“魔法少女“のバイト事情、ワケアリにつき。 作:流星の民(恒南茜)
ただ、編集作業が相も変わらず続いておりまして、しばらくの間投稿ペースが不安定にはなってしまいますが、ご容赦ください。
また、本章に入られる前にサイドストーリーを読んで頂けますとよりスムーズかと思います。
プロローグ-2 「魔法少女と転校生」
蒼井紗は"魔法少女"だ。
捨てきれなかった好き、憧れに導かれた先で足を踏み入れた場所。
手を取られ、引き込まれ、”魔法少女”になった──とはいえど。
あくまでもそれはもう一つの姿。
”魔法少女”にだって、表の姿はある。
蒼井紗は──女子高生だ。
◆ ◆ ◆
「それじゃあ、蒼井さんの隣に座ってもらおうかしら──
窓の外では紅葉が散っていく、十月に入った朝。
白千川高校、朝のホームルームにて。
担任の指示にこくりと頷き、自身の隣に座った女子生徒を紗はまじまじと見つめていた。
「
というのも、彼女が──転校生だったから。
紗よりも背は高め、ジトッとした瞳が見つめ返してくる。
そして、何よりも目についたのは紫色に染められた、腰までのロングヘアだった。
「……そう」
短く答えると、紫菜は自分の席に座ってしまう。
髪を染めるのは校則違反、制服は転校してきたからか皆のものとは違うセーラー服。
教室の最後列、窓際で足を組む異分子に、誰もが注目を向けていて。
されど、誰も触れることはなかった。
「一限目、家庭科だけど……移動教室の場所、わからないでしょ?」
「……知らない、けど」
気を利かせて話しかけたというのに、紫菜は相当に無愛想だ。
紗の問いに頷くのみ、そこから先に話が進まない。
「……っ、案内してあげる……って言ったら?」
「それぐらい、自分で探せるし」
ツンとした態度で紫菜は紗の提案を拒む。
彼女はさして人付き合いが良いタイプでは無さそうだった。
「それに、アンタ──」
教室を見回して、紫菜は何やら口にしようとする。
とはいえども、そんなことをしている暇はないように思われた。
「──もう授業、始まっちゃうわよっ!」
教室に残されたのは紗と紫菜の二人だけだったから。
強引に紫菜の手を引っ掴み、立ち上がらせて連れ出す。
──どれだけマイペースなのよ。
バイト先での
彼女も確かにマイペースだけれど、紫菜はまた別ベクトルで面倒くさそうだ。
「ちょっと、何……?」
「家庭科室連れてってあげるから。黙ってついてきて」
次に手を引いた時、抵抗は幾分か収まっていて。
ようやく素直についてきてくれる気になったか、と紗は息を吐いた。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「ほら、教科書見ていいわよ。まだ無いでしょ?」
「……別に。板書があるから無くたって……」
「そういうところ、遠慮しないでいいからっ……!」
無事授業に間に合った──と、紗が安堵したのもつかの間。
授業が始まってからも、紫菜の調子は変わらないままだった。
『席、自由だから。早く座りなさいよ』
『……でも、アンタは──』
教室に到着して真っ先に席に腰掛けるよう促せば首を傾げる。
今だって、紗が教科書を使ってもいいと勧めたところで、何やら御託を並べて拒否するのみだった。
「織部さんって──結構、強情なのね?」
「それは蒼井──アンタもじゃない? アタシ、別に頼んだ覚えなんてないんだけど」
「うっ……」
紗自身が相当に強情なタイプである──それは、バイト先の
ただ、それはそれとして、紫菜が強情なのも確かだった。
そして、そんな子が珍しいこと──それもまた、確かだった。
「まあ、負けてあげる。教科書、貸して」
そうとだけ口にすると、さっと紫菜は紗の教科書を取り上げてしまう。
何だか上手いこと言いくるめられたような気がする上に、上から目線。
雰囲気としては最悪だったに等しかったものの、紫菜のそんな態度には紗も何かしら感じるものがあったのも確かだった。
「……さてはあなたも得意じゃないでしょ? 取り繕うの」
「なっ……」
図星だったのか、動揺したかのように紫菜は声を漏らす。
紗にも覚えがあったのだ。こういう回りくどい、どこか棘々しい口調で会話してしまうようなことがあるというのは。そして、そういう話し方をする子に限って、取り繕うのが下手だということも。
紗がそうだったように、紫菜もまた同じだったのだろう。
包みきれていない、本心が出っ張った言葉を使う。
上辺を完全に取り繕った会話は周囲に馴染んだもの。
そのために、本心を完全に包んでしまって、決して他者が触れて怪我をしないようにしてしまうのだけれど、裏を返せば本心を晒せない会話しか出来なくて。
そんな中で感じていた物足りなさが、紫菜との会話にはなかった。
「アタシがちょっと折れたからって……!」
「そう言うってことは図星だったんじゃない」
だからこそ、というべきか。
二人共気付けなかったのだ。
「蒼井さん、織部さん。放課後、職員室に来てもらってもいいですか?」
授業中に繰り広げられた口論の現場を、教師がバッチリと目撃していた、ということを。
◇ ◇ ◇
「あーもう! 転校初日から災難だったんだけど……! どうしてくれんのよ!?」
「それはわたしの言葉でしょ。大体、あなたがちっとも折れないから……!」
放課後のお説教にて、つい先程指摘されたばかりだと言うのに、紗と紫菜の間では再び口論が始まっていた。
「……だから浮くんでしょ。お節介で口が悪いし──蒼井は」
唇を尖らせ、紫菜はそう口にする。
紗がこのクラスでは浮いていることをまるで知っているようだった。
というか、当然だった。授業中にも関わらず口論を繰り広げた後、一日を通して隣りにある紗の席に、誰一人として話しかけに来る生徒がいないのを紫菜は見てしまった後なのだから。
「……それは織部さんもじゃない? 十分口悪いし」
「だから、忠告してあげようとしたじゃない。アタシと話してたら浮くって──」
アンタは、と。口論の中で遮られてきた言葉の意味がはっきりとする。
ただ、だからといって紗の中で揺らぐものはなかった。
「……浮くって、どういう風によ」
「だって、転校してきたばっかりで、口悪くて、髪、染めてて……普通、そんなアタシに話しかけたくなんか……」
「それじゃまるで、あなた自身が話しかけてほしくなくて、そうしてるみたいじゃない」
紫菜の目が見開かれる。
図星──彼女の反応が正直でわかりやすいということは、この一日で紗にもわかってきたことだった。
「どんな事情かは知らないけど、わたしは話しかけるから。割と面白かったし。まあ、口論はもう懲りたけど」
人と言葉を交わし、声を荒げてでも本心を滲ませること。それはそれで楽しかったから、結局、その一言に尽きる。
取り繕わない会話──なんて、バイト先でしかしないものだ。
だからこそ、クラスに放り込まれた異分子──紫菜は、紗にしてみれば刺激的な存在だった。
「それに、髪を染めてるのなんて全然普通だからっ! ──また明日、ね」
そして、紗がこれから向かうバイト先では髪を染めていることや口が悪いことなんて、些細なことだ。
だからこそ、いとも容易く
鞄を掛け直し、駆け出した紗の背。
を見送りながら紫菜は廊下に立ち尽くす。
「……全く、ほんとお節介な子なんだから」
やがてその背が完全に見えなくなった頃、ぽつりと零した。
「でも、アタシは──」
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「お怪我は、ございませんこと?」
──『魔法少女コンセプトカフェ・ヴィエルジュピリオド』。
”魔法少女”たちが開いたお茶会、そこに現れた怪物を倒すために駆けつけた”魔法少女”──という
両の手に握られたステッキ、それを正面に構えて、唱えるのは──呪文。
「──”空の青、光となりて輝き満ちよ”」
その影を塗りつぶす青。
天井より降った光の中で、シアンは両の手に力を込める。
「”シアン・フーガ”」
放たれし光──デミグラスソースが、怪物を模したハンバーグを染め上げる。
これこそが、『ヴィエルジュピリオド』のパフォーマンス、退治に見立てた給仕だった。
「これにて退治は完了いたしました。それでは、ごゆっくりなさってください」
軽くスカートをつまんで一礼。
その所作のち、踏むステップは力強く。
優雅でいて、それでいてどこかお転婆。キャラ付けに則した足取りでシアン──紗はその場を後にする。
「あ、紗ちゃん? マキさん、まだまだかかりそうだって! 今のうちに食器下げお願い!」
次なる給仕を行おうと、紗が調理場に足を踏み入れた時、真っ先に聞こえてきた声。
『ヴィエルジュプラム』こと、桃瀬杏。彼女は今日も今日とて、はつらつ可愛く給仕をしていたけれど、紗を見かけてすぐにそんなことを知らせてくる。
「……マキさんにしては珍しいことですわね」
「この間の『総選挙』以来、結構お客様増えちゃったから。何なら調理スタッフを増やしたいぐらいだって……」
「ほんとよ! というか杏、あなたも他人事じゃないでしょ!」
仕事帰り・学校帰りが一番多いこの時間が混雑しているのはいつものことだったけれど、それはそれとして、今日は随分とホールの回転が悪い。
杏の言う通り、客が増えたからというのもあったのだろうけど、きっと、それ以上に。
「……一人、減りましたものね」
「まあ、衿華ちゃんがいなくなったことは寂しいけど……必ず帰ってくるって遥くんも言ってたから。ほら、行こっ! 少しでも今できることをやらなきゃっ!」
一人、有能な”魔法少女”が──衿華が辞めたこと。それが大きく響いていた。
しかし、その分は彼女が帰って来るまでに他の”魔法少女”で補えば良い。
「……ええ。行ってまいりますわ」
力強いワンステップ、杏の言葉に返事をして。
ホールへと、紗は飛び出していった。
◇ ◇ ◇
「お疲れ様です、紗さん。マキさんが少し残って欲しいって言ってました」
「……あら? 何かあったのでしょうか」
「軽いお知らせらしいです、すぐに終わるからって」
黒のロリータ服に純白のウィッグ。
そんな派手な見た目の反面、飾り気のない青いベンチに腰を下ろして、ロッカールームに帰ってきた紗を出迎えたのは、衿華の教育係をしていた”魔法少女”をしている唯一の男の子。真白遥だった。
「あ、お疲れ! 紗ちゃん、遥くん! 二人もマキさん待ち?」
「ええ。あ、来たみたいですよ」
遥の言葉に釣られて後ろを向くと、ちょうどそこにはマキがいた。
疲れ切ったような様子ではあったものの、瞳は爛々と、表情だけは覇気に満ちている。
「お疲れ様、三人とも。他の子にはもう伝えてあるんだけど、あなた達にはまだだったから。手短に行くわね」
ガラガラと部屋の隅からホワイトボードを引っ張り出してくると、マキは宣言した。
「色々と大変な時期ではあるけれど、それは言い換えればここが盛り上がっているということに他ならないわ。これを機と見て、今年も──」
書き殴られた文字を見て、隣の杏がゴクリと唾を呑む。
そして、紗とて無縁ではない──どころか、そこに羅列されたのは因縁深いものだった。
「──『魔法少女総選挙・冬の陣』を開催します!」