家に帰ってすぐにチャイムが鳴った。なんだ、宅急便か?
制服を脱いでしまってあまりそのまま外に出るのにふさわしい格好ではなかったので、今朝脱いだ寝巻きを急いで着込む。はいはい待ってください、そこに置いておいてもいいですけど。
「……真山くん?」
扉を開けた先にいたのはさっきまで一緒に帰っていた真山くん。何かな。忘れ物かな。何か落としたとか。
「これ、コード」
「……ちょっと待ってね、寒いだろうから中入っちゃっていいよ」
パソコンを起動。ソフトウェアを立ち上げて、間違いのないように打ち込んでいく。裏から唱えて再度確認。
「内容については聞いてる?」
「競馬だって、ループの終わりに一番近いもの」
第一段階の解析完了。誤り訂正の必要なし。今回は間違えていい文字を一文字に減らしているのに良くまあちゃんと覚えているなぁ。
「わかった、ループの詳細は?」
「三周目で最後。終わるのは十二月の二十五日、六時ちょっと前ぐらい」
カレンダーと表計算ソフトを確認する。一週間ちょっとのループになるわけだ。
「なるほど」
作った私でもちょっとわかりにくいような略記号混じりの解析結果がコマンドラインに流れる。もっとかっこいいGUIとかを作れればいいのだが、ここらへんのセンスは私みたいにはない。
私が作るコードには3ビット分の余裕を使って隠しメッセージを仕込んである。0から3が普通の進展。4から7が緊急事態。
「そういうふうに結果が出るんだ」
「そう。まあわからないと思うけど」
4はその時に定めた一線を超えたのでループ中だろうが結構好きにできるというもの。5は特殊ゆえに本人に確認を取ること、6が何か私がやらかしたので細心の注意を払うこと。7は今までの信頼を全部切って距離を取れ、必要とあらば逃げろというもの。
さてさて、と。今回のメッセージが伝えるのは2。面白い進展あり、か。
「……なるほどね」
「何が?」
「いや、そういえば終わるのはクリスマスの夕方?」
「そうなる、はず」
「前の周はその時なにかしてた?」
「……自習室で勉強してた」
「真面目すぎないか?」
これが相手の家にさらりと上げてもらえるぐらいの信頼を築いている相手とそういう時期の夜にやることか?まあそういうこともあるか。むしろそういうのは悪くないよな。
「和乃さんって、今周の予定は決まってる?」
「基本的には前の周とそう変わらないはずだよ、自習室でだらだらと二人の時間を過ごすやつ」
「……そうだよね」
「最終周だし、なにか派手なことできるわけでもないしね……」
そう考えると前の周の私はあまり行動してないのか?いやでもメッセージの内容と矛盾する。年末の勉強会がそんなに楽しかったか?
あるいは、真山くんが何かをしてくる、とか。一緒にケーキ食べるぐらいならしてもいいけど自習室って飲食禁止なんだよな。
奢ってくれる、とかかもしれない。ちょっと学校を早めに出て、喫茶店で食べるとか。いいなそれ。空いている場所とか時間帯を把握しているかもしれない。
「……なにを考えているの?」
「ちょっと前の周の私の行動について……いやいいや、どうせ終わればわかることだ」
正直、ちょっと前の周の私は野暮だったかもしれないな。とはいえいつサプライズで予定を入れられてもいいように余裕を持たせておくとしよう。
「そう、それじゃあ僕は帰るね」
「気をつけてね、鍵は閉めておくので」
そう言って私はドアスコープ越しに去っていく真山くんを見る。
「……サプライズ返しでも、しようかな」
なにかプレゼントを送る、とか。何がいいだろう。私自身、というのはまあ別にいつでも渡せるからいいとして、いい具合に記念になるもの。
ベッドにぽふんと横になって、天井をぼんやりと見ながら考えていく。筆記用具とか、鞄とか、食器とか。マグカップなんかはありそうだよな。
日常的に使いやすいもの。処分が容易なもの。それを誰かに見られても特別な意味を見出されにくいもの。
服。ネクタイ。ハンカチ。布系のもの。指輪とかピアスとか。いやでもそういう装飾品は基本的に学校では禁止だしな。それに指輪は色々と重いでしょう。
実用性を考えると腕時計とかになるのだろうが、あれは新しくする必要もないだろう。そうすると、実用品とかの側面だと難しくなってしまう。
消えるものはどうだろう。でもそれは結局奢りに近くなってしまうよな。最終周でもあるし、真山くんが割り勘以上に妥協してくれるとは思えない。大抵はループ中にお世話になったからとか言って奢ろうとしてくるのだ。
いい人ではあるんだけどね、たぶんもっと深く付き合って金銭的なものを考えなくちゃいけないような関係になったらどこかでちゃんと一線を引いたほうが互いに楽になると思う。
まあそういう頃まで今の関係が続けばいいんだけれどもね。とはいえ、何か進展を期待するぐらいはいいだろう。もし何もしないとかだったらこちらから忘れられないような経験を押し付けてやる。