「星野、お前転生したらどうする?」   作:サルガシラン

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キャスト
・男子生徒(16)
・星野アクアマリン(16)

・星野ルビー(16)
・寿みなみ(16)
・不知火フリル(16)
以上。

舞台設定
・高等学校、教室の一角

時間設定
1・朝、HR前
2・午後、昼食後の昼休み


「星野、燃え尽きた後ってどうする?」

 

「よう星野、東ブレ千秋楽お疲れさん。めっちゃ良かったわー!」

「ん……おう」

「おうおう、すっかり燃え尽きて人生全面灰色ぉ! みたいな面してんなー」

「そう見えるか……」

「見える見える。そうなるのも仕方ねぇよな、ようやく見れたけど誰も彼も熱量ありすぎて顔面日焼けするかと思ったわ」

「演者から紫外線は放射されてねぇよ」

「お前も有馬先輩も良かったけど、個人的には激アツなキザミだな! 鳴嶋メルトの演技力と気炎の上がりように俺まで吠えるところだったぜ」

「客席ではお静かに願います。もしくは野生に帰れ」

「草原じゃあこんな娯楽は味わえねぇな。『今日あま』じゃ如何にも顔の良さでそこそこ上手く生きてますダルいって面してたのが克己心に溢れた漢の顔になるとは……男子三日合わざれば刮目して見ろとはよく言ったもんだなぁ」

「どこ目線でもの言ってるんだ。そういうお前の演技はどうなった」

「ヒトリニサセネーヨ!」

「……まぁ、大根型ゾンビから人型大根になったことを褒めるべきか」

「男子中略してルッキング……もはや俺が鳴嶋メルトと言っても過言ではない!」

「鳴嶋ファンに聞かれてないといいなその過言。大根おろしにされるぞ」

「マジかよ。なんにでも合う天才役者に改造されちまう」

「語源の方の大根役者じゃねぇよ。あたり役がない方だ」

 

 

「ところで俺今後どう生きて行けばいいと思う!?」

「話題のハンドルさばきがトラック事故レベル」

 

 

「そうだなぁ……もういっそトラック野郎Aチームになるのもいいかもなぁ。一緒に全国の高速道路を制圧しようぜフェイスマン……」

「しねぇよ巻き込むなマードック。なんでそんな極端な躁鬱状態なんだ」

「つまんねえ話なんだけどよ……」

「いつもは面白いつもりで話してたのか」

「これからお前とは話題の中心にいもけんぴ工場での製造工程を据えてやる」

「ちょっと知りたいけど一回聞いたら飽きる話を鎮座させるな」

「この道一筋、鹿児島工場長(57)の朝は早い――」

「さっそくど真ん中に工場を建立するな。悩みの話じゃないのか」

 

「先月、デカめのシナリオコンクールがあったんだよ。大賞取れたらネットTVのドラマ枠もらえるって触れ込みのが」

「結構な企画だな。五反田監督からそんな話は聞かなかったが……」

「東ブレ真っ最中じゃなぁ。ま、関わっても損する話だったし」

「損?」

「出来レース」

「は?」

「大口スポンサーの社長の息子が大賞取るのは決まってたんだと。金ちょろまかすついでに箔付けでコンクールの体裁取ってただけでよ」

「……質が悪いな。裏は取れてるのか?」

「愚問だな。俺の情報収集にかかれば表も裏も大漁大漁。トイレでの話し声が情報源よ」

「途端にその大漁旗の信用なくなったんだが」

「下手な事しでかせない大事な発表の日、俺は朝食った傷み始めのバナナで腹を下し会場のトイレに駆け込んだ」

「言ったそばから下手な食事しでかすな」

「唸り声も挙げられなくなった辺りで入ってきた奴らが愚痴り出して、その内容よ。聞いた俺は思った……『機密をトイレでべらべら喋る奴って実在するんだスゲェ!』って」

「下手なことで感動するな被害者」

「クッソ面白かったから急いで取材しようとして逃げられた……次見たのは発表側で平然と座る姿よ。やっぱ手を洗ってからなら心証良かったかね」

「……まぁ、汚い手なのはお互い様だから気にするな」

 

「結局、そのままその息子が賞を取ったのか」

「一応そうなったんだけど、直後にそのスポンサーの脱税が発覚アーンド他も芋づる式に色々バレて企画自体がいもけんぴになってお流れ作業よ」

「細切れになってるじゃねぇか」

「あんだけ隙だらけなら然もありなんだよなー」

「先月って事はニュースになってるアレか」

「そー、アレ。巻き込んでおいて俺いない所で全部決着しててよー。それなりに妥当な末路になってるのが、なお肩透かしなんだよなぁ」

「……」

 

「んで何がムカつくって……その息子の脚本がちゃんと俺のより面白かったことだよ!」

「は?」

 

「師匠が確保してて内容見れたんだよ……勝つためにコネだろうが使う姿勢は構わねぇ。でもそんだけ書けるならもう実力で取りに来いよ! 無駄にコネ使うなもったいない!」

「キレどころそこで合ってるか?」

「他は俺より師匠が怒髪天衝いてたせいで沸騰するタイミング逃した」

「隣で激情されると冷静になる理屈……弟子が怒る機会奪う師匠ってなんだ」

「こっちだって時間を大量消費して文字の戦略兵器組み上げて来たんだぞ!? せめて戦場に出てきて殴りあわせろや不戦勝で勝ち逃げすんなスッキリしねぇ!」

「……」

「もしくはコネ使わなきゃどうにもならない腕で在れよ! 恨み言も不貞腐れも言い難い!」

「要は気合入れて挑んだのに不完全燃焼って話か」

「もう悔しくって悔しくってよ! 『実力を発揮したいのにどうあっても権力持つ親に繋がって一つも成功体験がないボンボンの反乱』で一作書けちまった!」

「早々に活用してるじゃねぇか。同情する気が消え失せたぞ」

 

「問題はそのあとだったんだよ……」

「まだ何かあるのか」

「心機一転、並行して進めてた別のコンクールに集中したんだけどよ……怒り保温してた師匠に全ボツ五回、半分ボツが九回、全部手直し回数二十一で期限ギリギリ地獄巡り弾丸ツアーだった」

「うわぁ。その熱波で今は燃えカスなのか」

「そんな燃え尽きて灰テンションなまま師匠が東ブレに連れてってくれたのよ」

「厳しい鞭の後にちゃんと飴か」

「そこで隣に座った師匠がぁこう言ったんですねぇ……『麻雀仲間から聞いたんだが……これの脚本、舞台稽古始まってから原作者が一度完全ボツ出した』……ちびるかと思った」

「舞台直前に本当にあった仕事の怖い話を始めるな。飴は飴でも鬼のサルミアッキじゃねぇか」

「サルミアッキの味と恐怖のあまりしばらく魂が金星旅行してた。帰宅したのキザミが刀投げてるシーンだったぜ」

「キザミ推してたのそこからしか記憶ないだけじゃねぇか」

「それから筆を取ろうとすると手が震える呪いにかかっちまった……」

「恐怖刻み込まれて支障きたしてる。呪いかけたの指導間違えた師匠だろ」

「脚本の脚の字を見るだけでもヤバい……女子の脚を見るだけでも震えるようになっちまっただ」

「実はそんな追い詰められてないだろお前。無関係過ぎてヤバいわ」

 

「だから震え消えるまで一旦自分の人生見つめ直すのも良いかなってな具合よ」

「……高一でする悩みじゃないな。なんで俺にそんな話した?」

「だって星野も人生のレール脱輪したぜギャハハどうすっかな! 風味してるぞ。なのに常備してた闇成分切らしましたイィェア、パーリーピーポー! って転職成功してるからよ」

「俺のどこをどう見たらそんなテンションに見える」

「よく見ると『行きたくなかった遠足が中止になってゲームできるぜやった! な子供』だな?」

「自分がどんな表情してるのか不安になって来た」

 

「どうしたらそう晴れやかになれるんよ。灰の中から蘇って鳥になる方法とか知ってんの?」

「俺は不死鳥か何かか」

「じゃあ歩く骨格標本になる方法」

「学校の七不思議か。不死鳥から落差すごいな」

「ならば骨付きチキン!」

「誰が合体事故させろって言った。もうこんがり焼けて食われるだけだろ」

 

「ぐうう、お前と俺の何が違う、何が違ったと言ウンダ!」

「急に少年漫画の事情ある敵キャラみたいなことやり出すな。ノれん」

「ソウカ……俺ニ、ハ友ト愛ガ……ナカッタノカァ……」

「勝手に納得して雑に浄化されるな大根モンスター」

「……いやそうか愛か! 彼女の黒川あかねがいるからそんな余裕たっぷり具たっぷりなんだな!?」

「……ただの番組通じたビジネスカップルだ」

「嘘つけぃ! んな斜に構えといて美人な年上彼女に癒されてるだろ手前ェ!」

「そんなこと…………ねぇよ?」

「ありまくりじゃねぇか恋愛貴族! 今ある贅沢が当然のものと半端するなよ!?」

「……それは、そうだな」

「半端に『リアル刀鞘』とかやってSNSに上げるな。笑い話にできないから」

「わかってるから絶対にやらねぇよ、もう一回灰にするぞ馬鹿」

「つっても需要はあるのがなぁ。今ガチ見てない刀鞘推しバレー部女子に星野たちの関係教えたら『生ける刀鞘・現パロの姿!』とか引っくり返ったからな」

「配役の狙い通りとはいえ特殊な楽しみ方されてるな俺たち……」

 

「クソぅ、俺にもいい感じのガールなフレンドがいればよぉ……!」

「そのバレー部女子はどうなんだよ」

「そいつな、前に転生のネタ集めしてた時にショタバイキングとか言ってた女」

「お前はすでに年齢対象外なのか……そういえば、この前お前に寿を紹介したってルビーから聞いたがどうだったんだ」

「あー、あれな……」

 

 

「はい、こちらが約束の寿みなみちゃん!」

「どうもー」

「うおお本物のインチキ関西弁だー!」

「本物か偽物なのか判らない感動の仕方」

「ヤバい、人生で一番感動してる俺……ありがとうルビーちゃん!」

「私と会った時の五倍は感動してるねー」

「どうかこれにサインを!」

「ええけど……学校で自分の写真集にサイン書くと思わんかったわー」

「ドン引きだねー……ちょっと待って、私は一度もサイン求められてないのなんで?」

「あ……えー、星野ルビーさんこぉちらにサイン頂けますでしょうかぁ?」

「宅配便の応対? しかもただのノートだし。格差是正を要求します!」

「その……結成時からの推しではあるんだけど、どうしても友達の妹認識が残業してまして」

「最初から知り合いの身内ってなるとそういうの抜けへんよねぇ」

「そんなサービス残業早く切り上げなよ! ブラック労働反対!」

「あと初対面でB小町デスマーチしたから厄介ドルオタの印象が焦げ付いてる。株式会社ルビー推しは自転車操業状態なんだよ……」

「サビ残の元凶は本人やったねぇ」

「あれ、俺なんで君を推してるんダッケ……?」

「何がなんでも倒産させないで! アットホームな会社をやりがいで存続させてね!」

「搾取する気満々」

 

「そぉして、こちらがご存じ不知火フリルちゃん!」

「初めまして……こんにち殺法」

「こんにち殺法ジャンボ返し!」

「はい!?」

「こちらもジャンボ返し」

「しまった連鎖を組まれた!」

「さらにメルハバロックで私の世界」

「なんの、オゥラ崩しで制限を突破! コストで俺は両袖のボタンを外す」

「ロックを潰されたことでリボンをキツくしながらサワディーカーを招来」

「くっ、それじゃキアオラに繋げられない! 仕方ないフッデダッハを切るぜ!」

「なんて捨身。そういう賭けはお肌に良い」

「「ブエナスタルデス!」」

 

「……君、やるね」

「良い挨拶だった。流石は不知火フリルだ」

「それほどでもある」

「……あ、終わったん?」

「何一つわからないまま解り合っちゃったこの二人」

 

「ところでジャンボ返しって何?」

「こんにち殺法ってそもそも何なんだ?」

 

「こっちのセリフだよ! 今の時間は何だったの!?」

「あんなノリノリで本人たちも何もわかってなかったん!?」

「どこまでついて来てくれるのかチキンレースしたかった。地平線まで着いて来てくれそうな強者と出会えて嬉しい」

「ブエナスタルデスがハモったのこれ奇跡だな。人気女優はハジケっぷりも格が違うなぁ!」

「えぇ……」

 

 

「不知火フリルのキャラの濃さ凄かったわ」

「ルビーが話を濁した理由がよくわかった」

「何を食ったら演技力に加えてあんな愉快さを身に着けられるんだ……負けられないぜ!」

「対抗心を持つな。不知火フリルもお前にだけは言われたくないだろ」

「そのまま愉快ワードチキンレース続けてみなみちゃんより仲良くなれると思わなかったわ」

「本命そっちのけで本末転倒じゃねぇか」

「いや、グラドルの友達に男を近づけさせないためのバリア展開だったぞ。立ち回りも周囲への気遣いも一流の所作で、見事に翻弄されちまった」

「なんだ。売れっ子となれば下心満載ファンのいなし方も一流だったわけか」

「まぁ、八割ぐらいボケ振るのが楽しかっただけみたいだけどな。連絡先ももらった」

「一流の所作は全体の二割か」

「次の勝負が楽しみだぜ……今度こそ勝利をこの手に!」

「なんだそのライバル関係。良い関係になるチャンス自分から棒に振ってるだろ」

 

「ハァ……いや別に恋愛にこだわる必要もないか。気分がいい感じになればハッピーキマるだろ」

「中身ないのに表現だけ危険にするな。気分転換にいつもと違うことをしてみるのはどうだ」

「いつもと違うことねぇ……旅行とか?」

「いいな。非日常に身を浸して自分を見つめ直せる。貧乏旅行でも景色だけでもいいしな」

「役者から非日常とか言われんの不思議だわ……ロケハンついでにやってみるか」

「……脚本から離れられてないぞ」

「んが、ナンテコッタイ。下手に知らんとこ行くと刺激の国に迷い込んじまう」

 

「想像より重症だな……苦境を越えたんだから少しは遊んだりして自分を甘やかしてもいいんじゃないか。お前、他に趣味とかないのか」

「趣味なんてそんな色々持たないだろ……映画や本や取材は参考になるから、ライブ参加、店長激推しバラ栽培、登山にTRPG……」

「メチャクチャ多趣味じゃねぇか。どうやって時間捻出してんだよ」

「どれも時間なくて出来てねぇんだよ。特に山」

「山?」

「中学の時、登山部だった。主に漫画の山を登るか高尾山を日帰りで攻めるかのどっちかだった」

「インドアなのかアウトドアなのかどっちかにしろ。極端さで崖を築いてるじゃねぇか」

「途中からアルティメット始めて崖の間に中腹が出来たぞ」

「アルティ……? ああ、フライングディスクの競技だったか?」

「そうそう。正確に投げられるようになるの嬉しかったわー。辞める直前は山の上でディスク投げ合うアルティメット登山部になってて強めの部名になってたぞ」

「名前だけ強くてどうする。ピクニック中にディスクで遊んでただけなのか判断に困る……文脈的には囲碁将棋部と同義だ」

 

「そういう星野はちゃんと趣味とか持ってるのか? 中学の時の部活とかよ」

「演技と演出の勉強と……まぁ、色々やっててそういうのは無かったな」

「ほへー……お前本当、演技に全神経注いでたんだな」

「……必要だったから必死だっただけだ。目の前にあることに向き合うしかなかったからな」

「でも、今はちょっと余裕出てきたんだろ。そっちもずっと必死だったんだから他のもんに目ぇ向けていいんじゃね?」

「……どうだろうな」

「『苦境を越えたんだから少しは遊んだりして自分を甘やかしてもいいんじゃないか』って誰かさんが言ってたしナー」

「ほっとけ」

 

 

「星野! コンクール通ったのと出来レースの時のごたごたで仕事が流れ弾! 師匠が吹っ掛けながら受けちまったから年末と年度末が同時に来たみたいな地獄始まった! 震えてるどころじゃねぇ!」

「そうか。俺は明日からルビーたちと宮崎旅行の極楽に行ってくるな」

「嫌味かこの役者業無職気味め! お土産は食い物で頼む!」

 

 


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