帰りのホームルームが終わり、私は背伸びをする。英語の点数も良かったし、成績全体を見てもまあ許容範囲だ。それはそうと思った以上に文系がダメだったな。かといって理系がいいわけでもない。
正直、どっち選ぶかはかなり悩んでいる。私は英語が得意だ。単純な能力だけならまあ、大抵の高校生は倒せるだろう。とはいえプロとしてやっていけるほどでは全くない。それに文理関係なく英語はやらなくちゃいけない。
SFは好きだ。理系分野の知識はかなりある方だと思う。でも成績はあまり良くない。いや悪くはないし、上位ではあるんだけどさ。
「
「なに?」
そういう声が聞こえて目を上げると、同級生である
「ちょっと話したいことがある」
「どしたの、先生からなにか頼まれた?」
それを丸ごと私に回すとかだったら断ろうかな。職員室に教室の何かを運ぶ程度なら鍵閉めるついでにやるけど。っと、気がつくと教室には二人きりだ。
「いや、和乃さんについて」
「……私?」
正直彼から話しかける理由が思いつかない。なんだろう。
「少しSFみたいな話なんだけど」
「へえ、まあ一旦教室を閉めてからね」
「前の方の扉はやっといたよ」
そう言って広げた彼の指にかかっているのは鍵。おや、今まで私以外の人がやったことがないのに。っと、警戒はしておこう。人気がなくなったわけで、下手すると閉鎖空間になるのか。
「ありがとうね、あとはやるよ」
そう言って鍵を彼の手から取ろうとしたが、すっと引かれてしまう。なんだよ。いやありがたいけどさ。
「……いつも、和乃さんばかりこういう事しているからさ。たまにはやらせてよ」
「たまに、っていいね。私は毎日やっているのに」
「ごめん言い方が悪かった」
「冗談だよ、こっちこそごめん」
そこまで話して、妙な感覚を覚える。なんていうか、馴染む。もしやこいつ隠れSFオタクか?たぶん違う。
「で、なんなの?」
「タイムリープって、わかる?」
「筒井康隆の時をかける少女がいちばん有名じゃないかな。記憶のみの時間遡行。もちろん定義は作品によっては変わるし、元の意味は時間跳躍ってだけだから普通のタイムスリップをそう呼ぶこともあってもおかしくないけど」
ちょっと早口になってなかったかな。鞄の中にファイルをしまって、教室を一緒に出る。
「タイムリープの証明には、色々あるよね」
「地震と火事、とか?」
「バック・トゥ・ザ・フューチャーでは雷も」
「あとは親父でもあればいいかな?とはいえあの映画では証明にはエメット・ブラウンの知っている秘密を使っていたから」
「……誰?」
「ドク」
「そういう名前だったんだ」
そう言えば分かる程度にちゃんと映画を知っているようで何よりだ。というかもうあれ古典だろ。私は1しか見ていない。
「もし、僕が和乃さんの小学三年生の時の秘密を知っているとしたら?」
「もし私からそれを教えてもらうぐらいに信頼を得ているなら、ここで言うべきじゃないと思う」
職員室へと向かう渡り廊下を歩きながら言う。ここから頭を下にして落ちれば死んでしまうよな。問題は私の非力な腕では落とせそうにないってことである。
って待て、なんで知っている。ノリで返したが時期を当てるな。ということは第三級か?
「……どこまで詳しく、それを聞いた?」
「本屋さんで、どこに隠したかまで」
「へえ」
具体的な店名とかは私がぱっと思い出せないところからしても、ちゃんと教えてもらっているようだ。
「……少し、思考を整理したい」
「いいよ、鍵返してくるね」
職員室の扉をくぐる真山くんを見送りながら、現状を整理する。
前提その一。彼はタイムリーパーだ。こう言うと時間を
って違う。前提その二。彼は私と何周かを通して親密になっている。だから別の周の私は話したんだ。でも、その関係はそこまで深くはない。
私の裏の仮面の知識も、私からの絶対的信頼も得ていない。あるいは、そこまで与える必要がなかったか。
「考え、まとまった?」
「今って、どういう状況?」
「ループが終わったところだよ。回数は覚えてない」
終了条件のあるタイプのループ。覚えられないほどの回数。まあ、それならわかるな。というかそれならループものに分類するべきでは?タイムリープはあくまでループの手段である。というかいわゆるループものはほぼタイムリープを含むんじゃないだろうか。
「で、私は何か言ってた?」
「何か奢ってって」
「……私が?」
「うん」
「……正直、誰かにそこまで言うとは驚き」
タイミングの問題なのかな。軽口でもあまり言いそうにない。
「僕もあれは驚いた」
「やっぱり」
私をネタにして盛り上がるとはなんとも邪悪な二人である。そのうちの一人は私なんだがな。
「それで、どこ行く?ドーナツとかなら奢るけど」
今の時間と晩ごはんまでの時間を頭の中で計算する。
「一個ぐらいならいただく」
「よかった」
「ああ、それと」
私が言って昇降口へ向かう足を止めると、彼は奇妙そうな顔をした。手を伸ばしてもまだ何を私がしたいのか察せていないようだった。
「ひとまず、はじめまして。私は和乃
ガールミーツボーイ、ってやつだ。でもここまで気取った言い方をする主人公いるかな。いたら読者からどういう扱いされるんだ?
「お久しぶりです。僕は真山翔太」
わかってくれたらしく、彼は私の手をぎゅっと握った。