今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 三回目 四十一周目

高校に入って最初の中間試験のテストを改めて確認しながら、私は少し笑みを浮かべる。

 

和乃(カズノ)さん、タイムリープものについて質問があるんだけど」

 

そういう声が聞こえて返却された解答用紙から目を上げると、同級生である真山(サナヤマ)くんがいた。

 

「……なに?」

 

タイムリープ。意識のみの時間遡行。作品によっては、というか時をかける少女では現象が時間跳躍(タイムリープ)瞬間移動(テレポーテーション)の複合だって言われてたよな。

 

「そういう作品の世界って、その時間を移動する人だけが特別になるのかな」

 

「……まあ、多分そうなるよね。一人しかリープしていないなら。ところで、どうしてそういう話を?」

 

「最近、そういう映画を見て。それと和乃さんは詳しそうだから」

 

なんだろ。まあ後で聞こう。

 

「……確かに、SFについてはそれなり程度の知識はあるけど」

 

正直こういう話ができる人がリアルの繋がりから出るとは思わなかった。落ち着け。

 

「それで考えてみたんだけど、ゲームのセーブとロードと似ているところがあるよね」

 

「まあ、最近の作品にそういうモチーフが組み込まれていないとは言わないよ。ちゃんと言うためには色々分析したいけど」

 

ゲームが他の物語にどれだけ影響を与えたかなんて、わざわざ語るまでもないだろう。私はそこまでやらないけど、積んでいるゲームはいくつかある。

 

「もしそうだとしたら、タイムリープをしている人以外はNPCなんじゃないの、って思って」

 

Non Player Character。中の人がいないキャラクター。意識の存在しないもの。

 

「独我論って名前がついてる」

 

「あるんだ」

 

「哲学方面は色々あるよ。私たちがちょっと悩んで生まれるような問題の大半は哲学の問題のリストになってる」

 

思考を思弁小説(Speculative Fiction)の方に切り替える。

 

「……確かに、説明はつくね。心身二元論をシミュレーテッド・リアリティ方面で解釈するタイプかな」

 

「和乃さん和乃さん、知らない言葉を出しすぎ」

 

「……ごめん」

 

やっちまったよ。ほとんど初対面みたいな人の前でオタク用語ひけらかす、なりたくないタイプの人間になってしまった。

 

「説明してもらえる?」

 

「わかった」

 

おお真山くん。君はなんていいやつなんだろう。不甲斐ない私を許してくれ。落ち着きましたか?落ち着いたよ。さて、深呼吸をひとつ。

 

「まずこれから話すことは、肯定も否定も今のところはできていない、思考実験の域を出ないものだと思って」

 

「うん」

 

「まず心身二元論から。心身(シンシン)っていうのは心と身、身体のこと。記憶とか意識とかが、肉体と切り離された別のものだって考え方だね」

 

心、って言うときに無意識に私は胸元を親指で示している。いやデカルトが言うには脳の松果体だっけ?

 

「……実際、どうなの?」

 

「脳神経科学はシナプスの結合が記憶と深く関わりがあることを示している。つまり、もしタイムリープが起きたとしたら脳そのものが、少なくとも脳神経の繋がった網目のパターンが未来からやってきていることになる」

 

「……うん。なんとなくわかる」

 

「本当?」

 

「ちょっとだけ、ニューラルネットワークの話を読んだことがある。重みに相当するものが、実際には神経の繋がりになる感じだよね」

 

「……そう」

 

理解が早い。というか本来はニューラルネットワークのほうが脳神経を模倣しようとしてできたものなんだけどね。実際は脳のほうがもっと複雑だったらしい。

 

「でも、もしそうじゃなかったとしたら?記憶が身体と切り離されたものだとしたら?そうしたら、魂の憑依みたいな感じでタイムリープは説明できる」

 

「となると、タイムリープがあるってことは幽霊とかがいてもおかしくない?」

 

「そうなるね。もちろん、タイムリープが起こっているからって物語に幽霊を出さなくちゃいけないわけではないし、その逆でもない」

 

「うんうん」

 

「これでタイムリープのうち、過去に記憶が行くことは説明できる。でも、外の世界の方は?実は何回も繰り返されているわけではなくて、ある時点でのセーブを持ってきているだけだとすれば?」

 

そう言いながら私は手元の紙を裏返してちゃっちゃかと図を描く。何本もの矢印の束は平行世界モデル。それとは別に、下に一本だけ独立した矢印を描く。

 

「世界全体を巻き戻すのは大変だから、ある時点の保存したデータに戻ればいい」

 

「世界はゲームじゃないよ」

 

「なんでそう考えちゃいけない?」

 

私は言って、二つの単語を読めるぐらいの筆記体で書く。

 

Simulated Reality(シミュレーテッド・リアリティ)。その世界は、ループしている人だけのために作られた仮想世界って考え方を使えばいい」

 

一本の矢印に縦線を何本か引いていく。

 

「セーブとロードを繰り返しても、記憶に相当するプレイヤーは世界の外にいるから巻き込まれることはない」

 

線の外に目を書いて、全体を見えるようにする。まあ実際、この目はタイムリープを主観的に経験する存在であり、読者であるんだけど。

 

「……わかった。ところで、こっちの図は?」

 

「ああそれ?タイムリープが実際は複数の並行世界を意識だけで渡り歩くものなんじゃないかっていう考え方のための図」

 

「そういうのもあるんだ」

 

「まあね、タイムトラベルとか自我みたいなあたりは色々と考えられ

 

[四十一周目終了]

 

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