“魔法少女“のバイト事情、ワケアリにつき。 作:流星の民(恒南茜)
「それにしても、衿華さんは受験生でしたわよね? 今日はわざわざ来ていただいて……大丈夫なのですか?」
店員が注文紙を持っていき、一息吐いた頃合い。
ドリンクバーから注いできた紅茶に口を付けると、その苦さに少しばかり辟易しつつも、紗は話を切り出した。
「丁度模試が終わったばかりでしたから。まあ、それはともかくとして──」
対して、衿華はブラックのコーヒーを一口啜り、表情一つ変えることなく真面目くさった表情のまま答える。
「こんなに楽しそうなお話なのです。乗らない方が損というものでしょう?」
それでも、口ぶりから察するに衿華は相当乗り気なようだった。
何せ、『ヴィエルジュ』で共に”魔法少女”をした仲だ。いざこざがあったとはいえ、最終的には和解もした。衿華がある程度、”魔法少女”に食いつきが良いのだって、
会ったのは久々だけれど、そういうところはちっとも変わりない。
「……確かに。衿華さん、この話したらすぐに行くって息巻いてましたもんね」
「遥くんこそ、私には秘密にしておくなんて水臭いではありませんか。この間も言ったでしょう? 私たち二人なら無敵だって」
『総選挙・夏の陣』にて勝利したブランとノワールの
「……まあ、それはともかくとして。早速、本題に入るとしましょうか」
そんなどこかしみじみとした紗の視線に気がついたのか、ほんのりと頬を赤らめると衿華は咳払いを一つ、ミーティングを始めるよう催促をしてきた。
積もる話はある。衿華がいなくなってから『ヴィエルジュ』が忙しいだとか、つい最近登場した追加戦士についてだとか。
だけれど、衿華は受験生でありながらも貴重な時間を割いてまで助太刀してくれているのだ。
本題に入るべく広げたノートを指で示す。
絵こそ拙く恥ずかしさはあるけれど、伝えることが大事だ。
「まずはこちらから──淑女の嗜みとして"メイクアップ"をモチーフに取り込もうと思いますの」
「……なるほど。変身とメイクアップは相性抜群──確かに、キラピュアシリーズでも証明されていることですね」
ふむ、とばかりに衿華は頷くとノートを取り上げる。
「では、変身アイテムはどうするのですか?」
痛いところを突かれてしまった。
衿華が学校では生徒会長をしていて、それなりに厳しい性格をしているというのは、遥から聞いていたことだったけれど、実際に目の当たりにすると威圧感が強い。
制服を着ていてきちっとした雰囲気が先行しているせいか『ヴィエルジュ』で会話をしていた時よりも数割増しだ。
「それを、検討したくて──」
「メイクアップと一口に言っても、アイテムは色々とありますね? 口紅にネイル、マスカラにチーク──どれを選んでも印象は大きく変わりますが……」
こちらが話そうとしていることの二手、三手先で衿華は意見を並べ立てる。そのスピード感に思わず紗は目が回ってしまいそうだった。
「と、とにかく……一旦案を整理しましょうか」
そんな中で助け舟を出してくれたのは遥だった。
生徒会では書記をやっているという彼もかなりの苦労人なのかもしれない、と。
この二人だからこそ、
◇ ◇ ◇
「──では、このような形でよろしいでしょうか」
コンセプトから変身アイテム、コンテまで描き終わった『変身バンク案⑦』を前に話を締めた衿華を前に、ようやく紗は一息吐けた。
時計を見やるともう二時間ほどが経ってしまっている。随分と長く話し込んだものだ。
「……中々まとまらないものですわね」
「でしょう? 結局のところ、一番大変なのは意見の取りまとめなのです」
三者三様、それぞれで意見は違う。もちろん不可能な組み合わせもあった上、拘りだって各自であったから中々譲れない部分もあった。
「皆が納得できる形で意見を形にする──それがいつも上手く行けば良いのですが、中々そうはいきませんので」
コーヒーを口に含むと、衿華は頬を掻く。
上手く行かないという言葉通り、どこか茶目っ気のある笑顔を湛えながら。
「だけれど、肝要なのは努力を怠らないことです。例え失敗したとしても、精一杯上手くいくように言葉を交わし、拾い上げる──そうすれば、納得はできる結果になるはずですから」
それはきっと、生徒会長として働いていたという衿華が辿り着いた一種の結論だった。
高校三年生である彼女は紗よりも年上だ。人生の
「……ええ。ライバルからの助言、しかと受け取りましたわ」
頷く紗に微笑み返すと、衿華はその視線を隣の遥へと向けた。
「これは私が信頼している方の発言ですが、『ヴィエルジュ』では好きなようにいてほしいのだそうです。ですから、納得できるような案が──皆さんの
発言者をぼかしてはいたものの、紗はその場面を物陰から覗いていた身だ。
誰のことを言っているのかはすぐに察しがついた。
「……今思い出すと、僕、強気でしたね……?」
「良いではありませんか。事実、私は助けられましたし」
そんな二人の掛け合いを尻目に、どこか微笑ましい心地になりながらも。
紗は、改めてノートに目を向けた。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「──それじゃあ、コンペを始めるわね。まずは紗さんの方からお願いしようかしら」
四日後、紗、遥、杏の三人が集まったロッカールームで始まったコンペ。
真っ先にマキが指名したのは紗からだった。
「はい。それでは、わたくしたちの案から──”メイクアップ”をコンセプトにした変身バンクですわ」
ヴィエルジュ──乙女。
乙女たるもの、優雅にメイクアップから。戦う時ですら、おしゃれは欠かさずに。
そういったコンセプトの下で掲げた案だ。
「変身アイテムは”コンパクト”を。内蔵された手鏡に向き合いながら、順にメイクをしていくという形ですわね。そして、口上は──」
大事な部分だ。
咳払いを一つして、喉の調子を整えると、紗は声を張り上げた。
「──メイクアップ・ヴィエルジュ!」
そこに続く言葉は
象った”憧れ”を詰め込んだステップ──エフェクトこそないけれど、変身バンクを再現する。
キビキビと各動作は速やかに、されど大きく。
スカートをつまんでくるりと一回転、最後に両の手を広げて──フィニッシュだ。
「──以上、ですわ」
途端、パチパチと聞こえてくる拍手。
顔を上げると、杏が真っ直ぐに見つめてきていた。
「大分王道な感じで来たんだね。それで、次はあたし、かあ……」
立ち上がると、杏は手元の紙に視線を走らせて。
不意に、その瞳が伏せられた。
「……あんまりね、上手くまとまらなかったんだ。これ──なんだけどさ」
ぬいぐるみ、マイク、料理──。
机に置かれたメモには、様々なモチーフが並べられていて。消しては書いたような痕跡がいくつもある。それでも、一つに絞るような書き方はされていなかった。
「”大好き”──いっぱいあって、どれも良いなって思って。だから、なの。一つに絞れなかったんだ」
ぽつり、と杏が溢す。
俯いたまま、震えた手。くしゃりと手元の紙がよれた。
もしも、それが紗だったらどうだったろう。
今回はたまたま賛同者が多く得られて、上手くまとめられただけだ。
自分一人でモチーフを出していた時は、杏と変わりなく無数のモチーフを並べて頭を悩ませていただけだった。一人でできないのはきっと、同じなのだ。
それならば今、紗にできることは──。
「頭を、悩ませましょう──一緒に」
『それじゃ、今一度現場に戻るために……一緒に頭、悩まそっか』
震える手に、自身の手を重ねる。
以前、杏がそうしてくれたように。紗もまた、ぎゅっと握りしめた。
「……紗、ちゃん?」
「杏先輩、わたくしにも手を差し伸べさせて欲しいのです。これと──これ」
机の上に置いてあった二枚の紙。
互いに持ってきた変身バンク案を、紗は重ね合わせる。
「皆で納得するために……まとめませんか」
衿華たちとの共同作業を思い出すと、少しばかり目が眩む。
それでも、頭を悩ますこと──皆の
そう衿華が教えてくれて──何よりも、『総選挙』に夏合宿──皆のために頑張る姿を示し続けてくれたのは杏だったから。
「……紗ちゃんにも、敵わなくなっちゃったなぁ」
”憧れの魔法少女”は──杏はそう漏らすと微笑んでみせた。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「──メイク・ア・ピリオド!」
携えた乙女の証を──コンパクトを、高々と掲げて。
光が当たる中、杏は口上を唱える。
プロジェクターが映し出す先──背には巨大な時計。
それはまた、杏の手にあるコンパクトにも内蔵されたものだった。
指先をかけ、時計の針を一つ進める。
「”アン──秘めた大好き”!」
『この……時計というモチーフは?』
一昨日、杏が並べたモチーフの中で、紗は一点を指した。
『それはね、もしかしたらあたしが一番大好きなもの──かも』
答える杏の前で、紗が不思議そうな顔をしていたのはよく覚えている。
「”ドゥ──弾けるトキメキ”!」
一つ、ステップを刻む度に、針を進める度に。
杏に合わせたハートのエフェクトが散り、衣装が照らし出されていく。
唱える言葉は全て、杏の”好きなもの”。それらを纏って、
そして、最後の一つは──。
「”トロワ──重ねた絆”っ!」
『
刻む度に重なっていく、過ごす中で深まっていく──『ヴィエルジュ』で紡いだ絆だった。
最後にくるりと一回転、紗が考えた振り付け通りに腕を広げる。
一拍置いて、これでフィニッシュだ。
「はつらつキュートに、ハートは胸に、乙女の道を真っ直ぐ前進! ”ヴィエルジュプラム”っ!」
全てのライトが一点──杏を──”ヴィエルジュプラム”を照らし、変身は完了した。
目の前には幾多の観客。ステージにて真っ先に変身バンクを披露させてもらえたのは、紗が気を利かせてくれたからだ。
今回の一件といい、後輩ながらも着実に紗は成長している。
むしろ、今回は手を差し伸べられたぐらいだ。
それに、寂しさを覚えないわけではない。
だけれど、そんなものよりもずっと勝るのは──胸を満たすのは、紗の手を引いてこれた、一緒に過ごしてきた時間だった。
だから、そんな紗の気遣いと期待に報いるため、と。プラムは声を張り上げる。
「これより、『魔法少女総選挙・冬の陣』を始めます──っ!」
P.S.誤字報告、ありがとうございました。反映させていただきました。