呪いはオカズ 作:密かにヒソカ
呪術師は万年人手不足だ。
だから学生、高専に属する生徒になれば一端の呪術師として扱われ任務を当てがわれる。
鳳仙が高専に入学して、約2ヶ月がすぎた。その間順調に呪霊を祓う任務を達成し、現在の鳳仙は二級呪術師だ。
鳳仙が単独での任務が可能な階級となってからは、伏黒と合同任務も少なくなり、最近は高専にいる時以外は補助監督としか会わない。
今日も、そんな風に出張任務に駆り出された日だった。
「任務内容は廃病院内の二級呪霊数体、三級呪霊20体以上を祓うことです。窓からの報告によると、術式持ちは確認できなかったとのことです。鳳仙術師、ここまでよろしいですか?」
「わかってる。病院に沸いてる呪霊を祓えばいいんだろォ? 寝たいから説明もいらん」
「……了解しました。現場に到着するまで、仮眠してください」
―――楽しくねェ。ずっと五条先生を見てると、そこら辺のモブ呪霊じゃ満足できなくなっちまった……。
現場に到着し、補助監督が帷を降ろすとその後すぐに鳳仙は目的の呪霊を祓ってしまった。
全裸にならず、絶頂することもなく淡々と作業のように。
これがせめて一級呪霊ならば全裸にもなろうというものだが、今の鳳仙を満足させるためには二級呪霊では力不足だ。
若干気落ちした鳳仙の携帯へ、電話がきた。
「………もしもし、伏黒かァ? どうした」
『合同任務だ。任務内容は特級呪物両面宿儺の指、その回収。実はその回収は俺の任務だったんだが、指定されていた場所に宿儺の指が消えていた。それを奪ったのが呪詛師の仕業である可能性を考慮して、五条先生がお前と俺で任務を受けるよう指示した。だから明日には指定した場所に来い』
伏黒は言うだけ言うと、それからぶつりと電話が切れた。
しばらくすると、伏黒から任務の詳細な内容と場所がメールで送られてきた。
「何であんな一方的なんだかなァ?」
それは伏黒に嫌われているからである。なお、鳳仙は伏黒を気に入っている。
※
鳳仙が指定された学校に着いたのは夜になってからだった。
普通に向かえば夕方ごろには着いていた筈だが、イレギュラーが起こってしまって不可能になったのだ。
「五条先生ェ、その菓子俺にも下さいよ」
「え~ダメ。これ僕が帰りの新幹線で食べる用だから」
五条とばったり出会い、そのまま二人でショッピングしてきたからである。
「ん? これは特級相当の呪力………場所は恵が呪物探してる学校からか」
そのまま仲良く伏黒のいる場所まで歩いて向かっていると、唐突に禍々しい呪力が二人を襲う。
―――宿儺が受肉でもしたのか? なら急がないとな。
「透、僕に捕まって………って先に行ったか~」
鳳仙は五条よりも早く呪力をキャッチし、自身の術式で移動していた。
「あの術式でよくもまぁ、器用だねー」
出遅れた五条も、術式を発動してその場から消えた。
伏黒がいる場所まで五条よりも速く辿り着いた鳳仙は、史上最強の呪術師に出会う。
―――これが、一目惚れってやつかァ?
「93点………」
「うおっ、誰?」
「鳳仙っ? いつの間に来たんだ?」
鳳仙は伏黒と宿儺を取り込んだ少年の呟きに答えず、宿儺を取り込んだ少年に熱い視線を送る。
それに宿儺を取り込んだ少年は悪寒を感じる。
「名前を、聞いてもいいかァ?」
「お、おう。虎杖悠仁だけど………」
「虎杖、か。いい名前だなァ」
「ありがとう?」
―――ちょっと怖いんだけど、この人。
さらに増す熱視線。小鹿にように身震いする虎杖に、さらに鳳仙は頬を赤く染める。その虎杖の
「今どういう状況?」
「!? 五条先生?」
「やっほー恵」
五条も鳳仙に少し遅れて到着した。
五条の姿を見た伏黒は安堵する。これで何か起きても大丈夫そうだと。
「超ボロボロじゃん、ウケるね。二年のみんなに見せよーっと」
「ちょ、やめてください!」
勘違いだった。伏黒は今怒りの拳を放つか迷った。
しかし、現状虎杖の状態を報告することが高い優先順位だと考える。だがやはり、五条がウザイので出来るだけ意地悪な言い方をすることにした。
「ソイツ、俺が探していた宿儺の指を食べました」
「ごめん、指なら確かに俺が食べちゃった」
「………マジ?」
「マジです」
んー、と顎に手を当て考え込む五条。
「悩む必要なんかないだろォ? 虎杖、宿儺に変われるか?」
「スクナ?」
「お前が食った呪いのことさ」
「あぁ、それなら多分いけるけど」
「それなら10秒だ。10秒経ったら戻っておいで」
虎杖の中にいる宿儺を六眼で視た五条は、鳳仙の案を察し、自身が実行することにした。
「………でも」
「大丈夫、僕最強だから」
―――それに、透もやる気みたいだしね。宿儺にどれだけ透が対抗できるかも見てみたい。
「恵、これ持ってて」
「? なんですかこれ」
「喜久水庵喜久福、超うまい!」
―――この人、人が死にかけてるときに土産買ってた!?
伏黒はキレるよりも先に五条の行動がクズ過ぎてドン引きした。因みにその時のショッピングには鳳仙も随行していた。
「クハッ」
「おすすめはずんだ生クリーム味なんだけどねー」
「後ろ!!」
ノリノリで五条がお気に入りのスイーツの話しをしていると、後ろから宿儺が迫る。それを見た伏黒は叫ぶ。
だが五条は一切振り向こうとはしない。
迫る宿儺の迫力に、思わず伏黒は目を閉じる。
―――どうなったんだ?
伏黒は目を開くと、目の前には宿儺がいた。
「!!」
「透ってば僕のおすすめ無視してポテチ買ったんだよね。ウケるでしょ」
そして、四つん這いになった宿儺の上に座るように五条がいた。
「ッハァ!」
それに苛立ちを覚えた宿儺は、目の前の伏黒を無視し五条へとその牙をむく。振り向きざまに呪力で強化した腕を振るう。
しかしその攻撃も五条に当たらない。その異様な速さに宿儺は翻弄される。
―――恐ろしく速い? いや違うな。
「はっはァ!」
「!」
宿儺と五条が戦っている間に、全裸の鳳仙は乱入した。それは非道いニヤケ面で、宿儺へと蹴りを放つ。
―――速いな。しかしあの男のようにタネがあるわけではない。まずはこの小僧からだ。
「呪いが込もっておらんぞ、小僧!」
「うぅっ」
宿儺が鳳仙の蹴りを避け、カウンターを叩き込む。まともに食らった鳳仙は吹き飛ぶ。
「イクっ」
吹き飛んでいる途中で鳳仙から飛び出す白。宿儺はそれが術式であると考え、念のため躱す。
宿儺は鳳仙の術式を警戒し、一撃で仕留めるため自身の術式を解放する。
―――『解』
宿儺の術式は問題なく発動し、そして鳳仙に向かい当たった。少なくとも宿儺にはそう見えた。
しかし鳳仙は無傷だった。
「なに?」
「透にばっかり攻撃すんなよ」
一瞬にも満たない宿儺の思考停止。それを五条が見逃すはずがない。
五条も術式を発動し、宿儺へ拳を振るう。
―――あの小僧、なるほど。アレは避けられたのではなく、
「……全く、いつの時代も厄介なものだな。呪術師はッ!」
宿儺は今できる全力の術式を五条に向かって発動した。
その攻撃は本来の力の20分の1であるとは思えないほど強力で、校舎を半壊させるほどだ。
「ま、だからどうという話でもないが。次はお前だぞ、小僧」
「8、9」
「!!」
宿儺は振り返る。そこには瓦礫に包まれた無傷の五条と袋を大事に抱える伏黒がいた。
「そろそろかな」
―――俺が抑え込まれる?! この小僧、一体何者だ?
「お、無事だった?」
宿儺は再び虎杖の裡へと消え、虎杖の意識が浮上した。
虎杖の視界には半壊している校舎と、地面に壮絶なニヤケ面を晒し全裸で倒れている鳳仙を見て、無事じゃないのか? と不安になった。だが一先ず気にしないことにした。
「驚いた、ホントに制御できてるよ」
「でも頭ん中うっせぇんだよなー」
「それで済んでるのが奇跡だよ」
五条は虎杖の額を指で軽くトン、とする。すると、途端に意識を無くす虎杖。
「なにやったんですか!」
「気絶させたの」
「………」
五条と伏黒の話も聞かず、宿儺に吹き飛ばされてから仰向けに倒れたままの鳳仙。
―――久しぶりに術式使ったなァ。相変わらず俺の楽しみを奪うクソみたいな術式だが、今回は助かったァ。
鳳仙は懐う、再びあの宿儺と
―――いや、あの宿儺じゃないなァ。
鳳仙は虎杖を見る。
その視線には多分な色情と、未来を見据えた策謀の色が僅かに見えた。
「なんで出張して買うのがポテチなの?」
「好きなものを好きな時に食べる。それだけだ、でも偶には我慢もするぜェ。………最も熟れた時に食べたいものもある」
「旬の食材の話?」
「そんな感じ♡」