高校一年生 七回目 二周目 一
意識が戻っていく。規則的な、聞き慣れたような、でもどこか馴染みのない音がする。
「あぁ……なに?」
寝巻き。電気がつけっぱなしの部屋。起きてすぐなのに妙にすっきりした頭。
スマートフォン。着信音。ああ、この音か。かけてきたのは真山翔太。
「何があった?」
電話を取る直前に見た時間は二十一時三十八分。そういえば私は今日は早めに帰ってお風呂も入れず晩ごはんも食べれずに寝たんだった。一応昨日の寝巻きを着てはいるけどさ。
「……始まった」
「二周目?」
「うん」
「はいはい、落ち着こう。時間はどれぐらいある?」
「……明日の朝までは行かないはず」
「夜中、か」
行動はそれなりに制限される。しかし、明日のことさえ考えなければ十分動ける時間だ。
「……条例違反に手を染めることに、躊躇はある?」
「ない」
言い切りやがった。もっとこうね、真山くんには遵法精神というやつを持ってほしい。まあ教唆しようとしている私が言えた義理はどこにもないが。
「……いつも真山くんが起きる時間は?」
「午前七時に目覚ましをかけてる」
「ちょっと待ってね」
スリープ状態にあったパソコンを起動して、計算用のファイルを出す。あくまで仮説をもとにしたものだが、私の計算はそれなりに傾向と合っている。
「最大で十一時間となると……十回以上はあるはず。まずはそれに備えて」
「……わかった」
「夜の街に出かけるなら、暖かい格好が必要。そっちの親はこの時間に出かけることに何か言ってきそう?」
「……もう寝てるよ」
「健康的な家族だ……」
「和乃さんは?」
「今日は遅いよ」
「……両親が?」
「あー、言ってなかったっけ。うちは母がちょっと出張多めで、父も残業多くてね。おかげで私は今日はあの後何も食べてないよ」
「食べる?」
「……そうだね、今の時間でもチェーンのファミレスとかは開いているだろうし」
まあ、まだお腹にちょっとお昼の分が残っているから大丈夫だけど夜更かしとなればちゃんと準備したほうがいいだろう。もう少し早かったら色々選択肢が合ったのだが、まあとやかくは言うまい。
「わかった。そっちに行ったほうがいいかな」
「……ここに?」
私は周囲を見渡しながら言う。いや呼べなくはないけど、あまり自慢できるものではないよな。
「……ダメ?」
「あー、うん。今後同棲とかした後でこうなるとは思っていなかったとか言われても困るしね、いいよ」
「……ねえ、和乃さん」
「はい」
「どれぐらい、酷いの?」
「うーんとね」
私は座っていたベッドから立ち上がって、本棚の前に積まれた本の山を数えていく。
「十個ぐらいかな」
「……何が?」
「崩壊しそうな本の塔が」
「……生ゴミとか出している?部屋にゴミ箱ってある?」
「私だってちゃんとやってるよ、週に一日は私が生ゴミを出す当番だから」
物干し竿に吊るさずに登校時に乾燥が終わるようタイマーかけた洗濯機でどうにかしたり、食器はざっと洗って乾燥用のかごに入れっぱなしで食器棚に戻していないとか、そういうズボラな私だけどそこらへんはちゃんとするのですよ。
「……行っていい?」
「……来ていいよ、でもたぶん日付が変わったら父が帰ってくる」
「……大丈夫かな」
「まあ、たぶん」
そういうえば両親に真山くんのこと、どれだけ話していたっけな。仲のいい同級生がいる、ぐらいは言ったかもしれない。
ただ、それ以上はどうだろうな。まあいいか。別にバレたところで問題のあるような不健全な関係ではない。よくあるお付き合いってやつだ。
「……わかった、もし片付けが必要だったら僕が今回のループが終わった後にやるから」
「まず本棚の購入からかな、これだと」
本棚にはそれなりに整って本が並べられている。今気がついたけれどもちょっと歪んでいるかもしれない。
「……ともかく、行ってみる」
「じゃあ待ってるよ、足の踏み場ぐらいは用意する」
動き始めたらしい真山くんを確認して、電話を切る。さて、まああまりいい状態にはないわな。
床に落ちているものを拾っていく。夏休みに行った博物館のチケット。本屋の袋。取れてしまった帯。充電ケーブル。ひとまずそういうものを手頃な手元のいい感じのサイズのダンボール箱に入れておく。
このダンボールも本を買ったときのやつだけど何を買ったんだっけな、と考えようとして時間は限られていることを思い出す。真山くんがここに来るまで、十分もかからないだろう。
いやでもそうか、私はこれを今後何回かしなければならないのなら別にそのままでもいいのでは?そういう余計な考えに心を惹かれつつも、ある程度は迎える準備をしておく。ベッドは別に整える必要とかないか。
今回はコードを使うべきかもしれないな、と思考を回していく。真山くんを媒介に、真山くんに知られずに秘密のメッセージを別の私に回せる。一応コードの余裕の全てを私用伝言にしたバージョンを用意してあるからそれを使うか。
そうこうしていると、家のチャイムが鳴った。私は持っていた箱を置いて、鍵を開けるべく玄関へと向かった。