“魔法少女“のバイト事情、ワケアリにつき。   作:流星の民(恒南茜)

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#50 「魔法少女は”らしく”いて」

「今日はコーンポタージュなんだ……美味しいっ」

 

出されたコンポタを啜ると息を吐き、透羽は微笑んでみせる。

取り敢えずは部屋に通して、いつも通りにブルーレイを返してもらい──いざ、ここからが本題だった。

 

「ちょうど棚にあったからね。……それでさ、透羽。少し相談があるんだけど」

「ん、どうしたの? ブルーレイとコンポタのお礼だからね、何でも聞くよ」

 

トンと胸を叩いてみせると、いかにも頼ってくれと言うように透羽は主張してくる。

馴染みのある相手が、そういう態度でいてくれること──それ自体は、遥にとって随分と話しやすい状況だった。

 

「次の副会長やらないかって衿華先輩に勧められてて。どうしようか悩んでるんだ」

「なるほど。衿華先輩が、ね……」

 

顎に手を当てると、透羽は考え込むような仕草を見せる。

人差し指を立てて、えへんとばかりにどことなく得意げに彼女は答えた。

 

「まあ、現副会長としてアドバイスするなら、あまりオススメはしないかな」

 

それは遥にとってしてみれば意外な意見だった。

何しろ、副会長をやっていて、少し前までは生徒会長を目指していた透羽だ。そんな彼女のことだから、勧めてくるものだとばかり思っていた。

 

「……それは、どうして?」

「単純に時間が無くなっちゃうからっていうのが一番大きいかも。遥はバイトが大好きで、放課後は結構時間を使ってるでしょ? 書記よりもずっと、副会長っていうのは時間を取ってくるからね」

 

なるほど。透羽の言う通り、確かに副会長をすることになって今回の学校説明会のように頻繁にイベントの主催をする立場になるのだとしたら、バイトのシフトを削らざるを得なくなるだろう。

 

「だから、わたしは迷っている人にはあまり勧めたくないかな。それに、遥はわたしが会長を目指すの辞めた理由、知ってるでしょ?」

「……”好き”を見つけるため、だっけ」

 

それは、後夜祭の際に透羽から聞いた言葉。

自分が守りたくなるぐらいの”好き”を見つける時間が欲しいから会長職は辞めるのだという宣言だった。

 

「そう。理由もないまま副生徒会長をやってても、ただ時間が無くなるだけ。きっと、役には立たない。副会長としてアドバイスをするならこんなところかな」

 

一気にコンポタを飲み干しつつも、透羽ははっきりと言い切ってしまう。

そんな様子に、遥はどこか違和感を覚えた。

 

「……本当に、それだけなの?」

 

案の定と言うべきか、聞かれた透羽は首を横に振った。

彼女にしてはあまりにもあっさりとしすぎている──そんな印象を受けたのだ。

 

「と、ここまでは副会長としての意見なんだけど……幼馴染として言わせてもらうなら、今の遥は受けるべきだと思う」

「それはまた、どうして……?」

「だって、遥が誰かを支えること、わたしにはピッタリなように思えるから」

 

先程は立てていた人差し指をビシッと遥に突きつけると、透羽はそう口にする。

そうあるべきだと疑うべくもないような、ずっと確信に満ちた声音だった。

 

「衿華先輩から聞いた『ヴィエルジュ』での遥も、わたしの演劇を手伝ってくれた遥も、どっちもさ、遥は人を支えることに全力だった。決して見捨てずにね。わたし、嬉しかったんだよ? カフェで衿華先輩から詰められた時に遥が庇ってくれたの、さ」

 

『──僕が、一緒に飲み込みます』

 

思い返せば、随分と前のことのように思える。

演劇に対する衿華の詰問から透羽を庇うために、必死に捻り出した言葉だ。今思いだすと少し気恥ずかしくもあったけれど、後悔はしていない。

 

「遥は誰かを支えられるひと。それと同時にさ、結構そういうの嫌いじゃないでしょ?」

 

真っ向から言われると、確かにそうだった。

衿華に手を差し伸べた時も、透羽に手を差し伸べた時も、全て──。

 

「……あ」

 

『ねぇ、手、取ってよ』

 

自分に手を差し伸べてくれた、名もなき”魔法少女”。

その姿に憧れたから──彼女のように、震える相手に対して手を差し伸べることができる()()でいたいと願ったから、遥は必死だった。

 

「ついでに、これは最近”魔法少女”についで勉強しているわたしの知見なんだけど──」

 

そして、それを間近で見てきた透羽だからこそ。幼馴染として、いてくれたからこそ。

彼女は言い切ってみせたのだろう。

 

「誰かを支え、助けること──それって、すごい”魔法少女”()()()ことだと思う」

 

あの時、名もなき”魔法少女”はどうやって遥を助けたか。

 

「……そっか」

 

係員に預けて終わりにしたわけじゃない。

必死に周囲に声をかけて回って、ショッピングモール中を歩き回って、とにかく行動を尽くして、遥を救ってみせたのだ。

 

「理由がないまま続ける副会長は良くないって言ったけど……むしろその逆、理由を見つけるために副会長をやるの──遥が”いま”どうなりたいかって、そんなヒントを探すために。月並みなアドバイスだけど、どうかな?」

 

考え込んでいる暇があるなら、動いてみせろ。

自信が無い”いま”であろうとも、前進することはできるはずだ。

 

「……そうだね。ありがとう、透羽。僕、頑張ってみるよ」

 

悩む前に、まずするべきことがあったか──それは、衿華が用意してくれている。

それならば、まずは一歩踏み出してみるべきだった。

”魔法少女”らしく、あるために。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「浅黄谷さん、少し良いかな?」

「……な、何でしょうか?」

 

放課後になって、真っ先に遥が向かった先は美柑の席だった。

一人でいそいそと支度をしていた彼女は話しかけられた途端にしどろもどろになる。

 

「学校説明会のこと、詳しく知りたくて……資料とか持ってない?」

「あ、すみません。それは今、生徒会室に置いてきてしまっていて……」

 

その金髪をふるふると震わせながら、美柑は首を横に振る。

仕方がない、少し手間だけれど、まずは取りに行かねば、と。そう考えた遥の意に反して、「でも」と、彼女は言葉を継いだ。

 

「わたし、覚えてます。タイムテーブルとか──必要なものとか。ザックリで良ければ、すぐに伝えられるはずです」

 

果たして、衿華の言う通り、美柑は勤勉だった。

ノート一ページ分に彼女が言ったことをメモしている内に、全体の概要は遥にも掴めてしまったのだ。

どうやら、しっかりとプリントの内容を暗記しているというのは嘘ではなかったらしい。

 

「……なるほど。誘導とか会場設営は分担するとして……僕たちがやらなきゃいけないのは──『生徒の声』ってところか」

 

体育館に中学生を集めて行う学校説明会は、大きく三つのパートに分けられた。

まずは、教師による学校説明、それから生徒会長である衿華が登壇して、中学生たちに言葉を送り、最後に──。

 

「……は、はい。わたしと、真白くんの言葉で、この学校の魅力を伝えるように……とのことです」

 

体育館の壇上に立ち、中学生たちにこの学校について伝える──会場設営などの指揮は当然として、遥たちに課された仕事としては、それが一番大きなものだった。

 

「それじゃあ、これの原稿作りをすること。まず大事なのはそこからかな」

「……わ、わかりましたっ」

 

遥自身、この学校はそれなりに気に入っているけれど、いざすぐに言葉にしてみるというのは、随分と難しい。

ともなれば、ここで話し合っていても仕方がない。まずは行動あるのみだ。

 

「じゃあ、他の生徒のインタビューも兼ねて……今から、僕と浅黄谷さんで学校巡りをしようか」

 

まずは互いに再度この学校について理解を深めていくべきだということで、一旦話は決まった。

曰く、事前に参加予定の学生たちからも質問が寄せられているらしく、それに答えていく形になるらしい。

 

「……そうですね。行きましょうっ」

 

美柑も頷いたことだし、と。

教室から出ようとした時だった。

 

「真白くん、ドアのところ用事があるって人来てるよ」

 

不意に遥は近くの生徒に話しかけられた。

 

「ごめん、浅黄谷さん、少しだけ行ってくるね」

 

わざわざ遥を呼びに来る相手──誰だろうか。

透羽か、衿華か──だけれど、どちらも校内では有名人だ。

わざわざ名前を出さずに人、と。呼ばれるのは一体──と、思索を巡らせつつも、遥がドアのところにたどり着いた時だった。

 

「こんにちは、遥くん。届けなきゃいけないものがあって、来ちゃったっ!」

 

首からは入校許可証をぶら下げているけれど、服装は制服とは程遠い、フリルが盛られたワンピース。

おまけに、髪も瞳もピンク色と来た──まず間違いなく、学校では見られないような格好だ。

そして、彼女自身の気質と言うべきか、既に他の生徒の目を一身に集めている。

 

 

「来ちゃったって……どうしたんですか? 杏先輩……」

 

 

むんとばかりに胸を張り、自分の存在をアピールする杏の姿がそこにはあった。

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