呪いはオカズ 作:密かにヒソカ
そいつとの出会いは思い出したくない。
「今年の一年生は3人入学だから~、恵も友達作らなきゃね!」
「はぁ? 別にいいですよそんなの。呪術師としてチームアップ出来るぐらいの関係なら、そんだけでいいです」
「うあぁ〜超絶ドライ……まそんなのいいから! とりあえず1人は連れて来てるからね―――入ってきて〜」
「おう、お前が俺と同級生かァ。鳳仙だ、よろしく」
扉から入ってきたのは、五条さんとそう変わらない身長の大男だった。
髪はオールバックにして、笑顔というよりはニヤケ面でこちらを見る男。
「………はァ、47点」
「あ?」
俺は自己紹介をしようとしたが、不意に聞こえた鳳仙のがっかりしたような声にイラついた。
「あーごめんね! 鳳仙ってさ、初対面の相手に点数をつける趣味があるらしいんだよね〜。判断基準は謎だけど」
「判断基準は、俺が気に入るか気に入らないかだ。お前の呪力は好かん。それだけだ」
鳳仙はバッサリとそう言い捨てた。
俺はその非常識な言動に更にムカついたが、まだ俺は自己紹介もしていないことに気づき一旦落ち着くためにため息をついた。
「はぁ…………同じ一年の伏黒恵だ。階級は二級、同じ任務に付くこともあるかもしれない。まぁ、よろしくな」
正直、自分でも結構抑えた方だった。
いつも通りの自分だったら、あの時即座に言い返していただろう。だから、こちらが大人な対応をしたのだから相手も自分の言動を鑑みて、反省するんじゃないかと期待した。
それは間違いだった。
「あァ? 自分のことを1番に置いてないような奴と
俺は今すぐコイツを殴り飛ばしたくなった。
「五条さ……先生、コイツ殴ってもいいですか? ていうか殴りますよ」
「やめた方がいいんじゃない? 今の恵じゃ、透には勝てないよ」
次にイラついたのは、五条先生のこの言葉だ。
「………コイツ、何級なんですか?」
「まだ登録したばかりだからねー、四級だよ」
「登録したばっかりって、一般家系からの呪術師って事じゃないですか。そんな奴に俺が負けるっていうんですか?」
「うん、普通に戦えば透が圧勝だろうねー」
五条先生はそう断定する。
確かに、コイツから感じる気味が悪い呪力は俺よりも多い。だが、五条先生や乙骨先輩ほどではない。このぐらいの差なら、あとは戦い方や術式で差を埋められるだろうと思う。
五条先生にそう言うと、ニヤりと笑った。
「じゃあ、喧嘩してみればいいじゃん。危なくなったら僕が止めるし、怪我しても硝子が治してくれるしね」
※
「怪我しても文句言うなよ」
「はァ? こっちのセリフだぜェ、それは」
「ハイハイ、口喧嘩しないの! 若人なら、健全に拳で喧嘩しようよ」
「健全に喧嘩ってなんですか……ていうか、術式もありってマジで言ってます? どっちか死ぬかもしれませんよ」
「うん、さっきも言ったけど危なくなったら僕が止めるから。安心してよ、僕最強だし」
「はぁ、もういいです」
俺は取り敢えず玉犬・白と玉犬・黒を召喚した。
それを見た鳳仙は興味深そうに玉犬を見つめる。
「ヘェ? なかなか面白そうな術式だなァ? 俺に喧嘩売ってくるだけあるじゃん」
「ビビったのか?」
鳳仙は俺の方を見て、そのニヤケ面をさらに非道くして言う。
「いーや、楽しくなってきた♡」
まずは相手の動きを見てから攻撃を仕掛けようと思った俺は、しばらく鳳仙の動きを観察しようと思った。
しかし鳳仙も動かずに、場に沈黙が落ちる。
―――アイツも俺と同じことを考えてんのか? なら、こっちから打って出るしか
「遅ォ」
「! 後ろっぐは」
鳳仙はいつの間にか、俺の後ろに移動していた。頭の方へ蹴りが飛んできたがなんとか肘で受け止め、しかしそのあまりの威力に体を吹き飛ばされた。
「がはっ……くそ、目で追えなかった」
―――何が一般家系の呪術師だっ! スピードもパワーも真希さん以上だったぞ!
起き上がり、鳳仙を視界に収めると奴は俺がいた位置でニヤケ面を晒していた。気色悪い。
いつの間にか玉犬も遠くに飛ばされていた。
「……玉犬じゃ対応できない」
俺は玉犬を影に収め、と同時に走り出す。
鳳仙の視線は走り出した俺に向かっている。ここだ。片手で掌印を作り、新たな式神を召喚する。
………鳳仙の足元に。
「大蛇!」
完璧な奇襲。これは避けられない。
―――ここで畳みかける!
「ゥわかりやすすぎ」
「なに!?」
鳳仙は大蛇の奇襲を易々と躱し、俺に肘鉄を喰らわせる。
よろめく俺に、鳳仙はそこから継ぎ目のない拳のラッシュを喰らわせる。
なんとか掌印を作り蝦蟇を召喚し、一旦離脱することにした。
―――なんで大蛇の奇襲がバレた? そういう術式なのか?
思考を巡らせるも、納得できる答えは出なかった。
「どうしたァ? 来ないのかァ?」
「……お前、一般の家系なんだよな。呪術についてはいつ知ったんだ?」
「あァ? 答える義理はねェ、って言ってもいいが……呪術を教科書で学び始めたのは去年の冬頃からだ。ガキの頃から呪力も術式も知らずに使ってたがな」
「それでこの強さかよ……」
スピードとパワー、そして呪力を上回られている相手。術式は判断がつかないが、さっきの発言から持っていると仮定すると……俺が普通に勝つのは無理だ。
持てる手札は通じなかった。
鵺がまだいるが、鳳仙のスピードと謎の勘の良さなら余裕で回避されるだろう。攻撃は期待できない。
―――詰み、か。まぁこれはただの喧嘩だ。素直に負けを認めよう。
「……五条先生、俺の負け」
「つまんねェな、お前。そのままだと一生俺には勝てねェぞ」
「あ?」
です、と続く言葉をしかしやめた。
鳳仙の言葉は、俺をイラつかせる。今も、ムカついている。
「弱者が強者に勝つために必要なもの……俺はそれを諦めの悪さだと思っている。お前はその真逆だな、諦めが良すぎる」
「……あぁ?」
「なんだよフニャチン野郎ォ、やんのか? お前にキレる程の根性あんのか? あるんだったら立てよ、おら!」
やめろ、喧嘩はここまでだ。これ以上は
自分をそうやって静止させようとするが、腹の奥から煮えたぎる感情が理性をつき破ってくる。
怒りが、抑えきれない。
―――どうせ俺の命なんて軽いんだ。だったら、
「やってやるよ………」
両手で、掌印を作る。
すると今まで余裕を保っていた鳳仙は、俺の異質な呪力を見てニヤケ面をなくした。
かと思えば先ほどより、いや俺が見てきた中で最も気色悪くて非道いニヤケ面を作って嗤った。
「お前ェ………前言撤回だ、伏黒。お前は47点じゃねェ! さぁ、ソイツを俺に魅せてみろ!」
俺の脳がイカれたのか、鳳仙が服を破り捨て全裸になったようなに見えるが、今はどうでもいい。
呪詞を、唱える。
「布瑠部由良由」
「はいストーップ」
「むぐっ」
呪詞を全て唱える前に、五条先生に口を塞がれた。これでは
つい、五条先生を睨んでしまう。
「それしたら恵死んじゃうでしょ? いやまぁ、僕がいるから死なないんだけどさ。とにかく、そんな自爆技を喧嘩とは言わないから終〜了」
「………」
言われてみれば、それもそうか。
どうやら頭に血が上りすぎていたみたいだ。危うくアレをここで出そうとしてしまった。完全に俺が悪い。
「すみません、五条先生……」
「いいのいいの! 若人は間違うものだからね、安心してこのGLGを頼りなさ〜い」
「おい、何終わらそうとしてんだァ?」
もう喧嘩は終わり、そう言う雰囲気になっていたところに鳳仙の苛立たしげな声が聞こえた。
「もういいでしょー。恵より透の方が強いって、喧嘩した恵も分かってるだろうし。ね、恵?」
「はい……悪かったな、鳳仙。俺の負けだ」
正直俺は――アレを出そうとしたこと以外――何も悪くないと思うが、一応謝罪と降参をしておく。
「俺は何も納得してねェんだよ。早くさっきのやつ出してやがれ」
「……アレは本来、こんな喧嘩で出すようなもんじゃない。だから諦めてく」
「おっと、もう喧嘩しちゃダメでしょー?」
気づけば、俺の前に腕を振りかぶった体勢の鳳仙と、それを"無限"で止めている五条先生の姿があった。
ぶわりと冷や汗がでた。
―――なにも見えなかったが、
「五条先生、若人の喧嘩を止めるってのは無粋じゃねェか?」
「喧嘩ならね、
「わかってねェな、これだからジジイは!
「僕がジジイか〜。それになったつもりも、これからなるつもりもないんだけどね。いつまでも僕はGLGさ! だけどまぁ……挑発に乗ってあげるよ」
「っ!」
鳳仙は五条先生の呪力の高まりを見てか、大きく距離をとった。
「透にはまだマンツーマンで呪術を教えたことなかったしね。良い機会だ、反省させるついでに僕が直々に個人レッスンしてあげるよ」
「……悪くねェ。偶には本気で戦いたかったんだよ」
「いいよー本気出して。どうせ僕には勝てないし」
―――五条先生は煽っているつもりないんだろうけど、あの人の言う通りだ。五条先生に勝てる術師なんて、少なくとも俺は知らない。
「ふん、じゃあまずは一発当ててみるかァ」
五条先生には、常時攻撃が当たらない。それは五条先生との間に"無限"があるからだ。
無下限呪術。説明が難しい術式だが、それは大きく三つの能力に分けられる。
一つ、自身に近づく程低速化して接触出来なくし、あらゆる攻撃を無効化する力。
二つ、空間に吸い込む反応を作り敵を引き寄せたり瞬間移動したりできる、順転。
三つ、空間に弾き飛ばす反応を作る、反転。
これらの能力に加えて六眼という特別な目を持っているから、五条先生は最強だと言われているのだ。
話を戻すと、だからこそ五条先生には勝つどころか攻撃を当てる事すら難しい。というかほとんどの呪術師は当てられないだろう。
「どんな方法で突破するのか興味湧くなー。透の
「………言ったことなかったか。俺は自分の術式が
「おろ? じゃあなおさらどうやって?」
「アンタに貰った呪術の教科書読んでてよォ、コレならいけそうだってやつがあったんだよ」
鳳仙は足と腕は前後にするボクサーのファイティングポーズのような構えを取ると、そこに自分を中心に結界を張った。いや、結界というよりこれは………。
「『鳳仙流・簡易領域』」
「簡易領域……! でも、鳳仙流ってなんだよ」
「………くくっ、もしかして透、教科書読んだだけでできちゃった?」
「あァ、暇つぶしにやってたら出来た」
なんだそれ。コイツ、五条先生や乙骨先輩と同じタイプかよ。
でも、簡易領域は領域に対する技であって、通常の簡易領域じゃ五条先生の"無限"は突破できないはず。だとしたら、考えられるものは一つ。
「"縛り"で簡易領域を強化してるのか」
五条先生も同じ結論になったのだろう。
普段付けている目隠しを取り、呪術的なものすべてを見破る六眼で鳳仙を視る。
「………なるほどね。それなら僕にも攻撃が当たるよ。でもさ、簡易領域って使い勝手悪いんだよねー。縛りが面倒すぎてさ、透もその場から動けないでしょ?」
「バレたか」
「それはオリジナルで作ったんだろうけど、元のシン・影流の縛りは流用してそうだと考えたまでさ。六眼でも、流石に縛りの内容までは分からないからねー」
「あァ、その通り。俺はここから動けないし、なんなら今は生得術式も使えない。だからなんだ?」
「へぇ、僕はここから透を引き寄せてもいいし、弾き飛ばしてもいいし、地面を削って簡易領域を消してもいい。破る方法なんていくらでもあるよ」
五条先生の言う通りだ。
独自の簡易領域には驚かされたが、簡易領域とは元々が縛りの多いものだ。
特に動けないというのが大きい。鳳仙はそれ以上に縛りを作っているようだし、五条先生からしてみれば動く的から動けない的になったようなもの。近づかなければなんのリスクもない。
「さぁ透、どうする?」
………無理だ。鳳仙は五条先生に一撃も入れることはできない。
「なァ、五条先生。この戦いはフェアじゃないと思わないか?」
「ん? どういうこと?」
「俺は術式を使わず、アンタは術式を使い、俺はそのアンタの術式を破るために簡易領域まで使う………なァ、フェアじゃないと思わないかァ?」
「………」
「先生が、教え子に呪術を教えると言いながら自分は殻にこもったまま、上から目線で説教を垂れる。あァ、まるで老害じゃないか」
鳳仙は、いきなり饒舌に喋りだした。
五条先生も分かっているだろう。鳳仙は五条先生の術式を突破できないから、屁理屈を捏ね術式を自分で解いてもらおうとしているのだと。
今の鳳仙は滑稽だ。惨めだ。なのに、少し前のアイツの言葉を思い出すとそう言えない。
『弱者が強者に勝つために必要なもの……俺はそれを諦めの悪さだと思っている』。鳳仙はそう言っていた。
―――つまり、アイツは勝つ気なのだ。最強である五条先生に。
「くくっ、いいよ。乗った」
五条先生は術式を解いた。
五条先生が術式を解くと、鳳仙も簡易領域を解いた。お互いに術式は使わないつもりだろう、条件はイーブンに近いはずだ。
「じゃあ………狩るか」
俺には目で追えないスピードで走った鳳仙は、しかし俺が再び鳳仙を視界に映した時には五条先生の拳を頬で受けていた。
「ぐほっ」
「生徒たちの前なんだ。格好つけさせてもらうよ」
それからも二人の戦闘は俺の目ではほとんど追えないが、目に映る時には全て鳳仙が打たれている。
しばらく経ち、そこにはボロボロだが気持ちよさそうにして倒れている鳳仙と、無傷の五条先生の姿があった。
どちらが勝者で敗者かは一目瞭然だが、その内容はあまりにも気持ち悪かった。
途中、何度か鳳仙が
「満足した? 透」
なんで五条先生は平気なんだ。最強だからか。
「………一発も、当てられなかったのがァ、不満だぜェ」
「それはまぁ、今後の課題ってことで」
「恵もいい勉強になったんじゃない?」
「………まぁ、得るものはありました」
嘘じゃない。
嘘じゃないが、この出会いは出来れば思い出したくない。
「お前、なんであの時いきなり全裸になったんだ?」
「ムラムラすると服を脱ぎたくなるんだよォ。お前にも経験あるだろ?」
「あ、そう」