今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 八回目 二十四周目 二

「はい、コートとお弁当箱」

 

「ありがとう」

 

そう言って私は受け取った外套を羽織ってポケットの中を探り、財布を出してまた外套を脱ぐ。

 

「で、これが今日のお昼代」

 

そう言って私がお札を渡すと真山くんは大人しく受け取る。たぶん累計で相当の額を貸しているが、まあ別にいい。踏み倒されたとも言えるが受け取る相手がいなくなったわけでもだしね。

 

「……和乃さんはさ、僕が他の人と話をするのを嫌がるよね」

 

「まあね、とはいえそれって早起きするのが嫌とかそういうのと同じだよ」

 

「……そっか」

 

「たぶん真山くんは行動する時に起こる忌避感みたいなものが少ないからあまりわからないと思うけど……」

 

「……そんなこと、ないよ」

 

「誰かと話すの、私はたとえループがあっても積極的にしようとは思わないよ」

 

「だから和乃さんと過ごす時間が多いんだけど」

 

「……なるほどね」

 

察しがついた。真山くんがここしばらく私とループを過ごそうとしているのは新しいコミュニケーションが怖いことへの裏返しみたいなものか。

 

「でも、たびたび和乃さんに他の人とも関わるよう言われてて」

 

「うん」

 

「……しばらくそうしたし、色々と得るものも多かったけど、和乃さんの隣が一番落ち着く」

 

「そりゃ秘密を互いに握り合ってる仲だからね」

 

タイムリープをしているということ。中学生時代に抱かれたこと。まあ私からは秘密をあまり話すつもりはないが。

 

「……甘えているのかな」

 

「少なくともループ中は私に甘えるべきだよ」

 

「……わかってるけどさ、それがずっと続くと良くない気もして」

 

「互いに特定の相手に依存するようなのは良くないけど、必要な時に頼るのは問題ないと思うよ」

 

とかなんとか言っているうちに食堂についたので真山くんとは別れて私は二人がけの机を確保しておく。ちょっとお腹も空いたしお弁当も開いてしまおうかな。

 

一段目はごはん。二段目は煮物と……これは炒めものかな?あと卵焼き。美味しそうな匂いがしてくる。

 

「それじゃあ食べようか」

 

「そうだね」

 

というわけで卵焼きに箸をつける。ちょっと意外な風味だ。コンソメかな。キッシュに近いのかもしれない。

 

「おいしいね」

 

たぶん私は何度も言ったであろう言葉を真山くんに言う。

 

「よかった」

 

そう返す真山くんの顔からは無理しているような様子は感じられない。本当に問題ないのか、あるいは慣れてしまったのか。

 

「あと、たぶん私が嫉妬するのは真山くんがループの時に私以外の人とかなりの時間過ごしたりしてるっていうのもあるかも」

 

「……どういうこと?」

 

「私たちと一緒にいるでしょ」

 

言っててちゃんと意味が伝わったか不安だったが、真山くんはちゃんと理解してくれたようだ。

 

「……それが、嫌なんだ」

 

「嫌ってわけじゃないけどさ、どうにもまだ割り切れなくて」

 

やめろとは言えないし、たぶん他の周の私もやめられるよりは今の状態を続けたほうがいいって考えるだろうけどね。

 

「……ここはさ、割り切れたらいいねって言えばいいの?」

 

不安そうに聞いてくる真山くん。まあそうだね、今後のことを考えればここで確認しておいたほうがいいだろう。そしてループ中じゃなくても、この返しはたぶん私には比較的有効だ。

 

「それでいいよ。もちろんそれが耐えられなくなるかもしれないけど、そうしたら私からちゃんと距離を取ってね」

 

真山くんへの好意のせいで自分が壊れるのはまだいい。関係性が崩れてしまうのも仕方がないことだろう。ただ、真山くんに直接的な被害が回ってくるのは避けたいところだ。

 

「……そうならないよう、頑張る」

 

「ループしたらわかると思うけど、私は結構面倒な人だよ?」

 

「ループしたからわかるけど、ちゃんと言葉を選べばいい人だよ」

 

「言葉を選ばなかったら悪い人みたいな言い方されてる……。まあそうだろうけど」

 

そっか、真山くんは私への教え方をループして学んでいるのか。もちろん普段の放課後の自習室でもそうだけどさ。

 

教えるっていうのは楽なことじゃない。効率的に相手がまだわかっていないことを理解させるためには、相手がどこまでを把握していて、どうやったらその先に踏み出せるかをちゃんと知っておく必要がある。

 

それが言葉にできるノウハウなのか、それとも勘みたいなものなのかはともかく、真山くんはある一つのことを私に教えるということについてそれなりの時間をかけて練習したのだ。

 

たぶん、私が真山くんを漠然と想っている以上に、具体的な行動として、私との時間を過ごされてしまった。

 

「……勝てないな」

 

私は呟いて、少し多めのおかずを口の中に放り込む。

 

「何が?」

 

「真山くんの気持ちはかなりのものだなって思っただけ」

 

つまりは私が変な感情を持ったりする資格が本当にあるのかって問わなくちゃいけないぐらいには真山くんは立派で、いいやつで、そして私のことが好きなのだ。

 

少なくとも今の自分に向けられた分ぐらいは、それをちゃんと受け取る義務があるだろうな。まあそろそろ終わるので面倒なことはループ終わりの私に任せるとしよう。なんとかしてくれるさ。

 

[二十四周目終了]

 

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