「おお、こんななんだ」
私は内装を見ながら言う。シックな壁紙とゆっくりと二人が寝転がれるサイズのベッド、オレンジ色の明かり。
「……入ったこと、あるんじゃないの?」
訝しげに真山くんが聞いてくる。
「いや、場所によって内装ぐらい変わるでしょ」
「そういうものなんだ……」
妙に納得していなさそうな真山くんを置いて、私はちょっと色々物色していく。
「おお、ここにもスロットマシーンがあるんだ」
「なんて?」
「そこの両替機を使うんだよ」
「なんで?」
真山くんが混乱している。いいですね。見ていて楽しい。
「自動支払機を設置すると色々問題だけどさ、両替機能つき自動支払機の両替機能を使うってことになってて……」
「ああ、なんか厄介な法律回避の匂いがする」
「よくおわかりですね」
ここに入るまでに受付も含めて人と出会うことはなかったし、名簿に名前を書くこともなかった。旅館業法違反である気がするが、きっと気のせいですよ、うん。
「……テレビはちゃんとあるんだ」
壁にかけられている大きな液晶モニタを見ながら真山くんは言う。ベッドから見るとちょうどいいぐらいの距離かな。よく考えられている。
「映画とか見るのにいいよね」
裏の方を確認するとちゃんとコードを繋げられるようになっていた。これで専用のケーブルを持ってくればスマホと繋げられるな。っと、そうだ。Wi-Fiにも繋いでおこう。
「……で、どうする?」
「ちょっとどんな番組があるか見てみる。もしあれならお風呂場にでも行って耳をふさいでおいて」
「……シャワーを浴びてきて、ってこと?」
「違うけど?」
「違った……」
うん、たしかにそう聞こえなくもないし浴びてきてもいいんだけれどもさ。
私は机の上にあったリモコンを手に取って電源ボタンを押して音量を一気に下げながら消音モードを起動する。よし、幸いにも流れている映像はまだ肌色の部分がないやつだった。お兄さんとお姉さんが楽しそうに話しているシーンだ。
というわけで色々と設定を確認。入力切替は可能。あ、なんか映画とか見れるんだ。明らかに十八歳未満が触ってはいけない感じのピンク色のボタンは回避します。
なにせ私達は健全な高校生なのでね、十八歳以上ですかって質問にノータイムではいって断言できるような心が汚れた子供たちとかではないです。少なくとも真山くんは違うと思う。
「映画でも見る?」
私はベッドに座りながら言う。ソファを動かしてもいいけど、たぶんこっちのほうがいいな。隣にちょっと遠慮しながら真山くんも座る。
「あるの?」
「いくつかある」
さすがにタイムリープものはないか。残念。あ、これは昔に映画館の予告編で見て面白そうだったけれども結局見なかったやつだ。
「これ、見てみる?」
「……うん」
私は選択して、ボリュームを調整する。よし。
時間がかなりあるので、こうやって無駄に使えるというのはありがたい。実際にはあと映画が二本見れるけど、集中力とかを考えると一本が限界かな。
そういうわけでオープニング。配給会社のロゴがいくつか。そうして映画が始まる。追いかけられている若い男性がが主人公かな。
「次の周では、なんか食べるものを買ってから来ようか」
「……そうだね」
内容としてはスパイもの。うん、特に言うこともないよな。
雑に爆発する車の映る画面から目を離さないようにしながら、手探りで枕元にあるライトのスイッチを操作する。いい感じにムードを残しながら部屋を暗くして映画館っぽい感じにしていく。
「こんなに銃が撃たれてるのに当たらないって、すごいよね」
「もし撃たれて死んだらカットって声がかかって、俳優のクローンが次の撮影に出るんだよ」
そんなアホな話をしながら物語は中盤へ。色々なところで撮影しているよな。どこまでCGなんだろう。ロケのほうが安くなるっていうのはたまに聞くが。あ、カーチェイスだ。そしてまた雑に爆発する。爆発好きなのかなこの監督。
で、まあちょっと大人向けの映画なので濡れ場がある。スパイの男性が相方となんかこうベッドでイチャイチャするやつ。
「いい身体してるよな……」
「……こういうのが好きなの?」
「見ていて楽しい、みたいな方が近いかな。抱きしめたときにはちょっと硬そうだけど」
そんな会話をしていたらなんか銃撃戦が始まっていた。なんてことだ。でもネオンサインに照らされる俳優さんのヌードはかなりいいものがあるな。
そんなこんなで窮地を脱した二人は最後の任務に挑む。
「……面白かったね」
「意外なほどによかったな……」
カーチェイス、銃撃戦、そんでもって最後にキス。筋としては王道で、実は組織内に裏切り者がいて男女コンビで同時に倒すみたいなやつだった。ちゃんと最後まで手に汗握る展開なのもいい。
「あ、続編があるんだ」
真山くんが言うように、映画が終わって動画一覧に戻るとさっきの映画の後ろに2とついているやつがあった。
「……もう一本行く?」
私の質問に真山くんは頷いて、私が渡したリモコンでさっきの映画の続編を選択した。