今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 九回目 二周目 五

昨日の朝に真っ先に来た駅前の喫茶店に来ている。店内の混雑はそれほどでもないところから考えると、たぶん次の周も大丈夫なはずだ。

 

「……私はチーズケーキのほうが好きかな」

 

真山くんのほうのお皿から一口分けてもらって私は言う。クリスマス・イブの夜。机を挟んだ少年少女。窓の外はイルミネーションの光る夜景。舞台としては、かなりいいはずだ。

 

「わかった」

 

「……で、二日間に渡って色々やったわけだけどどうだった?上手くできそう?」

 

「……気になったことがあって」

 

「なに?」

 

「和乃さんって、本当に今周楽しかった?」

 

「……難しいことを言うな」

 

不快を示すような表情を浮かべてしまったんじゃないか、と心配になる。いや、これはちゃんと言語化しておかないと次の周の真山くんと私が困るか。

 

なんていうか、私は演出が好きなのだ。物語が好きなのだ。だから真山くんという個人よりもタイムリープが起こってしまう少年という属性のほうが趣味だ。

 

もちろん、これは同級生で放課後に一緒に勉強するような仲の真山くんが嫌いってわけではないんだけれども。

 

恋人として好き、って言い方はその本人ではなく関係性を重視しているような気がして、そうすると私のキャラクターよりも物語が好きという趣味が出てきてしまいそうな気がして。

 

「……答えにくいことなら、いいけど」

 

「うん、これは私にとってかなり答えにくい。……ちょっと前に言ったこと、撤回していい?」

 

「何か言ったっけ」

 

「私が真山くんの告白を受け入れるかどうか、今になって不安になってきた」

 

今の私なら、ちょっと保留してしまうかもしれない。次の周の私がこの椅子に座った時に、同じような考えにたどり着かない保証はない。

 

「……そう」

 

「嫌いとか、そういう意味ではないよ。今の関係を続けていっても構わないし、もう一歩踏み込んだ事をしてもいい」

 

まあそうなっても何かやることがあるか、と言われると微妙なところであるが。ハグがしやすくなるぐらいかな。

 

「……どうして保留するか、聞いてもいい?」

 

「誠実じゃないような気がして、かな」

 

「……そう」

 

「真山くんはいいやつだよ。私はそういう真面目で、ちゃんと相手のことを考える人が好き」

 

そもそも告白をしたらどうか、なんてことは私が言い出したのだ。真山くんが現状維持を選ぶ臆病なやつだとは言わない。私だってそうだ。ループでもなければこんなことを言うにはもっと時間がかかっただろう。

 

場合によっては、高校の卒業まで何もしなかったかもしれない。いやその場合にはそもそも真山くんと話していたかもわからないな。あの性格が形作られるにあたってタイムリープを多く経験したっていうのは重要な要素になっているだろうし。

 

「……そう言ってくれると、嬉しい」

 

「一方で私は、って考えてしまうんだよ。私はたぶん真山くんほど悩んで行動できていないし、真山くんほど相手のことを考えていない」

 

だから軽率に傷をつけかねない行動をするし、たぶん傷をつけてしまっている。別に私に傷がつこうが消えるので構わないんだけどさ、もし私がループ中に傷つけたとしたらそれは真山くんにとっては場合によっては何十回と繰り返された加害になるわけで。

 

「……そうかも、しれないけど」

 

否定は意味がないと考えたのか、実際にそうだと思ったのか。後者であって欲しいな。私は自分の行動にいつも無自覚だ。

 

「でも、和乃さんが僕のことを考えているのは間違いないし、もっと悩んだり考えたりしたいって思ってくれてるわけだよね」

 

「捉え方がポジティブすぎない?」

 

「……それとも、和乃さんはそういう劣等感で僕に縛られたいの?」

 

「……否定はしない」

 

そういう関係が明らかに不健全で、偏っていて、破綻する時は酷い時になるっていうのは経験がなくてもわかる。でも、たぶんその方が私にとっては楽なんだよな。

 

自分が酷い人間だってことを肯定してもらえるから。さもないと、私は真山くんの隣りにいるためだけに自分を許さなくちゃいけなくなる。

 

「それは嫌だ」

 

「うん、私もそういうことはしたくない」

 

私だって、真山くんにそういうことをしようと思えばできる。たぶん。独占欲と嗜虐心に身を任せれば、そして忘れられないような刺激を与えてあげれば、たぶん真山くんは私に依存してくる。

 

いや、これはちょっと自分に都合の良い想定をしすぎたな。実際はどうなるんだろう。私にループ能力があったら試したかもしれない。案外臆病で動けないかもしれないけど。

 

「……告白って、何をすれば良いのかな」

 

「恋人って関係もふんわりしたものだし、別に法的になにか契約を結ぶわけではないんだし」

 

まあ、そういう事ができるまではまだ時間がかかりますからね。その場合でもちょっと大学卒業までは待ってと言うかもしれない。ああそうだ、税金とかどうなるんだろう。全然知らないのでどこかで本でも読むか。街の図書館にはあるだろう。

 

「そうだね。……和乃さんってさ、今から恋人になってくれないかってお願いしたらどう返事をする?」

 

「今周の私なら、おととい来やがれって言うかも」

 

「……二十二日、だね」

 

「文字通りの意味じゃないから、いや戻るからそれを踏まえた言い方だけど」

 

真山くんは笑ってくれていた。私も小さく吹き出した。まあ告白の一つや二つで変わるほど、私達の関係は薄いものじゃないでしょう。

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