今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第九幕間 四

冬休みと年末が迫ってくる。靴下も厚手のものを選ぶようになってきた。布団から身体を出すのが億劫になるのはまあ夏でも変わらないな。とはいえ冬はちょっと色々とやる気がしぼむ時期である。

 

「結衣さん?」

 

そんなことをぼんやり考えて窓の外から葉っぱの少なくなった木々を見たりしていると声をかけられた。

 

「……なに?」

 

私の隣に立っていたのは同級生の人。ええと、前に勉強教えた相手だな。それ以降も色々話したりしているのに真っ先にそういう情報が思い出されるあたり、私は真面目な学生らしい。

 

「放課後って空いてる?」

 

「……内容によっては空けられるよ」

 

私と真山くんが親密な関係になるということはどうやらクラス内でもうっすらとした共通認識になりつつあるようだが、じゃあ具体的にどこで何をしているのか知らない人は多い。

 

なのでまあ、こういうふうに放課後の逢引を邪魔しようとするやつも現れるのだ。いやそこまでは思っていません。言い過ぎました。そもそも知らないなら邪魔しようとかもできないはずですからね。

 

「よかった。その、そろそろ試験も近いから……」

 

「……私は先生じゃないから、どこまで上手に教えられるかはわからないけど」

 

「今回は真山くんにも教師役お願いしているから、結衣さんも来てくれない?」

 

「……いいよ、それなら」

 

そう言ってから、なんか私が真山くん目当てで勉強会に顔を出すみたいな言い方になってしまったなと思う。まあ気兼ねなく参加できるなとは思うけど。

 

参考までに我が校、特に私の所属するクラスは受験についてそれなりに言われているが、なにしろ皆様優秀な耳をお持ちであるので華麗に聞き流している。

 

なので勉強を教えてもらうって言っているこの方ですら基礎はなんだかんだできっちりできていて、応用問題はちょっと難しいとかになっているのだ。まあ高校始まってすぐの頃には危なっかしい人もいたけど。

 

そういうわけで予定をすり合わせたりなんやかんやして、放課後。使い放題だが何を印刷したかの記録が残るので不用意には使えないプリンターで使いそうな英文を刷る。

 

「今度の勉強会のやつ?」

 

がしゃこんがしゃこんという小気味いい音の中、真山くんが声をかけてくる。

 

「そう。結構面白い人が集まっているなって思って」

 

「あれって僕が教える側でいいのかな……」

 

「必要ならループでも使えば?」

 

「そう都合よく起こるものじゃないから……」

 

なんていうか、ものすごい心無い人みたいな言い回しになってしまった。真山くんはそこまで気にしていないようだけど私のこういう判断能力はあまりよくない。

 

「早く都合よく起こるように調整できるようにしたいな……」

 

これでも定期的にデータを睨みつけて規則性がないかとやっているのだが、もうここまで来ると地震とかみたいなそもそも考慮すべき事象が多すぎる案件ではないかと思ってしまう。

 

ただ、それでも一周の時間と全部で何周かは綺麗な式で出せるので奇妙なところだ。なんか微妙なところだけが綺麗だ。

 

「ところで、それってどういう問題?」

 

「英語の翻訳。thatのあたりで引っかかりやすいのでそこらへんのいい問題を探して持ってきた」

 

「……ああ、あの訳さないthatとか?」

 

「そう、接続詞と関係代名詞のあたり。そういえばさ」

 

スキャナ部分の参考書のページをめくって、別にオチのない話を一つ。

 

「ちゃんと文法的な説明をするとなると言語学とかやらなくちゃいけないのかなと思って、最近街の図書館のほうに行ったんだ」

 

「そしたら?」

 

「たぶん高校生が手に取るべきじゃない本を見て諦めて帰ってきた」

 

あれってタイトルに文法ってあったよな。プログラミングとかの基礎の基礎あたりの数学っぽい記号がわちゃわちゃ出てくるあたりと何か似ている空気があった気がするぞ。

 

「和乃さんがそう思うって相当じゃない?」

 

「たぶんもっと別の本を読めばよかったって今になっては思うよ……」

 

とかなんとか言っている間に印刷は終了。欠けがないことを確認して冊子としてまとめておく。

 

「……二年後には、僕たちも試験を受けるんだよね」

 

「嫌だなぁ、二年前なんて私は……」

 

中学二年生の終わり頃。ああそうか、もうそんな経つんだ。改めて言葉にすると、なんか奇妙なものだな。

 

つまりはあの後に落ち込んでぐるぐると面倒なことを考えて孤立していた期間よりも、タイムリープをする奇妙な同級生に巻き込まれて以降の期間のほうが長くなってしまうのか。

 

最近まで、私のアイデンティティというか自分を作った特徴的な出来事はなんですかと聞かれたら中学時代のことを考えていた。そっか、別に最近のことを述べてもいいのか。

 

「……和乃さん?」

 

「いや、私は真山くんに結構変えられてしまったんだなぁって思って」

 

「……和乃さんがそれを言うんだ」

 

「……ごめん」

 

ええ、さすがに私だって被害者ぶるのには限界があることには気がついていますよ。なにせ私の後ろにいる少年は、私のせいでそれまで持っていたタイムリープへの認識をひっくり返されたわけですからね。

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