最後に言い残す事は(第二部開始)   作:かりん2022

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僕の子供

 夏油 傑。俺の親友である。

 少なくとも、俺はそう思っているし、俺には傑だけだ。

 最も、傑には違うようだけど。

 

 傑の部屋でまったりしている時、手紙が見えてしまったのだ。

 傑はその時いなくて、悪いと思いつつも、俺は手紙を見てしまった。

 

 氷火が、守れなかった人がいた事を慰める言葉だった。

 

 ショックだった。

 

 傑が、そんなに天内の事を気にしていたなんて、俺は知らなかった。相談すらされなかった。けれど、この氷火って奴は、気の利いた言葉で傑を巧みに慰めていた。

 プラスウルトラ。今まで輝いていた傑の口癖がこいつの受け売りだったんだって知ると途端にくだらない根性論に思えた。

 

 傑に手紙を見てしまった事を謝りつつ聞いたら、当然のように中学校の友人だと言われた。懐かしそうな、慕わしそうな、そんな顔が印象的で、すこぶる面白くなかった。

 

 灰原の時、慰めてみたけれど、やっぱり傑は氷火って奴の手紙を大事に何度も読み返していた。俺は氷火に勝てないのが悔しかった。

 

 

 けど、転機があった。

 

 

 ある日、よくわかんねーけど、傑がベットに誘ってきたのだ。

 

「氷火ともそういうことしてたわけ?」

「そんなわけないだろ」

 

 傑がなんだか正気じゃないのはわかってた。でも俺は氷火に勝ちたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 傑の誘いに乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 傑が消えた。

 もしかして、後味悪くなって消えたのかなって、めちゃくちゃ後悔した。

 傑は何故だか村人を殴り倒して幼女二人を誘拐したらしい。意味がわからない。

 両親も消えて、それも傑が原因だとか殺したんじゃないかとか言われてる。

 絶対信じない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「傑。最後に一応聞く。本当にお前がやったのか」

 

 暴れる異形。残る傑の残穢。けれど、妙なことばかりだった。

 違和感がずっと体にまとわりついている。

 傑は多分違うって、俺の勘は告げていた。

 けれど、傑は言い捨てた。

 

「私のせいではあるね。ああそうだ。私がやった」

 

 そんな。傑を殺さないといけない? なんで。

 

「……言い残すことはあるか」

 

 言い逃れしてくれ。そう祈りながら、聞いた。

 

「そうだね。この住所の子供を保護して欲しい。あの子達に罪はない」

「子供?」

「私と君の子供だよ」

 

 ワタシトキミノコドモ。

 あの日の夜の記憶が怒涛の如く蘇った。

 

「は?」

「あっははははは! その顔!! 冗談だ、拾った子だよ。まあよろしく頼むよ。さ、一思いにやってくれ」

 

 

 

 

 

 

 盛大に笑う傑に、混乱しながらも指定された住所に転移する。

 そこには、女の子が二人と、僕の生き写しがいた。

 六眼で確認するまでもなく、六眼だった。

 

 3人とも捕獲して、傑の所に戻る。

 

「傑、お前さぁ……。マジじゃん!!! 覚えあるし! どういうこと!??」

 

 傑が女の子だった!? いや、傑は間違いなく男だった。裸を見たから間違いない。じゃあ呪霊? 呪霊なんで???

 

「先に確かめるなんてずるいぞ悟! 今の完全に私にとどめ刺してから確認する流れだっただろ!!!」

「後味悪い真似すんなよ!! 子供の名前は?」

「喰空と書いてククウ……」

「はっ キラキラ」

「うるさいな! そういう伝統なんだよ!」

「なんだよ伝統」

 

 そもそも、今回の件は妙なこといっぱいだし、納得出来なかったんだ。

 たとえ傑が悪かったのだとしても、無理やり黒を白にしてやる。

 

 っていうか六眼。えっ 百歩譲って僕の子だとしても、いや1000%僕の子供だけど、なんで二代続けて六眼!? なんで六眼!?? しかも呪霊操術だし!!

 そもそも男同士だし、生まれて初めて混乱してどうしようもなくなる。

 説明してもらうからな、傑!!

 

 転移してすぐ、伊地知が頭を下げた。

 

「夏油さんは冤罪でしたっ!!」

「は? 当然でしょ」

 

 そんな言葉が口から転がり落ちる。

 そうだ。元から妙なことは沢山あった。冤罪なのは明らかだったのに、情報を封鎖していたのだろう。胸糞悪いが、今はそれどころではない。

 伊地知に引き止められてイライラする。

 そこに学長と硝子も到着する。

 

「悟。傑は……なんだ、殺せなかったのか。いや、良かった。冤罪だったのだからな。その子達は美々子と菜々子……」

 

 美々子と菜々子。そうだ、そんな名だった。傑が誘拐した子。

 その子達の後ろから、僕の子が顔を出す。

 

「悟、その子はお前の子か? 子供がいたのか?」

「いや、僕もちょっと前まで知らなくてさー。喰らう空って書いて喰空(ククウ)っていう名前なんだって。しかもあり得ない二代続けての六眼! 術式は無下限呪霊操術! 笑っちゃうよねー。で、どういう事かな傑?」

 

 傑は悟の腕に確保され、目線を落としたまま、顔も上げられない状態で屈辱に震えていた。

 

「夏油様を笑うなぁ!」

「夏油様をいじめる奴は吊るす!」

 

 美々子と菜々子が猛抗議してきて、硝子は問いかけてくる。

 

「ちょっと待て、お前らの子なの?」

「はいはい、ごめんね、もう笑わないよ。そもそも、笑い事じゃないしね」

「まさか呪霊を使って……!?」

「そうとしか考えられない。あの時、傑様子がおかしかったし、呪霊取り込むの失敗してたんじゃないのか?」

「そうなんじゃないか?」

 

 不貞腐れた様子で、傑が言った。

 これは違うな。いくら僕だってそれくらいはわかる。

 さっきの、冤罪を自分の罪と言い捨てた時と同じだ。

 

「傑。傑の口から、ちゃんとした話を聞きたい。そもそも傑、相談とか、中学校時代の友人ばっかりで、俺にはちゃんとしてくれた事ないだろ。匿ってたのもそいつ? 確か氷火ってあだ名だっけ」

 

 そこで、黙っていた喰空が口を開いた。

 

「氷火さんは、本名だよ。ねえ、五条さん? あんた、俺の本当の父親なんだよな。俺の事邪魔? だよな」

 

 それは違う。僕は喰空に誠実に答える事にした。喰空を取り込めないなんて、悪夢でしかない。初めていることを知った僕の子だけど、その重要性はずば抜けていた。

 

「まさか! 呪術界はいつでも人手不足なんだ。それに何より、六眼の息子なんだ。五条家の当主として、また僕個人として、これ以上誇らしくて喜ばしい事はないよ。ただ、僕は君の名前を決めたかったし、君の教育をしたかったし、君の誕生を喜びたかった。君はそれだけ特別な存在で、君が当たり前に与えられるはずだった物が沢山あるんだよ。君は、僕のこと、嫌かな?」

 

 きちんとしゃがんで目線を合わせて、僕はそう子供に語りかける。

 そう。そうだよ。六眼の五条家の次期当主だぞ。

 傑、ちゃんと教えてくれよ。生まれた時から六眼ってわかるだろ。

 しかもキラキラネームつけやがって、呪霊に頭やられて突発的にできちゃったんだとしても、僕はちゃんと受け入れた。だって六眼だぞ。呪力も強い。術式も強い なら術師的には結果オーライだろ。見てわかったけど、僕と傑の術式相性最高じゃん。二人で最強の子供なんだから、一人で最強も当然だな。これで氷火には勝ったな。いやそんなこと言ってる場合じゃない。まずは、この子供の納得を得ないと。

 五条家当主になる子が五条家に入らないとか、呪術師を拒否なんて事になったら目も当てられない。

 

「……俺、傑の呪霊借りてばっかで、自分の呪霊が欲しかったんだ。本当に俺のこと大事なら、一緒に呪霊狩りしてくれんの?」

 

 疑うようにジト目で聞いてくる喰空。

 だけど、それは僕にはお安い御用で望む所なんだよ、喰空。

 

「もちろん! これから、どうかな? 一級呪霊を取り込めるかどうか、挑戦してみない? 僕が守るから大丈夫」

「……本当にいいの? 一級ってすごく強いんでしょ?」

 

 警戒を緩ませる喰空。ほっとしたのは僕もだった。

 どうやら、仲良くなるとっかかりは得られそうだ。

 

「大丈夫。僕、最強だから。その後お買い物してご飯行こうね。予約しておくから。五条家……僕の家族にも紹介しないとだし」

「紹介してくれる? 俺の事、ちゃんと家族だって?」

「うん。だって家族だからね。今日の夜には京都に行こうね。実家がそこにあるから」

「悟! 勝手に……」

 

 文句を言いかけた傑を睨んで黙らせる。

 

「傑は硝子に怪我を治してもらって、お風呂入って休んでおいて。夜に一緒に京都ね。僕怒ってるし、怒る権利あるから。散々心配掛けられたしね」

 

 傑は本当に反省して。あとでたっぷり話聞かせてもらうから。

 すげー心配したんだからな!!!

 

「ごめんね、喰空。楽しんでおいで」

「うん!」

 

 戸惑いがちに伸ばされた手を、もう離さないとしっかり握り返し。

 僕たちは呪霊退治に出かけた。

 伊地知の運転で、呪霊のいる場所まで向かう。

 その時、喰空は自分の事情を話してくれた。

 

「異世界?」

「信じない? 携帯見る?」

「ううん、信じるよ。でも携帯は見せて欲しいかな。ありがとう。これ、幼稚園の先生? 傑、幼稚園の先生やってたの?」

 

 携帯を操作して、動画を見る。

 携帯に呪術は見えないので、異能を携帯で見るというのは新鮮だ。

 画面の中では、暴れまくるチミっ子達に夏油が大苦戦していた。

 めっちゃウケる。押されてんじゃん

 

「そう。傑は俺を育てながら幼稚園の先生の資格とって、呪霊操術もこっそり使ってたんだ。あれ、向こうの人間には見えないし」

「こっちの人の大多数にも見えないよ。でもすっごく苦戦してるね。子供達、凄いね。すごいなこれ、あ、これもしかして氷火? 半分燃えて半分凍ってる」

 

 笑って子供達をいなす、変わった服装の男。

 彼の介入で、大暴れしていた子供達は一気に笑顔になった。ほっとして夏油が礼を言っているのが写っている。それに少しムッとするが、五条が氷火に勝ったことは目の前の子供の存在が示している。傑の唯一は氷火ではない。僕である。

 

「そう。氷火さんヒーローなんだ。とっても有名なヒーローの子孫なんだよ」

「喰空も強い? 僕と傑の子供だから、弱いはずないか」

「わかんない。同年代の喧嘩では強い方だけど。あっ ヴィランを捕まえた事あるよ! 友達と!」

「凄いね。でも一番じゃないんだ? 無限で相手の攻撃とか、全部防げない?」

「洗脳系の友達もいるし……まだ力の使い方、上手くなくて」

「僕が全部教えてあげるよ。こっちの洗脳系術者への対処法もね」

 

 喰空は向こうの事や傑のことを色々と話してくれた。

 僕も、こっちの世界の事や注意事項を話した。

 いっぱい約束をして、グッと仲が縮まってほっとした。

 

 どうやら、うまくやっていけそうで良かった。

 

 

 

 

 一級呪霊の取り込みはとてもスムーズに進んだ。

 僕が弱らせて、喰空が無限で吸い込んで、それで取り込めてしまうのだから楽なものだ。この無限が僕の上位互換かはまだわからないが、少なくとも間違いなく、傑の上位互換ではある。

 また、ここに来る途中の人混みで、喰空は上空に無限を設置して弱い呪霊を呪霊玉にして片っ端から吸い込むような芸等をしていた。「ちゃんとこっそり出来た?」なんて聞いてくる子供が愛しくて、僕はつい抱きしめて頬擦りしてしまった。自分の子有能可愛い。

 恐ろしいほど有能な術式の子供だと思う。呪力量も豊富で、僕の上を行く。

 こっちでは個性は隠さないとなんだよね、なんて言って溶け込もうとしてくれる子供が愛しい。

 子供は、呪霊を取り込みとても喜んでいた。

 

「凄い! 術式のある呪霊は傑でもほとんど持ってないんだよ!」

「うん、スムーズに取り込めて良かったよ。思ったよりも早く済んだから、近場の呪霊も探して取り込んでいこうか」

「うん! お父さん! あ」

 

 思わず呼んでしまったと言う様子で、心配そうに僕を見る。

 もちろん、僕は嬉しい。戸惑いもあるけれど。何せ、親になって24時間経ってない。

 

「パパでもいいよ」

「ん、お父さんって呼ぶ。呼んでいい?」

「喰空は可愛いね。もちろんだよ」

 

 すっかり打ち解けて帰ると、傑が準備を終えて心配そうに待っていた。

 着の身着のままでこちらに放り出された形になるので、服から下着から、全部買わないとならない。大黒柱のお仕事である。なんだかワクワクしてきた。

 

「誕生日いつ?」

「2008年7月7日」

「じゃあ今、9歳かぁ。小学二年生だな。友達と別れて寂しい?」

「うん。でも、いつかは帰ってこないとって話は聞いてたし。こっちの血が混じった子は呪霊を産むからね」

「そうだね」

 

 服を当てながら、五条は優しく喰空に問いかける。

 

「悟。私はいいよ」

「お前も着の身着のままだろうが。お前が遠慮すると美々子と菜々子だって遠慮しちゃうだろ? その後は自分で稼ぐにしても、当面の服くらい用意させろ。それに挨拶の時くらいきちんとした服着ろよ。あと、流石に美々子と菜々子は二、三日、呪専に置いてくからね。今回の事で揉めるだろうから、流石に家には連れて行けない」

「う、わかった。それ、私も行かなきゃダメかい?」

「ダメに決まってるだろ、親の自覚もて」

 

 傑には、本当に話さないといけないことが沢山ある。 

 

 

 

 

 

 

 傑を両親に紹介した。

 

「お話はわかりました。母として、夏油さんに言える事は一つです」

「は、はい」

「二人目を産んだら許します。3人目から夏油さんの事を身内として扱います」

「は?」

「でなくば、妾を認めてもらいます」

「あー、悟は好きに奥さんを迎えたらいいんじゃないかな」

「それは二人で話し合うとして。試すのは試したいかな」

「正気かい?」

 

 正気だよ。だって六眼が二代続けてなんて完全なる異常事態だぞ。

 同条件で試さないなんてあり得ない。これは傑どうこうではなく、術師としての義務で仕事だ。

 

「もう一人子供いるし、喰空みたいな強い子が生まれたら嬉しいじゃん。っていううか、ようはお前の個性? 強い子供産むって術式みたいなもんなんだろ? 試さないわけがないっていうか」

「そういう事です。産めるだけ産んでもらいます。悟様が相手出なくとも構いません」

「孕み袋は嫌だろ? 俺の奥さんやっとけ」

「ええ……」

 

 そう、五条家にとってそれだけ二代続けて六眼が生まれるという事は大きいのだ。

 それは男同士というインパクトをも飛び越える。

 

 本来、不確定要素の血を入れるのは望ましくないのだが、もう入ってしまっている以上は毒をくらわば皿までだ。直、血の濃い分家の血の保存はそれとは別に当然する。

 

 

 

 夜、二人きりになって。

 僕は、傑の肩に手を置いて、そして告げた。

 

「で、どういうこと。いきなりベッドに誘ったのもそうだし! 置いてったのもそうだし! 黙って産んだのもそうだし! 名前勝手にキラキラしたのに決めたのもそうだし! 勝手に諦めて勝手に絶望して殺されようとしたのもそうだし!!!」

「う、それはその」

「僕がどれだけ心配したと思ってんだよ!!! 喰空を産んでくれたのはありがとう!!!」

「悪かったよ」

「夜は長いんだから、全部話してもらうからな。喰空に聞いてるから嘘は無駄だぞ」

「わかったよ……」

 

 観念した傑と話しながら、義務を果たした。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、その次の日の朝。

 

 傑は顔を真っ赤にしながら、個性が発動したのでもう試さなくていい旨を告げたのだった。

 まじかよ一晩でかよ。

 

 ちょっぴり残念な僕だが、とにかく喰空をお披露目する準備をしないと。

 

 そして、喰空への猛特訓が始まった。

 

 

 お正月のお披露目は、やっぱり阿鼻叫喚となった。

 なんていうか、術式もそうだけど、それより人格面で信用されてなくて恐れられるのなんなの?

 特級術師にいつ指名する? なんて話が出てるんですけど、あまりにも早すぎるでしょ。あれ、特級術師ってもしかして何か裏がある?

 

 

 

 




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