“魔法少女“のバイト事情、ワケアリにつき。   作:流星の民(恒南茜)

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#42 「魔法少女に助太刀を」

携えるは、乙女の証。

暗闇の中で佇む人影によって、それは高く掲げられる。

一点、集まった光がその姿を照らし出した。

 

「──メイク・ア・ピリオド!」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「変っ身バンク──っ!?」

 

バン! と力強く机に手をつき前のめりに。

真っ先に声を上げた杏は、かつてないほどに目を輝かせていた。

 

「そう。次の『総選挙』で皆には変身バンクもアピールの一部に取り入れて欲しいと思って。それで、ここからが大事なところなんだけれど……」

 

一度咳払いをすると、マキは自分の前に立つ三人の”魔法少女”を見回す。

 

「変身バンクのテーマと口上はあなたたちに決めてもらいたいと思っているの」

 

マキのその宣言に、思わず紗は一歩たじろいでしまった。

変身バンク──言い換えるならそれは”少女”の夢。かつて幼い時からテレビの前に座り込み、毎週”魔法少女”と向き合ってきた紗にとって、その言葉はあまりにも魅力的すぎるものだったから。

 

煌びやかに舞うエフェクトが体を包む一色のドレスを飾り付け──乙女の憧れを象った”魔法少女”へと、その姿を変えていく過程は、まさしく”魔法”で。

今しがた杏が目を輝かせていたように、隣の遥が頬を高調させているように、紗もまた胸の高鳴りを感じていた。

 

「それで案は──」

「はいっ! あたし、もうありますっ!」

 

マキが言い終える前に、我先にとばかりに手を挙げたのは杏だった。

 

「コンセプトは可愛い系、ポップで元気一杯なのがいいなって!」

 

流石ははつらつ可愛いヴィエルジュが誇る”ピンク”の”魔法少女”、杏が提案したのは彼女が好きだと普段から言っている”ピュアファンタジア”の変身バンクに近しいものだということは容易に想像ができた。

 

『DASH!キラピュア』はシリーズの中でも屈指の明るさを誇る。

希望を胸に真っ直ぐに突き進む、とにかく王道路線な”魔法少女”──だからこそ、変身バンクにもその傾向は現れている。

 

全体のモチーフが可愛らしいのだ。

鮮やかな背景と共にアップテンポな曲が流れ、大きく”魔法少女”がステップを踏みながら変身する。

杏が言う通りに元気一杯。そして、何よりも可愛い──のだけれど。

 

「その……お言葉、ですが」

 

小さく手を挙げた瞬間、その場にいた三人分の視線が紗に注がれる。

こういった形で意見をする、というのは思い返してもみればあまりなかったかもしれない。

紗自身が人と話し合う、というのは得意ではなかったから。主張を通す時だって、過剰なぐらいに強く声を上げるか、そもそも尻込みして声を上げることすらままならないかのどちらかだった。

 

そして、それが杏を相手にした意見だとしたら尚更なかったようにも思えたけれど。

()()がそういうものを受け入れてくれる場であることを知っていて──どうしても、紗にも譲れない部分があったのだ。

 

「わたくしは、優雅に、クールに──変身とはかくあるべきだと考えています──っ!」

 

先程見た”ピュアヴィクトリア”の変身。

刻まれるステップは細やかに、最小限の動きで。さりとて、身体を照らし出すエフェクトは鮮やかに。キビキビとした動きと豪奢なエフェクトとの間にあるギャップが映えるものだ。

 

「……確かに、紗さんの言うことにも一利あるわね。杏の案だけを通すと、シアンのキャラが崩れるかもしれないもの」

 

頷きながらマキが言う。

たとえ一人一人の変身バンクがある程度違ったとしても、根を張るコンセプトは皆で共有する。

杏のポップで可愛らしいものがテーマとして採用されても──それはきっと、紗が焦がれていた優雅な変身とはかけ離れたものになってしまうだろう。

 

「……むぅ。じゃあ、遥くんは?」

 

頬を膨らませながら、杏は遥に話を振る。

とはいえども、遥もまた顎に手を当てて何やら考え込んでいるようだった。

 

「……キャラ付けで言えば、ブランも優雅でクールな方です。それなら、僕も紗さんの意見に賛成、でしょうか」

 

杏と紗、それぞれの意見で勢力は二分した。

遥が加わった以上、人数的には紗の方が有利──だけれど。

 

「……仕方ないなぁ」

 

何やら悟ったように杏が頷く。きっと、譲ってくれようとしていたのだろう。

確かにそうすれば話は丸く収まる、けれど。

そんな単純な多数決で片付けてしまうには、あまりにも大切すぎる問題にも思えた。

 

「お待ちください。わたくしと杏先輩、それぞれでコンペをするというのはいかがでしょう?」

 

だからこそ、紗は彼女を静止した。

 

「……なるほど、ね。杏の可愛い派と、紗さんのクール派、互いに案を持ち寄ってどちらの変身の方が優れているか決める──そういうことかしら?」

「ええ。変身バンクはテーマだけでは決まらず……アイテムにモチーフ──それを互いに出し合うべきだと思いますの」

 

今、この場でどういうテーマでやるか──それをすぐさま決めてしまうのはきっと浅はかだ。

杏が出した可愛い系のテーマでも優れた変身バンクが生まれるかもしれない。それならばきっと、互いに練り上げた上で再度決定する。そうするのが、一番角の立たないやり方に思えた。

 

「わかった。じゃあ、期限は五日後、ギリギリ『総選挙』開始前で良い? マキさん」

「ええ。その日ならギリギリ間に合うわ。それじゃあ、若い衆は精一杯頭を悩ませなさいな!」

 

ポンとマキが両の手を合わせ、その場はお開きになった。

一応は同じチームで変身バンクを決めていくことになる遥に挨拶をしようとして、その場を離れようとした時、きゅっと手を掴まれて、紗は引き止められた。

 

「良かったの? 紗ちゃん。あのまま決めちゃわなくて」

 

杏は少しばかり表情を強張らせていた。

確かに──以前までの紗だったら、もっと強引に物事を決めていたかもしれないけれど。

 

()()は”分かち合う場所”だから。精一杯、納得行くまで頭を悩ませるべき──それをわたくしに教えてくださったのは杏先輩でしょう?」

 

これでも、以前の『総選挙』を通して成長はした──そんな実感はもっていたいのだ。

 

「……わかった。それじゃあ、負けないからね──っ! ”シアン”っ!」

 

勝負はもう始まっている。ここで案を出した変身バンクだって、アピールに使うものなのだから。

もしかしたら、はっきりと勝ち負けが決まる形で()()と対立するのはこれが初めてだったかもしれないけれど。だからこそ、胸を張って。

 

「望むところですわ──”プラム”っ!」

 

同じ”魔法少女”として、紗は言い放った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「……こうすれば、少しは優雅になるかしら……」

 

今日は遥たちとのミーティングで案を出さなければならない。

この後の待ち合わせまでに何かしら決めておかねばならなかったから、まずはモチーフを──と考えていたものの、杏に宣戦布告をしてからまだ一日しか経っていないというのに、紗は頭を抱えていた。

 

「さっきから思ってたんだけど……アンタが描いてるそれ、なに?」

 

左腕代わりとして、今日も今日とて紫菜はベッタリと紗について回っていた。

そして、今も隣でノートに案を書き殴る紗を見守っている。はっきり言ってしまえば、人に見られながらの作業というのもやり辛かったけれど、これに関しては紫菜が好意でしてくれていることなのだから仕方がない。

 

「バイト先で使うものよ」

「……バイト先で? この模様とか……全部……?」

 

現状、ノートに並ぶのは使いたいエフェクトや簡潔な変身バンクのコンテ。

ぱっと見では何をしているのかわかったものではない。聞き返してきた紫菜は尚更顔を顰めていた。

 

「ええ。全部、ね」

 

怪訝そうな顔をして紫菜が顔を寄せてくる。

 

「……これ、何に使うのよ」

 

バイト先でこれを何に使うのか──なんて。

そんなことまで具体的には話せない。『ヴィエルジュ』でのことはあくまでも秘密だから。

だとしても、人は一つや二つ、そんな風に引っかかる秘密を持っているはずだ。

今しがた肩に触れた紫色の髪。なぜ校則を破って、周囲から浮くと知っていて、紫菜がそんな姿でいるのか聞けない理由(わけ)──きっと、それと似たものだ。

 

「まあ、それは秘密ってことでいいかしら」

「そう言われると、むしろ余計気になるんだけど」

 

その答えに不服そうな紫菜を尻目に、紗は次から次へと案を並べる。

変身アイテムはどんなものが良いだろう? モチーフは? ポーズはどうしたい?

考えれば考えるほど広がっていく思考。ふと時計を見やると、もうすぐ授業が始まる時間だったから、紗は一旦そこで手を止めて、一言書き足した。

 

『変身バンク案①』、と。

 

「……アンタ、それ、変身って……」

 

その時、不意に紫菜の視線が向けられた。

瞳が見開かれている。その表情は、どこか驚いているようにも見えた。

 

「……どうしたのよ」

 

その態度がどこか気になったから、敢えて気丈に紗は聞き返す。

 

「っ、何でもない、から」

 

何でもないわけがない。

なぜそんな表情をしたのか問いただそうとしたけれど、その瞬間に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いて。

聞けずじまいなまま、紫菜は前を向いてしまった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「んぅ……」

 

机の上にノートを広げて、ペン先で幾度か唇をつつく。

待ち合わせを予定しているレストランにて。注文紙は既に自分のものを書き入れているため、紗にとって後は待つのみだった。

 

結局のところ、ノートを見た時の彼女のリアクション──それが何を意味していたのかはわからずじまいで。話しかけるとはぐらかしてくるし、紗がノートを広げていた時は心なしか少し距離を取っていたように思う。

なぜだろうと、紗がそんな風に思索を巡らせていた時だった。

 

「お待たせしました、紗さん」

 

声のした方を向くと、そこには学校帰りなのか制服を着た遥がいた。

学ラン姿なのは珍しい──と、そんな感想が出てくるよりも先に。

 

「お久しぶり、ですね」

 

その隣に、視線が吸い寄せられる。

 

「ええ。ご足労感謝しますわ、ノワール──いえ」

 

こちらも遥と同じく制服姿で。

だけれど、制服に着られているようにも見える遥よりも、彼女はきっちりと着こなしている。

『ヴィエルジュ』にいた時よりも、おかたい雰囲気を見せる彼女──。

 

「──衿華さん。今日はよろしくお願いいたします」

 

遥が助っ人として呼んだ相手──衿華がそこにはいた。




P.S.予定が立て込んでいて少し空いてしまいました。二人同時変身を見たい。
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