今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 九回目
高校一年生 九回目 二周目 一


家に帰ってすぐにチャイムが鳴った。なんだ、宅急便か?

 

制服を脱いでしまってあまりそのまま外に出るのにふさわしい格好ではなかったので、今朝脱いだ寝巻きを急いで着込む。はいはい待ってください、そこに置いておいてもいいですけど。

 

「……真山くん?」

 

扉を開けた先にいたのはさっきまで一緒に帰っていた真山くん。何かな。忘れ物かな。何か落としたとか。

 

「始まった」

 

「時間は?」

 

「十二月二十五日、六時ぐらいまで。二周目」

 

「……たぶん全部で三周。一旦入って」

 

「……失礼します」

 

真山くんが私の家に来るのを私が認識しているのは二回目だ。前はご飯食べに来てくれた。それはそうとパソコンを起動。つけっぱなしの計算表とカレンダーを見ながら、二桁同士の引き算が難しいので指を折って数える。

 

「八日ぐらい……?」

 

真山くんが後ろから言ってくれる。確かにそうか、一週間と一日だからそうだね。計算上は三周目は七日二十三時間ちょっとになるので、ここらへんとも一致する。

 

「あってるはず」

 

「よかった」

 

「なら三周とみていいね。……今周の予定は決まってる?」

 

「まだ」

 

「ちょっと今回はコードをお願い。今後の長期周に関わるデータを取りたい」

 

「どういう事するの?」

 

「競馬は……大きなやつはループ外か、なら小さいもので……」

 

ブラウザのタブを切り替えながら、私は思考を説明していく。本来コードだけで完結させるべき情報だが、真山くんに追加でエピソード記憶を使ってもらえば運べる情報は増加する。その分負担は大きくなるし、ミスの可能性も高まるが許容範囲と判断。

 

「このレースの倍率の積を変換して送るアイデアで行く。なのでどの馬が勝ったかはコードとは別に覚えてもらう必要があるけどいい?」

 

「わかった」

 

「あとは天気かな。それぐらい。後は……あまり、やることはない」

 

「……そっか」

 

「まあ冬休みだしね」

 

「……クリスマスの日に、デートしない?」

 

「んー、ぁ……」

 

まずなんて言われたかを把握するのに時間がかかっって、そこから何を言ったらいいのかわからなくなって、私は口をぱくぱくとさせるのが限界だった。

 

あの真山くんが、私を、クリスマスに、デートに誘う?いえまあそういう俗世の色々に興味がないとは言いませんけどそれはそういう経験をしたいというかむしろ取材したいとかどういう場所を巡るのかとかというちょっと創作者としても関心に近いもので。

 

「……嫌?」

 

「……本当は三周目だったりしない?」

 

「……どう、して?」

 

「……いや、ごめん、ちょっとこの発言は配慮に欠けてた」

 

「気にしないようにするから、どういう事か言ってもらえる?」

 

真山くんのあくまで真剣な声色は責めるというか、たぶん私だけが解けて真山くんがわからない問題の解法を知りたいみたいなあれだな。

 

「……あの、真山くんを前の周にけしかけた人がいるんじゃないかって」

 

「……そういう僕って、あまり好きじゃない?」

 

「好きだよ、でも行動パターンを予測できないから負荷は大きくて……嫌じゃないよ、好きだよ」

 

端的に言ってしまえば、付き合っていると疲れるのだ。まあ人間関係をちゃんと維持するというのはそれなりに疲れるものだと思っているから仕方がないけどさ。でも嫌になる疲れってものではないですよ、面白い問題に取り組んでいる時みたいな感じ。

 

「……よかった」

 

「ところで、前の周には私にそういう事言えたの?」

 

「……言えなかった。クリスマスの日も自習室で勉強してた」

 

「デートでいいでしょそれは」

 

まだ冬休みは来ていないが、それも時間の問題だ。もしなにかイベントがなかったら、私と真山くんは進展もなく年を越していた可能性は高い。ああそうか、ループをこうやって使ってくるんだ。いいな、真山くんらしい。

 

「……でもさ、やっぱりそういう事をしてみたくて」

 

「構わないけど、真山くんはいいの?」

 

「……どういう、こと?」

 

「私は消えるんだよ、練習なら付き合うし、単純に楽しみの為なら一緒にいてもいいけどさ、何かを進展させたいなら私じゃ駄目だよ」

 

そう言うだけで、胸が痛む。今ここで真山くんに消えない傷を私の身体で刻み込んでやりたいって衝動がある。うなじに歯を立てたい。手首を痣の残るほど掴んでやりたい。見える場所に内出血を残す程に口づけをしたい。

 

深呼吸。できる。まったく、やらない理由ではなくやるための手法が頭の中で回るのは嫌なものだ。まあいいや、今周の私はそういう役じゃないってだけだ。諦めるのは慣れている。

 

「……酷いことを、言っていい?」

 

真山くんの辛そうな声。真面目で誠実じゃないと出せないような、たぶん私には無理な表情。こんな顔をさせたくはないけど、私には真山くんの選択を止めることはできない。

 

「いいよ」

 

「……次の周のための、練習台になって」

 

「喜んで。最後の私が悶絶するさまをご覧に入れよう」

 

できるだけ悪い笑顔で私は言う。最近の真山くんの成長と、私の知識があれば、たぶん最高の悪巧みをプレゼントできるだろう。

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