チャイムが鳴る。シャーペンを置く。解答用紙の欄にはほとんど空白がない。まあちょっと苦手な教科だったにしては上々だろう。ちゃんと名前も書かれているな。まあ今更確認しても遅いんだが。
紙が後ろから回収されて前の方に重ねられて進んでいくのを見送る。あとは試験結果の返却とかがあって、そうすればもう冬休みだ。ついさっきまで夏休み終わってすぐだった気がするんですが時間が経つのは速いものですね。
だからまあ、多少無理してもなんとかなるということでかなり頑張った。そりゃ正気で考えたら試験で頑張ったところで何だって話になってしまうけど、それはそれとして英語で一位ぐらいは取っておきたいじゃないですか。
「お疲れ様」
私は疲れ気味の真山くんに声をかける。最近寒くなってきているから肌が乾燥しているのかな、いつもの元気はない。私もスキンケアとかちゃんとしたほうがいいかな。
「……あのさ」
「なに?」
「……この頃、来てないよね」
「来てないねぇ」
第三者に聞かれたら何がだよって突っ込まれるし文脈的にはちょっとまずいかな。まあ誰も聞いていないからいいか。
「……もしかしなくてもさ」
「二周の場合は十七日。三周の場合は八日」
計算式が間違っている可能性もあるが、まあその時はその時だ。真山くんの過去の経験からしてもそこまでずれる事はないと思うけど、予想が外れたら心理的ショックは大きいだろうなとは思う。
「……そういう可能性って、あると思う?」
「あったら試験と被るね」
「中学の頃はなかった……いや、ちょっとだけあったかな、覚えてない」
「まあ短いよりいいでしょ」
「……勉強、し直したほうがいいかな」
「ズルは良くないよ?」
まあ試験の目的を自分がどれだけその範囲を理解しているかの判定のためだと考えれば、別にループの際にちゃんと振り返りと追加勉強をすればいいのだ。点を取るために点を取ると試験が破綻するってだけで。
とはいえ推薦とか狙う人は積極的にここ々らへんで点数を取って成績を上げておかないといけないというのは難しいよな。最近はかつてのような試験一発がやりにくくなったので、私のような日常が不真面目な学生には辛い時代となっている。
「……そうだよね、あとはもしかしたらいつの間にか終わっていただけかもしれないし」
「七十周でものべまるまる一日だよ、そんな事あるかな……」
「……ところでそれ、覚えてるの?」
「覚える程度には見たからね」
ループの特徴を把握しようと色々な仮説を立て、そして失敗した。あるいはもっと発展的な数学を使えばいいのかもしれないが、具体的にどうすればいいのかはよくわかっていない。そもそも物理学に喧嘩売ってる現象だからな。
まあまだ時間はあるのだ。少なくとも真山くんと私が二十歳になるまでは余裕があると見ていい。なんでその時期かって?ループを活用しやすい公営ギャンブルの年齢制限です。早く成人年齢と揃えてくれ。大金が絡むループは絶対楽しい。
「……もしループだったらさ、泣きついていい?」
「別に今泣きついてもいいよ?」
「……いや、今はそう言う気分じゃない」
「まあいいやお疲れ様。冬休みはもうすぐだよ」
ああ長期休み。やっと自堕落な生活を送ることができる。一日に十時間寝てもいい。夜更かししてもお昼に起きてもいい。まああまりこういう事やりすぎると調子悪くなるってことは知ってますけどね。
「……和乃さんは何か用事があるの?」
「んー、まあ家族が揃うってぐらい?」
自習室に行ってもいい。夏休みはそうしていたな。真山くんが来たからだけど、たぶん真山くんも私が来ていたから通っていたところがあるだろう。冬休みもそうなるかもしれない。
「……和乃さんの家族って、けっこう出かけているんだっけ」
「そうだね、父はあまり規則的な生活してないし、母は出張とか多いし」
「正月の時は帰ってくる、みたいな感じ?」
「そうだね、まあ何かあったら家を飛び出していくんだけど……」
父も母もあまり替えの効かない人材なので、必要とあれば休日返上となる。なので私は代替可能な社会の歯車になりたいなぁという想いを昔から募らせている。
「……大変だね」
「まあおかげで生活には困らないわけだけどね……」
「……なにかあったら、来ていいからね」
「どこに?真山くんの家?」
「……うん」
「ご両親には挨拶してあったな……」
前に冷凍ご飯をもらった時に顔は合わせてある。
「……少し前に話したんだけどさ、困ったらすぐに来てって」
「まあ両親との関係が薄いと困ることもあるかもしれないし、その時には頼らせてもらう」
相談とかできる保護者とか友人があの時にいたら、と考えたが結局はそう大きな問題にならなかったのでいいとしよう。死んでないし後遺症もないからセーフだよ。
あとまあ、結果として今の自分があるのであまり過去を否定しすぎるのも良くないんじゃないかなって最近は思えるようになってきた。たぶん今が楽しいからだな。真山くんには感謝しなくては。