「……手慣れてるよね」
「そう?」
私はお湯を入れたカップ麺を真山くんに渡しながら言う。夜なのでイートインは使えず、夜風に吹かれながら食べることになる。
太ももには疲れが溜まってきていた。大通りを進んでもうどれぐらい経っただろうか。日付が変わってかなり経つはずだ。丑三つ時、というやつ。
夜の冷たい街は、今まで感じたことのない怖さみたいなものがあった。時々進路が危ないときもあったし。真山くんの後ろをただ無言で進むだけだが、それでも楽しいには楽しいのよ。
「こういうこと、したことなかったから」
「まあ、私もないけど」
たぶんループ中なら色々と行動のリミッターが外れるんだよな。給湯器があることは何度も見ていたし、ここでお湯入れているのを見たこともあったので問題はないだろう。
ちょっと陰になる場所で私は座り込むんで手袋を外す。しばらく休憩だ。フォークで丸めとった麺を冷まして口へ。腹の中に溜まる熱とカロリーがじんわりと染みていく。ちょっとだけ舌が焼けてしまったが、まあ仕方ないな。
「……おいしい?」
ちょっと心配そうに真山くんが聞いてくる。真山くんも蓋を開けていた。湯気が白い。温度が下がっている証拠だ。
「とても」
一応ちょっとだけ自転車乗る前に食べはしたのですよ。でも寒さと運動は体力とかそういうものを奪っていくわけで。
「店員さん、普通に対応してくれたね」
「そういうお店だから、っていうのもあるだろうけどありがたいことだよね」
二十四時間営業ということは、いつループが起こっても頼れることができるお店だというわけだ。そう考えると、この時間は私と真山くんのためだけに世界が回っているようなものなのか。なんとなく気分がいい。
「案外、高校生が夜に出歩いてもみんな気にしないのかな」
「塾とかもあるかもしれないし、繁華街とかじゃなければ大丈夫だと思うよ」
「……試してみたほうがいいかな」
「ほどほどにね。あとやるなら早めのほうがいいよ」
頭の中でちょっと計算をする。もう五時間以上経っている。このぐらいの時間のループは私が主体的に関わった中では初めてかな。あとは深夜というのも初めてのはずだ。
いや、ループの期間が深夜帯に被った事はあるんですけれどもね。そしてどうやら外泊とかは真山くんは経験済みらしい。もちろん初めては私と一緒だそう。いいなぁ。そんな事を考えながら、真山くんが麺をすする音を聞く。
「……この時間の街って、静かなんだね」
白い息を吐いて、真山くんが呟く。
「車もあまり走らないしね」
道路状況もあって、時々私達は車道も走った。ただ、追い抜かしてくる車はほとんどない。対向車も少ない。この時間帯の交通量ってこんなものなんだ、という学びを一つ得た。まあこの学びを活かせる機会はなさそうだけれども。
「ところで、ここがどこかわかる?」
私は地図を起動しながら言う。現在地を表す範囲が次第に絞られていく。収束した点の隣にコンビニがあるので、場所は間違いないだろう。知らない地名だが。
「……わからない」
「県外に出てたらしいよ、いつの間にか」
速度としてはかなりゆっくりだったが、それでもフルマラソンの距離以上は進んでいるのだ。やはり自転車というのはすごい乗り物だ。
「……疲れてない?」
「疲れてるよ。今から帰るとか絶対したくないし、たぶん無理。明日の朝に学校についていたいなら、もう折り返さないと」
そう言って私は残ったスープを飲んでいく。何も考えず、ただまっすぐに、街灯を頼りにできる大きめの道を選んで進んでいった結果がこれだ。
「……そう、だよね」
「でも、とても楽しいよ。明日……にはもうなっちゃったけど、この先のことを何も考えない旅っていうのはこういうことでもしないとできないから」
そう言って私は空になったカップをレジ袋に入れ、かわりに羊羹を取り出す。
「ところで、なんで羊羹?」
「知らないの?」
「知らない」
「腐りにくいし、胃袋が動かなくても食べやすいからハードな運動をする人向けらしいよ」
私の知識も昔のネットの受け売りだけどね。こちらも一口齧ると甘さが全身に回るような幸せな感じがある。
かなり運動した後じゃないと味わえないやつだ。こういうある種の快楽みたいなものがもっと簡単に手に入るなら運動とかちゃんとするんですけれどもね、この後の筋肉痛とかは嫌なのだ。
「そうなんだ」
「なので食べな。後に取っておいてもいいけど、食べ損なうと気分下がっちゃうでしょ?」
「……今はちょっといいや。後にする」
「そう」
まあ真山くんは晩ごはんちゃんと食べたらしいからな。睡眠不足とかになっていないといいが。私の場合だとさすがにもう休日だったとしても寝ている時間だからね。
「じゃあ、そろそろ行く?」
膝を曲げ伸ばししながら私は言う。よし、痛みはそれなりに引いた。ゴミはコンビニのゴミ箱に入れておこう。
「そうだね」
サドルに座った真山くんは地面を蹴り、軽やかに進んでいく。それに対して、私はふらつくように進んでいった。