一流のみが人生に非ず ~底辺チームトレーナー日誌~   作:ターンアウトエンド

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シングレのせいだ…続きはあまり期待しないで…


第一話

 

火がほしい。

 

タバコを咥えながら、しかし()の良い連中に配慮して火は着けていない。

 

いま私は、だだっ広いトラックコースの観客席でタブレットを弄っていた。

 

遊んでるんじゃないぞ?

これも仕事の一貫だ。

 

私の職業はトレーナーってやつでな。

 

業務内容を考えればマネジメントの方だと思うんだが、世間一般ではトレーナーと言うらしい。

 

 

タブレットを操作して、新たにアップロードされたデータを頭に入れる。

これもトレーナーとしての業務のひとつだ。

 

動画を見たり、タイムを比べたり、はたまたカウンセリングをしたり。

 

前は競技者とマンツーマンで指導してたんだが、今は大まかな指示をして後は監督専門のスタッフに任せている。

その方が効率が良いんだ。

 

ただ、他の指導者からしたら放任過ぎると非難されることもしばしば。

結果を出していると言うわけでもないしな。

 

 

チームの方針上、問題視はしていない。

 

 

 

 

『チーフトレーナー』は、それぞれがチームを持ち、そのチームごとにそれぞれの指導方針で競技者を育成する。

 

もちろん私もそのチーフトレーナーの一人。

 

 

チームの方針はチーフトレーナーによって様々。

私のようにデータ管理で指導する者もいれば、直接指導を徹底しているチーフトレーナーも多い。

と言うか私のようなデータ管理派は少数で、大抵のチーフトレーナーは直接管理を主軸としている。

 

リスク管理、状況把握、コミュニケーション。

それらを考えても、トレーナーが出来る限り競技者に関わり、トレーナー自身の経験と知識でサポートしていくのが正しい形なのかもしれない。

 

しかし…

トレーナーの数が有限で、競技者の母数が多い現状、直接指導にはどうしても限界がある。

 

スキルを育成し実力を伸ばすのも大事だが、できる限りの競技者を拾い上げ導くのも、トレーナーの役割だと私は思っている。

 

故にサブトレーナー制度があり、サポーターと言う立ち位置の者も居る訳で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チーフ!」

 

 

タブレットから顔を上げ、こちらへ小走りで近付いて来る人影へと視線を向けた。

 

 

「おう、おかえり」

 

私と同型のタブレットを脇に抱え、大きめのトレーナージャージとキャップで着飾った若い女性、私のチームのサブトレーナーの一人だ。

 

「どうだった?」

 

「え、あ、はい!本日の第2レースに出たメルカニコンは4位で掲示板に載りました!第5レースのククルスカニードは…」

 

「あぁ、いやそうじゃなくて。レース結果は送って貰ったから動画も一緒に確認したさ。ありがとな。それはそれとして、お前()()()()だろう?」

 

 

「あっ」

 

 

はにかみながらトレーナーキャップを取った彼女の頭頂には、()()()()()()()器官が付いている。

正しくそれは、耳だった。

 

「単独でのサブトレ業務、どうだった?」

 

「きっ、緊張しました!みんな協力的だったんでトラブルは無かったです!あ、」

 

「ん?何かあったのか?」

 

「い、いえ。やっぱり()()()のトレーナーは珍しいみたいで…」

 

「耳は隠せても尻尾は無理だしな。それがトレーナージャージ着けてりゃ目立つよ」

 

「ですよねぇ…」

 

 

 

『ウマ娘』

 

 

異世界の(なにがし)かの魂が宿った超常的種族。

こと勝負事に関して強い執着を示し、その外見からは想像も着かない身体能力を誇る者達の総称。

 

勝負事に執着する特性から、レースと言う種目では参加する側、手伝う側、見る側全てで熱狂する事も珍しくない。

 

そんなレースの中で、純然たる身体能力のみで競い会う国内最高峰のレースが、私も関わっている【トゥインクル・シリーズ】というものだ。

 

ウマ娘の身体的パフォーマンスがピークになるのは第二次成長期。

つまり、参加する対象年齢は12歳からの中高生だ。

 

私が所属しているのは、そんな若き競技者たちの養成校だった。

 

 

「まぁおつかれさん。今後はお前みたいなウマ娘サブトレーナーや、トレーナー資格を取る連中も出てくるだろうから、それまで辛抱だな」

 

「いえ!全然大丈夫です!…チーフに拾って貰ったんです、頑張りますから!」

 

 

レースと言うのは勝者もあれば敗者もあるが、その勝負の場にすら立てない者達も珍しくない。

いや、最高峰のレースであるトゥインクル・シリーズでは参加出来ることが優秀とも言えた。

故に、目の前の彼女の様に、レースに参加出来ず挫折し、折れてしまう子も、大勢居るのだ。

 

だがな、これだけは伝えたい。

若い彼女らには今、言葉が届きにくいかもしれん。でも人生は長いんだ。

彼女達が血潮を燃やすトゥインクル・シリーズなど、人生においてはほんの一瞬の出来事でしかない。

シリーズが終わった後の方が遥かに長い。

 

私は、そんな彼女達、挫折し、第一線で走ることが出来ないと身の程を知った彼女達の今後を指導したくて、トレーナーと言う職を引き受けたんだ。

 

目の前の娘はどうやら、サブトレーナーとしては悪くない。

 

 

「緊張して疲れただろう?今日はもう休め。報告書は明日で良いから、まずは仮眠でも取ってこい」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

 

 

 

もしかしたら、最初にウマ娘としてトレーナー正規資格保持者になるのは、この娘かもしれんな。

 

 

 

 

 

 




ウマ娘の名前は適当です。
ほんとは当時のオープン馬から取ろうと思ったんだけどね…めんどくさい…
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