“魔法少女“のバイト事情、ワケアリにつき。   作:流星の民(恒南茜)

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第一章 『“魔法少女“のバイト事情、ワケアリにつき。』
プロローグ 「魔法少女のバイト事情」


”ヴィエルジュブラン”は”魔法少女”だ。

 

「──お怪我はございませんか?」

 

眼前には怪物、対峙するは”魔法少女”。

肩まで伸びた純白の髪、一房に編まれたそれを留める半月型のバレッタ。

対照的に漆黒、身を包むゴシック調のワンピース。コツリと、履いたヒールが地を打つ。

 

「お相手は、ボク──『ヴィエルジュブラン』が務めさせていただきます」

 

フリルが揺れた、途端に携えられた一杖のステッキ。

 

「──”輝く月よ、小夜に光の雨を”」

 

天上より射した光、煌めくレース、ヒールの下で広がる魔法陣。

ブラン──白。その名に違わずして、光の中で一転、黒は白へと染め上げられていく。

 

「──”ブラン・セレナーデ”」

 

刹那、ブランのいたビルの一角を包み込むほどに眩い光が煌めき──怪物ごと塗りつぶした。

 

「これで浄化は完了いたしました」

 

一礼するブランの前にもう危険はない──と、いうよりも。

元々打倒すべき敵など、そこにはいなかったのだ。

 

「ごゆっくりお召し上がりください。それでは、ボクはこれにて失礼します」

 

魔法少女コンセプトカフェ──『ヴィエルジュ・ピリオド』。

 

たった今その場に残されたのは、怪物を模した外見にホワイトソースをトッピングされたオムライスだ。トマトでできた瞳も、ケチャップで描かれた牙や口も、全部。

『魔法少女たちのお茶会』をコンセプトに構築された内装、照明やプロジェクターを用いて魔法少女の戦いを再現するパフォーマンス。

駅の裏通り、寂れたビルの三階にて。コアなファンを付ける形で『ヴィエルジュ』は営業していた。

 

「それでは、またのお越しをお待ちしております」

 

かくしてまた一つ、浄化こと給仕は終わる。

 

「あっつ……」

 

客を一人見送った後に、蒸れたウィッグに手をかけようとして──そこでふと、ブランは手を止めた。

 

「……や。”魔法”が解けちゃうや」

 

カラオケに行けば同性の友人よりもキーの高い曲が歌えた。

高い戸棚にあるものには手が届かず、まだ家族頼りだった。

 

つまるところ、声変わりを経てもなお高いままだった声。

丸まった肩にあまり伸びなかった背丈、そして──好きなもの、”魔法少女”。

加えて、ウィッグにドレス、コルセット──それはきっと。

 

”ヴィエルジュブラン”もとい、()()()()()・"真白(ましろ) (はるか)”を。

普段は学ランに身を包み、生徒会書記として規範に従った格好で日々を過ごす普通の少年を。

 

──”魔法少女”にするための魔法だった。

 

「……あら」

 

そうして送ってきたバイト生活に転機が訪れるとするのならば。

カランカランと、来客を示すベルの音に遥が振り向いた、その瞬間だったに違いない。

 

「えっと……その……」

 

腰辺りまで伸びた艷やかな髪はウィッグではなくもちろん地毛、校則通りヘアピンできっちりと分けられた前髪から覗くのは切れ長な瞳。

そして、服装は──遥が通う学校の、女子生徒のものだった。

 

よく言えば清楚、悪く言えば本人の性格を体現するようなおかたい容姿。

彼女が何者か遥は知っている、恐らくは学校一の有名人で、何よりも週に一度、生徒会室で顔を突き合わせてはよく文句をこぼされているのだから。

 

「……案内して、くださいませんか?」

 

──”黒咲(くろさき) 衿華(えりか)”。

 

遥よりも一学年上、三年生の先輩。

そして、彼女は遥が所属している生徒会のトップ──生徒会長。本来ならば「ここ」とは縁が無さそうな立場にいて。

 

だけれど、今この瞬間は真っ直ぐに。

 

「こういう場は……初めてなのです」

 

”魔法少女”衣装に身を包んだ遥を──ブランを見つめて、ただ入口に立ち尽くしていた。

 

……マズイと閉口する、こちらの気も知らずに。

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