「お疲れ」
冷水機の水を飲んで帰ってきた私に真山くんが汗をタオルで拭いながら言う。いやこの寒さと湿度の低さでよくまあそんなに汗を。
「冷えない?」
「ちゃんと拭けば大丈夫」
「よかった」
「あと、ループしてる」
「……へえ、どんな感じ?」
びっくりしたがちゃんと隠せているかな。いきなりそんな事言うなよ。まあ口ぶりからして重要そうじゃないからいいんだけれども。
「意外な人と色々話せている」
「それはそれは」
タイムリープの本来の使い方ではないが、少なくとも私と過ごすよりは有意義だろう。なにせ私と何度も話してもそこまでわかることは少ないのだ。
それなら他の人とのコミュニケーションに使うほうがいいね。うん。いえ別に嫉妬とかではないです。なんか最近こういう感情がすっと心のなかに湧いてしまうので困りがちだ。
「……和乃さん?」
「いや別に、ちょっと妬いただけだから大丈夫だよ、気にしないで」
普段なら言わないだろうことがすっと口から出てしまった。何でだろうな。言ってから恥ずかしくなってきそうな気配がしたので完全に開き直ることにしよう。
「……焼く?」
「嫉妬とか
「そういう読み方があったんだ」
「あまりメジャーじゃないかも」
小説とかではよく使うんですけれどもね。
「……やっぱり、和乃さんってそういう事を思うの?」
「……まあ、ね」
「……ごめん」
「謝ることじゃないよ、別に私は真山くんをなにか契約とか約束とかで縛っているわけでもないし」
そもそも私たちの関係だってちゃんと決まっていないのだ。そりゃ他の人とキスしてるとかならちょっとあれかな。いやでも真山くんのほうからキスしているとかすごくないか?
うん、もしそうだとしたら純粋に友人として技能の向上を褒めるべきかもしれない。なんか真山くんに向けていた気分が消えてしまったな。こういう消し方があるのか。
「……それでも」
「……言い方が悪かった」
そう呟くように言ってから、私は真山くんの耳元に口を寄せる。
「君が大切じゃないってわけじゃないよ」
ちょっと顔を離すと驚きと困惑と照れの混じったような表情。うん、まだそういう段階か。ここでかっこいい返しを挟んでほしいって考えるのはたぶん芸人魂に近いな。
「……ねえ」
「ん?」
「和乃さんってさ、僕以外にもこういうことしてるの?」
「する相手がいると思う?」
これは真山くんが特別ってわけじゃないです、純粋に知り合いが少ないだけです。
「……そっか」
「あと安易にループ中だって言うとこういう事されるから気をつけなね」
私がしなければいいだけの話なのだが。加害者が言っていいラインを超えていないか心配なのでもし微妙そうだったら直ちに謝ろう。
「……やっぱり、言わない方がいい?」
「……私がどう思うか考えるのは大切だけどさ、ループで抱え込むものも多いだろうし気軽に頼ったり投げたりするのもいいと思うよ、私からすればそう長い時間じゃなければ大丈夫だし」
そりゃ一週間ぐらいのループの際に数日悩んでしまうような重いものを投げられると辛いかもしれませんけどね。
「ところで、今周は?」
「……ほぼ二時間。二十九周中七周目」
「四分の一終わったところか」
「そうなる」
「……それにしても、体育に当たるってツイてないね」
「そうでもない」
私はそこまで言い切れない、とは返さない。どうせ真山くんなら私がどれだけ体育が苦手かは場合によってはその目で何度も見ているでしょうし。
「……成長とかあるの?」
「うん、クリアってわかる?」
私は首を振る。副教材には目を通したけど流石に細かい用語までは覚えていない。
「奥の方まで打つやり方のことなんだけど」
「すぐに減速しない?」
「だからうまく当てるのが難しい」
「できるようになってきた?」
「やっぱり練習すると上手になってくる」
まあ休憩入れても短期間に八時間やってればそうなるか。それに体力の消耗もループで回復するとなればずるいとしか言いようがない。
「そう。まあ私はまず当てるところからだからな……」
「……あのさ」
「なに?」
「飛んでくるシャトルをちゃんと見てみたら、やりやすくなるかもよ」
「……前の私がそうだった?」
「……この事を言うのは初めて。一緒にやった人が前の周で言ってて」
「……なら、やってみようか」
得点係は他の人にやってもらえばいい。ずっとやっていたので特に問題はないはずだ。
「頑張って」
「いや教えるの上手い人に頼んだほうがいいからお願いできる?」
別に外野から色々言われるのは我慢できるのですが、試合を楽しもうと思ってやっている人に対して私みたいなゲームが成立しないような相手だったら失礼じゃないですか。真山くんならそういう事していいって言うのはちょっと違う気がするけれど。
「わかった。……試合というより練習になるけど、いい?」
「体育の授業だからね、点数係をやってくれる人には事前に断っておくよ」
試合としてみれば明らかなハンデをつけているようなもので、それでもどうせ私が結果として負けることになるんだからな。まあどうせあと一時間半強で終わるのだ。恥なんていくらでもかいて今後の周の私に真山くんが教える時の参考になるようにしよう。