“魔法少女“のバイト事情、ワケアリにつき。   作:流星の民(恒南茜)

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#58 「魔法少女は並ぶため」

「お怪我はございませんこと? でしたら、早速浄化に移らせていただきますわ!」

 

コツン、コツンと、優雅に踵を下ろし、ヴィエルジュシアンは眼前にステッキを掲げる。

机の上に怪物を模したオムライスが置かれて、頭上から投影された光がシアンを輝かせた。

そんな()()()()()に行われようとしている給仕──客も慣れたような表情でシアンの方を向いている──その一幕を遠巻きに遥は眺めていたけれど。

紗を見つめる遥の口角は、僅かに上がっていた。

 

「”蒼のキラメキ、弾け満ちて照らしな──さいっ!”」

 

なぜなら、彼女が口にしたものは。

その動作は、浮かんだ魔法陣は、その表情は──。

 

「──”シアン・ポッピン”!」

 

それまで頷きながらシアンを見つめていた常連客の瞳が見開かれたのがわかった。

そうだ、シアンがたった今見せつけたのは全くもって新しいもの。

今までの”シアン・フーガ”が、優雅なシアンの一面を強調するものだとしたなら、たった今披露さえれた”シアン・ポッピン”は違う。

リズムは弾み大胆にステップ、振りまく笑顔は万開キュート。

 

「これにて浄化、完っ了、ですわっ!」

 

指先と指先、どこか悪戯っぽい笑顔の隣で形作られたハート。

はつらつと可愛さをアピールしようとするその姿は遥とって見覚えがあるものだ。

 

紗の憧れ、”魔法少女”としての在り方を教えた杏の面影。

恐らくは先輩直伝であったろうアピール技──それが、紗の新たな一面として見せつけられていた。

 

「それでは、ごゆっくり──」

「今の、なんですかっ!?」

 

今までに見たことないぐらいに強く客が食いついた。

その瞳は紗の姿に興味津々だというようで、引き止めてまで質問する辺りよっぽど興味が引けているのがわかる。

 

「わたくしの特訓の成果──新必殺技、ですわ」

 

──新必殺技。

 

それこそが、紗と遥が編み出したやり方だった。

常連客は既に何度も同じ”魔法少女”の必殺技に見慣れてしまっている。だからこそ、表情だとか身振りだとか、ちょっと変えたぐらいでは中々気づいてもらえないとして……それならば。

 

『紗さんの知る、人の新たな一面を知った時の喜び。給仕を通して、それを届けられないでしょうか』

 

全く新しい姿を見せる。

それこそ、『ヴィエルジュ』での必殺技は一人一つが基本。だけれど、それをひっくり返してはならないというルールはない。

”魔法少女”に必殺技が複数あること──それ自体は”魔法少女”作品でも起こること。

そして、寸劇のような小技でもなく普段の給仕でやることだから。紗が初めに言っていた通り、正々堂々と”魔法少女”の基本に沿って戦っていることだ。

 

「また、危険が迫ったらいつでも呼んでくださいませ。それでは、ごきげんよう」

 

お決まりの口上を口にして席を離れる紗。

ご満悦とばかりにふてぶてしく、少し澄ました表情はどこか杏に似ている。

そんな風に()()から受け継いだものを自分なりに習得し直して、新しい一面としてアピールした。

そして、必殺技を二つ持っているということ──それは間違いなく、シアンだけの”武器”だ。

 

「……そっか」

 

意気揚々と足取り軽く次の給仕へと向かおうとする紗の姿。

その姿を見て微笑み──声音はどこか感心しているようでもあったけれど。

遥の隣を過ぎ去った杏は、どこかため息混じりだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

 

「お疲れ様です、紗さん。まかない、持ってきました」

 

トレンチに載せたティーカップ二つ、それを机に並べると遥は紗に向き合った。

開店時間が終わり、すっかり閑散としたホールの中で、紅茶を一口含むと紗は口を開く。

 

「改めて、今回は感謝いたしますわ。おかげで何とか打開策を見つけることができましたもの」

「ええ。ただ、それを活かせたのも紗さんの努力の賜物ですよ。立案してからあまり時間がない中で、よくあそこまでものにできましたね」

 

表情管理から仕草の一つをとってまで、それこそ、最初に覚えた”シアン・フーガ”と遜色ないぐらい、今日披露された”シアン・ポッピン”は仕上がっていた。

 

「努力するのは当然ですわ。そうしてもなお、届くかわからない相手にわたくし達は対峙していて」

 

給仕の中で新しい一面を知ってもらうために新必殺技を用意する──何よりも危惧していたのはこの短期間で紗にかかる負担だったけれど、彼女はそれをやってのけたのだ。

努力するのは当然だと口にしていても、実際に容易でないことはわかりきっていたろうに。

 

「憧れから一つ、先に進みたい──杏先輩との間で、そうありたいと願ってしまったから。わたくしは、目を背けませんわ。──決して」

 

杏に憧れて、紗はここに来て。今までもずっと彼女の()()として、紗は”魔法少女”をしてきた。

それでも、そんな関係から一歩進みたい。今度は杏の隣に立てるようになりたい。

思えば、紗が見せてきた焦りも悩みも努力も、全てはそんなささやかな願いのためにあるものだった。

 

遥から見て、紗は異常なまでに杏に依存していた”魔法少女”として、初めは映った。

給仕を教えてもらって、アピールの仕方を知って、それでも杏にはべったりで。いつまでも巣立ちしていない紗のことを、杏はどこか可愛がっていたようにも思える。

 

だけれど、以前の『総選挙』の一件では一緒に頭を下げ、他者にも頼ることを覚えて、今回の『総選挙』では正々堂々と努力をして、真っ向から杏に向き合おうとしている──傍目から見ても、わかってしまうぐらいに。

だからこそ、努力は決して絶やさない。理由なんてそれだけで十分に思えた。

 

「というわけで、早速次の必殺技を考えますわよ! 杏先輩に勝つため──案出しバンバン大歓迎ですわっ!」

「そうですね。いっぱい書き溜めては来たんですけど……」

 

凄まじい勢いで迫ってくる紗を前にしていると、自分のアイデアを出し切ってもなお足りるかな──だなんて、また別種の悩みが芽生えてきて頬を掻きたくなる。

だけれど、そうやって自分の中にあるものを全て絞り出してもなお足りないぐらいに、相手から求められること。紗との間の結び付き。

 

「コンビになってきたじゃない。ね、遥くんも、紗さんも」

 

遥もまた紗にそんな関係性を求めていた。頼ってほしい、そうすれば手を差し伸べられるから。

アイデアを出し切り、何とか次の必殺技の案も固まったところで、ティーカップを下げに来たマキにそう振られて、遥と紗は互いに顔を見合わせた。

 

「……そうでしょうか」

 

疑問と共に遥はそう呟いてしまったけれど。

その背は、とんと押された。

 

「ええ。十分、真白さんが頼りになることはわかりましたもの。わたくしたちだけの"武器"は、その証でしょう?」

 

問いかけられて、はっとする。

以前、マキと会話した時──紗が一人で頑張っていると聞いた時、遥の中には確かな焦りがあった。

それではコンビを組んだ意味がない。自分がそこにいる意義はないと、「どんな()()になりたいか」すらもわからない中だったから、遥にしてみれば余計に気が急いて仕方がなかった。

 

ただ、今になって思い返すと。

その時と違うことが一つあったとするのならば。

 

「……わかったんです。頼ってもらいたいなら、僕が焦ってちゃ仕方ないって。むしろ、余裕を持ってなきゃいけないんだって」

 

──誰かの背を押せる()()になりたい。

 

そんな像が固まって、理想から逆算して、ようやく自分がどうあるべきかわかってきた。

まだ一つ変えただけに過ぎないけれど、それでも、確かに意味はあった。

 

「……そうね。狭い視野では捉えきれないもの。遥くん──あなたはそれに気がついた。休憩だの息抜きだのって、散々言ってきたけれど……」

 

焦りの中では聞こえていたはずの声も聞こえなくなってしまう。

マキも、透羽だってそう幾度か教えてくれたのに──結局は目先の中で頭が一杯になって、いつも触れられなくなってしまう。

 

「案外、拾い上げようとすれば見つかるものでしょ? 大概の欲しいものっていうのは、ね」

 

『だからこそ、手を差し伸べるべき相手を見つけられる──それは、明確にあなただからこそできること、なのでしょうね』

 

衿華が言っていた通り、手を差し伸べるべき相手を見つけられる()()

目先しか捉えていない視界では蹲っている相手なんで見つけられるわけもない。

だからこそ、一度目先に迫っていたものから目を逸らして、辺りを見回してみた。

 

「まあ、若人なら一つ一つゆっくり馴染むまで試してみなさいな。そう焦ることもないんだから」

「……そうですね。しっかりと覚えておきます」

 

まだ若い。これからだ。

そんな言葉を投げかけてくれる大人がいて、窘めてくれる()()もいて。

それならば、もう少しだけその言葉に甘えていてもいいのかな──だなんて、そう思えてしまった。

 

「まだまだ楽しみにしてるわよ。あなた()()の”武器”を──必殺技を、ね」

 

いつか、本当の意味で”なりたい()()”になれるその日まで。

一つ一つ、”魔法少女”は──遥は、知っていくのだから。

 

 

◆ ◆ ◆

 

◆ ◆

 

 

 

「──”シアン・ポッピン”! ……どうかしら?」

「すずさんかわいいっ! です、けど……えーっと……」

 

困った顔をして陽菜は考え込んでしまう。

バイトのシフトが入っていない日、決まって紗は織部家を訪れていた。

紫菜はいない時もあるけれど、そんな日は決まって陽菜が一人きりでまっているのだというから。

「陽菜の相手をしてくれると嬉しい」だなんて、紫菜に話を持ちかけられた時は頷かざるを得なかった。

 

「……たぶん、キラピュアはもっと元気です」

「元気さが足りないのね? わかったわ……」

 

陽菜のアドバイスは漠然としているけれど、実際にキラピュアをリアルタイムで見ている世代の意見は貴重だ。彼女が何を伝えたいのか──きちんと分析して身につけていけば、次第にウケが良くなっていくのを紗は感じていたから。

 

『総選挙・予選』も終盤に差し掛かった今、きっと互いのためにメリットになっていたのだけど。

 

「……ただいま」

 

力ない声。

その日紫菜が帰ってきたのは普段よりも三十分遅く、普段なら出迎えてぎゅっと彼女に抱きつこうとする陽菜は……玄関の手前で立ち止まった。

 

「……どうしたのよ、その顔……」

 

瞳は伏せられ、きゅっと噛んだ後が唇には残っている──紫菜の表情は明らかに普段とは違うもの。

一歩も家の中には踏み込まないまま、玄関に突っ立ったまま。

 

「……バイトのことで、ね」

 

力なく紫菜は頷いた、ぽつんと一人きり。

 




かなり忙しい時期に差し掛かってしまい投稿が遅くなってしまいました。
しばらくは不定期投稿になってしまいますが、よろしくお願いいたします。
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