わかっちゃう!? わかっちゃうか~。いやあ私のあふれ出る魅力と表現力の相乗効果に自分でも困っちゃうよね~!」
「うんうん。この、魂が小学生で固定されてますイェイ! みたいな天真爛漫さも魅力だよな」
「女子高生なんだけど?」
「分析されてるぞ魂小学生」
「教科書は持って行くから早く芸能科に戻れ。こういうファン型ホムンクルスに捕まると厄介だ」
「誰がフラスコ待機勢じゃい、ライブ会場応援勢だぞ俺は。夏に覚えたオタ芸だって、もうお前に負けないキレッキレのキレ具合に隣席の奴に呆れられたぐらいだ」
「ライブに集中させろ。周りに迷惑なオタ芸をするならフラスコに帰れ小人」
「一センチ差でイキるんじゃねぇよ。次の身体測定覚悟しとけ、二十センチ差の大勝してやらぁ」
「そこまで急に伸びたならホルモンバランス相当崩れてるぞ。覚悟して医者にかかれ」
「オタ芸だってお兄ちゃんに勝ってるかはちょっとねー。なにせ年季が違うから!」
「あ」
「おお、じゃあやっぱりあれは星野たちなんだな」
「……やっぱり?あれ?」
「ほら、このオタ芸してる双子の赤ちゃん」
「うわ、懐かしー!」
「これ見つけて星野たちじゃねぇのって話をさっきまでしてた。十六年前の赤ん坊らしいから同級生か一つ上だろって」
「十六年も前の動画なんてどこから発掘して来た」
「B小町の話したら親戚の姉ちゃんが掘り出して来たんだよ。これ知ってるー?って」
「あ、そっかー。昔のB小町を知ってるならこれの話するよねー……」
「いやーこの『頭でも体でもなく魂と本能で覚えてます!』ってサイリウム捌き凄いよなー。天国が地獄にでもひっくり返ってない限りドルオタに育ってるのが想像できるナチュラルボーン加減」
「……俺はそんなにドルオタに見えるか」
「妹の初ライブで全力オタ芸かましといてなに言ってんだこいつ。お前は一度推しを決めたら人生二、三回費やしてでも推し続けるタイプだろうが」
「ちょっとごめん……ねぇアクア、まさかアレとかソレとかこの人に話しちゃったりしたの?」
「そんなわけあるか。野生の勘を無駄働きさせてるだけだぞこいつは」
「サバンナ出身? ホントはアクアが会話の隙間からチョロチョロ漏らしてるだけなんじゃない?」
「人を整備不良で緩んだ水道みたいに言うな。なにも明かしてないのに結構な頻度で九割正解へ食らいついて来るから厄介なんだよ」
「なにそれヤバぁ。マズくない? 万が一ママのこととか知られちゃったら……」
「それは問題ない。こいつは知性を直感と執筆に全振りしてるから、例え真理の扉を見つけたとしても最後の一割で『これは……窓だな!』って必ず明後日の方向へ大ジャンプする」
「ミラクルな迷子だなー。大丈夫ならなんであの動画のことは認めてない感じなの?」
「こいつの正解を認めたくない」
「うわぁ男の変なプライド面倒くさぁ……」
「そうじゃない。こいつにバレた瞬間……俺たちを主役に脚本を書きだすからだ」
「ノンフィクション書かれちゃうの!?」
「しかも、なんやかんやあってそれを俺たちが演じることになりかねない」
「本人でやる再現ドラマとかある!? でも今から誤魔化すの厳しくない?」
「……なんとかなる。任せろ」
「おうおう兄ちゃん、妹は認めたぞぅいい加減に認めちまいなぁ。知ってること吐いちまった方が楽になれるもんだぜぇ?」
「急に取り調べ始まった」
「ルビーは別に認めた訳じゃないぞへっぽこ刑事、懐かしいと言っただけだ。こいつぐらいコアなB小町ファンならあれは知っていて当然だ」
「アクアもノリノリになってない?」
「じゃあお前らがB小町を知ったのもこの動画見てからなのか? それなら納得だけど……」
「俺たちはそんなミーハーじゃねぇよふざけんな」
「否定すんなら徹底してやれよ! さっきから半端に隠してチラ見せしてっから余計気になるんじゃ自称古参ファン!」
「やっぱりアクアが色々を水漏れしてるだけじゃん……」
「そもそも双子ってだけで俺たちに繋げるな尋問官」
「俺たちと同年代な金髪の双子で共通点がB小町ってなったら接続端子多すぎてタコ足なんだわ」
「この映像だけじゃ男女の双子とは限らないだろう」
「ぐ、確かに両方女の子かもって言われたらそんな気も……俺に雌雄鑑別の技術が有れば!」
「それヒヨコ分ける時に使うものじゃない?」
「それに俺たち以外にオタ芸を打てた双子がいた方が……面白くないか」
「アクア、さすがにそれじゃ動物だって誤魔化されてないよ……」
「それはお前……いた方が面白いから採用!」
「採用するの!? それでいいの!?」
「こいつはこういう奴だ」
「うん、お兄ちゃんと友達やれてるんだから変なのは仕方ないよねー……」
「どういう意味だ」
「まぁいいか。オタ芸乳児よりも二人に聞きたいことがあるんだよ。昔のB小町を語りまくる動画も見たんだけどさ」
「ホント!? ノーカット版も見てくれた!?」
「あー……それはその、時間がなくてまだザッとしか……」
「推しの布教が詰まった三時間動画なんてライトなファンは避けるだろ」
「えーもっと沢山話したかったのを精いっぱいコンパクトにしたのに!」
「コンパクトに編集したのはメムだろうが。有馬なんて動画の三分の二は目が死んでたぞ」
「じゃあお兄ちゃんならB小町の魅力を短い時間で伝えきれるの!?」
「五億個あるから無理だ」
「無駄に数字デケェなこの顔が良いだけのドルオタたち……その話は置いといてだな」
「B小町のアイがどんなアイドルだったのか教えてくれないか?」
「……」
「……」
「動画もアイに偏りめだったけどB小町全体の話だから足りなくてよ。だから興味湧いたんだが」
「えっと……アイの、なにを知りたいの?」
「どう凄かったのかをファン目線で説明してほしいんだよ。親戚の姉ちゃんから旧B小町のライブ映像見せてもらったんだけどどうにもさ」
「え、見たんならそれでわかるでしょ。アイの凄さは全人類一目見るだけで理解できるでしょ?」
「ぬお、思ったよりも中華料理級強火ファン……何か凄いなってのは解ったんだけど、どう凄いのかが上手く言語化が出来なかったから詳しいファンから直に解説してほしいんだよ」
「……それなら、その親戚から聞けばいいだろ。ライブ映像を持ってるなら十分詳しいはずだ」
「頼んだけど断られちまってよ。まぁ、事が事だからかアイのファンほど思い出すのを躊躇っちまうみたいでな……やっぱお前らも嫌か? 無理に聞きたいわけじゃないからそれでもいいんだけど」
「……ううん、いいよ教えてあげる」
「ルビー」
「大丈夫だよお兄ちゃん。だってアイの布教だよ? 新しいファンの卵を沼に引きずり込むのも推し活の醍醐味だもんね!」
「……かもな」
「マジかありがとうな! んーとりあえず、二人はどっちの方がアイについて詳しいんだ?」
「やだなぁ、そんなのわかりきってるよー」
「聞かれるまでもない」
「私」
「俺」
「……」
「……」
「「ハ?」」
「え?」
「えー……第四十二問、アイはドッキリ番組でパイをどこで受け止めた?」
「左側頭部」
「左こめかみでしたー! 頭で受けて顔が隠れきらない計算された絶妙な位置でしょ!?」
「判定厳しいだろ、審判!」
「あー……大体合ってるし正解でいいんじゃね?」
「えー! 審判は公平に審査してよ! 友達割りの判定勝ちとかありえない!」
「第四十三もーん、クイズ番組に出演したアイが解答ビンゴでやらかした解答は……」
「坊主にホタル!」
「ですが、その問題の正しい答えはなんでしょー」
「え、え、え? えーと犬も歩けば……ボルシチにあたる!」
「棒に当たる、だ。あたるの意味まで間違ってるじゃねぇか」
「ずるいずるい、アイについての問題をお互いに出し合うんでしょ! アイと関係ないじゃん!」
「いやむしろサービス問題だろ」
「犬も歩けば、まで出りゃあとは一般常識だしなぁ。これは流石にルビーちゃんの負」
「今度寿みなみちゃん紹介してあげる」
「今の問題はノーコンテスト、審判の俺がそう決めた!」
「公平な審査どこ行った。友達売って判定をかち割るな」
「絶対に負けられない戦いに挑むなら……人は非情な司令官にならなきゃいけないんだよ!」
「一般常識ぐらい学んどけよ司令官」
「みなみちゃんの魅力にオスが勝てるわけないのは一般常識だよっ」
「舐められてるのは残念だが、その通りだ……世の男があの肩甲骨に勝てるわけがない……!」
「そうそう、あのエチエチな……え、肩甲骨?」
「聞き飽きた妄言だからスルーしていいぞ」
「第百五十……なぁもう腹いっぱいだわ。アイについてはもう十ぅ分詳しくなったから!」
「……アイが主演したドラマの瞬間最高視聴率は?」
「……じゅ、十四、点、てん……二%?」
「正解……チッ」
「間違えてたらどうなってたんだよコレ」
「それはともかく決着ついてないからまだまだ行くよ! アクアが負けを認めるまで終わらないからアイドルの体力なめんな!」
「お前が音を上げる方が先だ。さっさと新しい問題を書け。俺はさらに十問出来てるぞ」
「もう俺が負けを認めるから勘弁してくれ。続きは家でやっててくれよ……」