「……お昼、食べたい?」
「お弁当?食べたいけど」
教室までの廊下を歩きながら真山くんと話す。よく考えるとかなり距離が近くないとしないような行為をしているよな。
「そうなんだけど、そうじゃなくて」
「どういうこと?」
「……時間を作れるか、って意味で」
「いいよ、真山くんのことを優先するから」
私は思考を切り替える。なるほど、何をしたいのかだろうか。お昼休みまるまるを使うようなことか。残念ながら真山くんから出てきそうな候補がない。
「……ちょっと、寝たい」
やってきたのは意外な提案だった。いや提案というか、要望かな。
「疲労とかってリセットされるんじゃないの?」
「頭が疲れてる、って言えばいいかな……」
なるほど、記憶は持ち越される以上短期記憶の限界とかそういうものかもしれない。
「いつもはどうしているの?」
「授業中ならちょっと目をつぶってとかしているけど、体育だったからできなくて」
「ほぼ丸一日起きて、更に運動までやってるわけから仕方ないか」
「……それで、だけど」
「保健室の確保?まあ場合によっては次の周とかがいいかもしれないよ。体調悪いフリなら言ってあげればたぶんしてあげるから」
「……そうじゃ、なくて」
「どういうこと?」
「……手を、繋いでほしい」
「……ああ、そういう。いいよ」
頭がちょっと暴走しそうなのでなんとか落ち着ける。息を吸うと喉がまだ痛む。まあ楽しかったからそれぐらいはいいんだけれども。
「それじゃあ……保健室?それとも他に寝るのにいい場所あるかな……」
頭の中で学校の地図を思い浮かべる。大体の場所は使えない。いや、ある。この時間帯にはまず人が入らない場所。
「保健室ぐらいじゃ……」
「横になるだけなら自習室で良いのでは?」
「……椅子の上で寝るの?」
「保健室のベッドだって硬いし、あまり変わらないと思うよ?」
「……一回ぐらい試してみても良いかも」
「なら鍵を取ってくるね、先に行ってて」
というわけで疲れているらしい真山くんに代わって私は職員室へと走る。
「自習室?どうして?」
時間の都合からか、いつもあまり話さない先生に鍵を貸してもらうよう頼むことになる。
「次の授業で使う教科書を忘れてしまいまして」
「あの部屋はそういうためのものではありませんが」
「……というと?」
「……教科書を借りたい、ということではなく」
「昨日勉強した時に忘れたんですよ」
まあそういう食い違いはあったが、別の先生からいつも自習室で真面目に勉強している子だからと補足を入れてもらってなんとか借りることができた。やっぱり日頃の行いがいいとたまに悪いことをする時に便利ですね。
というわけで私は無事にジャージのまま自習室にたどり着くことができた。
「ごめんね、待たせて」
「そんな待ってないよ」
真山くんの手にあるのは私のコートとお弁当が入った袋。まあ私は食べても食べなくてもいいか。部屋の電気はつけないで、鍵を内側から締める。
「何してるの?」
「廊下から見えない場所で寝たほうがいいでしょ」
私は椅子を動かしながら言う。さすがにこの部屋に監視カメラの類はない。もしあったらさすがに面倒すぎた。まあ常に監視されているというわけでもないだろうしループ中限定と割り切ればいいのかもしれないが。
扉の窓と本棚の位置関係とかもあって、この自習室には死角が存在する。といってもそう大きなものではない。椅子を並べて作ったベッドが一つ置けるぐらいだ。
「はい」
「……うん」
真山くんはちょっと緊張しながらごろんと身を横たえる。まあ立ったり座ったりするよりは楽になるか。
「それと、手を出して」
「……はい」
さて、どう繋ぐのがいいのかな。というかこれ下手しなくとも看取りみたいな感じになってるか。見送られるべきは私だというのに。悪いジョークだ。
「指を絡めるのはさすがにあれだからね、眠れなくなったら困るでしょ」
私は枕元の椅子に座って、両手で真山くんの手のひらを包み込むようにする。あったかいな。私はちょっと指先がかじかんでいる。
「……ありがとう、ね」
「とっとと寝なさい、時間があまりないんだから」
「……わかった」
そう言って真山くんは目を閉じて呼吸を落ち着けていく。うーん、確かここ飲食禁止じゃなかったかな。お弁当持ってきてもらったのはいいけど食べることはできなさそうだ。
ちょっともったいないとも思う。もし真山くんが完全に寝たようだったらちょっとつまみ食いしてもいいかもしれない。というか私も疲れているな。
軽く目を閉じる。手の熱に意識を寄せる。まったく、無防備というかなんというか。本当は添い寝とかしたいけど、ベッドがない。放課後に私の家にでも呼んであげるとか。いやダメだな。
たくさん動いた分の疲労が回ってきている。身体が一気に重くなってくる。椅子の背もたれに体重をかけるようなやり方はどうにも不安定で、床でもいいから横になりたいとか考えてしまう。ちょっと冷たくて体温が奪われそうなのでしないけど。
どうせ私はもう終わりなのだ、と半ば自棄になりながら、私はちょっと笑って身体の力を抜いた。