今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

129 / 200
高校一年生 第八幕間 九

ええ、不満ではありませんとも。親愛の表現ですものね。ええ。

 

息を吐く。真山くんにペースを作ってもらうのはちょっと難しいか。

 

「……その」

 

恥ずかしそうな顔をして、真山くんは私から少し身体を離す。逃さないぞ。

 

「……軽く目を閉じていたほうがいいよ、そっちのほうが感覚に集中できるから」

 

私も結構緊張してるな。経験があるっていってもそれは昔のことだし、あの時にみたいに何もわからなくなるぐらいに溺れるつもりはない。だからまあ、あるのは精神的な強がりだけということになる。

 

「嫌なら、振りほどいてね」

 

舌で自分の唇を湿らせて、私は真山くんの腋の下から手を回す。

 

「……あの」

 

身体を引き寄せようとしたら、真山くんがぽつりと言った。

 

「なに、始めたのは真山くんだよ」

 

そう言いながらも私は手から力を少し抜く。嫌だって言ってほしくはない。無理矢理したいって思わないわけじゃない。ただ、それを抑えることができるぐらいに私はまだ冷静なはずだ。

 

「……キス、だけにして」

 

「……それ以上は、嫌?」

 

色々なリスクとか、場所の問題とか。まあ、そういうことをするのにそこまで適した場所じゃないと言えばそうだけど。

 

「……打ち上げ」

 

少しだけ意味がわからずに固まって、そして私は真山くんを思いっきり抱きしめるようにしたまま、鎖骨の部分に口元を埋めて声に出さない笑いを出す。

 

「そうだったね、忘れてた」

 

「……うん」

 

「じゃあ、キスだけにしようか」

 

真山くんは小さく頷く。ちょっとだけ気分が変わった。傷をつけるよりも、後で思い出して笑える方がいいじゃないか。場所的にもあまりロマンチックなムードというわけでもないしね。

 

さっきされたように、真山くんの頬に唇をつける。産毛が生えているのがわかる。髭とか剃ったりするのかな。私はまだほとんど真山くんの私生活を知らない。

 

肌の手入れの方法とか、どんな歯磨き粉を使っているのかとか。別にそこまで知りたいってほど私は真山くんにのめり込んでいないけど、知る機会の無い関係だと言えばそれまでで。

 

まあいいや。舌を相手の唇の間に挟み込むようにする。緊張からか、ちょっと口周りの筋肉が固い気がする。

 

「力抜けるならそうして。体重は受け止めてあげるから」

 

そう言うと、真山くんから私にかかる力が増えた。もともと小柄な私の腿の上に乗った上で顔の高さを合わせようとしているのだ。ちょっと無茶な姿勢にはなる。

 

だから本当はもう少し安定して身長差とか体格差をそこまで気にしなくていい姿勢を取れる場所のほうがいいんですけどね。そういう場所については真山くんも知っているだろうけど。

 

まるで初めてキスするみたいな真山くんの口の中に、ゆっくりと舌を入れていく。まあ実際したかどうか、私は知りようがないんだけれどもね。言われてないってことはしたことないっていうふうに捉えたほうがいいのかな。

 

焦らさないように。優しくするように。これだけで完結するように。自分の中のスイッチが入らないように注意しながら、私は舌を引いて軽く真山くんの下唇を吸う。息が口の隙間から漏れている。

 

慣れたらしい真山くんの背から手をどけて、手探りで肩から二の腕へ、そして手首へとなぞるように動かしていく。私だって目を閉じているのであまり状況がわからないんだよ。

 

真山くんの手のひらは冷たい床に体重を分散させていた。ちょっと隙間から指を入れようとしたら力を抜いてくれたけれども、かわりに私の脚への負担が大きくなる。まあ数分だけなら痺れることもないでしょう。

 

手のひら同士を重ね合わせるようにして、指を絡める。真山くんの方もちろりちろりと舌を動かしている。少しづつ真山くんの手のひらに熱が戻っていく。力がかかっていく。

 

舌を入れられた。いいよ。軽く唇で挟むようにする。激しくはない。ハグみたいな感じ。準備のためのキスじゃなくて、ハグの延長みたいなものと言えばいいだろうか。

 

心音が聞こえる。どっちのだろうな。たぶん私。高揚感と緊張感が混じったやつ。こういうのが好きだ。もっと壊れるような感覚はそれはそれであるけど、今の私はこれがいい。

 

「……ぷはっ」

 

真山くんが小さな息を吐いて私から唇を離す。ゆっくりだけど荒い呼吸。

 

「……どうだった?」

 

終わりにしようと、という合図。こう言わないと私のほうがずっと続けてしまいそうだ。口の中が寂しい。

 

「……何も考えられなかった」

 

目を開けて真山くんが囁くような声で言う。絡めていた指からゆっくり力が抜けていく。

 

「そっか。慣れるとまた違った感じになるかもね」

 

真山くんが動いたので、私は立ち上がる。最終下校時刻っていつだったかな。文化祭だからたしか変わっていたはず。鍵を職員室に戻して、打ち上げ参加者には遅れたことを謝ればいいか。

 

「……和乃さんは、どうだった?」

 

「良かったよ。……また、したい」

 

最後まで余裕を保たせることはできなかった。どういう表情をしていいかわからなくて、私は袖で口元を隠すようにして真山くんに背を向けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。