ドライヤーでしっかりと乾かして、なかなかいい手触りになった髪を触って私はちょっと満足な気分になる。
そうして備え付けの薄手のガウンっぽい感じの寝間着みたいなやつの前を閉じて、私はベッドのある空間へ戻る。
「……寝てる」
真山くんはここに来た時の服を着て、ベッドに倒れ込んで、ゆっくりと寝息を立てていた。そういえば真山くんは寝巻きを着なかったんだな。
「起きてる?」
私の言葉に、返事はない。目を閉じて可愛らしい顔をしている。まつ毛長いなぁ。深呼吸を一つ。
いやね、私だって相手の同意なしに襲ってはいけないっていう基本理念ぐらいは理解していますとも。でもこんなこう警戒心とか無いとね、なんかこう色々と誘ってるんじゃないかと思えてしまって。
落ち着こう。どこまでならやってもいいかな。膝枕してみるとか髪触ってみるとかぐらいならいいか。いいよね?もし怒られたらその時はその時で。
ちょっと脚を曲げて、真山くんの頭の下に入れるようにする。うん、無茶もしてないな。長くやりすぎると痺れそうだけど。
「……え、えっと」
手を髪の上に乗せてから一拍遅れてそう言った真山くんと目が合う。ええと、これってどうすればいいんだろう。
「……おはよう」
「……何時ぐらい?」
「わかんないけど、もう日付変わってからしばらく経つよ」
「……そっか」
そう言って、真山くんは私の方に少し身を寄せてくる。お腹に頭が当たってきている。
「……あの、ちょっと」
「これぐらい、いいよね」
寝ぼけているのか、それとも精神的に自制が効かなくなっているのか。いや私が色々やったせいで限界を超えてしまったのかもしれないな。
上半身を持ち上げ、私と顔がくっつくほどに真山くんは視線を上げていく。体重が私の手と重ねられた手にかかっているのがわかる。
「っ……」
何かを言うこともできない。息が当たっている。お風呂上がりなのもあって私の体温が高いのがわかる。でも真山くんにもちゃんと熱があるな。
「誘われっぱなしも嫌だし、煽られるのにも限界があるからね」
「……ごめ」
謝ろうとしたら、体重がかけられた。私の上体は耐えきれずに押し倒される形になる。背中に当たるスプリングの感触。
腕を動かそうとして、手首を抑えられていることに気がつく。よかった。思ったより緊張していないな。ガチガチに身体に力が入ってしまっているとかがない。
私のことを真山くんが正面から見ている。ちょっと力が強いけれども、痛くはない。脚は動かせる。もしなにかあったら、脱出ぐらいまでならできるかな。
妙に冷静だな、私。まだ主導権を握っているつもりでもいるんだろうか。あるいは真山くんならいいって思っているんだろうか。あるいは経験からたかだかこのくらいだって思っているんだろうか。
「……何度も言っているけど、僕は和乃さんが好きなんだよ」
「知ってるよ、何回か聞いた」
この言葉を他の周の私にも言ったのかな、というどうでもいい嫉妬が出てきてしまう。どうせ消える私なんだから全部ぶつけてもいいのにとかいう悪い考えが浮かんでしまう。
「……ごめんね」
「いやこの形で謝られても……」
普通に考えたら、高校生同士がしているのはちょっとまずい体位である。ああこれはちゃんと身体の姿勢の意味ってほう。
「……期待してるの?」
「何かって言われないと、わからないな」
「……場合によっては、僕は和乃さんの期待に応えられないけど」
「……そこまで重い期待はしていないと思うよ」
そりゃまあ、私だってよくある理想の相手とか考えないことはないですよ。でもそれってあくまで理想でしかないわけで、そういうのは他人じゃなくて自分に向けるべきものじゃないですか。
「……抱きしめて、いい?」
「何回もしてるでしょ」
私の記憶では数えるほどしかないが、前の自動販売機のときにハグをしてきたとは聞いた。というかもう少し軽率に抱きしめてくれてもいいんだよ。
真山くんは私の手首を離して、私を抱きしめるようにする。布一枚隔てれば下着だったり素肌だったりするのだが、まああまり気にすることでもないな。
「……眠いの?」
「……和乃さんといると、落ち着くから」
「……まあ、悪いことじゃないけど」
興奮して眠れなくなるよりはまあいいか。なんでここまで私に気を許しているのかな。私が言えた義理はないけど。
まあ、ゆったりさせておこう。もしここから発展するようでも私は構わないけど、真山くんはループ外でやろうと我慢するかもしれない。
いやでもそうすると、私が不可逆的に変わってしまいかねないんですよね。肉体的じゃなくて精神的な意味で。それは、正直なところ怖い。
でも私の知らないところで真山くんが変わってしまうのはもう少し嫌な感じがあるな。たとえ変わった原因が私だったとしても。
まあいいや、少なくとも今の状況に私は満足している。目を閉じてしまったらしい真山くんと呼吸のリズムを合わせて、私は身体にかかる重さを感じながら意識を手放していった。