“魔法少女“のバイト事情、ワケアリにつき。   作:流星の民(恒南茜)

44 / 75
#38 「魔法少女のお約束」

「……ふぅ、温かい……ほんと、ごめんね? こんな時間に」

「別に、ちょうどバイト明けだったから。気にしなくて良いよ」

 

出されたコーンポタージュを一口啜って、透羽は一息吐いた。

もう十月だ。夏空は遠く、夜ともなれば随分肌寒い。そんな中、訪ねてきた透羽は遥が貸していた『キラピュア』のブルーレイを返しに来たのだと言う。

 

「それにしてもさ、別に今日返しに来なくたって良かったのに」

「ううん、早く返さなきゃって言うより、続きが気になっちゃってさ」

 

既に透羽の視線は棚の方へ向いている。

透羽にブルーレイを貸したのはつい数日前、段々と消化速度が速くなっていっているところを見るに、本当にのめりこんでいるらしい。

 

「今は『キラメキ☆キラピュア』を見てるんだっけ?」

「そうそう、『ラブっと』の次のやつ。それでね、段々わたしにも、わかるようになってきて」

「……何が?」

 

ぐっとカップの中身を飲み干すと、ふふんとばかりに鼻を鳴らす。

自慢げに透羽は言い切った。

 

「──お約束! ”魔法少女”の在り方、みたいなの」

 

キラピュアに限らず、そもそも”魔法少女”に限らず、長期で続いているシリーズものにお約束というのは付き物だ。ただ、それはあまりにも見慣れてしまっているからこそ、普段は遥があまり意識していないことでもあった。

 

「……例えば?」

「何かを守るために”魔法少女”は変身するんだ──って。遥もそうだったんでしょ?」

 

覗き込んでくる透羽の表情──それは至って真面目なものだ。

 

「自分の”好き”を守りたい。だから、変身した。それが文化祭だったんだね」

 

改めて言葉にされてみると、若干の気恥ずかしさはあったけれど。

それでも、あの瞬間の遥は確かに胸を張っていた。ただ、"好き"を守り抜くために。

 

「……まあ、そう、だけど……というか、あの時は必死だったし」

「必死なの──真っ直ぐなの。そういうのって、応援したくなる。”魔法少女”と同じだよ」

 

きっと、透羽は思い出しているのだろう。

遥に向けて叫んだ、その瞬間を。あの時、目眩がして。立っていられないぐらいに緊張して。

それでも、最後に遥を進ませたのは透羽の応援(エール)だった。

 

「……そっか。改めて、ありがとうね。透羽」

「そもそも、わたしが原因で……って、この話はしない約束だったね。結局さ、何が言いたかったのかって──」

 

空っぽのコップを、ぎゅっと透羽は握りしめる。

温めた本題を、そっと吐き出すように、口にした。

 

「"魔法少女のお約束"──その真っ直ぐさが眩しいなって。そう思ったの」

 

立ち上がると、透羽は棚の前に立つ。

そして、今は堂々と陳列されている『キラピュア』ブルーレイをいくつか抜き取った。

 

「つまり、大きくなってわかってくることもあるってこと。『キラメキ☆』の続き、借りてくね?」

「了解。別に、ゆっくり見てくれていいから」

「それはどうだろ。案外、深夜に続きを取りに来たりして……なんて」

 

透羽の視聴ペースから考えると、あまり洒落にならない言葉と共に、彼女は部屋を出ていく。

ただ、何かを”好き”だと思うこと、打ち込めるのは良いことだ。それが、遥と”分かち合える”ものだったからこそ、尚更そう思えたのだろう。

 

透羽が辿っていく先に何があるのか、遥は知らない。

何せ、まだ探している最中なのだから。そして、別に手助けぐらいならしてもいい。

 

「ちょっと待ってて。送ってくよ」

 

一枚羽織り、遥も部屋を飛び出していく。

まずは一つ、帰路につく手助けをするために。

 

『真っ直ぐさは眩しい』──透羽の残していった言葉を反芻しながら。

 

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

 

「……うぅ……見つかりませんわ……」

「どうしたんですか? 紗さん」

 

バイト明け、ロッカールームに入って早々遥を出迎えた声。

それは、困っていることを全面に主張したものだった。

 

「杏先輩に勝つ算段が──見つかりませんの……」

「……あー」

 

そもそもとしてそれは、遥の頭を悩ませていたことだ。

そして、やはりと言うべきか遥が辿り着いていなければ紗も、その答えはわかっていなかった。

 

「まかない、今日はコーヒー付けられるけど……って、どうしたのよ。そんなゲッソリとして」

 

部屋に入ってきたマキを驚かせてしまうぐらいには、二人共疲れ切った表情をしていたらしい。

 

「……まあ、取り敢えず、”魔法少女”のケアは私の仕事だから。そういう時は相談しなさいな」

 

遥達の隣に腰を下ろすと、マキはそう口にする。

一応は頼れる大人、なのだから。任せなさいと言わんばかりに、彼女は胸をトンと叩いた。

 

「紗さんの『総選挙』……杏先輩に勝つ算段をずっと探してて……」

「杏に、ね……遥くんがアドバイザーで、紗ちゃんは給仕とライブだけで勝負するんだったわよね?」

 

以前、申告したことの反復に頷く。

 

「……確かに難しいわね。ただ、強いてアドバイスするのなら……」

 

多少考え込むような仕草を見せた後、ピッとマキが指した相手は遥だった。

 

「アドバイザー──ヴィエルジュブランは『総選挙』を勝った”魔法少女”でしょ? 杏は出てなかったけど、寸劇とかも無くして、ね」

 

マキが言う通り、遥は以前の『総選挙・冬の陣』で勝っている。

そして、その時は確かにプラスアルファに頼らず戦った。というよりも、衿華との時がイレギュラーではあったのだけれど。

 

「解決策は案外、経験の中にあるものよ。この年になるとしみじみと……感じられちゃうのよね……」

 

マキは最後だけ顔を顰めた。それで目尻にシワが寄ったのはさておいて。

確かに、解決策を考えるばかりでそれが見つからないのなら、過去、経験に答えを求めてみること、近しいようで、その発想は出てこなかった。

 

「それじゃあ、私はまかないを作ってくるから。その間、若い衆は目一杯頭を悩ませてなさいな」

 

マキが部屋を出ていったのと同時に、紗がぽつりと零した。

 

「……教えてくださりませんか。あなたの『総選挙』を」

 

真剣な表情で見上げてくる紗。そうともなれば、遥も真剣に答えなければいけなかったのだけれど。

 

「……別に、僕も特別なことをしたわけじゃないんです。ただ、強いて言うのなら──」

 

『真っ直ぐさは眩しい』──”魔法少女”の胸には純粋な感情があると言う。

迷子だった自分が手を差し伸べられた時に灯ったもの。

画面の向こうに応援(エール)を送った時に灯ったもの。つまるところ、それは──。

 

「──”憧れ”。ただ、好きな”魔法少女”の真似をしてました」

 

フリューゲルのように優雅に、名も無い魔法少女のように笑顔で。

眩しかった”憧れ”に手を伸ばそうと奮闘していた記憶はある。

 

「憧れてる──好きな、”魔法少女”……」

 

考え込むような仕草すら、紗は見せることはなかった。

ただ、すぐに遥を見つめ返して。そうして、口にした。

 

「──”ヴィエルジュプラム”。彼女が、わたくしの憧れ、ですわ」

 

”魔法少女”としての、杏の名前を。

 

「……じゃあ、プラムのどういうところが好きなんですか?」

「それは、考えるまでもありませんわ」

 

間髪入れることなく、紗は言葉を継ぐ。

 

「──笑顔です。ここに来た時、心細かったわたくしに初めて向けられたその表情が、ずっと忘れられませんの」

 

確かに、今回に限って言えば杏は敵かもしれない。

それでも、紗にとってはかけがえのない先輩なのだろう。

ここに、”好きを分かち合う”場所に、手を掴んで、引き込んでくれた相手だから。

 

遥だって、杏には感謝している。彼女がいなければ、()()に来ることはなかった。

それなら、紗が杏に憧れる理由もわかる。迷子の遥に手を差し伸べた”魔法少女”が、紗にとっての杏──ヴィエルジュプラムなのだ。

 

「……それ、でも……」

 

紗は俯いた。

まだ何か、後ろめたいことがあるとでも言うように。

 

「わたくしは──わたしは、そこまで笑顔が上手くなくて。人とも、杏先輩ほど上手く、できなくて……」

 

紗は真っ直ぐな”魔法少女”だ。

自分の気持ちに正直で、自分の思い描く”魔法少女”像に向けて、真っ直ぐと進もうとして。

それでも、上手く行かない。その姿は、以前の『総選挙』での歌が苦手だと言った衿華と重なる部分があった。それならきっと、解決策だって同じようなものだ。

 

「……それなら、練習すれば良いんです。誰も笑いはしません。人より上手くできなくて、晒せないでいる弱さも。だって、()()は──」

 

自分の”憧れ”に向けて真っ直ぐな”魔法少女”。

その姿を笑う者は、()()にはいない。むしろ、眩しいとさえ思えるほどなのだから。

 

 

「──そういうのだって、『ヴィエルジュ』は"分かち合える場所"、ですから」




P.S.編集作業終わりました。ギリ規定に収まって良かった……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。