今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 七回目 十七周目 三

私がお風呂から出て部屋に戻ると、真山くんは本に読み入っていた。

 

「……そろそろ帰ったほうがいいよ」

 

「うわっ」

 

私が入ってきたことにも気がつかないぐらい集中するのか、あまりいいことではないな。

 

「……大丈夫?」

 

「……うん。帰るよ」

 

「終わるといいね」

 

「……そう、だね」

 

まあやり残しとかあるのかもしれませんけど、今じゃなくてもできることはいっぱいありますよ。

 

「それじゃ」

 

「……うん」

 

名残惜しそうに真山くんは去っていく。さて、私はどうしようかな。寝るか。というわけでちょっとデータを確認しておく。寝るって言ってたっけ?いつ寝るかとは言ってないからセーフだよ。

 

もし今周が最後だと何ができるだろう、と考えて別に何かを今直ぐする必要はないとわかる。もし終わらないことがほぼ確定しているなら深夜まで脳を空っぽにして楽しめるバカな動画でも見るんだがな。

 

というわけで消灯。ベッドに入り目を閉じる。一応その日のうちにベッドに入れたことになる。実に良い子だ。

 

……いや、あまりよくないな。寝返りをうつ。夕方に寝てしまったせいか、まだ意識を手放せない。なんていうか、何かが頭の中で回っているけどそれが何かがわからない感じ。

 

また身体を倒す。スマートフォンを見たい誘惑に駆られるが、そうすると明日が辛くなるんだよな。

 

脳内で思考をまとめるほどの気力もなく、かといってベッドに全てを預けることもできず、ただ時間だけが過ぎてくる。

 

足音が聞こえる。扉の向こう、廊下の外側、革靴。鍵を出す音。捻って金属のパーツが動く音。廊下を進む足音。ああ、父が帰ってきたのか。ぼんやりとしているので考える速度がかなり遅い。

 

私の部屋の扉の前で足音が止まる。ノックの音。

 

「ユイ、起きてるか?」

 

扉越しの声。狸寝入りを続けてもいいのだが、私は少し気になることに気がつく。普通はこういう事する人じゃないんだけれどもな。重要な話じゃなきゃいいけど。ただ声色的にはあまり怒りとか興奮とかは感じない。まあもともとそういうのが薄い人だけど。

 

部屋が暗くとも慣れている空間なら歩くのは難しくない。積まれた本の場所ぐらいは覚えている。手探りでドアノブを掴んで引く。

 

「……起きたよ、なに?」

 

眩しさに目を瞬かせながら少し顔を上げると相変わらず冴えない細めの中年男性。

 

「さっきまで家にいたのは、同級生か?」

 

予想外の話をされたので、一旦深呼吸。嘘さえつかなければごまかせる。まあ別に隠すことなんてタイムリープぐらいしかないけど。

 

「……まあ、そうだよ。ちょっと勉強がわからないって言われてね」

 

「……あまり深夜に出歩くのは良くないぞ」

 

「わかってますって、私は善良でちゃんと条例を守る子だよ」

 

少なくとも今は、ね。昔の話を思い出して少し胸が痛む。裏切ったとかではないけど、無駄な心配をかけてしまったことはあるんだよな。

 

親の気持ちが完全にわかるわけでもないし、私の父が常に最良の選択をしてきたわけでもない。けれども、それなり以上には恩義と信頼がある人物なわけで。

 

「あとそうだ、あの子は男子か?」

 

「少なくとも私の知る限りではそうだよ?」

 

「……そうか、いつも一緒に帰っているのも?」

 

「……なんで知ってるの?」

 

そりゃ高校から帰ってきたら父がいるってことはあったはずだけど、真山くんと顔を合わせたことはほとんどないはずだ。真山くんの口ぶりからしても会ったことがあるのはループ中だったらしいし。

 

「インターホンのカメラに録画されていた」

 

「そんな設定があったの知らないんだけど……」

 

「防犯用の機能だ。スマートフォンに転送される」

 

一瞬娘のプライバシーはどこに行ったのかと言おうと思ったが、まあ家に一人の時間帯が長い娘がいる家に変な人が来ないか確認するぐらいはあるか。普通の判断だな。

 

「まあ、不健全な関係ではないよ」

 

「そうか、あと必要であれば紹介してくれ」

 

「……あのさ、同級生を父親に紹介する高校生の女の子っていうのが社会的にどういうふうに扱われるかわかる?」

 

「……確かに、誤解を招きかねないな」

 

言えばわかるので、父は話しやすい。

 

「真山翔太。私の同級生。勉強友達だよ」

 

「……必要なら、小遣いは増やすからな」

 

「使用用途は言う必要ある?」

 

「言いたくないなら伏せればいい。どう使うのかを選んでもいい年頃だ」

 

「そういうのを年頃の娘に言うと反抗されるよ、っと、お風呂は湧いてる。冷蔵庫に炒めもの。煮物どうだった?」

 

「美味しかったぞ」

 

「よっし」

 

残っていたら食べようと思っていたれんこんと人参と鶏肉をなんかいい感じに煮たやつは案外高評価のようだ。

 

「ただ、もう少し甘くてもいいかもな」

 

「砂糖とみりん、どっち?」

 

「……みりんだろうな」

 

「わかった。……そろそろ、寝ていい?」

 

「……そうだな、おやすみ」

 

「おやすみー」

 

そう言って扉を閉める。緊張した。なんていうか意外なところで気がつかれるものだな。今後は気をつけるとしよう。面倒なことにはならなさそうだし、色々考えるのは明日でもなんとかなるでしょ。

 

[十七周目終了]

 

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