「……十時五十八分、と」
自動ドアを出た真山くんは腕時計を見て言う。
「三十分だけでもなかなか楽しかったね」
条例で禁じられているのは特定の店に深夜に青少年を入場させること。つまりそれ以前に出ていくのであれば、全く問題はないわけで。
「もし今回のうちにカラオケ行きたくなった周があったら、もっと早く行くよ」
「そうすれば一時間は歌えるね」
そんな話をしながら、私達は歓楽街の路地を抜けて繁華街の方に行く。まあもう一通り真っ暗で、アーケードの灯りが照らしているだけだけれども。
「……で、どうする?」
「どうしよっかな……」
真山くんに返事をして、私は暗い空を見る。気分としては家出とか逃避行とか、そういうやつである。いや別に世間に対してそこまで後ろ暗いことはしていないつもりなんですけれどもね。
「夜の街って、子供に厳しいよね」
「ありがたいことなんだけどね」
子供を引きずり込もうとする闇なんて、碌なものではない。いや、まあ確かに風の噂ではそういうのに絡んでしまった同世代がいるっていうのは聞きますよ。
「……どこか、いい場所がないかな」
「具体的には?」
「……二人で、ゆっくりできるような」
こういう時にムードとかではなく、よくある誘い文句ですねと思ってしまうあたり私の心は汚れているのだろう。あのね、真山くんがそう言うのを言えると思いますか?
言えないだろうって言い切るのはまたそれはそれでまた真山くんに対して失礼な気もしなくもないけどさ。ああでもそういえば条例にはそういう施設は入ってなかったな。
「……星とか、見に行く?」
なのでせめて、もう少し健全な話をしよう。
「星?」
「二時間もあれば、たぶん街明かりから遠ざかったいい場所があるはず」
「寒いよ?」
「一旦家に帰って保温用のシートを持ってくる。二人分はあったかな……」
「なんでそんなものがあるの?」
「防災キットとかに入ってない?」
「ああ、あのパシャパシャした銀色の?」
「そうそう」
本当は色々と買い込んでおきたいのだが、残念ながらお店は開いていない。あとはレジャーシートでもあればいいか。寝袋はどうだろ、保温的にはいいかもな。
まあそんな話をしながら一旦は私の家に帰還。真山くんは追加の防寒装備をこっそり追加してくるそうだ。
私の方も色々と準備をする。この近くで星を見るのにいい場所を検索したりね。
とはいえ地域名と星を見るのにいい場所、みたいな用語を並べるだけだ。そして電車の時刻表を確認。
よし、なんとかなりそうだ。最終電車に乗り込んである程度進み、そこから歩いて一時間。必要に応じてライトとかが必要だろう。
まあ、なぜか家にあるんですよね。どういうわけか。母がこういうガジェット好きなもので。
というわけでたまに出かける時に使う大きなリュックサックを持ってその中に色々詰めたのである。真山くんの方には駅で待ち合わせとメッセージを送った。
幸いにも父が帰って来る前に家を出ることができた。面倒なことは無いに限る。どうせ娘の部屋を確認するような人ではないから大丈夫だろうけど。
「待った?」
「大丈夫。それよりもう時間が近いよ」
「わかってるって」
鞄を背負いなおして、人の少ない駅構内へと進む。最終列車に乗るのは初めてだ。この時間に並んでいる人もほとんどいないし、電車の中も人はまばらだ。
窓の外を流れる灯りが減っていく。疲れたような仕事帰りらしい人が小さく寝息を立てている。
「和乃さんって、毎回無茶するよね」
「真山くんには言われたくないな……」
深夜に自転車で数時間走るのは、私じゃなかったら引かれるぞ。私でも呆れながらやっていたところはあったかもしれないけど。まあ真山くんが楽しむのが少なくともループ中は重要だけどさ。
「そういうところも好きだよ」
「そういうのはもう少し日頃から言ってもいいからね」
悪い気はしませんけれどもね。今の真山くんは今の私しか見れないわけで。
「……がんばる」
そう言って私から目をそらし、真山くんは外を見る。うーん真っ暗になってるな。一応ぽつりぽつりと家らしい灯りは見える。窓ガラス越しに目があったので少しそらしておこう。
そんなこんなで目的とする駅についたので、ホームに降りる。走り去っていく電車を見送るのは私達二人だけ。
「で、ここからどう行けばいいの?」
「ええとね……」
私は明るさを最低にしてスマートフォンを確認する。ここから一時間ぐらい歩いた場所にある公園が目的地だ。
「ここ」
「……道、あまり明るくないね」
「まあ足元さえ明るければいいか」
そう言ってランタンを用意。足元が問題なく照らされる。よかった、電池切れとかなくて。
「……大学生になったら、免許を取るよ」
坂を登っていると、真山くんが言う。
「まあ、あると便利そうだよね」
「和乃さんは?」
「免許はあってそう困るものではないだろうけれども、乗るかどうかはまた別かな……」
そんな話をしながら、時々現在地を確認しながら暗い道を私と真山くんは進んでいった。