「はい」
野菜炒めがちょっと焦げてしまったので、黒くなっている場所は私のお皿に取り分ける。真山くんにも少し。残りは粗熱が取れたら冷蔵庫に入れよう。
「……いただきます」
律儀に手を合わせる真山くん。献立は冷凍ご飯を温めたやつ、もやし多めの野菜炒め、あとそこまでうまくふわふわにできなかった卵スープ。
「お茶でも飲む?」
「……もらえる?」
「いいよ、麦茶だけど」
コップを二つ出し、適当にヤカンから注いで置いておく。さて、私も食べるとするか。
「……和乃さんって、料理上手だよね」
「慣れ。回数をこなせばできるようになるよ」
「そういうものかな……」
「真山くんもやれば?」
「……そうだね」
おっと、この方面はちょっとよくなさそうなのでやめておこう。あ、味付けは悪くないな。
「今周で終わりなんだっけ」
「和乃さんの計算が正しかったら、そうなるはず」
「今まで何してたの?」
「……最近は、ゲームしてた」
「どんなやつ?」
真山くんが言うタイトルはまあ私でも知ってる超がつく程度には有名な基本プレイ無料のオンラインFPS。
「なるほど」
「和乃さんも、昔はゲームしてたって聞いたよ」
「……へえ」
「どういうのやってたの?」
「……TRPG、っていうジャンル」
「RPGじゃなくて?」
「テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム。役を演じるって意味ではRPGと同じだけど、本来机の上で紙と鉛筆とサイコロを使ってやるために作られていたもの」
「……そうなんだ」
そんな会話をしながら食事をする。お風呂が湧いた音がした。
「今周はどうだった?なにか面白いことあった?」
「……色々なところに行ったし、和乃さんから色々聞いた」
「どんなこと?」
「……昔のこと」
「……口が軽いなぁ。もしループ終わらなかったら、聞いたことをちゃんと言ってよ」
まだ、今の真山くんは信じられる。けれども、ほとんど条件無しで言う事を聞くような関係かと言えば少し怪しい。第一級の秘密を知っているっていうのはそういう意味なんだよ。
いや、信じられないってわけじゃないですけれどもね。極限環境での対応とかにまだ疑問が残るとか、そういう意味で。
「わかってる」
「……あと、たぶん秘密を言わなくても私は真山くんのために必要ならそれなりに動けるから」
「……前から疑問だったんだけど、和乃さんってどこまで想定しているの?」
「悪趣味なループものっていうのもあってね」
「……うん」
「誰かを犠牲にする選択があるぐらいならまだマシな方だよ。自分で手を下さないといけない場合もあるし」
「……あのさ」
「なに?」
「和乃さんは、それでもいいの?」
「私は面倒だから決定しないよ、真山くんの判断に従う」
どうせ物語の中みたいなものなのだ。作者の趣味でどんな胸クソ悪くなる展開が始まるかわかったものじゃない。そういうときに葛藤とかを無視してさくっとクリアさせる手伝いをするヒロイン役を演じられるのはまあ悪くない選択肢だと思うよ。
「それでもさ、僕が例えば……」
「具体例を挙げたほうがいい?」
「……うん」
「まあよくあるパターンは事故死とか殺人に巻き込まれる、とかかな。もちろん真山くんが今まで経験してきたようなループではそういう条件を満たすことで終わるようなタイプはなかったけど」
「……助けなくて、いいの?」
「天秤に乗っているのは真山くんが何も知らなかったら運悪く死んでいただけの同級生と、相当な数のループを経験して心が摩耗する自分だよ?」
「……そういうの、考えたことなかった」
まあ場合によっては私を殺さなくちゃいけないとか、私と一緒に誰かを殺さなくちゃいけないとか、そこまでは想定しているし必要なら付き合いはするよ。止めれるなら止めるけど、それでも無理にやるっていうなら秘密の話を持ち出せばいい。秘密っていうのはそういうときに使うものなので。
「まあ、私と真山くんの物語はそっち方面には行かなさそうだけどね」
「うん」
「あーあ、重い話になっちゃったね。味はどうだった?」
真山くんは私が食べるのとペースを合わせてくれていたのかな、ほぼ同じぐらいのスピードで食べ進めていた。量は私の半分以下なのにね。
「……おいしかった」
「それは何より。っと、そろそろ帰ったほうがいいのでは?」
「……そうだね、あまり顔を合わせないほうがいいだろうし」
そういえば真山くんは私の父とどこかで会ってるんだよな。具体的な話はもし今周で終わりなら明日学校で聞けばいいか。
「どういう感じだった?」
「なんていうか……和乃さんと似ていた」
「……そう」
ちょっと気分としては良くないが、客観的に見たらそうなんだろうなという理解はできる。まあやっぱり親子だしな。
「あと、本を借りるね」
「返すのはいつでもとは言わないけどしばらく待つよ、でも私の読みかけのやつはやめてね」
「大丈夫、それは確認した」
「……なら、いいけど」
「お皿は流しに置いておけばいい?」
「あ、いいよやるから」
「いや食べさせてもらったわけだし、お風呂冷めちゃうよ?」
「……洗うつもり?」
「ダメ?」
「……食器置く場所を説明させて。どうせ止められないから」
「……ありがとうね」
「いやそれ私の言葉だから」
そう言って私は台所に入り、さっき食器を取り出した棚を開けた。