「……かなりよく見えるね」
寝袋になんとか一緒に入って、さらにその外側をアルミ蒸着されたシートでくるんで寝っ転がっている形になる。防寒はちゃんとできていたので、幸いにも地面から冷たいのが伝わるとかいうこともなく比較的暖かい状態になっている。いや顔は冷えるけどね。
「……あまり、普段は空見ないから」
真山くんが言葉を返す。さて、まあ時間としてはロマンチックなのかもしれないな。まあ丑三つ時とか考えたら良くないけど。でも夜に襲ってくるようなあの恐怖感はないな。
「星ってわかる?」
天頂近くにある明るい星。あれはなんだ?一等星っぽいから数えるほどしか候補がないのは知ってる。どれかは知らない。
「……あまりわからない」
「そうだよね、あそこに見えるのはオリオン座なのはわかる」
ベルトの部分がはっきりと見える。じゃあその下側のひときわ明るいやつはシリウスかな。それ以上の知識はちょっとすぐには出てこないです。
「北極星ってどっちだっけ」
「カシオペア座かおおぐま座の北斗七星があればわかるのは覚えてる」
まあそういう話をするが、特に深まりはしない。スマートフォンを見れば確かに星の名前はわかるだろうけど、なんかそういうのは無粋じゃないですか。
一応明るさを抑えて、赤いフィルム越しにでも見れば夜目を保ったままにできるのかもしれないけど。夜戦のときの話で見たことあります。
「……それで、どう?」
「なにが?」
「まだ三周目だけどさ、悪いことをしている気分は」
「天体観測は別に大丈夫だと思うけど……」
「まあね」
「……ああいう条例って、なんのためにあるのかな」
おや、案外子供らしいことを言うじゃないか。では話をしよう。
「まあ、いくつかあるよ。一つは子供が一定のラインを超えるのを防ぐため」
「一定のライン?」
「そ。薬物だったり、犯罪組織だったり、そういうものに巻き込まれる前に実力行使で子供とそういう危ないものの距離を取らせることができるようにしてある」
「……だから罰則がある、ってこと?」
「そうだね、条例は読んだ?」
「……ちゃんとは見てない。和乃さんが見てたのを隣から覗いただけ」
「そっか」
まあ別に私だって法律の専門家ではないし、ちゃんと教育を受けたこともないのだ。本棚のどこかには古本屋で買った入門書があるはずだけど読んだことあったっけな。
「……でも、縛ろうとしてくる人たちはいるよね」
「まあね、不健全図書なんて概念はまだ生き残っているし、そこらへんは面倒な問題になっているけど」
一応政治案件ではあるのだ。いや別に未成年がそういう話をしてはいけないわけではないのですが、選挙権と被選挙権を与えられていないということからある程度察することはできるのですよ。
「……馬鹿らしいよね」
「縛られる側としては、ね。今どきそういうのはインターネットで少し調べればいくらでも出るわけで」
「……調べるの?」
「私はあまり実写は見ないかな」
例えば文章ならわいせつと判断される基準が難しいとかもあって、基本的には未成年が見ても大丈夫ではある。でもサイトとかは十八歳以下に制限をかけてくるんですよね、あれは過剰な自己検閲だと思う。
「……そう」
「まあ、夜だしそういう話をしてもいいよね」
寝転がる芝生の周囲からは特に物音とかはしてこない。静かに吹く風が草を揺らすだけだ。
「……やめとく」
「そっか」
まあそういう気分じゃないってことぐらいありますよね。あと寒いので変な流れにしたくないのもまあ理解はできる。この中で動いたら隙間風でムードとかそういうのが吹き飛んでしまうよ。私は暖かさを感じていれば満足です。
「まあでも、法律とか条例とかは基本的に善意で作られるから。その善意がいい結果をもたらすかはともかく」
「確かに深夜に寝ないでカラオケ行ったり映画見たりするのは良くないってわかるけど……」
「映画、ね。前みたいに借りて見るのも良さそうだな……」
「どこで?」
「そっか、場所の問題は残るか」
私の家が使えるのは日付が変わるぐらいの時間まで。いやちゃんと調べてもいいのだけれども、仕事帰りの父と顔を合わせるのはちょっと、ね。
真山くんの家では両親が寝ている。真面目な息子さんを不良行為に引きずり込んでおいてなんだが、まあ起こすようなことはしたくないよな。
ではどうするか。いやまあ、候補はあるにはあるんですよ。条例において未成年の立ち入りが禁止されているとかなくて、外部からの目を一定程度遮断できて、かつ色々と揃っている場所というのは。
ただまあ、その場所はちょっと場所自体が持つ意味が強すぎるというか。いや別にそこで集まって何かするっていうのはたまにある話らしいんですけれどもね。でも高校生同士で深夜にそこっていうのは、いやでも開き直れば問題ないか?
「……寝た?」
「起きてるよ、どうでもいい考え事をしていただけ」
私は真山くんの方に少し寝返りを打って小さな声で囁いてから、目を閉じた。