様々な人が行き交う廊下。教室の扉の前に椅子と机を二組置いたお化け屋敷の受付。私が左で真山くんが右。
「すいません今のところ中混み合っておりまして、三十分後にまた来ていただければすぐご案内できるのですが」
私はたぶんうまくできていない笑顔を来場者に向けながら視線をちらちらと隣に向ける。クラスTシャツを来ている真山くんはやっぱ慣れないな。制服とか私服とはまた違った何かがある。
「お名前をこちらで控えさせていただくか、あるいはこちらのQRコードを読み取ってもらって……」
どこまでうまく話せているかな。後で真山くんに確認しておこう。たぶん早口とかになってしまっているよな。
「わかりました。ではまた後ほどお待ちしております」
そう言ってなんとか話を終わらせた私は腰を下ろす。やっぱ疲れるな。
「……和乃さん、上手だね」
「そう?」
「うん、とっても丁寧だった」
「まあ失礼な対応をして失敗した話があるから……」
小学校時代のインターネットの記憶が蘇る。今考えるとあの人は非常な慈悲の心を以て接してくださっていたのだな。もし電子の海でまた逢うことがあればお礼をしたいが、あのサービスはたしかもうなくなってしまった。
「……終わったら、どうする?」
「私は特に行くところとかもないけど、真山くんは?」
「ちょっと行きたい場所がある。……一緒に来てくれない?」
「いいよー」
タブレットで時間を確認。まだシフトの時間が残っている。今のところは十分対応できるペースだ。入力のために作ったシステムもちゃんと動いているし、対応のために残る必要もなさそう。
「そういえばさ、これ作った人なかなかおもしろい人で」
私は真山くんの持っているタブレットを見て言う。私とあの人の協力によってそれなりに便利なやつになった。実装は私がやったけどアイデアとかデザインとか何をするべきかを決めるとかが上手だったんだよな。
なんかちろっと染めた髪が見えてパンクな雰囲気で近寄りにくかったけど、普通にいい人であった。とはいえそういうふうに話しかける機会ってあまりないからな。
「……前に話したときは、あまりそんな感じじゃなかった気がするけど」
そうか、真山くんはこういう人にも話しかけてるんだよな。友達というか話し相手もいないような私にさえ声をかけたぐらいなのだ。
「いい人だったよ?先入観に邪魔されちゃったけどね」
「和乃さんと気が合ったの?」
「それなりに、ね。そういえば打ち上げに誘われたんだけど」
「……行くといいんじゃないかな」
「真山くんはどうする?」
「……できたら行きたい」
「わかった。その人が幹事するわけじゃないからちょっと話を通してもらえるか聞いてみるね」
そう言ってスマホでメッセージを送っていたらまた人が来ていて真山くんが対応してくれていた。ありがたいね。というわけで私の方で一人追加。画面を見せて確認も取ってもらう。
「……楽しみだね」
「なにが?」
「打ち上げ」
おや、少し意外だ。別につまらないと感じると思ってたとかそういうわけではないけど、ここまで上機嫌だなんて。
「真山くんはそういうのに呼ばれたりしないの?」
気がつくのが遅れたが、たぶんクラス内の仲良しグループごとに誘ったり誘われたりがあるんだろうな。私はどこにも属していないけど、真山くんは一応そういう集団に入ってないわけじゃなかったはず。
「最近はあんまり……」
「放課後に誘ってくる友達を勉強するからって理由で断っているからじゃないかなぁ」
ため息。いや別に私個人としては嬉しいんですよ。でもさ、特定の一人との関係を強くしすぎるのはそこまでいいものじゃないと思うんですよね。
「……知ってたの?」
「私と比べて真山くんはそういうのに参加してくれる空気があるんでしょ。もっとそういうのに行くべきだって」
このままだと私みたいな人間関係がダメな状態になってしまうぞ。それでもいいのだろうか。先が見えなくなってるとそれでもいいって思ってしまうんだろうなぁ。
「……そう、だよね」
「私だって私一人で色々楽しむことはできるしね、っとはい二人ですね?ちょっと今の混雑状況を確認します」
別のファイルを開く。これは全員に同期されてるやつで、今の色々な情報が整理されている。まあそういうわけでご案内できる時間が遅くなるかもしれないって伝えて予約の流れに持っていけた。
「思ったより人が来るんだね」
真山くんが言う。まあ全校生徒と保護者が来ているわけだしな。特にこういうイベント系展示には人が集まりやすいのもあるだろう。
「そうだね、早くシフトおわらないかな……」
私はそう返してタブレットに映る状況を確認する。予約が完全に埋まって来てくれた人に謝らなくちゃいけないってことは起きないだろう。
そういえば、真山くんと文化祭を回れることにいまさら気がついた。青春っぽいやつじゃないですか。どうせ真山くんとなので楽しめるだろうけど、こういうのは物語っぽいことができることに価値があるんですよ。