「食堂混んでるから、コート取ってこようか?」
体育館から教室へと帰る最中に真山くんからそう言われて、少しだけ頭を回す。たぶん私ならわかると思って伝える情報を最低限にしているな。食堂とコートにどう関連があるかよりも私が今後どう動くかを踏まえたほうがわかりやすいか?
「ああそっか、男子が着替えている最中には入りにくいか」
「そう言ってた」
「……取ってきてもらっていい?お礼かはわからないけど奢るので」
「……お弁当、食べる?」
「食べるよ、今の私は食べたことないから」
「前にも食べてなかったよ」
「三周目ならそうかも」
まあいいや、もし苦手なものとか入っていたら真山くんに共有してもらおう。これは食べてもらうっていうのと次以降の周で伝えてもらうっていうのとの両方。
「……そうすると、急いだほうがいいかな」
「そうだね」
そういうわけで真山くんだけ教室に入ってもらって私の外套を持ってきてもらって、足早に食堂へ。まだ混み始める前に到着することができた。もちろんであるが、ジャージ姿の人は少ない。いや一応いるにはいるな。
「というわけで好きなものを買うが良い」
そう言って私はお札を真山くんに押し付けるようにして渡す。これ全部使うとなると定食頼んでプラスでうどんとかになるけどそこまでは食べないでしょう。
「……いいの?」
「もし今周で終わることになったら奢りってことで」
引き換えではないが私は真山くんが持っていたお弁当の入った袋を受け取る。
「……買ってくる」
「じゃあここで待ってるね」
レジ近くの席を取れたので私は真山くんを目で追いながら考え事をする。今日は寒いからか変な方向に思考が向いてしまうな。
真山くんの意識だけがタイムリープするなら、それは魂みたいなものが存在するってわけで、そう考えると本当にタイムリープが終わった後に私が消えるのかというと難しい問題になってくる。
下手するとそもそも存在みたいなものすらいいかげんになってくるしな、まあこういう面倒なことを考えられるのも今のうちではある。
さっき聞いた今周が終わるまでの時間はあと四十分ぐらい。のんびり食べながら会話したら終わってしまうぐらいだ。
でもそこまで話す内容もないと思うので、ある程度は黙々と食べることにしよう。まあ真山くん側から話したいことがあれば話しかけてくれるだろうし。
「買ってきたよ、これがお釣り」
「はーい」
何枚かの硬貨を受け取って財布に戻す。
「先に食べてても良かったのに」
「……一緒に食べたほうがいいかなって」
「……そうだね」
ちなみに真山くんが頼んだのはいつも私が食べているような日替わり定食だ。これは何も考えなくともそれなりに美味しいものが出てくるのでお気に入りである。
「いただきます」
「いただきます」
というわけで私は真山くんのお弁当を開く。高校生男子らしくしっかりと量があるな。二段式で一段目がごはん、二段目が煮物と……これは炒めものかな?あと卵焼き。
「……コンソメ?」
卵焼きに確かに出汁を入れたりとかはするが、確かにそれならコンソメを入れてもおいしいはずである。ちょっと思ったのと違う味だったので驚きはしたけど。
「どう?」
「おいしい」
「よかった」
ちょっと嬉しそうな真山くん。まあ彼のお母さんが作ったものなんだけれどもね。
味付けもいい。頭の中でレシピを再構成しながら食べていく。隠し味とかがわかるほど舌が良いわけではないけれども、こういう食事をしっかり楽しむような余裕は失いたくない。
「和乃さんってさ」
「ん?」
「楽しそうに食べるよね」
「……今は、ね。いつもはどうだかちょっとわからない」
学食とかではもっと何も考えていない気がするな。そういうときにどういう行動をするかが重要なのかもしれないが。
「……おいしい?」
「とても。他の家庭の味ってこういうのなんだ……」
一応父と母の味付けは両方とも身につけているし、料理もそれなりにやっている。だからこそ、こういう知っている料理の知らない味が楽しい。
「前に和乃さんの作ったご飯食べさせてもらったの、覚えてる?」
「ええと、この前のループの時」
「そう。……最近さ、料理をやってるんだ」
「家で?」
「……うん」
ちょっと恥ずかしそうに真山くんが言う。
「いいことだと思うよ、お弁当を作るとなるとかなり大変だけど」
「そうなの?」
「基本的にある程度の量をまとめて作ったほうがやりやすいからね」
「ああ、なるほど」
「味付けとかも作る量が少なくなるほど難しくなるし。だから晩ごはんを作る時に少量だけ取り分けておくとかしておくといい」
「……そこまで考えてなかった」
「別にあまり考えなくてもいいよ、真山くんのお母さんなら料理上手だと思うから」
まあ、私にはそこまで料理の悪しはともかく良しはわからないんですけどね。多少は苦手なものもあるが大体は美味しく食べれてしまうので。
「……今度、作ったものを食べてほしいんだけれども」
「今言わないでよ、終わっちゃうんだから」
私は笑って言った。悲しそうな感じになってないといいのだが。