「……やっぱダメだ!」
真山くんのお弁当を一割ぐらい食べたところで私は我慢できずに声を抑えて叫ぶ。周囲に人がいるので大声は出さない。とはいえちょっと周囲の視線がこっち向いた気がするが気のせいだろうな。そうであってくれ。
「……なにが?」
うどんを食べる手を止めて真山くんが言う。
「下手くそなバドミントンをしたことに対する羞恥がいまさら襲ってきた……」
あと三十分ぐらい我慢出来ないものか、と思ったがそう簡単に自分の考え方とかを制御できたら苦労しないんだよ。
「……そうなんだ」
「そうだよあの憐れむような目は辛い……」
「でも、明らかに上手になっていたよ」
「真山くんが上手だからだよ、本当に教えるのは今周が初めて?」
「うん」
「なるほど……」
目線の方向、手の動かし方、そういう部分をかなり丁寧に教えてもらった。おかげで今まで七割だった当てれた確率が八割ぐらいになった。本当はこういうのが教師の仕事なんじゃないですかね?
まあ二人か三人で三クラス八十人弱を見るとなると事故起こらないか見守るのが限界になるよな。だから私は今まで得点係ずっとやっていても黙認されていたんだけれども。
「……どうだった?」
「ちょっと面白そうだから今後もお願いしていい?もちろん飽きない範囲でいいし、私が本格的に嫌がったらやめてほしいけど」
「そこまで?」
「そこまで、ってどういう意味?」
「和乃さんはそういうの、かなり嫌いそうだったから……」
まあ確かにそう見えるだろうな。私は前の体育祭の時もできるだけ動くのを避けていた。そもそも筋力も持久力もないし、動体視力みたいな方面でもかなり下の方にあると思う。なのでそもそも体育が楽しかったという経験はほとんど無い。
「楽しかったからだよ、だから真山くんは教え方が上手だって」
ただ、今周は良かった。タイミングよく褒めること、あるいはミスをできるだけ噛み砕いて説明すること。私の欠点を指摘するような口調ではなく、こうすればより良くなるというふうな言い回し。そういう一つ一つのおかげで、私は少しだけ成長するための姿勢を取ることができた。
もちろんある程度は今まで自習室で真山くんと教えあっていた時の話とかが生きていると思いますよ。ただ、それをちゃんと身につけて実践したのは真山くんなのだ。そこは動かしようがない。
「……ありがとう」
「あとお弁当おいしい、これは何度も言ってるだろうけど」
「……母さんに言っておく」
「よろしくお願いいたします」
まあ息子が同級生の少女にお弁当をわける意味っていうのはちょっと面倒になりかねない気がするがいいか、そこは真山くんを信じよう。まあ一応顔見知りではあるから何かあったら私が直接出向けばいいか。そっちのほうが誤解を大きくしそうな気もしなくはないが気のせいだな。
「いやでも、そうか、体育ってちゃんとやれば動けるようになるんだな……」
私はいわゆる座学はかなり得意なのだ。なのでまあ、学ぶのは下手ではないはずである。できなかったことができるようになる楽しみは知っている。そのためにちょっと先が見えなくても手を動かすことの重要さもわかっている。
そう考えると、自分で思っているよりもできるのかもしれないな。そういう環境を整えるのがとても難しいってことに目をつぶればだけれども。
「そうだよ、だから頑張れば」
「私はループしないんだよ……」
確かに真山くんが私に教える方法を改善させていけば、周の終わりのタイミングで私が到達できる技量はある程度までは上げることができるだろう。でも最終周の私が練習できるのはたかだか一時間なのだ。
「……それでも、さ、今周は楽しめたわけだし」
「かなり運の要素もありそうなんだよね、私の気分はループごとに変わりやすいらしい……って真山くんが言ってた」
「たぶんどこかで言った」
私はできるだけ劇的に色々やっている。劇的っていうのはドラマみたいにってことです。演ずるわけですね。ボーイミーツガールのガールとして真山くんに接している時は結構楽しい。
なのでたぶん、真山くんがどういうのを投げてくるかによって即興劇のシナリオがかなり変わるのだと思う。これは相性みたいなものもあるかもしれないな。そもそも真山くんは私に出会うまではループ中に特定の相手とずっと話すとかはなかったらしいし。
「……それでも、僕の個人的な意見だけど和乃さんは運動できるようになると思うよ」
「楽しければ、ね」
「……楽しませてみせる」
「それはいいけど、自分の時間も大切にしなよ?他の人に教えるのもたぶん学びになるだろうし、なにより私とずっといると飽きるでしょ」
「……そんなことは、ないよ」
「否定してくれないと真山くんが私さえいれば満足する相当やばい人になるんだけれど……」
私の言葉に真山くんは反論しようとして、ちょっと黙って目線をうどんに戻してしまった。言い過ぎたかな。まあ私だって真山くんがいればそれなり程度には満足だけど。