今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 七回目 十一周目 三

私は歩きながら、ぽつりぽつりと話を続けていく。

 

昔、インターネットでゲームをしていたこと。

 

そこで出会った相手と、オフ会をしたこと。

 

互いの経験の無さから、恋なのかなんなのかよくわからない依存関係になってしまったこと。

 

肉体関係を持ったこと。

 

もちろん、ある程度は説明を省略する。私も相手も互いの本名すらろくに知らなかったし、そもそも出会うきっかけのTRPGの説明をしたらかなり時間がかかる。ああ、久々の卓をやりたいなぁ。

 

伝えるのは、真山くんに必要な情報だけでいい。どうせしばらくすれば私も消えるから、吐き出した後で残る辛さみたいなものは踏み倒せる。

 

そうは思っても、やはり何か形容しにくいものはあるもので。これについて考えたほうがいいのかもしれないけど、まあ逃げても責めるのは後の私ぐらいだからいいか。

 

「……そういうことが、あったんだね」

 

真山くんは、静かに私の隣を歩きながら言う。

 

「今となっては昔みたいな話だけれどもね」

 

「……これを聞いたこと、次の周とかに言ったほうがいいかな」

 

「好きにしてよ。私は言わなくてもいいと思うけど」

 

「……どうして?」

 

そう考えて、どうせならと私は全部言ってしまうことにする。吐き出すってかなり気分が楽になる部分もあるんだな。もう自暴自棄になっているだけかもしれないが。

 

「この事自体が第一級の秘密だから」

 

「……三つあるって言ってた、秘密の?」

 

「そう。二番目は昔使っていたSNSのもう消えたアカウントのIDとパスワードの組み合わせ。だからさ、真山くんは私のかなり重要な秘密をこれで知ったわけ」

 

「……そこまで言って、よかったの?」

 

「どうせいつかは言うことになるし、なら別に今でもいいかなって。言ってしまった事を私はもう後悔できないから」

 

「……ありがとう」

 

「知らないほうが良かった、って思う?」

 

「聞きたくなかったな、って思ってないと言ったら嘘だけどさ」

 

歩くペースは変わらない。私に無理のないテンポで、街灯が照らす歩道を一緒に歩いてくれている。

 

「……でも、知れてよかった」

 

「まあこれを聞いて、受け入れるかどうかは真山くんに投げるよ。どうせ考えるならそういうことを踏まえたほうがいいだろうし」

 

考えることが無駄だとは言いませんよ。私だって考えてなかったら今みたいな話ができないわけで。でも、答えがない問題は考えがずっと回ってしまうってことがよくあるのです。

 

「……僕は」

 

「それでもいいって、言おうとしているでしょ?」

 

「……うん」

 

「本当?少しでも嫌って思っているなら、それをちゃんと見つめて、それでも妥協するっていうならそれでいいよ。でも考えずに、その場の雰囲気だけで決めるのは良くない」

 

「……うん」

 

考えていたことを否定してしまっただろうな。でもそうでもしないと真山くんは酷く献身的になってしまうじゃないですか。私みたいに。被虐趣味が混じってないとは言わないけどさ、真山くん相手だけですよ。少なくとも今は。

 

「まあ私もループのときに真山くんに無茶な協力をしてもらったところはあるからな……」

 

「いつ?」

 

「前の回のとき。自動販売機でループの周数を覚えてもらったときの」

 

「ああ、あれね」

 

「いま思えばだけど、あれはちょっと私も無茶を言った気がする」

 

あのときに本来は真山くんが色々とできたはずの時間は、文字通りの丸一日以上。友人と話したり、のんびり本を読んだり、休み時間に学校の中で景色のいい場所を探したり。やれることは色々あった。

 

それを私につぎ込んだ、と言うつもりはない。私が真山くんにつぎ込ませたのだ。体調が悪かったのは言い訳にはならない。

 

たぶん、他の周の私はここまで考えない。だから今の私が謝るしかない。どうせ終わるんだから色々と言ってしまえ。

 

「……確かに、あれは大変だった」

 

「後から楽しかったって言うのは簡単だからさ、今を楽しまないと良くないよ」

 

「……うん」

 

「私はこういう歩くのも悪くないって思うけどね」

 

もし今周でループが終わって今から帰らないといけないってなったら嫌だけどね。そうなったら学校休んでもいいかな。家に帰って起きたら夕方とかになってそう。

 

「……次から、どうしたらいいかな」

 

「通話とかでいいのでは?」

 

「……そっか」

 

「あと三周。あ、あと本を借りに来てもいいよ」

 

「……それもありだね」

 

「お金は使いたくないだろうし」

 

「そうなんだよね、高校に入ってからループでお金使うことに慣れちゃって……」

 

「私に奢らせてもいいからね?」

 

「なんかそれはちょっと」

 

「わかってるよ、あとまあ私の話を聞いてくれたお礼をしたほうがいいかな」

 

「お礼?」

 

止まった真山くんに私は抱きついて体重をかける。いきなりの行動に真山くんはちょっと状況を飲み込めていないようで。

 

「……和乃、さん」

 

「今周のことは、忘れていいからね」

 

さすがに重荷になるだろう。忘れられなくとも、私がこう言ったことを免罪符にしてくれるといいな。まあ難しいなんてことはよくわかっているんですけどね。

 

[十一周目終了]

 

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