今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第八幕間 七

パックに入ったあったかい焼きそばを、真山くんを隣にちょっと陰になっている空間で食べる。知らないと入ろうとも思えないぐらいの場所だ。真山くんはよくこういう場所を知っていたな。

 

「……楽しい?」

 

「楽しいよ」

 

私は割り箸の上半分を軽く噛んで下半分を引く。思った以上に綺麗に割れたので嬉しいな。

 

「和乃さんがどう思っているかって、わからないことがあって」

 

「今はちょっと情報が多くて外に出す余裕がないだけだよ。……人が多いところであまりそういうのを表に出すのが苦手だっていうのはあるけど」

 

今更ながら、私は真山くん一人が相手ならたぶん相当に暴走できるのだろう。別にこれは真山くんに限った話じゃなくて、たぶんある程度話が通じる人相手ならかなりそうなんだろうけれども。

 

でも人混みの中でとか、そういうのは難しい。勉強友達ですって言ってる相手と楽しそうに一緒に文化祭回ってたらそれはもう答えみたいなもんじゃないですか。

 

解釈はできるだけ多くできる状態のほうがいいのですよ、特に相手が望むものがよくわかっていない場合には。私だけが空回りしているならいいのですよ、噛み合ってどっちかの歯が欠けてしまうよりマシです。

 

「……ありがとう」

 

「いいよ、私だけだったら行こうって思わなかったところを回れたから」

 

輪投げをやって、文化部のやってる展示を見たりして、これから行くのは体育館のライブだ。ちなみに私は音楽には特に詳しくない。

 

「それにしても、色々な人がいるんだね……」

 

通路の横を見ながら私はつぶやく。普段は制服で統一しているからか、それから解放された少年少女は目に見えて眩しい。いや普段があるから今が輝いて見えるんだけどね。あと最近できた友達だといつもからなんかロックな感じだったな。

 

「……うん。色々いるよ」

 

「真山くんは詳しいだろうね」

 

「高校入って三回目のループまでには同じクラスの人全員と話せたからね」

 

「私にも、か」

 

だから真山くんは私を選んでいるんだ、と思うところはある。たった二十五分の一じゃないかと考えてしまう私もいる。まあ真山くんの趣味とかを考えたらもう少し減るだろうけど。

 

確率の問題だ。真山くんにとって私が一番いい人である可能性は、対象をこの高校だけに限っても三学年と平均クラス数と二十五を掛け算したら、候補となりうる人は多少の数でわってもそれなりの人数になる。

 

その中の一人っていう枠を当てることができるほど、私は運がいいとは思えない。幸運と言えば真山くんと同じクラスになっていたことぐらいだ。いや相当な運だと思うけどね。私は真山くん以外にタイムリーパーを知らないし。まあなら別に真山くんの一番にぐらいなれてもおかしくないのか?

 

「……和乃さん?」

 

「祭りにはふさわしくない面倒事を考えていただけ。楽しまないと、ね」

 

私は思いっきり口の中にちょっと表面が冷めてしまった焼きそばを詰め込む。ちょっとむせそうになったがなんとかなった。涙目の私を真山くんはちょっと心配そうに見ている。大丈夫だよ。

 

「……そうだね。楽しまないと」

 

「面倒なことは今考えるべきじゃないからね、そういうのは後でいくらでもできるけど文化祭は今日で最後だ」

 

「……よし!」

 

というわけで食べ終わったのでゴミを捨てて体育館へ。模造紙に手書きで書かれるはセットリスト……とは違うよな。あれは一組のバンドでやる時だし。なんていうのかな、出演者名簿?

 

「というか軽音楽部から三つも出るんだ」

 

「むしろそうじゃない人たちもいっぱいいるって考えたほうがいいと思う」

 

「確かに」

 

そんなことを扉の向こうから聞こえる声なのかスピーカーから出るドラムとかベースとかなのかわからない音が響く。少しづつ気分がそういうものに潜り込むようなものになっていく。

 

「行こうか」

 

私は足を進めて、扉を開ける。身体に伝わってくる振動がお腹に響いてくる。いいよね、こういう空気。

 

踏み出していく。たぶんキーボードの速い音がする。何かわからないけど背筋がぞくりとするような音色が響く。

 

「ちょっと人多いから手を繋がせて」

 

人混みに入るように、私は真山くんの手を引いて進む。歓声が聞こえる。

 

ちょうど一曲終わったところのようだった。MCだろうか、前の方で誰かがマイクを持っている。騒がしくてスピーカーからの声もかき消されてしまうほどだが、途切れ途切れに次の曲のタイトルは私でも知っているものだった。

 

たまたまなのだろうか、選ばれていたのは高校生のラブソング。確かこれを作ったユニットの作曲担当がネットインディーズにいた高校生時代に作った合成歌唱のやつのカバーだ。カバー前のほうが好きですがこれはまあ趣味だよ。

 

「知ってる?」

 

演奏前の少しだけ静かになった瞬間を狙って、私は背伸びをして真山くんに聞く。手を引くと真山くんも耳を寄せてくれた。

 

「知らない」

 

「いい曲だよ、とても」

 

まあ半分失恋ソングみたいなもんなんですけどね、それはそれで。ドラムが鳴って、さっきMCをやっていた人がギターをかき鳴らした。

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