今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 九回目 三周目 三

「……気晴らしになるようなもの、ないかな」

 

採点の終わった紙を机にぱさりと置いて、私は背筋を伸ばす。

 

「……明後日、買い物の予定があるんだけど一緒に来てくれない?」

 

「いいけど」

 

そう言ってから私は頭の中でちょっとした計算をする。ええと、今日は二十二日なので明後日は二十四日。

 

「……何を買うの?」

 

「色々」

 

「年末だし混んでない?」

 

「……たぶん、大丈夫」

 

「ならいいけど」

 

真山くんの言葉を文字通りに信じるのであれば、純粋に一緒に買い物に行こうと言っているだけ。まあ、そんなわけがないだろうとは察しが付く。

 

何を買うかを言っていない。私の質問に対しての答えの根拠がない。つまりは前の周で混んでいないことを知っているのにもかかわらず、そこに行ったことを隠そうとしている、とか。考えすぎか?

 

しかし相手は私だ。もちろん真山くんの意思もあるんだろうけど、そこには私の影響がたぶんある。いやだな、こういうふうに言うと真山くんが私のことかなり意識してるみたいじゃないか。本当にそうだったとしてもそれを前提にやるのはあまり良くないぞ。

 

信頼と言えば聞こえはいいが結局のところは本来私が負うべきものを真山くんに押し付けたりすることにもなるわけだ。ただでさえループ中に私が色々なものを真山くんに頼っているだろうところで、これ以上やりすぎるのもなというのもある。

 

まあいいや、ともかく明後日まで頑張るとしよう。というわけでちょっと集中する時間に入ろう。

 

「それじゃあ過去問やるから声かけないでね」

 

「わかった」

 

真山くんと違って時計を持っていないので、教室のやつを見る。数学の制限時間は七十分。経験から集中力が保つ期間を踏まえておおまかに時間を三分割する。

 

まず最初にゆったりと問題を確認して、そして全体の構成を見てから問いていく。最初の方の問題は基礎的なのでそこまで悩むことはない。まあ一個間違えれば連鎖的にその後のものも誤りになるのだがそんな凡ミスをするようなやつはいないだろ。

 

大問の終わりになってくると難しくなる。走らせていたシャープペンシルが止まる。深呼吸をしろ。問題は解かれるために作られている。

 

誘導を見つける。なるほど、これを使うのか。上手くできるかわからないが、適当に数字を入れて逆算。違う。ちょっと大きすぎた。修正。

 

数字の勘みたいなものが必要になってくる。3で割れるかとか、そういう感じの。約数が少なそうだなって感じたら因数分解をしておく。すると解答欄に入れるべき数字の候補を絞れる。

 

こういう邪道を使いこなせる程度には基礎能力がついてきたと思う。真面目に解いてもできなくはないだろうが、楽しくない。

 

焦りが強くなったので、一旦休憩。時間も練習したぐらいのタイミングだ。次の三分の一で最後まで終わらせて、その後は見直し。大丈夫。私はやれる。

 

ふと真山くんの方を見る。やっぱりしっかりやっているな。こうやってぼんやり見るだけでそれなりに落ち着けてしまうのはどうにも奇妙な気分だ。

 

客観的に見れば、ただ同級生が問題に向かっているだけでなにか面白いことをしているわけでもないというのに、私の視線は真面目そうな表情にちらりちらりと向いてしまう。

 

手首から外されて机に置かれたメタルバンドの腕時計に視線をむけるついでにふと前を見た真山くんと目があって、私は急いで顔をそらす。真面目にやらないと。時計を見たら思ったより休憩してしまっていた。

 

ちょっと急ごう。ただでさえ後半は難しいのだ。二人の人が対話しながらパズルを遊んでいる。ええと、これは何に相当するんだ?

 

省略されているパズルの経過を裏紙に書いていく。ああ、これは整数の性質の問題だ。それが見えてしまえば後は難しくない。

 

書いておいた経過で最初の方の空欄は埋められる。中盤でやっている一般化もそう難しくない。最初の数字を適当な未知数とおけばいいだけだ。

 

いやあ、面白い問題だな。色々と解いているせいでそれなりに古いやつを印刷して使っているのだが、たまにある考えさせるやつが好きだ。これを楽しめるぐらいに自分の理解力がついたんだなっていう自信にもなるし。

 

解き終わった、と思っても油断するべきではない。残り時間は正直なところあまりない。もっと解く速度とかを上げて、余裕を持ちたいのだが難しいだろうな。

 

問題用紙の頭に戻って、ぱらりぱらりとめくりながら誤りがないか確認していく。簡単なものは検算できるし、そうでなくとも今なら明らかに間違った選択肢ではないってことがわかる。

 

秒針がないのでそこまで正確に時間がわかるわけではない時計が、たぶん開始から六十八分後ぐらいを指す。このぐらいにしておこう。

 

見ると真山くんがやっていたのは別の年のものらしい問題だった。私から数分遅れで始めて、まだ見直し中かな。私も真山くんも解き切ることはできるようになったが、まだ課題は多い。練習あるのみ、というやつだろう。

 

「……終わったら、私の間違ったところの解説をお願いできる?」

 

小さな声で言うと、真山くんは頷いた。タイムリープをしている相手と受験勉強をするメリットの一つというのは、自分の間違いを素早く解説してくれることがあるというものかもしれない。

 

まあ、間違えがなければそもそもそんな事をする必要もないのだがな。私はちょっと胸を張って解説の冒頭を見て、解答用メモの数字の最初の方を確認して、そんなはずが無いだろうと問題文を見直して、自分が何をやったかをきちんと理解して、ただ、深く息を吐いた。

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