十二月二十三日。下見の日。明日は予行演習。明後日は……考えないようにしよう。
「……今日は何だ?」
着替えて部屋を出ると、父と出くわした。
「友達と出かけるんだよ」
「……真山さん、か?」
「……そう」
否定するのも面倒だった。別に父とそこまで情報を共有しているわけではない。帰るのが遅くなっているのが真山くんと一緒に放課後に勉強しているからだとか、終業式後も制服を着て朝から出かけているのは勉強のためだとか。
いやまあ、父はもともと勉強と趣味にあまり区別つけないような人だし、今でも定期的に部屋の本が溢れてくるような人なので勉強をしているから真面目だと考えるとは限らないし、真山くん目当てだと考えているかもしれないけどさ。
「……小遣い、要るか?」
「できればほしい」
「そうか」
そう言って父は玄関の方に行き、自分の外套の中から財布を取り出してちょっと惜しそうに私に一万円札を渡す。
「ありがとうございますきちんと使わせてもらいます」
「……あまり夜遅くならないようにしろよ」
「晩御飯は食べてくるけど程々に帰ってくるよ」
「……そうか」
まあたぶん真山くんに送ってもらうと思うけどね。
そういうわけで動きやすい格好で外で。純粋に防寒を優先したのでタイツの上に長ズボン。外套もあって、全体的に彩度も明度も低くなった。
ええ、これが決して魅力的な格好でないことぐらいは理解していますよ。ファッションにおける視線の誘導とか、一応理論だけは読みましたよ。
自分のそういう方面の実力と気力の無さが恨めしい。それと、そういう努力をしないだろう自分もあまり好きではない。
これは努力をしないで、真山くんに甘えているだけだってことは理解している。好意というのは無限にあるものではない。冷めるし、限界がある。
今日は冷え込みがかなりある。吐いた息が白い。マフラーをぎゅっと締める。
「……おはよう」
「おはよう」
時間通りに真山くんの家の前につくと、そう待っていないだろう真山くんがいる。
「明るいうちにイルミネーションの見やすい場所とか、そういうのを確認しておく?」
「……うん」
あまり会話のないまま、駅のほうに歩いていく。まあ、昼の状態だとそこまで綺麗でもない。街路樹に黒色のケーブルが巻き付いているだけ。
「上の方から見るとなると……」
私は周囲のビルとかを見上げ、ちょっと高めのところにあるチェーンの喫茶店に目をやる。
「あそことか、かな」
「行ってみる?」
「奢るよ」
今日の財布は温かいのだ。あとはまあ、今更ながら面倒な感情が収まらないというのもある。
なんで今の私じゃないやつのために、私の好きな人が私じゃない人に愛を囁くために、動かなくっちゃいけないんだって。
だからせめてちょっとぐらい負い目を持っていて欲しい。金銭がそこまで意味のあるものだとは思わないし、そんな事をしなくても真山くんが色々な悩んでいるのはわかっているが、それはそれとして、だ。
「昨日眠れなかったりでもした?」
窓際、駅前のロータリーが見えるような角度。二人で横目でイルミネーションを見るとしたら悪くない感じかな。
「……ちょっと、夜まで起きていた」
「次の周が怖い?」
「……和乃さんは気にしなくていいって言うと思うけど、今の和乃さんに許されないことをしているわけだよね」
「……そうだね、私としては多少開き直るぐらいして欲しいけど、それが真山くんにとって難しいことはわかっているし、そういう場所が好きになったんだよ」
熱いココアのたっぷりと入ったマグカップを、冷たくなった指先で包むように持ちながら言う。
「ありがとう、って言えばいいよね」
「確認を取らなくてもいいよ」
「……うん」
「十中八九、告白は成功するよ。よかったね」
「……それだけど、恋人、になるわけだよね」
「そうだね」
「……和乃さんって、僕なんかと釣り合うのかなって考えることがあって」
「主観的にそう思うのはわかるけど、客観的にはどうかな……」
「……どういうこと?」
「成績優秀で文武両道、容姿端麗とも言ってもいいような相手だよ。都合が良すぎる」
私は眼の前の好青年に視線を向ける。本人がその気になれば、まあモテるのだろう。一応噂は聞きますよ。たぶん、真山くんに片思いをしている人はいなくはないだろう。
まあ、間違いなく一番多いのは私だけどね。何周もしているのでかさ増しできている。ちょっとずるい気がするな。
「和乃さんだって、頭の回転が速いし色々知っているし、僕なんかと付き合っても楽しんでくれるか……」
ああなるほど、私が楽しむかどうかに議論を持ってこられると正直難しいところがある。そりゃ楽しいけど、あくまでその楽しさは他のものと比較できるもので唯一絶対ってわけじゃない。
大抵のことよりは真山くんを優先するだろうけど、場合によっては断るだろう。好きなSF作家の講演会と真山くんとのデートであれば前者を取るかもしれない。真山くんと一緒に行っても彼がどこまで楽しんでくれるかわからないしね。