「よっ」
真山くんに言われた通り、力を抜いて目線を意識してラケットを振るうとかなり綺麗に飛んでくれる。明らかに打ちやすい場所に返してもらっていることには目をつぶろう。おかげでちゃんとさっきまで練習したのと同じ角度で打つことができる。
「上手だねっ」
「おかげさまでっ!」
シャトルが身体の左側に来た。足を動かすには時間が足りない。なら、手を動かすだけだ。正直無理かと思ったがなんとか逆手でも打ち返せた。とはいえ軌道はあまり良くない。
それでもネットは超えて、真山くんは飛び込むようにしても打てなくてゲームが終わる。一応私の勝ちってことになる。もちろん相当接待されたプレイなわけだけどね。最後のやつも狙えたわけではなかったし。
だから何だと言う話である。純粋に練習だよ。それに今回の本題は真山くんがちゃんと私に教えるコツを覚えているかどうかの確認という側面のほうが大きいし。だから周りからの目線とかは気にしない。というわけでネット越しに真山くんに声をかける。
「どう、感覚は取り戻せた?」
「……いい感じだった」
「それは何より」
どっちがどっちの確認をしているのかわからなくなるような会話だ。ええと、コートを抜けながら深呼吸がてら現状を把握しよう。
真山くんは二十四周目。終わるのは以前の私の計算によると二十九周目。もう終盤戦というわけだ。なのでこの最後の周に私が少しは楽しくバドミントンができるようにすることが目標らしい。
そのために今周、真山くんは私に協力者として依頼をした。そして私は教わる側として意見を述べたかったのだがちょっとそこまでの余裕はないな。息を落ち着けるのにそう時間はかからないけど、なんか身体が熱くなる高揚感が残っている。
「体力をあまり使わせないようにしたんだけど、どう、かな」
「もとの体力がダメだから辛いには辛いよ、たぶん後を引くほどではないと思うけど」
鼓動が感じられると言っても、張り裂けるような痛みとかそこまでではない。自然に運動をして、身体のスイッチが入った感じ。こういう形で運動のやる気が出るの、体育の授業中にはあまりなかったことだ。
たぶん辛くない運動の範囲で、前向きに取り組めばこうなるのだろうがそういう経験はあまりない。いや、以前真山くんから聞いたところによると深夜サイクリングとかやった時にはそうだったのかもしれないな。そういうのを続けることができれば体育も下手ではなくなるかもしれない。
「……よかった」
「で、ブランク期間の間に色々できた?」
「……結構話せた。楽しかったよ」
「それは何よりで」
今の私はちょっと脳に回る酸素が少ないせいか妬く感じの感情が湧かないな。つまりは首とか締めてもらえばみたいな悪い発想が出てきたのでこっち方面は封印しておこう。
「……あのさ」
頭の中で面倒な感情を段ボール箱に詰めてガムテープでぐるぐる巻きにするイメージを浮かべていたら真山くんが心配そうに声をかけてきた。
「ん?」
「和乃さんって、やっぱり僕を独占したいの?」
「そういう真山くんはどうなのさ」
ちょっと感情がよくわからない感じになりそうだったので、なんとか打ち返して心の整理をする時間を作る。自分の中の独占欲はあまり直視したいものじゃないけど、どこかで折り合いをつけるかしないといけないよな。
「和乃さんのことは特別に思ってるけど、なんていうか、そこまで縛りたいみたいなのが浮かばなくて……」
「そういう人もいるよ、私はそうじゃないだけ」
もしかしたら私も落ち着くかもしれないし、真山くんがそういうのに目覚めるかもしれない。まあ私のほうが色々知っている分可能性があるな。悪化の方向に変化する可能性は否定できないが。
まあ別にそういう感情は変化するものだし、私はそれを受け入れるか拒否するかしかできないのだ。歪めるのはしてしまっているかもしれないけれども不可抗力ということで。
「……そっか」
「まあ私だって今は真山くんが色々できたようでよかったって思っているからね、それでどんな会話したの?」
「どんなって言っても、バドミントン部の人から意地悪な戦略を教えてもらったり、あとはお昼誘われたりとか……」
「楽しそう」
私は食堂に食べに行くのであまり真山くんとお昼を一緒にすることがないが、どうやら最近の噂によれば真山くんは人付き合いが良くなってきているらしい。まあループ中に起こるそういう人間関係の齟齬の歪みは全部私が受け止めてますからね。
「楽しかった。和乃さんのことを他の人がどう見ているか、ちょっと意外なことが知れたし」
「ものすごく聞きたいけど今聞いたらたぶん真山くんが次に話さなくなっちゃうからな……」
我慢はできるけどね。それでも好奇心というのはどうにも湧いてしまうわけで。
「ちゃんと終わっても話すから」
「ならいいけど」
私は息を吐いた。っと、先生が集合を呼びかけている。そろそろ授業も終わりなので片付けとかの時間かな。あとでお昼でも食べながら聞こうか。