大内家の野望   作:一ノ一

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お久しぶりです。
明けましておめでとうございます。


その九十四

 野分が過ぎて、秋が深まる季節になった。

 今年は珍しく気候が安定し、温暖で、ほどよく雨が降ったおかげで豊作だった。心配された野分の悪影響も、農作物にはさほどなく、昨年を上回る収穫ができた。

 島津家や龍造寺家、そして尼子家といった隣接する敵国も今は注目するべき動きがない。懸念される畿内情勢も、不気味なくらい静かだ。三好家と畠山家の諍いの決着は来年に持ち越されそうである。

 晴持は、朝の麗らかな日差しを感じて眠りから覚めた。まだ日の出の直後である。雀の声がそこかしこから聞こえてきて、秋の涼やかな気配が室内にも忍び込んできていた。 

「今日は少し冷えるな」

 今年の冬はどうだろうか。

 雪があまり降らなければいいが。

 寒いのは好きではない。冬の雪が降るような時節は、室内に篭って火鉢で暖を取り、一日中布団の中にいたいくらいである。

「晴持様……おはようございます」

 晴持の隣で寝ていた光秀も目を覚ました。

「おはよう、光秀。起こしたか」

「いえ……大丈夫です。……少し、寒いですね」

「光秀もそう思うか。もうすぐ冬になるんだな」

「もう年の瀬、ですね」

 一年が終わりに向かっている。

 庭の紅葉が燃えるような紅に染まりつつあるのも、季節の移ろいを感じさせる。

「人が来る前に着替えたほうがいいぞ、光秀」

「あ……はい。そうですね」

 光秀は自分の格好に目を見遣る。

 日本ではまず見る事のない白黒でひらひらとしたデザインは、俗に言うメイド服である。

 光秀は以前、ヴィクトリアンメイドの姿で晴持に夜這いをかけた。それ以降、どうにもコスプレに抵抗感がなくなってきたらしい。さすがに人前に出ることはないが、晴持と二人切りの時には度々メイド服を着るようになったし、服の種類も少しずつ増やしているようだ。真面目で堅物が表向きの光秀が、今着ているのはミニスカのメイド服だ。とても愛らしいが、それ以上にエロイとしかいいようがない。光秀がそれを着ているというだけで凶器と言えるだろう。

「光秀、寝癖がついてる」

「み、見ないでください! 恥ずかしい……!」

 それこそ、色づいた紅葉のように顔を紅くして光秀は髪を整えようとする。

 寝癖を整えるには髪を濡らすのが効果的だが、水場に駆けて行くには着替えが必要だ。光秀は逃げ出したくなる気持ちを抑えて、いそいそと着替える羽目になった。

 手早くメイド服からいつもの和装に着替えた光秀は、改めて正座をして晴持に向き直った。

「改めまして、おはようございます」

 寝癖はそのままだが、姿容は怜悧な姫武将になった。

 服装一つでここまで印象が変わるものなのかと、毎度のことながら驚かされる。

「うーん、またしばらく光秀のメイド服が見れなくなるのは寂しいな」

「な、何を仰っているんですか……別に、晴持様が望まれるなら、いつでも……」

「いつでも? ほう、なら昼間でも?」

「そ、それはダメです。早くても、今夜……なら。その、昼間なんて、絶対……人に見られたら、誤魔化しようがないじゃないですか」

 普段見慣れない服というのは、否応にも人目を引くものだ。

 光秀からすれば、晴持以外の他人にメイド服姿を見られるのは恥ずかしすぎて切腹ものの恥なのだ。そんな格好でも晴持と二人切りの状況なら喜んでしてくれるのが、光秀なのだ。

「人に見られるのが嫌っていうのは、まあ、な……俺も光秀を好奇の視線に曝すつもりはないし」

「はい」

「……でも、誤魔化しようがあるのなら、昼間でもあり? 誤魔化すっていっても、何だって感じだけど」

「ええと、それは、その、パッと見で分からないことというか、ちょっとしたこと、その接吻、のような、すぐ終わるものなら……ぁ」

 実に可愛らしい。

 先ほどの光秀が紅葉した紅葉なら、今の光秀は熟したトマトだ。顔を真紅に染めて、俯いてしまう。そんな光秀の様子に、晴持はついつい噴き出してしまう。

「わ、笑わないでください」

「すまんすまん、光秀が可愛かったからついな」

「そういうことも、言わないでください。やっぱり、恥ずかしいですから」

 光秀は、自分の容姿を誉められるのが苦手らしい。

 一部自己評価が低いのは今後の課題でもあるだろう。それは謙虚とも言い換えられる美徳でもあるが、もう少し、自分を高く評価してもいいのではないかと思う今日この頃であった。

 それにしても、光秀の言によれば、物陰等の人目につかないところであれば、昼間でもキスしていいらしい。今度やってみようと思う晴持であった。

 

 

 

 玄米のお茶漬けをさらさらと胃に流し込み、昼食を終えた晴持は、一日をどう過ごすか思案した。

 戦がある程度落ち着くと、武士の仕事はめっきり減る。それこそ、次の戦の準備に武器を整備したり、稽古したりが常になる。政治の立場にある晴持はそれ以外にも当然、仕事があるにはあるが、そういった仕事も有能な家臣がやってくれるようになった。

 祐筆として光秀や宗運が控えてくれるし、そろそろ官兵衛が福崎での試用期間を終えて山口にやって来る。すると、ますます晴持の政務に余裕が出てくることになる。

 やはり、有能な人材は積極的に登用して活用するに限る。

 人件費もかかるが、そこに文句をつけていては組織は回らない。潤沢な資金力のある大内家は積極的に経済を回してやるという意気込みであるべきではないか、と思いながらも、それはそれとして蓄財もしなければ火急の出費が捻出できなくなる。

 そもそも、この時代には予算の考え方が未発達だ。

 足りなくなれば下々から徴集すればいい。臨時税を取るのは珍しくないご時勢である。それを延々と続けていては、民の生活は成り立たないし、先々の不安に苛まれることになる。

 安定した統治のためには、民の不安を可能な限り取り除くことが求められる。

 それは晴持の一貫した政治姿勢であった。

 そのためにも、税制をどうするか。できる限りその場しのぎの課税を減らす政策をしたいところだ。戦が減れば、一年に必要な出費も分かる。備蓄もよりできるようになるし、いいこと尽くしなのだが、残念なことに戦はまだまだ続く。九国にも山陰にも火種が燻っている状況だ。いつ、この火種を消しに行くか。これから、大内家が向き合う課題の一つだろう。

 龍造寺家と島津家――――共に、無視するには大きな勢力だ。龍造寺長信は大内家に実質的に降っているが、島津家はまだまだ敵愾心を抱いていることだろう。最悪の場合には、また九国の南まで兵を進めなければならなくなる。

 正直、島津家と戦って得るものはあまりないので、できれば戦をしないで解決したい案件ではある。

 兵が強いくせに土地は貧困とか、攻め込むだけ無駄ではないか。

 ただ、島津家にもプライドがある。強い目的意識もある。島津宗家に着き従う一癖も二癖もある家臣団の意向も、関わってくる。島津家の問題は、しばらく尾を引きそうだ。

「晴持様、お客様です」

 慌しくやって来たのは宗運だ。

 福崎での逗留で疲れを取ってきた彼女は、目に見えて回復していた。

 元気が戻ったのはとてもよいことだ。仕事ぶりも冴えているし、倒れるまで漂わせていた焦燥感は感じられない。

「晴持様への取次を願うと……龍造寺の鍋島殿です」

「鍋島殿が、直々に?」

 龍造寺家の内訌は、今まさに大きく状況が動こうとしていた。

 直茂の活躍により、龍造寺信周が討ち取られて親大内派の龍造寺長信が一転して国人衆の支持を集め始めたのである。

 そういう報告を晴持は受け取ったばかりであった。

「分かった、会おう。今、彼女が来るということは、きっと大きな企てがあるに違いない」

 龍造寺家が誇る軍師が自ら山口を訪れるということは大事だ。

 しかし、直茂は山口まで足を伸ばした。それはきっと大内家にも関わる話を持ってきたからなのだろう。

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 夜襲を仕掛けて龍造寺信周という最大の敵手を討ち取ることに成功した龍造寺長信は、しかし、完全に肥前国の支配権を手に入れたわけではなかった。

 たしかに、敵の旗頭を討ち取るというのは快挙である。戦の中で、大名に比する大物が倒れることは滅多にない。日本各地で日々大小様々な戦が繰り広げられていながら、大将首というのはそうそう上がらないのだ。 

 大将首は当然ながら、敵軍の急所だ。獲られれば、それだけで軍が崩壊し、再起不能になる。事実、龍造寺家はカリスマ性溢れる隆信を大内家に討ち取られてからというもの泣かず飛ばずで、終いには内部崩壊して、こうして内訌にまで発展してしまった。

 信周が討たれた後、敵軍は算を乱して逃げ散った。

 長信は追撃を命じ、逃げる敵を追い散らして、さらに戦果を挙げた。

 兵力差を覆した大勝利は歴史に長々と語り継がれるだろう。

「あちらは信周の次男を元服させて、旗頭に担ぎ上げたようです。名は信昭だとか」

「形振り構わずということか。今更、こちらに恭順などできぬという腹だな」

 信周を討ち取った後も、抵抗は続いている。

 飛び込んでくる敵の情報からは、信周派が信周の次男信昭を担ぎ上げ、引き続き長信に敵対する構えである。

 これは家督相続争いだ。

 単純な領土争いとは様相が違う。

 肥前一国を治めた龍造寺家という巨大な家の跡を誰が継ぐのかという重大な問題は、家臣たちや下々の者たちにとっても死活問題だ。

 負けたほうは家臣も含めて滅亡だ。それを避けることができたとしても、家中に居場所がなくなってしまう。自分が推戴する主の敗北は、自分の敗北。再起の芽すら潰されて、没落するのは誰の目から見ても明らかで、信周派の家臣たちは、『信周が討たれたくらいで』負けを認めるわけにはいかないのだ。

 もはや、主を差し置いて家臣同士の戦に成り果てているようにも見える。

 信周の首を挙げた夜襲を無事に成功させた直茂にも、安穏とした時間を過ごすことは許されなかった。

 敵が諦めない限り戦は続く。

 信周が引き入れた有馬軍からも土地と城を奪い返さなければならないのだ。

「信周……いえ、信昭側から寝返る者も増えております。今となっては、時間は我等を利するものと思いますが」

「立場が逆転したものだなぁ」

 城の包囲が解けて、命の危険を脱したのみならず、大将首を挙げる大勝利をしたのだ。

 ずっと、不利な状況に置かれて心身ともに疲れていた長信は、気分を昂ぶらせて感慨に耽った。

 数日前まで、時間に追われていたのは長信のほうであった。

 それが、たった一つの戦で一変した。

 戦国の世はかくも儚く移ろいやすいものなのか――――と。

 信周戦死と長信大勝利は、すでに肥前国全土に広まっている。味方は大いに活気付き、反対に信周派は、一気に勢いをそぎ落とされた。

 大内家を味方につけている以上、僅かでも優勢になれば、天秤は長信派に傾いていく一方だ。

「かといって時間をかけていても仕方がない。内乱は早期に終結させ、俺の下に政権を帰さねばならんぞ」

「はい、もちろんです。喫緊の課題はやはり本城の回復です。敵の本拠地はそのまま龍造寺家嫡流の本拠地でもありますので」

「それは俺も考えていた。今のままでも俺が龍造寺の跡継ぎであることに変わりはないが、目に見える形でそれを示す必要もあるからな。何より、本城こそが姉上が打ち立てた龍造寺家の威信の象徴であるからには、これを奪還しないことには勝利とは言えないな」

 うむ、と長信は何度も頷いた。

 信昭派が居座る本城――――龍造寺城は、亡き隆信の下で発展した龍造寺家の象徴とも言うべき城であり、それは即ち、この城の主こそが龍造寺家の当主であると内外に示すものである。

 信周はこの龍造寺城を不意打ちで奪取し、以降は自分の城として扱ってきた。長信にとっては屈辱も屈辱であり、龍造寺城の奪還は何にも勝る優先事項であった。

「しかしながら懸念も」

「何だ?」

「有馬です。彼等は、未だ肥前の地を侵したまま……このまま本城へ攻撃を加えれば、有馬勢に後方を攻撃される可能性があります。分かりきっていることではありますが、これをまず退けなければなりません」

「うむ……むぅ」

 渋い顔をする長信。

 長信が追撃に徹し切れなかった理由が、有馬軍の存在だ。彼等は信周と密約を交わし島原半島から北上してきた。

 有馬軍を信昭派とするのなら、未だに長信に抗しうるだけの兵力が敵にはあるのだ。それも、有馬軍は信周の生死に左右されはしないだろう。救援対象が信周から信昭に変わるだけだ。

 龍造寺城も堅城として有名だ。その堅牢さは、長信もよく知っている。だからこそ、後顧の憂いを断って、龍造寺城の攻略に取り掛かりたいところであった。

「まったく、目の上の瘤とはこのことだな。有馬め……」

 背後に有馬軍を背負った状況で、強固な龍造寺城を攻めるのは困難だ。

 状況が長信に有利になったというだけで、兵力差まで隔絶したわけではない。一息に敵を揉み潰すとまではいかないのが現状だった。

 龍造寺家だけの問題であればよかったのだが、信周が引き込んだ有馬軍は信周の死後も長信の背後を脅かし続けていて、彼等は龍造寺家の都合に合わせて動いてはくれない。その上兵力も馬鹿にできないものがある。龍造寺家一丸となってぶつかるのならばまだしも、長信が動員できる兵力を考えると迂闊に戦える相手ではないというのが正直なところである。

「何とか蹴散らせんか? あれが後ろにいたのでは、枕を高くして寝られんぞ」

「戦えば、勝利はできるでしょう。しかし、今後の信昭派との戦いを想定すると、有馬軍と開戦するのはあまりお勧めできません」

「そこを何とかするのが軍師じゃあないか。信周をやったようにはできんのか?」

「さすがに……奇襲はいつも成功するわけではありません。むしろ、信周を討ったことで敵方も守りを厚くしていることでしょう。有馬との戦は、少なからず兵をすり減らす戦いとなります。よしんば勝てたとしても、その後が辛くなりましょう」

 長信は眉間の皺を深くする。

 これは単純な算数の問題であった。

 信昭軍と肥前国に侵入した有馬軍の総兵力と長信の総兵力を比較すれば、まだまだ敵方のほうが優勢なのだ。ただ、信昭軍は信周の敗死によって大きく戦意が削がれており、これから離反者も出るだろうから、龍造寺家の内部だけを見れば長信が優勢と言えるし、有馬軍も信昭軍も各個撃破は可能だろう。ただし、有馬軍は動きを停滞させ、こちらの様子を窺ってはいるが、すぐそこまで迫っている。信昭軍も軍備を整えて再度、攻撃するだけの余力はあるだろう。とどのつまりは、有馬軍が敵に味方をしている限りは、戦全体として長信が優勢に立つことはできないということになる。

 信周が討たれて、一転して敗色濃厚になった信昭だが、有馬軍が肥前国内に留まっている間はまだ逆転の芽があるということでもある。

 軍備を再編し、立て直した信昭軍が有馬軍と長信を挟撃するという展開もありえなくはない。主の気分を害さぬよう、あえてぼかしてはいたが、時間が長信に利するというのは一面的な見方に過ぎないのである。

「まったく、信周め……何という面倒な置き土産を残してくれたのだ」

 苦々しく長信は呻いた。

 自らの領内に他国の軍勢を引き入れるだけでなく、領土分割の約定を交わしていたというのだから驚きだ。何がなんでも長信を討ち取り、自分が龍造寺家の新当主に成り上がろうという強い意思を感じる。それだけ、信周が覚悟を持ってこの戦に挑んでいたということだろう。

「長信様」

「何だ?」

「一つ、ご提案が」

「何? それは、有馬をどうにかする妙案ということか?」

 直茂の言葉に、長信は目を輝かせた。

「はい。上手く行けば、この戦をより優位に運ぶこともできましょう。ただし……」

「ただし?」

「長信様には相応のお覚悟を求めなければなりません。信周が有馬を引き入れたように」

「何だと?」

 直茂の言葉の意味を、いまいち長信は理解できなかった。

「鋒を交えることだけが、戦ではありません。ここは交渉で事を進めるべき局面だと思います」

「今更交渉だと? 信昭に、戦をやめてくれとでも頼むのか?」

「いいえ、もちろん違います。交渉の相手は、有馬……彼等を味方につけることができれば、この戦の趨勢を決することができるでしょう」

「有馬を味方につける? そんなことができるのか?」

 有馬家は龍造寺家の積年の敵である。

 隆信は長らく有馬家を敵視し、攻撃を仕掛けていた過去がある。

 信周はこれを味方に引き入れるのに、島原半島の割譲という屈辱的な条件をつけていたくらいだ。

「有馬家にとってこの戦は他人事です。自家の命運を賭けるようなものではありませんし、龍造寺家の次期当主と関係を改善できれば、当面は戦を仕掛けられることもなくなる。おまけに島原半島が手に入るのならば、儲けモノ……彼等が信周に味方をしたのはそういった利があったからでしょう」

 隆信が肥前国を支配してから、龍造寺家は各地に侵略戦争を仕掛けていた。島原・天草地域も同様に龍造寺家の猛攻に曝され、有馬家は島津家を頼って勢力を辛うじて繋いできた。

 たとえ、内訌で戦力をすり減らしたところで、龍造寺家が脅威であることには変わりない。世の流れを見れば、龍造寺家を打倒して、肥前国まで支配することができるかといえば、それはないだろうというのは分かるので、如何に龍造寺家と関係を破綻させないかという点が最大の関心事となる。

 有馬家は島津家を頼っていたのだから、同じく島津家を頼った信周を支援するのは当たり前の戦略だっただろう。

「味方といっても兵を借りるのではなく、兵を退いてもらうだけです。それだけで、敵方には大きな痛手を与えることができますから」

「交渉で兵を退かせるというのか」

「こちらに就くことが、有馬家にとっていい結果に繋がると分かればあちらも交渉を無碍にはしないでしょう。有馬家にとっては、肥前国の戦後がどうなろうと自家に利があればよいのですから」

「有馬が信周に肩入れしているのは、義理人情ではなく利害関係によってか……なるほど」

 人と人、家と家の結びつきは義理人情と利害関係にどちらかだ。

 戦国に世に君臣関係以外の義理人情は信頼に値せず、他国と同盟を結ぶ場合には人質を交換するほどだ。今回、有馬家と信周との同盟は土地を担保に行われた。信周としては龍造寺家の当主になるのが最優先であった。負ければ命がない状況で、四の五の言っていられない。島原半島くらい切り離してもいいと判断したのだろう。しかし、それは有間家にとって信周は土地を担保にした同盟関係という程度の繋がりでしかないということでもあったし、同じ条件なら長信にも提示する権利がある。むしろ、信周が敗死し、長信が龍造寺家の当主となれば、反乱分子との約束事など守るに値しない。島原半島の領有権を長信が主張し、有間家に攻撃を仕掛ける口実にも使えるようになる。

 もしも、長信が勝利すれば、当然ながら有馬家は面白くないし、長信との関係性を見直す必要に迫られることになる。その時に、島原半島の領有問題は大きな懸念材料と化す。

「島原半島を、長信様からも手放していただく……完全に有馬家に引き渡すことで、後の諍いを回避します」

「島原を有馬に引き渡す……」

 長信にとって、これは大きな譲歩と言える。

 何せ、武士の本懐は一所懸命――――土地を死守することにある。

 一家の長として、先代が勝ち取ってきた土地を他者に明け渡すのは腸が煮えくり返るほどに悔しい。

「どうしても、必要か、それが……」

「有馬家を早急に納得させ、兵を退かせるには、最低でも島原の割譲は必要です」

「より広大な領土の割譲を求めてくる可能性もあるぞ」

 長信が有馬家に助けを求める形になるのだから、有馬家は長信から信周以上の好条件を引き出そうとするのは目に見えている。

「もちろん、その可能性もあります。ですが、わたしたちが提示するのは島原のみです」

「考えがあるのか?」

「はい」

 直茂は頷く。

「大内家に仲裁を依頼します」

「大内家にか……」

「はい。有馬との戦を内訌から切り離し、個別の案件として対処します。大内家の仲裁を得て、有馬家と講和という形に持っていきます。島原だけでも、大きな譲歩ですが……こればかりは、信周殿の覚悟を長信様に超えていただかねばならぬ場面と言えましょう」

 有馬家との戦を終えるため、第三者として大内家を引っ張り出す。大内家は長信と同盟関係にある。頼られれば、出てくるのが盟主の役割だ。断りはしないだろう。それに、形はどうあれ、そろそろ大内家に参加してもらう必要のある時期だと直茂は考えていた。

 龍造寺家の内訌ではあるが、長信と信周がそれぞれ大内家と島津家を頼って戦ってきた。大内家を頼ると言っておきながら、大内家に何の断りもなく戦を終えたとなれば『可愛げ』がない。大内家からすれば、権威を利用されただけになって面白くないだろう。

「大内に借りを作ることになるな」

「大国の顔を立てるとお思いください。それに、大内家が出てくれば有馬も鋒を納めざるを得ません。彼等の背後に島津がいるにしても、彼女たちは最近は内部のゴタゴタに忙しい状況です。大内家と二度目の対決ができる余裕はありません……有馬にしてみれば、後ろ盾が心の許ない状況で大内家に睨まれたくはないでしょうし、この機に大内家に取り入る好機にもなります。大内家にしてもこれは有馬を引き込む機会……どちらにしても損はありません」

 南郷谷の戦いで、大内家が島津家に痛打を与えてくれたことが功を奏した。

 今、島津家を頼っていた諸勢力が動揺している。そんな中で親大内派の長信の勝利は、大内家を利するだろう。大内家からの協力は確実に見込める――――というか、協力してもらわなければ困る。大内家にも平戸を差し出して頭を下げたのだ。

「……やむを得ない、か。分かった。その線で話を進めてくれ。委細、直茂に任せる」

「承知いたしました」

 まさに苦虫を噛んだような表情で、長信は直茂に命じたのだった。




光秀がちょっと積極的……原作シリーズでも大体光秀から主人公に迫るパターン多いし多少はね。

現パロ光秀(妄想)
自由人な生徒会長信長に振り回される堅物な副会長。
裏垢で投稿しているコスプレ自撮画像を見つけるイベントを発生させるとルートに入れる。
ルートに入った後で選択肢を誤ると特殊イベント本能寺が発生する。

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