今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 九回目 三周目 四

十二月二十四日。世間はいわゆるクリスマス・イブというやつだ。

 

「寒いね」

 

真山くんの隣を歩きながら呟く。多少防寒対策をしても、寒さというものは足元から入ってくる。タイツの上に長ズボン。明度も彩度も低い格好。

 

いやね、もし真山くんがデートに誘ってくれたとかだったらもう少し考えましたよ。でもそう言ってくれなかったじゃないですか。なら同級生の買い物に付き合って歩きやすいような格好にするのは仕方がないことで。

 

別に逃げたわけではないです。どういう服を着るのが適切かわからなかったので暖かくしたら地味な感じになったとか、そういうわけではない。

 

「……そう、だね」

 

「ところで、何を買うの?」

 

一応お金は持っている。家を出ようとしたら父がくれた。なんていうか、本当に父親としての責務を果たそうと頑張ってくれている人だと思う。一般的にはから回っている気もしなくはないが。

 

「時計」

 

「クロック?」

 

「ウォッチ」

 

壁時計(Clock)ではなく腕時計(Watch)。視線を向けると真山くんの手には見慣れたメタルバンドの腕時計。

 

「……壊れた?」

 

「違うよ」

 

「……あのさ、腕時計ってあまり安くはないよね」

 

「……そうだけど」

 

「いい腕時計を教えてくれない?」

 

「……そのつもり」

 

「……そっか」

 

見当がついた。ああ、なるほど。私に渡すものであれば、たぶん一番いいやつかもしれないな。

 

「どういうのがいいと思う?」

 

「……もう、注文してあって」

 

「仕事が早い……」

 

たぶん前の周の私と裏で一緒にやったんだな。まあいいや。負けたっていう気分もあるけど、足取りは軽い。

 

「このお店」

 

「……知らないところだ」

 

商店街の一角にある、古そうなお店。時計店っていうのは本当にあるんだな。

 

扉を開けると軽やかなベルの音が鳴る。壁に並ぶは様々な時計。大型の振り子時計もあれば、机の上に立てるような多機能デジタル時計もある。少し視線を移せば色々な種類のバンド。

 

「……ごめん、アレルギー持っていたら使えないかも」

 

「……前の周には聞いてなかった」

 

「たぶん大丈夫だとは思うけど、さ」

 

そういう話をしながら、しばらく色々と見ていく。楽しいな。中の様子が見えるような設計がされているものもあれば、完全にシンプルな針と文字盤だけというのもある。

 

「注文していた真山ですが」

 

そう真山くんが言うと、店主らしい髭の生えたおじさんがてきぱきと準備してあったものを見せてくれた。

 

「……着けてみても?」

 

相手が私の言葉に頷いたので、手に取ってみる。手首のサイズぴったりに設定された金具。たぶん事前に計測されていたんだな。相手の人に変な依頼だと思われなかったかが少し気になる。

 

まあ、ちょっとしたサプライズ混じりのプレゼントということであればある程度のことは許容されるだろう。よかったなリングサイズじゃなくて。

 

冷たさが左手の手首に染みる。ブランドは真山くんのものと同じかな。文字盤がしっかりと大きくて助かる。まあ私はかわいさよりも機能性を重視するからね。バンドもちゃんとしっかりそれを支えるだけの幅がある。

 

「ありがとうございます、支払いは……」

 

「もう頂いております」

 

ちくしょうやられた。もちろん時計っていうのはブランド価格とかもあるので一概にどれぐらいかは知らないけど、高校生がやすやすと買えるものではないだろう。少なくともちょっとした食事を奢った程度では返せないはずだ。

 

「……ありがとうございます」

 

左手にある重みと締め付けたような感覚はちょっといいものだ。お礼を言ってお店を出る。

 

「いくらしたのさ」

 

「……言わなくちゃいけない?」

 

「私は親からそのくらいのことができる額はもらっているから」

 

今日もらった分だけでは足りないかもしれないが、まあ真山くんが払える範囲であるとかを踏まえればそこまでではないはずだ。

 

「……えっと」

 

真山くんが言った額は、私の財布の中の有り金の倍ぐらいであった。うーんちょっと今すぐ払うと机の中の埋蔵金含めてなくなってしまうな。

 

「……重い?」

 

「いや軽いよ」

 

私は左手を軽く振りながら言う。真山くんと同じものをつけているのか。

 

「……そうじゃなくて、さ」

 

「借りってちゃんと覚えておくよ、受験でも使わせてもらうから」

 

仲違いしたとしても、これを捨てることはできないだろう。私のケチなところを考えるとそれなりに長く使う可能性がある。

 

そうか、私がどういうアドバイスをしたかはわからないけど真山くんのことを私に刻み込むんだったらこういうものは正しいよな。

 

「……よかった」

 

「ただ、渡したのは真山くんだからね」

 

私に傷をつけようとしたのは真山くんのほうだ。それで私に傷が残るかどうかはまた別の問題だ。そしてまあ、たぶん残るんだろうな。真山くんと今後どういう関係を築いていくとしても、腕に視線を向けた時にふと今日のことを思い出すだろう。

 

「……わかってる」

 

「ならいいけど。それで、次はどこか行く?」

 

まだ私たちの十二月二十四日は残っているのだ。色々とできることがあるだろうし、腕時計がメインとはいっても他にも楽しいことはあるはずだ。

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