高校一年生 三回目 四周目
高校に入って最初の中間試験のテストを改めて確認しながら、私は少し笑みを浮かべる。
「
そういう声が聞こえて返却された解答用紙から目を上げると、同級生である
「……どうして知ってるの?」
私には点数を言いふらすような友人がいない。高校デビュー失敗者というやつである。
「他の人に聞いたら、多分和乃さんだって」
「まあ、私だけど」
私はすっと紙を出す。93点。ミスについてはまあ、許容範囲だ。最高得点は公開されているので私が一位だとわかる。
「そう言う
眼の前の彼は少なくともスポーツは得意で、勉強の方面も授業中の応答を見る限りは悪くない。私と違って青春を楽しめそうな人だ。
「見せなくちゃダメかな」
少し恥ずかしそうに言いながら彼はわずかに微笑む。これをはにかむって表現できないのおかしいよな。早く誤用が定着してくれればいいのだが。
「別にいいけど」
「ごめん、わからないところがあってさ」
そう言って彼は自分から解答を見せてきた。なんだよ、距離感つかみにくいな。まあ親切というか優しい人ではあるのだろう。
「見せて、私にわかる範囲なら説明する」
「ここのonがわからなくて」
「……前置詞のイメージ、と言えばいいかな。ここのonはそれが存在するための土台って感じに近い」
「ああその、何で他のやつじゃよくないのかなって。ofとかでも良さそうでしょ?」
「depend on、あとはuponで熟語だから……って説明でいいかな、それ以上はごめん、無理」
「わかった、大丈夫」
「どういたしまして」
人と話すのは久しぶりのはずだが、思ったより上手くできた気がする。なにより楽しいな。いいものである。
「ところで和乃さんって、どうして英語ができるの?」
その質問に、私は精一杯の口角の上がらない笑顔を向けながらなんて答えるべきか迷う。
私の家族の話をするか、趣味の話をするか、あるいは真面目に勉強しているからだと言うか。最後のは嘘だ。英語の授業中に教科書の例文の無茶苦茶な翻訳案を考える程度には不真面目だ。
「……毎日頑張ってるから、かな」
嘘は言ってない。
「SFの翻訳とか?」
「どこで知った?」
「どこって、自己紹介の時に言っていたし……」
その返事を聞いて声を荒らげてしまったことをちょっと後悔する。周囲の視線がこちらに向いているような気がして嫌だ。
思い出すと確かに言ったような気もしないではない。とはいえSFを読むのが好きとは言ったけれども翻訳してるとは言ってないぞ。
「言ったっけ?」
少し落ち着いて、私は確認を返す。いや別に今思えば趣味に絡めて質問された程度でこんな対応するのは良くないよな。
「前に英語の本読んでたし」
「私のこと、よく見てるね……」
人間関係から切り離されていると思っていたのでそういうふうに覚えられていることが正直意外だった。私は真山くんがどんな友達いるかとかよく知らない。
「和乃さんのおすすめの小説ってある?」
たぶん話題を広げるためにこういう質問をしてくれているのだろう。この人付き合いが不得手な私にありがたいことだ。好意は素直に受け取りたい。
「……いっぱいある。話し始めると止まらないから、先に真山さんの好きな本とか、ジャンルとかあったら教えて」
「……時をかける少女、とか」
「筒井康隆さんの?あれをSFとして選ぶのはたしかに面白いね」
「ごめん、僕がちゃんと知ってるのは映画のほうだけ。小説の方は少し読んでやめちゃった」
「どうして?」
「……なんか、文章が読みにくくて。それと映画と話が違ったし」
「ああ、確かに半世紀以上前のやつだからね……」
確かに私もあの当時の少女の話し方を読むと背筋が変にぞわぞわする感じがある。ここは科幻系のかっこいいお姉さんとかのほうが好きかな。
「となると、古典って言われてるものよりも新しめのほうがいいと思う。って、映画ってどの?」
「ええと、アニメのやつ」
「はいはい。あれは原作小説とテーマは同じだけど原作の主人公は博物館で働く人になってる」
「あの人がそうなんだ」
「タイムリープものの走りみたいな作品だからね、他にもループものだったらAll You Need Is Killも面白いかな。桜坂洋さんの」
「それは漫画と小説で読んだ」
「映画も見よう。キャラの特徴が変わっているのはあれだけど、それはそれとして映画としては面白いよ」
「わかった。終わったら見てみる」
そこまで言ってから、自分が相当な早口になっていた事に気がついた。よくないね。
「って言ってももうすぐ帰りのホームルームだから」
私は改めて真山くんの点数を見る。なんだ、私より2点低いだけじゃないか。最初のテストだから範囲は狭いとはいえ、これだけ取れればなかなかすごいと思う。
嫌だな、とふと考えてしまう。英語ぐらいは余裕で勝ちたいとか思っていたが、彼が少し頑張れば追い抜かされるだろう。こんな性格も能力もいいやつに一切勝てなくなるのはなんていうか劣等感に
「……なに?」
そう考えていても、真山くんは机を挟んだ私の正面から動いていなかった。
「和乃さんってさ、タイムリープってあると思う?」
少し真剣そうな顔で彼は私を見る。
「……少なくとも、私がそれを信じる条件はあるよ」
SF好きなのだ。この程度の思考実験はしている。
「教えてくれな