今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 八回目 十二周目 一

息が苦しい。冷たくて乾燥した空気は喉の水分を容赦なく奪い去っていく。体温が上がりすぎないのはまだマシだが。

 

真山くんのラケットが空気を切る音がする。小気味良い、そしてもう聞きたくないと考えてしまうような音。歯を食いしばり、足に力を入れる。

 

目線をそらすな。右か左か、前か後ろかを判断。何度かやって少しづつ掴んできた、ここをラケットが通るという空間をシャトルの進路と重ねて、振りかぶる。

 

手に伝わる衝撃。振り切ったタイミングでたぶん手首の角度か何かが悪かったのだろうと察しが付く。本来なら通ってほしかった軌跡の随分手前をシャトルは飛び、ネットのあたりで減速する。

 

「っと」

 

素早く真山くんは滑り込むようにしてラケットに当てようとして、失敗する。一応私の得点、というわけだ。

 

「……ごめん」

 

更新された得点板を横目に、私はネット越しの真山くんに声をかける。

 

「思っていたのと飛び方が違った?」

 

「そう、だね。もっと強く真っ直ぐ当てるつもりだったけど、右にそれた」

 

「……打った後も視線をシャトルに向けるとか、どうかな」

 

「打った後に?」

 

無駄だろ、と一瞬言いそうになる。念じたって運動する物体の動きを変えられるわけではないのですよ。真山くんがタイムリープできるなら私は念力でも使えるのか、と考えてしまうので後で真山くんに言い方を変えるようお願いしておくか。

 

「そう、見るっていうか、飛んでいく方向をイメージするというか……」

 

「……やってみる」

 

辛い。周囲からの視線を気にする余裕があるとはいえ、それがいつまで続くか。運動不足が祟っている。

 

そういえば真山くんはいったいいつ運動しているんだろうな。そういう体質なのだろうか。あるいは休日に自転車を乗り回しているとか。それはありそうだ。

 

シャトルを受け取って呼吸を整える。打った後も視線を向ける、だったかな。

 

真山くんの場所を狙う。目指すは試合ではなくラリー。まあ問題は私が返せるかどうなんだけどね。サーブは今のところ外すことがそれなりに少なくなった気がする。まだループであることを告げられて特訓してから三十分ぐらいなんだがな。

 

だいたい狙った場所に飛ばせるようになった。真山くんが返してくる。こういうのは素早いな。そして私が打ちやすい場所だ。よし、さっき言われたことを思い出せ。

 

ラケットを振りかぶると、ちゃんと綺麗に飛んでくれた。今までこのレベルで綺麗に飛んだのはないかもしれない。

 

もう一往復。ちょっとだけ楽しくなったところで、ラケットを持った手から受ける衝撃がさっきまでとは違ったものになる。ああ、これは良くないやつだ。

 

案の定、シャトルは大きくそれてネットを越えたは良いものの線の外へ。

 

「……あまりコートを占領しすぎるのもあれだし、一旦終わりにする?」

 

「そうだね」

 

というわけで得点係に声をかけて、私たちは休憩する。できる人にマンツーマンで教えてもらうっていうの、かなり成長を実感できるので悪くはないな。

 

問題は真山くんの時間を使うこと。二時間ごとにリセットされて成長しない私を教えるの、そこまで楽しいかな。

 

「……お疲れ。大丈夫?」

 

「結構喉が痛い」

 

「口、閉じてたほうが良いかもね」

 

「そうすると酸素が足りなくて……」

 

「そっか……」

 

まあでも、身体を動かすのは今までならやけに時間が長く感じていたはずだが真山くんとやっているとそこまでではないな。体感時間と時計の時間が同じぐらい、と言えばいいだろうか。

 

「どう、上手になった?」

 

「今までで一番良かったと思う」

 

「真山くんの教え方が上手になっている証拠だよ」

 

というか、それ以外の解釈をするべきではないだろう。なにせ私がバドミントンの練習をちゃんとやろうと思い始めてからまだ二十分程度しか経ってないのだ。それでこれだ。

 

「よかった」

 

「あと別に、私にそこまで構わなくていいからね」

 

「ちゃんと休み時間までは他の人と色々やったりしたから」

 

「……うん」

 

それはそうと嫉妬心みたいなものが湧いてしまうのは仕方がないな。できるだけ自分の中で終わらせておきたい。

 

「そろそろ折り返しだし、頑張らないと……」

 

「ループ中ぐらい気を楽にしなよ……」

 

真山くんは真面目なやつだ。もっとこう、欲求に素直になれとまでは言わないけどのんびりしたり好きなことをするべきではなかろうか。

 

まあ私に教えて私が成長するのが楽しい、というのはわからなくはないですよ。というかそういうのが私も真山くんも好きだから自習室での勉強会なんてものが成り立っているわけで。

 

あれが純粋な恋愛とか劣情とか由来なら、とっくにどっちかの家での勉強会って形になっていますよ。そうじゃないのは真山くんがいいやつだからです。私があまり行動しないせいかもしれない。後者のほうが大きい気がしてきたな。

 

まあでも今周はちゃんとバドミントン頑張ったんだから許してもらおう。ループ中に真山くんに甘えると私が一回しか甘えていないのに真山くん側からすると数十回甘えられたことになるとかの形でバランスが崩れかねないけどね。

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