・男子生徒(16)
・星野アクアマリン(16)
・星野ルビー(16)
以上。
舞台設定
・苺プロ事務所
時間設定
・夕方
「言ったよ? 確かに続きは家でって言ったよ?」
「新生B小町が隣に座って旧B小町のライブの同時視聴! もうこれだけでお金取れちゃうくらいだよね! これは始まる前から私の勝ち確定でしょ!」
「どっちの解説でアイのファンになったか厳正な審査をしろよ審判。赤いサイリウムあるぞ」
「ファン堕ち前提で話進めんな。最下位を認めるから解放してくれ。お前らの事務所にドナドナしてまでやることが昔のライブ鑑賞……なのになんでそんな気合なん?」
「なにかおかしいか……?」
「心底不思議そうな顔されんの摩訶不思議だわ。お前らブレーキどこの傘立てに忘れてきた?」
「え、ライブなんだから正装に決まってるじゃん当然でしょ。もうちょっとそっちに詰めて」
「アイドルが隣に座ってるのに恐怖感じるのバグだよこれ。緊急メンテまだ?」
「ハチマキ余ってたから貸してやる。最低限の装備だがこれで良いだろう」
「フル装備兄妹に両サイドを挟まれた。リバーシ的に俺もフル装備に反転しないといけない……? 囲碁なら死んでる。碁石じゃなくてよかった」
「じゃあ始めるよ、ライブ……スタート!」
「ヴぁあああ! アィ……!」
「なんだこのアイドル怖ッ!?」
「イィー……え?」
「ん?」
「なんだコレなんだコレ! おっかねぇのに目が離せねぇー! だっはっは!」
「いやなんだそのリアクション。一瞬ルビーに怯えたのかと思っただろ」
「アイドルのライブじゃなくてパニック映画鑑賞してる人の反応なんだけど。喧嘩売ってる?」
「星野、コーラとポップコーンあるか!? いまめっちゃ食いたい!」
「事務所に常備してるわけないだろ。映画館じゃねぇよ」
「くぅ、コーラだけでも買いに行きてぇのに……おぉすげぇー! 解説、解説頼む!」
「えっと、うん? えぇ……?」
「いやー凄いなぁアイ! お前らがあんなにハマってるのも納得だわ!」
「絶対なんか違うところに楽しみ見出してるよね!? バカにしてるのか凄すぎて怖いなのかによって今後の対応を考えさせてもらいます!」
「おいどういうことだ説明しろ」
「えぇ目ぇ怖ぁ、一曲ごとに感想文求めて来るなよ。にわかの第一好印象だから言語化厳しいっていうか、古参釈迦ファン相手に説法するとか俺の心がおシャカになるっつーか……」
「写経用紙に書いてもらおうか? 〆切は今日だ」
「ぎゃあああ急な仕事で実質数時間も時間貰えないタイプとか最悪だぁああ!?」
「整いました。多分『嘘を研究する恒星級宇宙人型爆弾』って感じだ」
「日本語なのに何語なのかわかんない……」
「俺の日本語を日本語に翻訳するなら……地球に存在するスゴイ嘘を研究してたらなんか中心に立てちゃったんで、手当たり次第アブダクションしつつ常に爆発寸前。なのにドデカい重力が発生してるから一度でも目を奪われたら引っ張りこまれて離れられなくなる」
「……」
「それでいて本人は研究上手く行かないしもう自爆しよっかなって投げやりっぽいんだよな」
「えー、なにそれ?」
「……どうしてそう思った」
「そうだよ! 変な勘繰りとかしてないで素直にアイ可愛いー最高ー! ってすればいいのに」
「お前らのクイズ合戦のせいだよ……コア過ぎる情報ばっかり入力されたから中身知らないのに輪郭だけはっきりしたっつうか。コメント流れる動画サイトで解説読みながら知らないモンスターパニック見てる気分だったわ」
「アイをモンスター扱いとか納得いかない……可愛さはモンスター級だけど。ていうかネタバレされながら見るってつまんなくない?」
「楽しみ方がガイド付き観光ツアーになるだけであれはあれで良いのよ。右手をご覧ください。光り終えたサイリウムと右手でございます」
「つまんないね」
「ボケの手を光の速度で手討ちにされた……」
「じゃあ怖い以外になにも思わなかったの? ダンスも歌も」
「いやいやめっちゃ楽しかったわ! ルビーちゃんの言ってた通り、指先どころか長い髪先まで計算された表現力なんて文豪の名文みたいに目に焼き付いて仕方ねぇもの」
「なんだ、ちゃんと楽しんでるじゃん!」
「名文……いや違うか? 細部までこだわったプラモ、は動かないから……コスプレ?」
「アレ?」
「……そうか巨大ロボだ! デカい建造物が自在に動いて暴れる様に畏怖とロマンが合わさって魅入る感覚! そうかアイとは……B小町とは……!」
「人間サイズの女の子アイドルだよ。なんか変な電波受信してない?」
「宇宙と交信中に悪いが……この時のアイがなにを考えてたのか解るか?」
「んな急にお題出されても! ん『ライブ終わったらこれっくらいの酸っぱいもの食ーべたい』」
「大喜利やれとは言ってねぇよ」
「『ラジオ体操、新作ー。指を曲げてハートの運動ー』」
「ハートのポーズでどこの筋を伸ばすの?」
「ならばルビーちゃんもこの絵で一言」
「ちょっ、あー、んー『しかし回り込まれてしまった!』」
「ダンサブルに観客を逃がさない笑顔のB小町! くそ咄嗟の無茶ブリなのも含めて負けた……!」
「やった勝った! これならバラエティに呼ばれても安心だね!」
「バラドル路線を狙ってるのかお前……もういい」
「よくねぇよ! 星野、新しいお題を持てぃ! 次はお前も参加してもらう!」
「お題出した覚えもねぇよ」
「そろそろライブの続き見ようぜ。まだ一曲だけだぞ」
「……そうだな」
「いやぁB小町って凄いな! ダンスと歌以外にも底知れなさで楽しませてくるなんて……伝説の名は伊達じゃないな!」
「私ファン歴長いけど一度もそんな楽しみ方したことないし、聞いたことない」
「ハマり方の入射角が特殊過ぎる」
「一目で良いから直に会ってみたか……いやダメだ、なんも解んないまま普通にファンになって終わるなコレ。ネタ回収しようとしても煙に巻かれるわ」
「ほら次の曲始まったぞ」
「おおー! おぉ……んん? あ……あ、うん」
「どうしたの?」
「悪い。さっき言ったこと全部間違ってたわ」
「うん!?」
「いやぁ、やっぱちょっと見ただけで人となりを見抜こうなんて無理だったな! うは恥っずい!」
「じゃあさっきまでの時間なんだったの!?」
「素人質問で恐縮ですがよろしいな。写経用紙追加だ」
「これってお前らが俺にアイの説明してくれる場じゃねぇの? 俺が勝てば解放されるパターン?」
「だってよ、一曲跨いだだけでこんなに変わるんなら曲のイメージに合わせたアイの役作りってオチじゃねぇか」
「……さっきの曲からかなり時間経ってるぞ?」
「え?」
「これ六周年の時に出たライブの傑作選だよ。投票で選ばれたのをランキング形式で集めてるの」
「それ長年追ってるファンほど持ってるのと内容ダブってて買うの躊躇うやつじゃねぇか!」
「……これでしか見れないライブもあるんだ。それに一応新作MVが収録されてて他にも特典とかも付いてくる。ハチマキとか」
「俺が巻いてるのそれかよ。あこぎな商売してんなぁ苺プロ」
「言うな。この時期は細かいトラブルと時世が悪く噛みあって色々あったんだ……」
「色々って……いや、聞くと損オンリーな臭いしかしないからいいや」
「最初のは三年目ので、今流れてるのは『スーパーモーター』のお披露目ライブだよ」
「ってことは、この間に病気療養を挟んで……るんだっけか?」
「そういうことになるな」
「アイってそんなに変わった? 確かにパフォーマンスの質の上がり具合はロケット打ち上げぐらい上昇してるけど」
「めっちゃ変わってる。誰かこの爆弾の赤と青のコード切った? みたいな解体具合」
「両方切ってたら起爆してるだろ」
「おう。半端に爆発してちょっとスッキリしたような……アイって何の病気だったんだ?」
「えーと……それは公表されてないんだよね!」
「そうなのか。命に係わる話だったんだろうな。生死の境を彷徨えば変わるのも当然か」
「命には係わってた……とは思うかなー。あはは……」
「四曲終わったが、時代が反復横跳びしてて何が何だか……アイ、アイってなんだ。アイアイもなんなんだ……」
「哺乳綱霊長目アイアイ科アイアイ属に唯一分類される動物だな」
「アイアイの分類初めて知った」
「こってり濃厚ミルキー風味が混じったかと思えばジャンクフードに劇薬を合わせて中毒性を純化させ宇宙から降り注いできた近所の泥のような複雑で単純なお味ぃ……!」
「味が全然想像できない食レポになった。なんでライブ映像だけでこんな思考蕩けちゃうの?」
「……一旦休憩にするか」
「そうだねー。今のうちにトイレ行ってくるー」
「……おい、そろそろ正気を固形に戻せレポーター」
「ハッ! 今まで注入されてた抹茶ラテ海鮮丼アイスは!?」
「ゲテモノ創製して第一次産業に宣戦布告するな。それよりだ」
「ぅおん?」
「……前にルビーたちを見て恋愛への傾向を予想してたろ。お前から見てアイはどういうタイプか予想できるか?」
「星野からそんな話振るの珍しいな。ハッまさか海鮮丼アイスを!? バカ、吐き出せ!」
「食ってねぇよそんな毒。俺だってたまにはそういう与太話をしたい時はある」
「そんなもんか? んー恋愛……異性どころか全人類に関心薄め、か。『誰と』どうなりたい、よりも『自分が誰かを』どうこうしていたいってのを重視して……そう?」
「どんな男に興味を持つとか解らないか?」
「男ぉ? 男、男……いやぁ解んねぇな。強いて言うなら……母性に飢えてる?」
「母性?」
「こう、何があっても無条件で甘えられる相手が欲しいみたい……な。あぁ、そうか」
「……何か解ったのか?」
「ああ、アイが何故爆弾から脱却したか……謎は全て溶けた!」
「溶けるな。解答しろ」
「何があっても許してくれる関係、嘘が無くても離れない相手……アイは母性を求めた! 欲して色々拗れた結果、自分自身がママになればいいと閃いた!」
「……手に入りそうにないから自分の中から生み出すことにしたってことか」
「ああ。母性を自給自足すると決めたアイは――」
「っ」
「――子猫を飼いだしたんだ!」
「………………スゥー……」
「動物相手なら嘘なんて吐く必要ないし、親として愛情注ぎっぱなしジャーマンして問題ない! 猫の性格によっては甘えてくるから愛情へのリターンだって大いにあり得る! 爆発したのは猫愛!」
「ぁ゛ー……」
「きっと療養中にアニマルセラピーとか受けて決めたんだろうな。あースッキリした。どうよワトソン君、くぉの名推理!」
「迷宮入りだレストレード」
「ホームズですらない!? おい、語り部として緋色の研究を執筆してくれよぉ」
「これじゃコナン・ドイルも売れなくて困るんだよ巨大迷宮乱造探偵」
「ホントに最後で大ジャンプした……」
「……ルビー、どこから聞いてた?」
「『全て溶けたぁ』とか騒いでたあたり。扉の向こうからでも聞こえてきたもんバカな声」
「女子にバカ認定された!? フォローしてくれ星野!」
「そうだな、お前に期待した俺がバカだった」
「フォローどころか死体蹴り煽りしてきやがったこの兄!」
「だってビックリするもん。流れ出したエンディングが止まるぐらい的外れだよ!」
「エンディングってなんだ」
「なんっ……だとっ……!? 再びエンディングが流れ出すほどの衝撃っ……!」
「わかってないのに大げさに合わせるな。お前たちの頭では何が流れてるんだ」
「月九の主題歌ー。題名なんだっけ」
「有馬先輩のピーマン体操じゃなかったのか」
「ピーマン体操がエンディングだったこと一度もねぇよ」
「野菜コーナーの主題歌じゃないのか!?」
「たまに鳴ってるよね。先輩とこの前スーパーに行ったら流れてて、生ピーマン丸かじりしたみたいな苦い顔してた」
「古傷に苦汁を塗られたか有馬……」
「お前らみたいな二枚切り超熟ファンからしてみたらバカな話なんだろうけどよ、そんなに見当違いか? 別に違う証拠もないだろー確かめようがねぇんだから」
「……あー、そーだなー」
「そもそもなんで猫なの?」
「子猫飼いだした話を復帰ライブでしてたってさっきのクイズで言ってただろ。え、違った?」
「そ……そう、だよ子猫、子猫。いやー教えたことをちゃんと身に着けてて先生鼻が高いよー!」
「これでアイについては完璧です! ご教授ありがとうございました先生ェ!」
「教えることはまだまだあるぞよ教え子よ」
「もう留年は勘弁してくだせぇ先生ェ!」
「一瞬、休業中に妊娠出産したとか過ったけど、流石になぁ。そんな噂もないんだろ?」
「え」
「……あぁ、根拠のない憶測以外でそんな話は出てない」
「じゃあ絶対ないな」
「絶対? そこまで言い切れるのか?」
「そりゃ、俺たちと同い年で子持ちーとかアイドルがーとか色々あるけど、一番はこのアイドルが子供を隠しきれるとまっったく思えねぇ。ステージ以外大雑把すぎて誰がサポートしても完璧な隠蔽とか不可能だぜコレ。奇跡が群れを成して襲ってきてないと成立しねぇぞ」
「どうしよう反論できない」
「赤ん坊なんて夜泣きはするし何で泣いてるのか判別できない。成長すればしつけも要るのは序の口で、わがままだったりどういう計算してそれした? って理屈で変な事したりで気の休まる暇ねぇだろ。アイドルからマルチへ仕事増やしつつやれるわけがねぇ、ボロボロになってボロが出る」
「…………ナルホド」
「大変な部分を身内に任せてたんならそっちが爆発するし……よっぽど物分かり良くて親からの愛へ常に愛情で返す都合のいい幼児を産んでもない限り、子持ちではないと思うんだよなぁ……」
「……猫だったらお前の推理は成立するのか」
「猫だって大変だけど隠し子よりはあり得る。それにお猫様の力は半端じゃないからな。飼いだすと結婚願望なんて消し飛ぶとか言うし」
「婚活失敗したOLかなにかか」
「動物飼いだすと急速に責任感湧いてくるもんだぞ。俺もワンタマがいたからわかる」
「犬なのか猫なのかわかんないネーミングセンス……」
「いや? 昔ウチで怪我治るまで飼ってたカラスの名前」
「哺乳類の区分ですらないの!?」
「せめて犬猫であれよ」
「治ってすぐ飛んでっちまったからなぁ。カラスは長生きだからまだ元気だったら嬉しいが」
「逃げちゃってるじゃん」
「悪い、電話だ。鏑木P……少し長くなりそうだ。ウチの妹に変なことするなよ」
「しねぇよ。友達の妹相手に変なことなんて」
「言い間違えた。取材するなよ。するなら事務所通せ」
「攻め手を先手で完全封鎖された!?」
「今ので完全封鎖!?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……えっと、しりとりする?」
「そこまで話題に困ることある!?」
「何気ない会話だってネタにできるから禁止されると両手両足縛られた並みになにも出来ねぇ……なんなら相手を視界にも入れられない」
「万物からネタ拾いしてるの? ほらもうライブの続き見ようよ」
「うう、心遣いが胸っこさ沁みるだぁよぉ」
「今のうちにたくさんアイのこと話しておけば勝負は私が大幅リードだよね!」
「うう、心持ちが末っ子の狡さだぁよぉ」
「……それで、これが追加で収録されてたMVだよ」
「あーこの曲ね! 姉ちゃんに見せてもらったのこれより後のライブだったのか。なんも解んねぇわけだわ」
「アイそんなに変わったかなぁ。私もアクアも全然そんな風に見えなかったのに。ホントだとしたらアイの理解度で負けた気がするのすっごい悔しい!」
「いや初っ端カルトクイズ後に年代シャトルランライブさせられなければ俺もこんな感想抱かなかったわ……宇宙人が地球に染まって垢抜けたぐらいの変化して、前よりもっと輝いてる風味」
「評価が都会になれたおのぼりさん……君から見てアイって、アイドルをどう考えてると思う?」
「好きか嫌いかって? にわかの意見だぞ?」
「気になるから」
「んー……嘘ばっかりなのは嫌気差してるけど、スゴイ嘘が吐けることに自信持ってそう。『本物みたいな完璧で究極の嘘を吐いてやる!』って気概に満ちてて物書きの端くれとしては尊敬する」
「……アイドルは好きだったってことでいいの?」
「一番欲しいものと違うけどこれはこれで! って大事にしてる、かな。勉強は苦手だけど頑張ったら一番の成績取れるから楽しい嬉しい私凄い! ってなるのに近い」
「そういう風に、見えるんだ。ねぇ……アイは、どれぐらい愛してたと思う? ……猫を」
「かなり愛情注いでたんじゃないかな。じゃなきゃここまで変わらないだろうし」
「そう……そうだよね。うん」
「それこそ、飼ってたのが猫は猫でもハクビシンだって後から知っても『なんか違うの? でもウチの子可愛いから別にいいよね!』とか言い切りそうなぐらい」
「ハクビシンって猫なの?」
「……ネコ目ジャコウネコ科です」
「……あのね、ありがとう」
「ハクビシンの分類教えてお礼言われるとは」
「ううん、全然違うことでお礼言ってる」
「他になんかした俺?」
「したよ。お兄ちゃんと……アイのことをこんなに話せたの、すっごい久しぶりだったんだぁ」
「……そっか」
「楽しかったなぁ。君のおかげ。だから、ありがと!」
「ルビーちゃんが楽しかったんなら、今日の俺は満点だな!」
「うん、百点満点……ごめんみなみちゃん想像してた時キモかったからやっぱり二十点」
「減点えっぐ。返して俺の八十点!」
「あははは! 合格点はまた今度ね!」